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第02話~ギルドと宿屋~

翌朝。


耕介が馬車の中で寝ていると、リリーが起こしに来た。


「コウスケさん、朝ですよ~。朝ごはんですよ~」


眠い目を擦りながらリリーへ挨拶を返す。


「…おはようございます」


「朝ごはん出来ていますから、顔を洗って来て下さいね~」


「はい」


やっぱり夢じゃないんだな。


深いため息と共に川へ顔を洗いに行く。

パリは冬だったのに、こちらではまるで夏に逆戻りしたかのように寝苦しかった。


すでにチェックの長袖シャツは袖をまくっており、灰色のジーンズも人目が無ければ脱ぎたいくらいだ。


サモンズ達はまだ耕介を信用しきってはいない。

耕介の服装が怪しいのだ。手に持っていたレザーのコートも鞄も中身も全て、サモンズ達にとっては見た事も無いモノばかりだったからだ。


だが、そこまで警戒しているわけでもない。

仮に耕介が不意打ちをしてきても、簡単に返り討ちに出来るとサモンズ達は考えている。




食事が終わり、首都エスクイルに向う馬車の中。

最初に質問してきたのはチョコレートが大好きになったリリーだ。

今は耕介から購入したチョコレートがあるが、無くなった時の事を考えて購入できる場所を聞き出したいと思っている。


「コウスケさん~、チョコレートはどこで買ったんですか~?」


「それは私も気になるわね」


「おう、あれはうまかったな~」


「パリで買ったんです」


「パリ~?どこですか~?リーダー、聞いた事ある~?」


「ん~?どこだって?」


「パリ~。知ってる~?」


「…いや、聞いた事無いな。地名か?国の名前か?」


サモンズは馬車の御車台で前方を見ながら返事をする。


「国の名前です。フランス、日本、アメリカ、ドイツ…これらの国の名前に聞き覚えはありませんか?」


「…聞いた事無いな」


その声色は嘘を言っているようには思えない。


「そうですが。…あの、少しお聞きしたい事があるのですが、良いですか?」


「何だ?」


「この指輪…。魔法を使っているんですか?」


「そうですよ~?じゃないと魔法具なんて呼びませんよ~」


リリーは笑って返すが、耕介の不安は増して行く。


「あの、簡単な魔法を見せてもらえませんか?」


耕介の心境としては、嘘であって欲しいという気持ち4割、魔法を見てみたい気持ち2割、昨日まで理解できなかった言葉が理解できている現実を否定したい気持ち3割、

魔法できちゃうんだろうな…という諦めの気持ち1割といったところだ。



「いいよ~。…ライト!」


リリーのピンと伸ばした右手から光の球が出て、馬車内を明るく照らすが、耕介の心は暗く沈んでいった。

信じたくない気持ちが無残に打ち砕かれてしまう。


「ね~?」


リリーが誇らしげに胸を張る。


リリーの胸に目を奪われる耕介をレイラが鋭く睨む。


やめてください。リリーさんの胸が立派なのは会った時から知っていますから。

レイラさん、そんな目で見ないでください。何もしていませんって。


耕介は慌ててリリーの胸から視線を外し、心の中で必死にレイラへ弁解しながら話す。


「あ~、私の住んでいた場所は魔法が無かったんですよ。ですから、ちょっとびっくりしちゃいまして…」


「魔法が無い?火はどうやって起こしていたの?明かりは?貴方の街にギルドは無かったの?ギルドで魔力確認できるでしょ?した事ないの?」


「…えっと、信じてもらえないと思いますが、魔法の無い場所で生活していたんです。火は…これを使えば…ほら」


耕介が鞄に入っていたジッポを取り出し火を点けて見せると、レイラが目を見開き驚く。


「はぁ!?こんなちっちゃいのに…え?魔法じゃないの?え?ちょっと良く見せてくれない?」


「はい」


「へぇ~!凄いわね!これ!」


レイラは耕介からジッポの点け方を教わると何度も点けたり消したりしている。

まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のようだ、と耕介は微笑ましくレイラを見る。


「まぁ、そういった魔法の無い所だったんですよ。んで、気づいたら森の中にいた。正直、これからどうしようかと悩んでいるんですよね」


外国に行こうとは思っていたけど、いきなり連れて来られるなんて。しかも魔法って…、そこまで違う国なんて望んでないぞ?


