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第四話「緊急依頼?誘拐事件?仲間割れ?」

あの後、コボルトリーダーの話もあるとの事でギルドの奥の部屋に連れてこられた俺たち3人。

「それにしても、もうユウトには返せないくらい色々してもらったわね」

「だから気にすんなって」

過ぎた事でちくちく言われるのは何だか気恥ずかしい。

俺は照れ隠しにカーラさんに話を進めてもらうように会話を進めた。

「それで、カーラさん、コボルトリーダーの話ってのは?」

「あらら、せっかちなのね……私もユウトくんには一言言っておきたいところもあるのだけど。そうね、事態は急を要するし、お仕事の話をしましょうか」

そう言ってカーラさんは机の上に地図を広げた。

「コレはこの周辺の地図よ。先ほどの報告で聞いた情報からすると、コボルトリーダーが居たのはこの辺り。ちょうど創造神の遺跡の辺りね」

そう言ってカーラさんはすっと指で遺跡のマークを指差す。

「そして、コボルトリーダーの活動範囲を考えるとその群れの集団が根城にしているのはこの円の中だと考えられる」

次にカーラさんはそう言いながらつつっと地図に円を描く。

「ちなみに、レンリちゃん。コボルトたちはどっちに逃げて行ったのかしら?」

「えっと……東の方角だったと思います。全ての個体がある一定の方向に向かって逃げ出していました」

「よく観察していたわね、100点よ。そうなると、さらに範囲を絞れてこの辺り」

そう言ってカーラさんは先ほどの円を小さめにより遺跡の方向に寄せて描いた。

「この辺りに大量発生したコボルトの群れがいると考えられるわ」

「すごいな」

並大抵の状況整理能力じゃない。

「もちろん、私の経験則だけどね」

「カーラは昔凄腕の冒険者だったから」

そう聞いて納得……ってか何歳だこの人。

「さらに私の経験則で言わせてもらうと、一目散にコボルトたちが逃げて行ったという状況、コレはレンリちゃんにも聞いているかもしれないけれどコボルトキングが現れた際に見られる状態よ。こうなれば一刻の猶予もない」


「放っておけばスタンピードが起こりかねないわ」


「スタンピード……」

レンリが上の空で呟く。

アスタロッテとレンリには分かっているだろうが俺には聞きなれない単語だ。

恥を忍んで聞くしかない。

「その、スタンピードっていうのが起こるとどうなるんだ?」

「はぁ?ユウト、スタンピードも知らないの?って異世界人だとわからないか」

「スタンピードと言うのは魔物の大量発生の為生息域を追われたり、食糧不足の空腹で起きる暴走の事です」

アスタロッテが説明してくれる。

なるほど、数が多くなって住処や食糧がなくなれば他の所に行くしかない、そうして起きる暴走ということか。

「スタンピードの時は魔物も普段と打って変わってさらに凶暴になる為、人類にとっては大きな脅威となります」

「だから私たち冒険者がそれが起きる前に日頃から魔物を狩って個体数を減らしてるってわけ」

「なるほどなあ」

事情は分かった。

「つまり、ヤベェってことだな?」

「その通り」

「状況については理解できたかしら?」

そこで、カーラさんがバンと机を叩き、立ち上がる。

「こんな状況の為、当ギルドとしては支部長権限で冒険者招聘を発令。一斉駆除の依頼を出すわ」

何だか話がとても大きくなってきたな。

俺が他人事のように構えていると、カーラさんはその鋭い眼光で俺の顔を見た。

「そしてアナタたちを呼んだのは他でもない。このギルドには今、高ランクな依頼をこなせる人員がいないの。そんな人達をスタンピードのど真ん中に突っ込ませるわけには行かないのは分かってくれるわね?」

なんだなんだ、話がきな臭くなってきやがったぜ。

多分俺にはカーラさんが次に言うことがわかる。

勇者の能力とかじゃなく、本能として。

「アナタの実力はさっき見させてもらったわ。あれでも冒険者の中では手だれのペドを一撃でのしてしまったその力。レンリちゃんを守った実力。それぞれを加味してもアナタはニ級の冒険者に匹敵する実力だと思うわ」

