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第01話~出会いとチョコ~

耕介は地面を確認し、木々を確認して、雪で濡れた髪をかき上げ、抱えた鞄を再度抱きしめ、徐々に「これは現実なのかも」と考え始める。

地面は乾いていた。木々の葉も水滴は乗っていない。空は晴れ渡っている。

つまり、雨が降った形跡がまったく無いのだ。

何より、先ほどまでの刺すような寒さが無くなっている。

寒くて羽織っていたコートを今すぐにでも脱ぎたくなっている。


ありえない…。

家に帰っていただけなのに、トンネルを抜けたら夏の森でしたって…。

眠れば戻っている…と考えるのは楽観的過ぎるだろうな。

コートを脱ぎながら深呼吸をする。



知らない土地、暗い森、濡れて冷えた体、どこからか遠吠えが聞こえてくる。



獣がいる、そう思い至ると同時に恐ろしくなった。

獣に出会えば、対抗する手段は無い。獣と出会う=死。遠吠えの聞こえた方角から離れるように歩き始める。

出来るだけ静かに、なるべく速く森の中を進む。

音にも気をつけなければ。突然獣が出てくる可能性もある。


なんでいきなり森なんだ?この暑さは?

獣が襲ってきたらどうすればいい?怖い怖い怖い…。

自分が何故この森にいるのか、トンネルはどこにいったのか、どこかに連れ去られたのか、眠った覚えも無い、自分は確かに歩いてトンネルを抜けただけのはずだ。



当ても無く森の中を歩き始めて30分ほどで、話し声が聞こえてくる。

獣を惹きつけないように静かに動き、話し声のする方向へ向う。


「※&$#@…」

「”$&%$*&$$*@?」

「$$。$$」

「あはは」

川辺で火を囲みながら、4人の男女が食事をしており、一人の男が女に叱られている様に見える。



何語を話しているのだろう?

英語?フランス語?いや、聞いた事無い言葉だ。



「明日はエスクイルの宿屋でのんびり出来そうだな」

「&%。*`#$+#*&$」



日本語を話している!

