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第一話「森の中にいる」

「さて!早速出発しましょうか!」

そう言って意気揚々と歩き出すアスタロッテ。

こいつは先程まですごい二日酔いの状態で酒臭い状態だった。

「アスタも結構呑気な性格よねー」

そう言って笑うレンリ。

というかいつの間に愛称で呼ぶくらい仲良くなったんだ?

ちなみに、レンリに引き摺られて宿屋の前まで来ていたアスタロッテを見るに耐えかてクリアの魔法で体調を整えてやったのは俺だ。

二日酔いも治せる魔法、クリア。

やっぱ便利だな。

「今日はまず、何処に行くんですか?」

「まずは1回ギルドのカーラさんの所に顔を出すところからかな」

昨日の一件の挨拶もしときたいし。

ということで俺たちはまず、ギルドに向かうことにした。

カランド村は農作物と冒険者相手の温泉や宿、武器屋から薬屋、神殿などが連なる所謂、冒険者向けの村だ。

冒険に必要なものなら一通り揃う上に、はじまりの森など初心者冒険者にとってはちょうどいい難易度の為、冒険の旅をここから始める者も少なくない。

冒険者ギルドでは新米冒険者のために剣術や魔術を教えるカリキュラムも存在しており、レンリもたまに魔術を教える為に教鞭を取っているらしく、貴族式の魔術が勉強出来るとあって評判も上々らしい。

そんな他愛ない話をしながら歩き、5分ほどで俺たちは冒険者ギルドにたどり着いた。

今日で二回目だな。

この前のこともあってかあまりいい印象は無いが……これも仕事と割り切って扉を開く。

「お、早速昨日のヒーローのお出ましだぜ!」

「聞いたわよ、領主様の横暴を解決したって!」

「俺の従姉妹も攫われてたんだ、感謝しかねぇ!」

しかし、そんな俺たちを出迎えたのはこの前とは打って変わって賞賛と羨望の眼差しの嵐だった。

「レンリちゃんも頑張ってくれたらしいじゃねえか、本当に頭が上がらねぇよ!」

「ちょ、ちょっと気安く頭を撫でないでよね」

「ハハ!悪ぃ悪ぃ」

レンリも大柄な冒険者に頭を撫でられながら、褒められている。

この前の対応を考えれば嘘みたいな光景だ。

「とにかく、何か困ったことがあればなんでも言えよ!力になるからな!」

「う、ううー。なんなのよこの待遇の違いは……」

そんな熱烈な歓迎の波を退け、俺たちはカーラさんの所へ向かった。

「あら、レンリちゃんとそのパーティーの皆じゃない。昨日はお疲れ様!」

カーラさんは昨日の一件からか、若干目の下にクマを作っているが、笑顔で俺たちを出迎えてくれた。

「それにしても100点満点のお手柄だったわね、貴方たちが地下牢に捕らえていたならず者、中には指名手配犯も居たみたいで、ギルドも街の衛兵たちも捕まえるのに苦労していた者たちだったのよ」

「そ、そうなんですか……」

「まあ、お陰で昨日は手続きやら尋問やらやることが山積みで徹夜だったけどね〜」

「は、ははは……」

それはカーラさんの様子からも見て取れる。

目の下のクマにボサボサの髪、本当に昨日は大変だったんだろう。

「しっかし……まさか領主様がこんなことに手を出してるとはね……元々はいい人だったんだけれど……」

「あ、その件に関してまた別のお話が……」

「ん?何って?」

「じ、実は……領主様は魔族に操られていた様で」

「え?」

俺のその一言でカーラさんが固まる。

「領主が魔族に操られていただって?」

「あの乱心は魔族によるものだったのか?」

「魔族ってそんなことも出来るのか?」

と同時に周りにも聞こえてしまったのか、ギルド内がザワザワし始める。

「あー……20点。ユウトくん?ちょっと奥でお話しましょうか」

「は、はい……」

20点って言った時のカーラさん怖ぇ!

完全に額に青筋浮かんでたよ!

な、なにかまずいことしたか?俺?