「ああ……うん……」

嫌な予感がビンビンするぜ。

「そんなアナタに早速ギルドカードを作ってもらって、私から直接依頼しようと思うの」


「コボルトのスタンピードの阻止って言う依頼をね!」


「あー……ですよねぇ。ちなみに断るとかって……」

「アナタが断ったら次点での実力者であるレンリちゃんに行ってもらうしかないわ。そんな危険なこと、彼女一人にさせるような男じゃないわよね?」

「……ハイ」

「うふふ。100点ね!」

そんなこんなでとんとん拍子に決まった初依頼。

いやまぁ正直、自分から調査は言い出そうと思っていたが、何とも手のひらの上で踊らされてるような気がして癪に触るぜ。

だが言ってても仕方がない。

コレは直接人命がかかった依頼なんだ。

気を引き締めていかないとな!


カーラさんに言われるがままにギルド員の登録を済ませ、俺とアスタロッテは二級のギルドカードをもらった。

正直アスタロッテは戦闘能力皆無だが、クエストに同行するためには上下一級差の冒険者でないと行かせられないというギルドの規則の為、アスタロッテも自動的に二級となった。

ちなみにレンリやペドは三級らしく、ぽっと出の俺に追い越されたレンリはなかなか複雑な表情をしていたが、カーラさんの一喝で渋々納得していた。

まあカーラさんはレンリに対してだいぶ過保護みたいだしな。

あまり上の級に上げて、危険な依頼をして欲しくないところもあるのだろう。

最後にカーラさんが「戦いが激しくなるかもしれないから回復薬かヒーラーをパーティーに入れるとかで対策をしておいた方がいいわ」と言っていたが、金もないしあてもない。

さっきのコボルトの死骸もレンリの話じゃ買い取ってくれるって話だったが、なんやかんやで有耶無耶になってしまったし。

さて、どうするかな。

そんな事を考えながら俺は初めての世界で夕暮れの街を美少女二人と歩いていた。

右手には中身はアレだが、女神級の美少女のアスタロッテ。

左手にはまだ幼いが、将来有望なレンリ。

……うへへ。

なんだかんだ異世界転生してよかったかもな。

「あんた達、コレからどうするの?」

「あー、そうだな。今日はもう遅いし、適当なところで……金もないし野宿かな」

「野宿!?ユウトはか弱い乙女である私に地面で寝ろと言うのですか!?」

「オメー女神だから関係ねーだろ」

「関係あります!今は殆ど普通の人間なので睡眠も食事も必要なんですうぅぅ!」

「金稼げるようになるまで我慢しろ」

「そんなぁあ〜」

だって仕方ないだろう。俺たちはこの世界に来たばっかりなのだから。

そんなふうなやりとりをしていると不憫に思ったのか、レンリが提案をしてくれた。

「だったら、お礼も兼ねて今日の宿代払わせてよ!私が止まってる宿、ご飯美味しいんだ!」

そのレンリの言葉に目を輝かせるアスタロッテ「本当ですかレンリさん!アナタは女神のようです〜!」

「アスタロッテ、意地きたねーからそんな言い方やめろ!」

つーかお前こそ正真正銘女神だろうが。

しかし、俺も行くあてはない。

武士は食わねど高楊枝とは言うが、あいにく俺は武士じゃなく勇者だ。

ここはレンリの好意に甘えとくか。

そんな事を思っていると。

「急げ!早く町外れの屋敷までずらかるぞ!」

「おうともさ!」

「ふぇえ、なんですかぁ〜!?」

「ちっ、おい口塞いどけ、騒がれちゃかなわねぇ!」

そんなふうに騒ぎながらバタバタと路地裏に入っていく集団。

説明すると、目の前で何やら女の子が男三人組に連れ去られていく場面を目の当たりにしてしまった。

「……なあ、今の見たか?」

「ええ、誘拐の現場ね」

「完全に犯罪でしたね」

「……」

呆気に取られて三人とも沈黙。


「追っかけろ!!」

「はい!」「そうね!」


全く、この世界はこんなことばっかりか!?