耕介は困惑しながらため息をこぼす。


「…うーん。貴方、ギルドは知って………知らないみたいね。街に着いたら、ギルドに行きなさい。ギルドでお財布カード貰えるから。何をするにしても、財布は必要でしょう。

昨日、私達が渡した銀貨もその鞄に入れただけみたいだし、お財布カードも知らないのでしょう?」


「お財布カードですか?」


耕介は首を傾げてレイラを見る。


「そう。…ほらこれ」


レイラは腰袋から銀色無地のカードを取り出す。


「これは自分の情報が詰っているの。私のはギルドカードとお財布カード兼用のカードよ。…見てて?」


レイラが右手で持った銀のカードの下に左手を持って行き「銀貨1枚」と呟くと、カードから銀貨が出てくる。


「こうやって使えるのよ。昨日支払った銀貨もこうやって出したのよ?本人以外には取り出せないから、悪用される心配も無いわ」


お財布カード…。確かに凄く便利だよ。大量のお金も持ち運べるし、重くない。


耕介は自分の持っている常識が音を立てて崩れていくのを感じる。

ふと、今手にしている銀貨がどのくらいの価値を持っているのか確認したくなり、耕介はレイラに尋ねる。


「もう一つ良いですか?一般的に1ヶ月の生活費はどのくらいなのでしょう?」


「ん~、大体家族四人で1ヶ月金貨5枚くらいね。一人なら金貨1枚と銀貨50枚位。あ、宿に泊まるなら、1泊2食で銀貨10枚くらい」


レイラによると貨幣は小さい順に石貨、銅貨、銀貨、金貨、金板。

石貨10枚で銅貨1枚。

銅貨100枚で銀貨1枚。

銀貨100枚で金貨1枚。

金貨100枚で金板1枚であると教えられる。


耕介の所持金は銀貨190枚。何も購入せずに宿泊するだけなら、2週間程度は宿泊できる計算となる。


「魔法について、聞いて良いですか?」


耕介の問いにリリーが自信満々に話し始める。


「魔法なら私に聞いてよ~。魔法は白魔法が火、水、土、風、光、黒魔法が闇。

精霊に力を貸してもらう精霊魔法、幻獣を召喚して一緒に戦う召喚魔法、古代語をモノに刻む古代語魔法の5種類。

一般の人が使うのは白魔法ね。他の魔法も凄いけど、白魔法は組み合わせる事で色々派生して使い勝手が良くなるわね~。

例えば、水と風を組み合わせて『吹雪』、火と土で『溶岩』、風と土で『砂嵐』、火と風で火の魔法の威力を上げる事もできるわ~。

でも、注意点が一つあって、自分で思い浮かべたイメージによって威力が変わってくるから、同じ魔法でも人によって威力はまちまちなのよ~。

まぁ、魔力がゼロって人はいないから基本魔法は誰でも使えるわね~」


「…転移とか瞬間移動とか違う世界に行くみたいな魔法ってありますか?」


「うーん。転移の門は主要都市にあるけど、料金高いわよ~?」


「個人の魔法で移動するのは出来ませんか?」


「それは無理ね~。召喚はあくまで幻獣だけだし、行動が終わればすぐに消えてしまうわ。そんな魔法あったら私が使ってみたいわよ~」


「そうですか…。魔法って俺でも出来ますか?」


「大丈夫だと思うわよ~。ギルドは魔法教室もしているからお財布カードの申請と同時に申し込んでみたら~?但し、魔法教室は料金が発生するからね~?」


耕介は頷きながら魔法教室へ行くことを決意する。


「そういや、コウスケはどこの宿に泊まるか決めているのか?」


脇で横になっていたヴァイスが、突然尋ねて来た。


「いえ、初めての場所なんで決めていません。良ければ、安い宿を紹介してもらえませんか?」


「それなら、俺等と一緒の宿に泊まりゃ良いさ。一泊二食で銀貨8枚だ。どうだ?結構綺麗だし、お得だぜ?そうしようぜ?」


「是非、お願いします」