そして、この前通された部屋と同じ部屋に通された俺たちは静かに怒るカーラさんの前に怯えながら整列させられていた。

レンリが小声で耳打ちしてくる。

「カーラって怒らせたら本当に怖いんだから!何やってくれてんのよユウト!」

「す、すまん……」

そんな俺たちの様子を見て、バンッと机を叩くカーラさん。

「怒っている私を前にして呑気にお話とはね……」

「ひ、ひぃいいい!」

「魔族が関わってるなんて重大なこと、あんな簡単に話しちゃダメでしょうが!!」

「な、なるほどですぅ!!」

「情報ってのは簡単に出せばいいってもんじゃないの!この件において無用な混乱を避けるためにも!特に魔王が出てきてからこっち、魔族に関しては本当にデリケートな問題なんだから!」

「す、すみませんでしたぁああ!!」

「はぁ、全く……こちとらろくに眠れてなくてただでさえ気が立ってるって言うのに……」

そう言って頭を抱えて椅子に座り込むカーラさん。

寝不足もあってかいつも以上にキレやすい状態になってるのかもしれない。

「それで?魔族って言うのは確かだったの?」

「は、はい。昨日俺たちは領主と戦ったのですが……その正体はレイスでした」

「レイス……って言うと十分上級魔族じゃない、よく勝てたわね」

「それは、俺には勇者の剣もあるし、トアがいたので……」

「そう言えば昨日貴女は見なかったわね。新しくパーティーに入ったの?」

「と、トアと申しますぅ、基本的に使えない神聖魔法はないと思いますぅ」

トアはさっきのカーラさんを見てすっかり怯えきってしまっている。

「ああ、そんなに怯えなくていいのよ?それにトアさんのその話が本当ならめちゃくちゃな大当たりを引いたようね」

そんなトアの様子を見て、カラカラと笑いながら言うカーラさん。

この人一回ブチ切れたらスッキリするタイプか……

「それに、勇者の剣……?昨日から思ってはいたけどユウトくんってやっぱりただの冒険者じゃないの?」

「あー……そう、ですね。話すと長くなるんですが……」

そして俺はカーラさんにも俺やアスタロッテ、勇者として召喚されたことを説明した。

初めはびっくりしていたカーラさんだったが、聖剣や神代魔法を見せると納得してくれた。

「なる、ほどね……そりゃあれだけの数のならず者が束になってかかっても手も足も出ない訳だ」

そう言いながら観察していた聖剣から手を離すカーラさん。

「逆に、勇者なんて言うのは魔族との戦いを宿命付けられている者なんだから、領主の一件はそれこそ運命だったのかもしれないわね」

「はは、まあ……それと、まだ見てほしいものがあるんです」

そう言って俺は昨日ストックで回収してきたアガーリードの手紙をカーラさんに見せた。

「……なるほど、コレもあれば、確かに領主が魔王の手先の手に落ちていた証明にもなるわ」

そして内容を読んでいくにつれ、彼女は彼女で思うところがあったのか、少し涙目になって言った。

「それにしてもレンリちゃん、あなたのお父さんであり私の師、ロベルト師は魔族を手引きしたりしていなかったのね……この件が明るみに出れば、ミネルバさんも、二人とも浮かばれるわ」

「はい……」

「でも、今すぐには公表できない。この手紙の内容からすると、魔族側の勢力がこちらの中枢に複数潜り込んでいる可能性がある。公表しても揉み消される可能性があるわ。この件に関しては私の方でも信頼できる筋を使って調査していく」

なるほど……確かにそうだ。

アガーリードの手紙に侯爵家であるベルツファイヤーを貶めることが出来たと書いてあった以上、王国内部にも密偵を複数用意しているとみて間違いないだろう。

こちらが下手に動けば、それこそレンリの両親の二の舞に……真実を知る者が消されていくのはこちらとしては絶対に阻止しなければならない。

その為、この件に関しては慎重にならざるを得ないんだろう。

それに関してはレンリも承知の上のようで、静かにこくりと頷いていた。

「それで、レンリちゃんはどうするのかしら」

「私は、まずは弟に逢いに行くのが先決ですが、ユウトと一緒に魔王軍と戦おうと思っています」

「それは、恐らくとても危険な旅よ?」

「分かっています。でも、お父様とお母様を断頭台に追いやった真の黒幕が魔王軍に居ると分かっていて、手をこまねいているなんて出来ません」

「……はぁ。やれやれこうなるとは分かっていたのだけれど……やっぱり気持ちは変わらないのね」

「はい!」

そう言っていっぺんの躊躇いもなくカーラさんと対峙するレンリ。

そんな曇りなき目で見られているカーラさんはレンリから一度視線を外し、俺を横目でチラリと見た。

「ま、勇者ともなれば今の人類最強でもあるのでしょうし……ユウトくんの近くに居てもらうのが逆に安全かしら」

いや、人類最強は言い過ぎかもしれませんよ?