あいにく、まだゆっくりおやすみとは行かねーみたいだな!

「……それにしてもあの娘、おっぱい大きかったな」

「うわサイテー。あんたそんなキャラだったの?」

「それがレンリさん。この人の夢はですね……と言うか召喚した所から全部話してあげます。私だって……女神だって誰かに愚痴りたい時があるんですよぉお!!」

「そんなことはいいから追っかけるぞ!見失っちまう!」

アスタロッテがレンリにどう言って俺のことを紹介するか気にはなったが、それは置いといて、俺たちは全速力でさっきの誘拐犯達を追うのだった。


「ココに……入って行ったよな?」

「ええ」

俺たちが誘拐犯を追って来たのはまさかの町外れにある貴族の屋敷。

広大な土地を有し、レンリの話によると、この辺り一帯の領主の屋敷らしいが……一体どう言うことだ?

ますます問題が難しい方向に行っているような気がして寒気がする。

「そういえばカーラが前にここの領主様には気をつけろって言っていたわ。今思えばこう言うことだったのかも……」

きな臭い話だ。

つまり、確証はないが領主はならず者を雇って村娘を誘拐し、何か悪さをしている可能性が高いと。

しかも一度や二度じゃないらしい。

「昔はそんなに悪い噂を聞く人じゃなかったのに……ここ数年で一気にそう言う噂は増えたわ」

「ここ数年となると……魔王軍と関係があるのでしょうか?」

アスタロッテが思案する。

「魔王軍と関係がある可能性が?」

「ええ、魔物には人心を乱す魔術を使う者もいますし、ひょっとすると……ですが」

なるほどな、人心を乱す魔物によって領主を乱心させ操っていると考えれば、辻褄はつきやすいか。

「で、でも、どうするのよ!相手は貴族なのよ?このまま助けに行っても返り討ちにされちゃう。もしかしたら私達が不敬罪で捕まるかも……」

こっちは勇者に最上級魔法が使える魔法使い、あと何ができるかわからん女神もいるが……俺とレンリだけでも大抵の敵には負ける気がしないがな……

「しかし、彼女を見捨てるわけにはいかない。大っぴらにとはいかないが、こっそり忍び込んで助け出すくらいは出来るだろう」

「マジで言ってるの!?」

「マジです。勇者がこんな事で躓くわけはありませんから」

驚くレンリと威張るアスタロッテ。

何でお前が威張ってんだ。

しかしまあ、お貴族様が相手ってんなら相手が悪い。

ココは一つ、ハッキリさせとくか。

俺は連理に真面目な顔で向き合った。

「レンリ、俺たちは勇者パーティーだから助けに行く。目の前で困ってる人は放って置けないからな。でもさ、正直お前は違う」

「えっ……」

レンリが酷くショックを受けたような表情をする。

「そんな……私だって仲間でしょ?」

「いいや、違うね。旅は道連れとは言うが、俺たちは成り行きで助け合っていただけだ。ココから先はただの成り行きで済む話じゃなくなる。こんな事を言うのは酷かもしれないが、お前まで巻き込むつもりはない」

そうだ。コレはレンリの為に言ってるんだ。

「なによ……私はいらないって訳?私にだって人並みに正義感くらい……」

ジワリとレンリの大きな瞳の端に涙が浮かぶ。

何故泣く!?

「違うんだ、そうじゃないんだよ!」

「何なの!?もうアンタが分かんなくなっちゃったわ!……人の気も知らないで……ばーか!」

弁明しようと思ったのだが、レンリは聞く耳を持ってくれず、止める間も無く走り去って行ってしまった。

「待て!レンリ!」

しかし方向は何故か領主の館の方向に。

そしてそのレンリの考えなしの行動に衛兵が気づいてしまった。

「何者だ!貴様!」

「やばっ!?」

今にもレンリに掴みかかろうとする衛兵。

「ちっ、届けェ!」

俺は咄嗟の判断でホーリーセイバーを投げつけ、衛兵を無力化する。

「た、助けてなんて言ってないわよ!ばか!」

「バカはどっちだ!どうせ行くなら一緒に……」

「んべーっ!」

こっちが言い終わるよりも先に素早く走り去っていくレンリ。

そして行く先々で尽く衛兵に見つかっていく。

ええい!あいつは隠密行動ってのを知らないのか!