「やりぃ!こっちこそありがとよ」


いきなりお礼を言われて困惑している耕介にレイラが説明する。

何でも、宿泊者を紹介すると多少の紹介料が入るらしく、どこかしらレイラも喜んでいた。

耕介とレイラは見合って笑う。




「そろそろ着くぞ」


耕介はその言葉を聞きサモンズが座っている御車台に近づき進行方向を見つめる。

遠くに立派な城が見える。


「あれは、城ですか?」


「あぁ、立派だろう。ワイギール皇国の城だ。そのお膝元がここ、首都エスクイルだ。まずは宿屋で馬車を置いて、それから昼飯だな」




***




エスクイルの街並みを20分ほど進み、一行は宿屋に着く。


早速、耕介はサモンズに宿屋の主人であるゲイル・シューリッツを紹介してもらう。

鼻の下にある髭と豊かなお腹周りが印象的な男性で、くすんだ茶色の髪の生え際がだんだんと後退していることが目下の悩みだと言って笑う。


ゲイルが笑っていると、ゲイルの後ろから大きなため息が聞こえてくる。

後ろから現れたのは、金褐色の髪を首の後ろで束ねて背中に流し前掛けをつけた勝気そうな女性。


ゲイルの妻のエヴァ・シューリッツである。


エヴァとしては髪の生え際より太りすぎのお腹を心配して何度も注意しているのだが、ゲイルは全然意に介さない。

だからこその大きなため息だった。


二人には愛娘のアイシャがいるのだが、アイシャは食堂で掃除をしており、耕介が直接見ることは無かった。


中世木造建築2階建ての宿屋。

一人部屋が6部屋、2人部屋が3部屋。1階には食堂もある。


宿泊費はヴァイスの言ったとおり一泊二食で銀貨8枚。

この宿では貴重品の無料預かりサービスも行っている。



耕介は鞄から銀貨を取り出して持ち、鞄は店主に預ける。

預ける際に前金で銀貨40枚、5日分を支払っておく。


「俺はコウスケをギルドに案内してくるが、お前等はどうする?」


「私も一緒に行くわ」


「私も行きます~」


「俺はそこらへんをぶらついてくるぜ」


「そうか。ではコウスケ行くか」


「はい」





***





宿から少し歩くと大きな噴水広場が見えてくる。

噴水広場の周辺には、祭りの出店のように露店が並んでいた。

肉を焼いたモノを出している店、飲み物を出している店、果物屋、お肉屋など。

料理人としての性なのか、耕介は現地の素材や料理が気になってしまい、チラチラと目をやってしまう。



「はっはっは。コウスケ、後でゆっくり見て回ればいいさ。今は昼飯が先だ」


サモンズに見透かされてしまい、少し照れてしまう耕介。


「でも、ほんと良い匂い~、お腹すいた~」


「もうすぐ着くわよ。何食べようかしら」




噴水広場から少し東に向った先にその店はあった。

食堂というよりも酒場といった方が正しいだろう。

耕介達はカウンターで飲んだくれている者を横目で見ながら席に着く。




「肉料理が美味いぞ」


そう言うサモンズからメニュー表を受け取り確認する。

文字は日本語ではないのだが、指輪の効果なのか意味が頭に浮かんでくるので不便は無い。

耕介はその中から肉料理を選択した。


全員が選び終わると手を上げてウエイトレスを呼び注文する。

出てきた料理は、日本の料理に慣れてしまっている耕介には少し物足りない味に感じた。

もう少し、塩味を効かせて…。肉も焼きすぎ…。サラダも冷えていれば…。

職業柄、味の改善を考えてしまうのは仕方ないだろうと耕介は自分に言い訳をする。



食事代金の銀貨1枚を支払い、店を後にする。





***





ギルドに到着した耕介達は二手に分かれる。サモンズとレイラはギルドへの達成報告があるからだ。