日本語を聞いた途端、耕介は森を抜け彼等に話しかけていた。



「…すみません。道を教えて頂けませんか?」


耕介が声をかけると、4人は一斉に武器を取り出し攻撃態勢を作る。


「$&%*@!」



そこまで警戒されるとは思っていなかった耕介は驚いて、すぐに両手を挙げて話し出す。



「あ、えっと、言葉分からないんです。貴方は日本語の話せますよね?ちょっと迷ってしまって…、道を教えて頂けませんか?」


日本語を話していた男性に声をかける。

その男性をよく見ると現代ではありえない格好をしている事に気づき、耕介はしばし呆然となる。

年のころは30代半ばだろうか、無造作に伸びた青紫色の髪の男性は鎧を身に纏い大剣をやや斜めに構えて、こちらを髪と同じ色の瞳で睨んでいた。


話しかけられた男性は耕介を睨み付けながら言う。


「川沿いにいけば道に出る。南に向えばラールの街。北に向えば首都エスクイルに着く。それより、お前は一人か?」


「え?はい。一人です。…あの、もし良ければ朝までご一緒させてもらえませんか?」


耕介は見ず知らずの人間より、周囲にいるかもしれない獣が恐かったのだ。


「…少し待ってくれ。みんな、どうする?」

男性はそう言って他の3人へ確認する。

男達は二言、三言話した後、耕介へ返答する。


「俺達は首都エスクイルに帰る途中だが、一緒に来るか?」


「是非、お願いします」


耕介は満面の笑みを浮かべて頭を下げる。


「いや、どうせ帰るだけだからな。気にしなくても良いさ。俺はサモンズ。こっちがヴァイスとレイラ、リリーだ」



「$%&+!」


ヴァイスが耕介に向って声をかけてくる。

サモンズよりいくらか年若い、人懐っこい男性。

だが金色の瞳の奥にある警戒色を消さず、いつでも長剣は抜ける姿勢を崩していない。



「…#$%$」


普段のレイラであれば、その涼しげな目に微笑みを浮かべ周囲から羨望の眼差しで見られるような魅力的な美人だが、今はあからさまに怪しい耕介を警戒して睨みつけている。

あいにく美人にきつく睨まれて喜ぶ性癖は耕介には無いため、居心地悪そうに視線をはずすのが精一杯だった。

だから、レイラの耳が尖っていた事にも耕介は気付かない。



「$#*+&~」


4人の中で一番背の低い彼女は耕介に向って手を振る。

腰まである長い蒼髪には猫耳が乗っており、猫のような細い目で笑顔を浮かべている。



「…は、初めまして、高橋(タカハシ) 耕介です。宜しくお願いします」


耕介は蒼髪の上の猫耳が動いたことに驚きながら挨拶をする。


「タカバス?言いにくいな」


「あ、名前はコウスケと呼んで下さい」


「分かった。コウスケだな。コウスケは翻訳の魔法具は持っていないのか?無いなら売ってやるぞ?」


「翻訳の…魔法…具ですか?」


耕介がおよそゲームか映画の中でしか聞いたことの無い言葉に困惑していると、サモンズが袋の中から藍色の指輪を出して見せる。


「あぁ、知らないのか?コレだよ。コレを着けると、言葉に不自由しなくなるんだ。お前と話が出来るのが俺だけなのは、俺だけが指輪を着けているからだ。

国が違うと言葉も異なるからな、こういったモノが重宝するのさ。コレに入っている文字は共通語だから問題ないと思うが、どうだ?銀貨50枚で良ければ売ってやっても良いぞ?」


「…そんな…物が………。すみません。欲しいのですが、あいにく持ち合わせが無くて…。何かと交換して頂けませんか?」


「何を持っているんだ?」


耕介は自分の鞄を開けて交渉になりそうな物を探すが、あいにくそれらしいのは無い。

出てきたのはアンパン、お徳用チョコ、ペットボトル(お茶)…。


「それは何だ?」


「これはアンパンです」


「アンパン?そっちは?」


「チョコレートです」


「チョコレート?見たこと無いモノばかりだな」


「アンパンはパンの中に餡子をいれた食べ物です。餡子というのは甘さ控えめですが、パンと一緒に食べるととっても美味しいんです。

こっちのチョコレートは餡子より甘くて美味しい食べ物です」


「甘い食べ物?」


「+‘$%&%$」

リリーがサモンズに話しかけてきた。


「あぁ、コウスケ、チョコレートを一つもらえるか?」


「えぇ、どうぞ」


サモンズはチョコレートを受け取ると、リリーに渡す。

レイラが止めようとする間もなく、リリーはチョコレートの匂いを嗅いで口に入れる。


「!!!!+$%<>!!*%&#+%+#!」


口に入れた途端、リリーは目を丸くして耕介に詰め寄ってきた。

耕介は何を言っているか分からず、サモンズへ助けを求める。


「チョコレートがもっと欲しいんだとさ」


「相場が分からないので困りますが、翻訳の指輪と交換お願いできますか?」


「リリーと直接交渉してくれ。ほら。どの指に嵌めても効果は出るぞ」


「ありがとうございます」


耕介が指輪を嵌めると、すかさずリリーが交渉してきた。


「こんな甘いの食べた事ないわよ!もう少し大きければ1個銀貨50枚はするんじゃない!?これなら銀貨10枚、ううん銀貨30枚でなら買うわ。どうかしら?

悪いけど、この大きさにこれ以上は出せないわ」


耕介はチョコの残りを考え、チョコ3個と銀貨90枚を交換する。

翻訳の指輪銀貨50枚を抜いた後の銀貨40枚を受け取る。


チョコを受け取ったリリーは狂喜していたが、あまりの勢いにリリー以外は若干ひいていた。



「リリー、そんなに美味しいの?一口頂戴?」


リリーの喜びように若干ひきながらも、レイラは興味をそそられる。

甘いものに目が無いのはどこの女性も一緒のようだ。


「嫌。先月食べた蜂蜜より上品な味がするわ~。最高よ~!幸せ~!」


「蜂蜜って、金貨1枚するあれでしょ?あれよりも!?」


取り付くしまもないリリーに呆れながら、他の三人も耕介からチョコを購入する。


「っ!美味しい!!口の中でさらりと溶ける!!あ~!もう無くなった!!」


「…これは旨いな」


「全然苦味が無ねえな。うん、美味い」



レイラ、サモンズ、ヴァイスは其々感想を口にし、レイラは追加で2個購入した。


その後、耕介はさらにチョコを売って欲しいとのリリーさんとレイラさんからの追求をかわして、サモンズさん達の馬車の中で横になる。


コウスケの所持金


【収入】

リリーから銀貨90枚

レイラから銀貨90枚

サモンズ、ヴァイスからそれぞれ銀貨30枚ずつ


【支出】

翻訳の指輪:銀貨50枚


【結果】

所持金:銀貨190枚

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