「『コール』!」

俺はコールで聖剣を呼び戻し、庭にあった大木をホーリーブレイドの強化を使い切り倒した。

ズズズゥン……

その衝撃にレンリを追おうとしていた衛兵達が一斉にこっちを見る。

「こっちだクソ野郎ども!!」

コレで大多数の衛兵の戦力はこちらに向くだろう。

一人や二人はレンリの方に向かったみたいだが、アイツも冒険者の端くれ。

それぐらいは何とかしてくれ!

そう願いながら俺はなるべく殺さない事を念頭に衛兵達を無力化していくのだった。


「終わったみたいですね」

庭にいた二十人くらいを倒しただろうか。

アスタロッテによるともう庭には気配はないらしい。

「そう言えばアスタロッテ、何で気配なんかわかるんだ?」

「よくぞ聞いてくれました。それは女神の秘密スキル、『サーチ』のお陰です。私がサーチすれば半径30メートル以内のほぼ全ての生物の位置が何となくわかります」

うーん。すごいようなすごくないような。

「何ですかまたそんな微妙な顔して!ちなみにサーチによるとお屋敷の中にはまだ複数の人間の気配がありますね」

「おお!その中でレンリとさっき連れ去られた女の子の位置はわかるか?」

「いやぁ、それはちょっとわかりませんね。人間ってくらいしか……」

「……あそう」

「あー!また微妙な顔した!そんな顔しないでくださいよ!傷つくんですからそれぇ!」

「……」

はぁ。相変わらずあと一歩が惜しいんだよなあこの駄女神。

そもそも庭は殲滅したんだから言われるまでもなく屋敷のほうに行くし……

「ちょっと!聞いてます?ユウト!?」

「はぁ……」

俺はため息をつきながらアスタロッテを宥め、レンリの無事を祈りながら屋敷の方に向かった。


屋敷の中は屋敷の中でレンリが通ったのだろうか台風にあったかのように荒れ放題であちこちが焦げている。

アイツ……火事にでもするつもりかよ。

こりゃ後片付けをする使用人さんたちが大変だな。

そう思いながら進むと、どうやら地下に繋がっているだろう、怪しい階段を見つけた。

「アスタロッテ、この下に人の気配は?」

「ありますね。4人いるみたいです」

「4人か」

先ほどのならず者と誘拐されたお嬢ちゃんの数と合わせてぴったりだ。

こりゃビンゴかもしれんね。

「行ってみるか」

「はい」

そうして、俺たちは薄暗い階段を恐る恐る降り始めた。

壁にある蝋燭でぼんやりと照らされた階段を降りると、階下には地下牢のようなものが作られており、それが10部屋分くらい続いていた。

牢の中は見る限りでは空のようだが、最近使用したような形跡も見られる。

やはり、レンリが言っていた村娘の誘拐事件の犯人はココの領主だったのか?