耕介はリリーに受付の場所を教えてもらい、受付の女性にお財布カードの発行を依頼する。


「発行手数料として銀貨5枚かかりますが、宜しいでしょうか?」


「はい」


「こちらの書類に名前と職業を記入してください」


「実は文字を書けないんですが…」


「では、私が代わりに記載いたします。お名前を教えていただけますか?」


高橋(タカハシ) 耕介(コウスケ)です」


「タカハシ=コウスケさんですね?タカハシが名前で良いですか?」


「いえ、コウスケが名前です。コウスケ・タカハシです」


「かしこまりました。…ご職業は?」


「まだ、職についていません」


「かしこまりました。ではカード作成に多少時間がかかりますので、出来ましたらお呼びいたします。…これお願いします」


受付の女性は慣れた手つきで書類を別の職員に渡す。

耕介はもう一つの用事を思い出しお願いする。


「はい。…あの、魔力測定もお願いできませんか?」


「かしこまりました。では、こちらの水晶球へ手を置いてください」


差し出されたのは窓口脇に備え付けてあった水晶球。

耕介は置物かと思っていたが、この水晶球は魔力測定用の道具である。


耕介はそっと手を触れる。


しばらくすると521という意味を持つ、見た事の無い文字が浮かび上がってくる。

耕介にはそれが高いのか低いのか判断がつかなかった。


「魔力値は521ですね。他に御用はございますか?」


「あ、魔法教室ってのも受けたいんですが…」


「魔法教室は白魔法、黒魔法の基本講習がそれぞれ銀貨5枚。応用は銀貨30枚。

精霊魔法、古代語魔法は銀貨30枚。召喚魔法は金貨1枚です。

コウスケさんは魔力値521ですから、基本講習しか受けられませんが、いかがいたしますか?」


「それでお願いします」


「かしこまりました。講習は毎日朝から昼にかけて行っています。講習料をご用意してこちらの窓口へお越しください。…他に御用はございますか?」


「いえ、ありません」


「ありがとうございました。お財布カードが出来上がりましたらお呼びいたしますので、しばらくお待ちください」


耕介は受付の女性にお礼を言って席を離れ、リリーと合流する。


「お疲れ様~。どうだった~?」


「うん。魔力値が521だって言われたよ。これ高いの?」


「うーん。普通じゃないかな~。戦士もそれくらいだし~。魔法を使うなら1000は最低必要だけどね~」


「そっか。リリーは魔法使いなの?」


「そだよ~?私は魔力値2000くらい~。魔法使いを名乗るならこれくらい普通だよ~」


「へ~」


耕介がリリーと雑談していると受付から耕介の名前が呼ばれる。




「はい。こちらがコウスケさんのお財布カードです。所有者登録しますので、水晶球に手を置いてください。…はい、終了です。これでこのカードはコウスケさんにしか使えません。無くした場合再発行可能ですが、中に入っているお金は戻ってきませんので無くさない様に気をつけてください。再発行の際も手数料は発生致しますのでご了承下さい。ご不安であれば、こちらでお金をお預かりするサービスもございますので、ご利用ください。カードの使い方はご存知ですか?」


「はい。カードを持って出したい金額を言えば良いんですよね?」


「そうです。お金は必ず地面に向けている方から出ますので、手を下にそえてから出すと良いでしょう。…あとは、カード同士直接やり取りを場合は、相手のカードを下にして重ね、相手の名前と金額、『渡す』というキーワードを入れてください。例えば、【コウスケさんに石貨1枚を渡す】と言った感じです」