俺のそんな心の声も虚しく、カーラさんはむしろ晴れ晴れした顔でレンリに言った。

「わかったわ、あなたの両親の汚名を雪ぐ為、ユウトくんの元で精一杯頑張って」

「ありがとう!カーラ!」

「その代わり、月に一度は手紙を出すこと。あとこれも持って行きなさい」

「?これって?」

そう言ってカーラさんがレンリに渡したのは綺麗な琥珀色のペンダントだった。

「コレは魂呼びの石。一度だけあなたがピンチの時に私を召喚出来るわ」

「それって、それこそ古代のアーティファクトじゃ……」

「いつかこんな時も来るだろうと思って用意しておいたの。元々止めるつもりはなかったのだけど、少しは保険も掛けたくなるものなのよ」

「……ありがとう、カーラ」

もはや本当に親代わりのような慈愛に満ちた瞳でレンリを見つめるカーラさん。

そんなカーラさんの想いを受け取り、レンリは大事そうにそのネックレスを首にかけた。


「さて、それはそれとして、今日のクエストの話をしないとね」

パンと空気を変えるように一つ手を打ったカーラさんは改めて俺たちに向き直る。

「今回君たちのパーティーにお願いしたい場所は創造神の遺跡の遺跡周辺。昨日、あの話の後で最近の魔物の討伐情報をサラッと洗ってみた所でもやっぱりこの辺り一帯はコボルトとの遭遇情報が多くなっていたわ」

そう言ってカーラさんは昨日も見せてくれた地図を参考に話を進める。

「本当にスタンピードが起こるにせよ起こらないにせよ、この辺りは一番の激戦区になる事に疑いの余地は無い。本当は私も最前線で戦いたいのだけれど、後方で指揮をする人間がいなくなるわけに行かないのが辛いところね……」

カーラさんは申し訳なさそうに頭を搔く。

「本来ならあなた達のような出来たてホヤホヤのパーティーに任せる内容では無いのだけれど、実力を見込んで、この件に関する調査をお願いするわ。もちろん報酬もしっかり用意しておく。次の目的地がレンリの弟さんのところとなれば、元ベルツファイヤー領のトーラスまでの旅費には十分な額を用意できるわ」

「ありがとうございます」

「いやいや、私たちギルドとしてもあなた達みたいな若者をこんな危険な場所に送り込むなんて心苦しいの。だからあなたたちがお礼を言うようなことは無いわ。そして、今回の依頼はあくまで調査。規模が分からない以上たとえコボルトキングを発見したとしても無理に討伐しようとは思わないで。危険ならすぐさま撤退するのよ?わかった?」