「あ、ユウト。奥の方の牢に明かりが」

「ああ……慎重に行くぞ」

アスタロッテの言う通り、奥の牢屋から仄暗い灯りが漏れており、ゆらゆらと人影も見える。

また、地下の構造も一本道なので、牢の中に部屋や、隠し扉などがない限り先ほどの生体反応もこの先の牢屋のものだろう。

俺達が侵入したことに気取られないよう、最新の注意を払って近づいて行くと、奥の牢の話し声がかすかに聞こえるようになって来た。

「へへ……こんな無防備な小娘一人攫って来て金貨30枚ってのはボロい商売だな」

「全くだ、当分は働かずに遊んで暮らせるぜ」

「しかし最近、領主様も変わったもんだな、昔はもっとお堅い感じだったんだが」

「まあ、心変わりでもあったんだろう、乱心の噂は村でも耳にしていたしな」

「それにそのおかげで俺たちみたいなクズにも仕事が回ってくるんだ。余計なことは考えずに金さえもらえりゃそれでいいのさ」

「ははっちげえねぇ」

牢のすぐそばまで近づき、影から様子を伺う。

どうやら声の主は先ほどの誘拐犯3人組で間違いないようで、仕事終わりの祝杯か、3人共、酒を飲んでいい気になっているようだ。

また、攫われた女の子は手枷足枷をつけられ、天井から鎖で吊るされており、睡眠薬でも盛られたのか、完全に気を失っているようだ。

まあ、見た感じ怪我がないようでよかった。

しかし、領主の乱心と言うのは最近のことなのか?少なくとも昔から悪事に手を染めている訳ではないのかもしれない。

この地下牢も壁などを見ると割と新しいもののようだし……

そうやって様子を見ていると、ならずもの達に動きがあった。

「しっかし、この女、でかいおっぱいしてるなあ」

そう言って吊るされた女の子の胸を揉みはじめる、ならず者A。

「おいおい、一応そいつは俺たちの金ヅルだぜ?間違っても変な気を起こすなよ?」

一応仲間の一人が口で止めに入ったが、別に本気で止めてる訳でもないようだ。

「胸揉むぐらい別にどうって事ねぇだろ?それにまさか処女って訳でもあるまい?」

「何言ってんだお前、コイツは修道女だぜ?修道女は生涯純潔を通すのが習わしだって知ってるだろ?」

「あー通りで。芋クセェ女だと思ったぜ」

「……領主様ともなると初モノでないと興奮出来ない性壁でも持ってんのかね?」

「ぶはは、案外そうなのかもな」

「まあ俺たちにゃ金がある。こんな小娘でヤらなくても今日の夜中には娼館でよりどりみどりのいい女を抱けるって話よ」

「ちげえねえ、ははは!」

俺はその会話を聞きながらブチギレそうになる。

チンケな正義感とかじゃあ断じてない。

まあ正義感もあるが、それともう一つ俺にとって大事な事実があるのだ。

それは……俺はまだ胸揉んだことがないって事だ……!

それなのにアイツら遊び半分であんな風に……むにむにぽにぽにと……許せねぇっ!!!

想像するその柔らかさを脳内で再現する為にどれだけの時間を使っているか、非童貞の皆さんにはわからないんだろうがよ!

前世では悲しくも障害童貞を貫いた俺は、何なら今すぐにアイツらの仲間入りをして、ちょっとでいいからその感触を味わってみてぇっ……!

俺が心で血の涙を流しながらプルプルしていると、背後からアスタロッテの薄ら寒い視線が背中に突き刺さる。

コイツ……俺の心読んでんじゃねぇか?

しかし、俺の気持ちは置いといて、確かにこのままでは女の子の身が危ない。

つーか実際もう被害出てるし。

流石になりふり構ってられないか。

俺は穏便に済ませる事を諦め、武力行使に打って出た。

「おうおう、そこまでだ悪人ども!」

「うおっ?」「なんだコイツ!?」

突然現れた俺に驚き、身構えるならず者達。

「俺の目の前でおっぱいを揉むとは……じゃなかった、女の子を攫うとはふてぇ野郎どもだ!痛い思いをしたくなかったらとっとと降参しな!」

「相変わらずどっちが悪人かわかりませんね」

アスタロッテが俺の口調に言いたいことがあるみたいにちくりと言ってくる。

こんなスレだ気分になってんのはお前のせいでもあるんだからね?

そもそも、普通に勇者目指せるんならここまで荒れなかったんだけどね?