耕介は持っている銀貨を思い出し、あとでカードに入れておこうと思う。


「分かりました」


「他に分からない事があれば、またこちらへお越しください。ご利用ありがとうございました」


お財布カード発行手数料の銀貨5枚を渡して、深々とお辞儀をしている受付の女性に御礼を言い、リリーと一緒に入り口で待っていたサモンズ、レイラと合流しギルドを後にする。




「コウスケ、帰り道はわかるな?レイラ、リリー。俺は少し用事があるから後は頼む」


「わかったわ」


「はい~」


そういうとサモンズは街の雑踏に紛れ消えていく。




「さて、コウスケはどこに行きたい?今日はコウスケに付き合っちゃうわよ?」


「では、野菜とかお肉、香辛料などが売っているお店を教えてもらえますか?」


「良いけど、貴方料理出来るの?」


「はい。本職はパティシエですが、普通の料理も出来ますよ」


耕介が満面の笑みでレイラに答えると、リリーが食いついて来た。


「へ~。じゃあ、今度食べさせてよ~」


「もちろん。腕によりをかけて作りますよ」


「楽しみにしてますよ~」


「ん~、でもその前に服屋が先ね。その服、ちょっと目立っちゃっているしね」




レイラに連れられて、耕介達一行は服屋に入る。


「ここで適当な服選んで。これから火の季節だから涼しい格好が良いと思うわよ?」


「火の季節?」


「そう。今は風の季節の終わりの時期。次が火、土、水、風と4つの季節があるのよ。風と土は過ごしやすいけど、火の季節は暑くて、水の季節は寒いわね」


詳しく聞くと、1週間は6日で光、火、土、水、風、闇の1サイクルとなる。

それを5週間で1ヶ月、12ヶ月で1年と数えるのだという。


日本の四季と似ているな。似たような所もあるもんだ、と異世界と日本の妙な相似点に不思議な気持ちになる。


結局、服を3着選び、店を後にする。1着銅貨30枚、上着を3着購入。

銀貨1枚におさまって喜んでいる耕介の姿はこの世界の基準から見ても小市民だった。




服屋を出て10分ほどすると、景気の良い呼び込みをしている声と野菜の青々とした匂いがしてくる。

通称野菜通り。新鮮な野菜がずらっと並んでいる通りは壮観の眺めである。



「ここがエスクイルの野菜通り。ここから北に行くとお肉通りがあるわ。本当は別の名前があったけど、通称が広まりすぎて今では誰も覚えていないの」


「調味料はどこです?」


「調味料は道具屋ね。お肉通りの先。通り毎に名前がついているから迷わないと思うわ?」


耕介は真剣に野菜類を確認していく。

肉・野菜類に関して、地球とこの世界では見た目、名前共にあまり変化は無い。

たまに耕介の見た事の無いモノがあるが、それは追々確認すれば良いと耕介は思う。


耕介としてはまず相場を確認したかった。パリに着いたばかりの頃に高い商品を買って痛い思いをしたからだ。

パリに着いたばかりの頃を思い出し、少し懐かしい気持ちになる。




結局、耕介に相場の把握はできなかった。

当たり前の事だが、相場は比較対象がなければ分からない。

誰かに教えてもらうか、覚えるまで足繁く通うしかないのだから。





***





宿に着いた耕介はレイラ達と分かれ、店主から預けていた荷物を受け取り部屋へ入る。


ベッドに横たわり考え始める。



異世界に来たって分かった時はびっくりしたけど、ちょうど外国に旅行しようと思っていた所だしな…。

言葉は通じるし、チョコを売ったお金が多少残っている。だけど、こんなのはすぐに無くなる。

幸い料理レシピはPCに入っているし、ミシェル店長からも教えてもらっていたから、料理を作って出す事もできる。

うん。とりあえず、ここで頑張ってみても良いかもしれないな。


しかし、料理人として雇われるのはごめんだ。