「はい、肝に銘じておきます!」

「よし、そうと決まればよろしくね!」

「はい!」

そして、ギルドが用意できる範囲ギリギリの傷薬や糧食を持たせてもらって、俺たちは早速、はじまりの森へと向かった。


「それにしてもそのストックって魔法は本当に便利ね」

「んーまあ、俺も勇者のスキルとして使えるだけだからなあ」

「でもユウトさんが一人いるだけで馬車一台分以上の荷物を持って移動できるなんて凄いですぅ!これが女神様に選ばれた勇者のお力なんですねぇ……!」

そう言ってトアとレンリが羨望の眼差しを向けてくる。

特にトアに関しては今日の朝から女神に選ばれた勇者という一点によって俺の評価はうなぎ登りだ。

正直憧れと言って差し支えないレベル。

俺としちゃあなんだか複雑な気分なんだがな。

「しっかし、この森ってこんなに淀んだ雰囲気だったか?」

俺の話はそこそこに、俺は周りの森の空気についての話にすり替える。

「いや、確かにおかしいわよ。それに昨日と比べても更に一段と禍々しい空気になってるみたい」

「私が昔、修行で創造神の遺跡に行った時もこんな雰囲気ではなかったですぅ……」

みんなが少し怯えたような顔で周りの森を見る。

森は見た目には分からないが、野生動物の声もせず、まるで死んだような静けさを湛えており、昨日と比べてもより一層の不気味さを持っていた。

「まあ完全にコボルトのせいですよね。私のサーチにも、もう既に複数の反応が見られますし」

そう言ってうっすらと冷や汗をかくアスタロッテ。

現役の女神が恐るほど、それほどまでにこの森の空気はおかしかった。

「そろそろ接敵するかもしれません。皆さん戦いの準備を」

アスタロッテがそういった時、こちらに向かって複数の獣の気配が近づいてくるのが俺でもわかった。

ガサガサっと音を立てながら草むらから飛び出してきたのは5匹のコボルト。

パッと見リーダーはいないようだ。

「お出ましだな、アスタロッテとトアは俺たちの後ろに居ろよ!行くぞレンリ!」

「任せなさい!」

戦闘に突入したが、俺も剣の扱いにはだいぶ慣れてきたし、レンリに至っては言わずもがな。

まあコボルト5匹くらいならわけもない、易々と倒してみせた。

しかし、前回のように撤退の様子を見せないコボルトたちを見て、レンリの顔色はさらに悪くなる。

「アイツらが引かないってことは下がってももう受け入れられる場所がないってこと。つまりそれほどまでにコボルトは繁殖していると考えられるわ」

「なら早く行かないとな」

本当にスタンピードが起こってしまう前に。

俺たちは最新の注意を払いつつ、出会ったコボルトを倒しながら遺跡に向かった。


道中で100匹ほど倒しただろうか。

一応ストックで死骸は回収してきているが、まだストックの容量には余裕があるようだ。

それに俺がコボルトを倒し慣れてきたため、途中からレンリの魔法に関しては温存してもらっている。

俺たちはあまり消耗せず、創造神の遺跡にたどり着くことが出来た。

「しかしこれが創造神の遺跡か」

「そうです。神聖アスタロッテ教の聖地でもありますぅ」

ってかそうか、創造神ってことはアスタロッテの事なんだろうから、トア達にとっても聖地になるわけなのか。

「ってことらしいがアスタロッテ的にはどうなんだ?」

「んーまあ、要は世界創造の時に現世に顕現したことがあって、その時使ってた家です。だから、遺跡とか何とか言って崇められるのは若干不本意な所はあるかもだけど……」

「あはは、相変わらずアスタロッテさんは面白いこと言いますね。我らが女神様を騙ってそんな風に仰るとは」

「ひ、ひぃ!ユウト?この子私の信者のはずなのになんか怖いです!」

「あははあー?私の信者?私が信仰しているのは女神アスタロッテ様ただ1人なんですけどねえ?」

「なんでですか……なんで信じてくれないんですか……」

「まあ、私たちの女神様は慈悲深いお方ですのでぇ、ここは勇者様の仲間という事で見逃してあげますが……」

「ひいぃい」

ほっとこう。そのうち誤解も解けるだろう。

その後も自身のホームグラウンドに居るからだろうか、イキイキしたトアに案内されながら俺たちは遺跡の調査を始めた。

「コチラは女神様が遺した謎の像ですぅ」

「こ、これは私の考えた最強の黒歴史戦士像……」

「お次は女神様の遺した謎の碑文ですぅ」

「これは暇すぎて書いた黒歴史小説っ……!」

「次は激しい闘いがあったのか半壊している聖なる台ですぅ」

「お料理を失敗して壊しちゃったキッチン……!」

「コチラは使用用途が不明の窪みと穴ですぅ。近年の研究ではおそらく生贄を捧げるのに使ったものかと」

「いやコレ、トイレっ!なんでこんなものまで残ってるんですかぁ!」

「おやぁ?あなたさっきからイチャモンばかりつけて楽しそうですね?もう二度とイチャモンつけれない体にしてあげましょうかぁ?」

「嫌だから全部本当……なんで信じてくれないんですかぁ!」

「やはりこの女……邪教徒……?いえ聖なる勇者様のパーティーにそんなものが居るはずが……」

「びぇええええ!」

神様ってのも大変だなあ。

俺たちはそこそこアスタロッテ遺跡を楽しみながら進み、その中心部、女神の像がある所の近くまで来ていた。

「次が最後でありこの遺跡最大の目玉、始祖のアスタロッテ様像ですぅ。現存する全ての神像はここに安置されている像をもして作られてまして……」

「私が最後に作った私が考えた最高に理想的な私の像……」

ルンルンのトアと反対にめちゃくちゃブルーなアスタロッテ。

その2人を遠巻きに眺めていると、禍々しい気配を俺の感覚が察知した。

「トア、アスタロッテ!そこで止まれ!」

「ふぇ?」「なんですかぁ?」

「レンリも気づいたか?」

「ええ……ビンビン来るわ、この先に居るわね」


「コボルトキング……!」

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