「何言ってやがんだコイツ!」

「テメェこそ女連れでこんなところにノコノコやって来やがってデート気取りかコラ!」

「たたんじまえ!」

まあ、降参しろって言われて素直に引くような奴らじゃない。

「デートならいくらかマシだったんだけどなぁ!」

仕方なしに俺は、一斉に武器を持って襲いかかって来たならず者達を剣の柄や鞘でめった打ちにし、叩きのめした。

まあ、殺してしまう事はあるまい。一応冒険者ギルドには報告するが、人殺しって訳でもないみたいだし。

それに俺だって、規格外な勇者の力を持ったとしても、人殺しにはなりたくないのだ。

まあ、少しの間は動けないように拘束はさせてもらうが。

俺は地下牢にあったロープで気を失ったならず者達を縛り上げ、ちょうどよく牢屋なので、そのまま別の牢にぶち込んで鍵をかけておいた。

当分は起きないだろうが、念のためだ。

さて、次は吊るされてる女の子だ。

女の子は天井から伸びた鎖に腕を繋げられ横の巻取り機を使って上に引っ張り上げられていた。

流石に気を失ってるとはいえ、その体勢は辛いだろう。

起こす前にとりあえずその鎖を下ろしてあげることにした。

しかしこの体勢。

腕が縛り上げられている為余計にその大きな乳房が強調され、とてもエロい状態だ。

つーが見れば見るほどいい体してるなこの人……!

いやぁ眼福、眼福……

……ちょっとぐらいなら。

「ユウト?」

「はっ!?」

俺が胸を触ろうと少し思った事が事がバレてしまったのか、ゴゴゴゴと並々ならぬ気配を出し地鳴りを響かせて来た女神様の機嫌を損なわないよう、すぐさま鎖を下ろす作業に取りかかる。

外なら雷が落ちて来たが、地下ならどんな天罰が待っているのだろう……

「……もういっそ、股間を……」

なんかこえぇこと呟いてらっしゃる、この駄女神!!?

「……はは、俺は邪なことなんてこれっぽっちも考えてませんよ?」

俺は背後にいるアスタロッテに怯えながら、誤って勢いよく女の子を落として怪我をさせないよう慎重に鎖を下ろした。

「んぅ……」

うまく、下ろす事ができたが、下ろした際に聞こえる女の子の吐息や声に俺の童貞メーターは振り切れんばかりに興奮している。

なんつーかエロい、エロいんだよこの人!

俺がどうとかじゃなく、世の男性みんなが興奮しちゃうような色香があるって言うか!

本当に神官かこの人!?サキュバスか何かの生まれ変わりなんじゃないだろうか?

煩悩退散。

何故なら殺されるより痛い天罰がこの身に降りかかるから。

煩悩退散、煩悩退散。

そんな事を思いながら女の子の手枷と足枷を外す。

その時も触るたびに「ん……」とか「はふぅ……」とか妙に色っぽい声を出すんだからたまったもんじゃなかった。

しかしこれだけ体を動かしても少女は目を覚さない。

「アスタロッテ、コレってただ気を失ってる訳じゃなさそうだよな?」

「そうみたいですね、何かの薬物の効果でしょうか?」

「どうすっかなあ……レンリの事もあるし、ここで担いで行くってのは難しい。かと言っておいて行くわけにもいかないからな」

「大丈夫ですよユウト。こんな時も、困った時の勇者スキルです。『クリア』と唱えてみてください。身体の不調を治し、元の状態に治す魔法です」

「わかった。『クリア』」

俺がそう唱えるとパァッと女の子の体が薄い光に包まれたかと思うと、数秒後、女の子はパチリと目を覚ました。

「ふぁあ……何処ですかぁ、ここ?」

存外におっとりした口調のその子は目を開けてすぐに視界に入って来た俺をみてビクリと身体を硬直させる。

「ふぇえ!そういえば私、さっき誘拐されてたんでした!乱暴しないでくださいぃ!」

その口調からは信じられないほどの素早い動きで部屋の隅に移動し、頭を抱えて蹲ってしまう少女。

「お、おい、ちょっと待て。そんなつもりないって」

俺はそう言いながら部屋の隅に行った少女をビックリさせないようにじり寄って行く。

「ぴぃいい!?変態さんがゆっくり寄って来ますぅ!?」

「んなっ!へ、変態……」

その言葉に微妙にダメージを受けた俺は、その場から動けなくなってしまう。

こりゃダメだ。

俺じゃ完全に警戒されちまってる。

俺はアスタロッテに目配せし、彼女の警戒を解く事を任せてみた。

「そ、そんなに怯えないでください、ユウトは確かに変態ですが、いい変態ですよ」

「や、やっぱり変態なんじゃないですかぁ!!」

「んー……否定できません」

「ぴぃいいい!!?」

「余計怖がらせてどうする!?」

くそっ埒があかねぇ!