好きなお菓子や料理を作って、みんなの笑顔を見たい。

その為には雇われ料理人じゃ駄目だ。

てことはだ、自分で料理を作って出す場所が必要ってことで…。宿屋の店主に、店を出す事が許可制なのか自由に出せるのか確認して…、お客にうける料理も考えて…。




コンコン。


「コウスケさん?夕飯の準備が出来ました。…コウスケさん?」


………イカン。いつの間にか寝てしまっていた。


「はい。今行きます」


扉越しに聞こえる声に返事をして扉を開ける。


金色の短い髪、柔らかい目元が愛らしい。俺のお腹くらいまでの身長の可愛らしい女の子が立っていた。

たしか…。


「もしかして、アイシャちゃん?ごめん、寝てしまっていたんだ」


「あ、それはすみませんでした」


頭を下げてアイシャが謝るが、悪いのは寝過ごした耕介だ。


「いや、こっちが悪いんだから気にしないで。食堂に向えば良いかな?」


「あ、はい。着いたらママに声をかけて下さい」


「あぁ、わかった」




食堂では既に何人かが食べ始めていた。

サモンズ達が席に着いていたので、耕介は同席して夕飯を食べ始める。


皆、食事も終わり紅茶を飲んで寛いでいると、耕介はサモンズにこれからのことを聴かれた。


「俺は明日魔法教室に行って来ようと思います。皆さんは?」


「武器や防具の整備が1週間かかるから、1週間ほど休みだ。それからは地下迷宮に潜ろうと思っている」


「迷宮?」


「地下迷宮は100階あって、モンスターからは宝石が出る。誰が設置したのか知らねえが、宝箱もある。俺たち冒険者には夢の場所なのさ。コウスケも冒険者やってみるか?」


「いえ、荒事は苦手ですし、やりたい事も出来たので遠慮します。ここの地理を少し教えてもらえますか?」


「あぁ、ここ首都エスクイルは中央がワイギール城、北区に地下迷宮と歓楽街、ギルドに宿屋。今泊まっているのも北区だ。東区と西区は店と住居が並んでいる。但し、南区は貴族街だ。貴族街に入るには資格が必要だが、コウスケには特に関係ないだろう」


「ありがとうございます。ちなみにお店を出すのに届出は必要なんでしょうか?」


「うーん、そこら辺の事は知らねえなぁ。宿の主人なら知ってるかもよ?」


ゲイルは耕介の問いに嫌な顔をせずに答えた。


この国は職種ごとに組合があり、登録制をとっている。

但し、噴水広場の露店に関しては登録が必要ではない。

これはよほど珍しいモノ、美味しいモノ、品質の良いモノでなければ売れないからだ。

そこで稼いだ金で建物を買い、組合に登録して店を開くのが通常の流れなのだと耕介は教えられた。


耕介が噴水広場だけではすぐに場所が埋まってしまうのでは?と思って尋ねると、噴水広場は東西南北にそれぞれ3箇所ずつ、計12箇所あり、売れなければすぐに潰れる。そのため、一時的に埋まったとしてもすぐに空きが出るのだとゲイルは言う。



当面の目標を考える。


まず、魔法を習得して、売れる料理を考える。料理は元手のかからない品物が良いかな。



耕介はゲイルに礼を良い、サモンズ達と別れて部屋に戻る。




ノートPCを開きお料理ソフトを起動しながら、簡単な料理を思い出していく。


思いついた物は全てPCのメモ帳に入力。

この世界の住民はPCの使い方なんて知らないだろうが、耕介は一応パスワードロックをかけてある。

翻訳の指輪を使えば中身の確認が出来るからだ。




耕介の作業は夜中まで続いた。


コウスケの所持金


【収入】

無し


【支出】

食事代金:銀貨1枚

お財布カード登録料:銀貨5枚

服3着:銅貨90枚

宿泊費:銀貨40枚


【結果】

お財布カードの中身:金貨1枚、銀貨43枚、銅貨10枚

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