「落ち着いてくれ、怖がらせて済まない!俺はユウト。街中で君が攫われるのをみて、助けに来たんだ。さっき君を連れ去った3人組もそこの牢屋で伸びてる。まだもう一人この屋敷で君を探してる仲間と早く合流しないといけないんだ。なんとか信じてくれないか!?」

ダメ元で捲し立ててみたが、どうだ!?

「ん、んぅ……よく見れば貴方からはイヤな感じがしないです」

「えぇ……ユウトの何処をみたらそうなるんですか?」

頼むからアスタロッテは黙っててくれ。

俺の言葉を聞いてなんとか状況を理解してくれたのか、警戒を解いて女の子はこちらに向き直してくれた。

さっき、慌てて動いた為に乱れた衣類をささっと整えて、こちらにお辞儀をしてくれる。

「突然のことで驚いてしまってすみません。神聖アスタロッテ教の僧侶のトアと申しますぅ。助けてもらってありがとうです」

「ああ。改めまして、俺はユウト。こっちはアスタロッテだ」

「あ、アスタロッテ?」

トアと名乗った少女はアスタロッテの名前を聞き、目をぱちくりさせる。

そういえば、神官で、神聖アスタロッテ教って……

チラリとアスタロッテを見る。

すると自慢げにふふんと鼻を鳴らしてみせた。

「ふふん、驚きました?ユウト。私はこの世界の神様ですから、もちろん自分の宗教なんてのもあったりするんですよ。そもそもユウトの私への扱いがおかしいのです」

だからってそんな自慢げにされてもなあ。

そして、そんな自慢げにしてる自分の信仰対象を見てドアはどう思うのだろうか。

そう思い、今度はトアを見てみるとなんだか微笑ましそうにアスタロッテを見ている。

「あはは、たまに居るんですよねぇ、アスタロッテ様と、同じ名前の人。その真 神威にあやかってか、アスタとかロッテって名前も人気ですしぃ」

あれ?全然気づいてなかった!?

流石にその反応はアスタロッテも予想だにしていなかったのか、ショックを隠しきれていない。

「え?え?私が本物のアスタロッテですよ?今は仮初の姿で下界に降りてきていますが、本当に神様ですよ!?」

「まさかまさか。本物のアスタロッテ様はもっとシャラっとしていて、とても威厳のあるお姿なのですぅ。も、もちろんアスタロッテさんもとても綺麗だとは思うのですが……なんか、神聖さを感じないというか。本物のアスタロッテ様はやはり神様ですのできっとこの世のものとは思えない美しさなのですよ」

そう言って教会に立っている像でもあるのか、その姿を身振り手振りで説明するトア。

まあ確かにそう言われてみればアスタロッテはめちゃくちゃ綺麗だけど、威厳があるかと言われれば少し違う気もするんだよな。

「……っち、信仰してもらうときに都合がいいように容姿を盛ったのが仇になりましたね……」

アスタロッテが小声で何か言ってる……!

「いやぁ……そうは言っても私、ホントの女神なんですよ?コレは世を偲ぶ仮の姿で……」

なんて事をアスタロッテが歪んだ笑顔でトアに言い聞かせているが……

んな事ぁない。俺が転生する時に見た姿も大体そんな感じだったもん。

「まぁたまた〜」

「まぁたまた〜じゃないです!信じてくださいよ!」

「まぁたまた〜」

「なんで信じてくれないんですか〜!」

そんなこんなで全然信じてくれないトアに涙目で縋る駄女神。

それでいいのかお前。

それより、トアを救出する目的を達した今はレンリを探し出さないと。

「二人とも、そんな話は後でいいから、さっさとレンリを探しに行くぞ。アイツのことだからどんな無茶をしでかすかわからん」

「そうですねぇ、その方も私を助ける為に来てくださってるのだからお礼もしたいですし。行きましょう」

「ちょ、ちょっと!コレは女神としての大事な話なんです!待ってくださいよぉー!」

若干一人騒いでるメンバーもいることだが、問題ない。

俺たちはレンリを探すべく、地上階に向けて歩き出した。

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