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第三話「始まりの村、カランド」

「さっきは咄嗟のことで……悪かったわね。あと……助けてくれて、ありがとう」

俺はあの後、あまりの痛みで数分ほど気を失っていたらしく、目を覚ました時には、レンリはすっかり落ち着いており、先程の謝罪と助けた時のお礼を言ってくれた。

「いいって事よ、旅は道連れ世は情け。同じ冒険者同士、気楽に行こうや」

「そうです、レンリさん!むしろユウトが助けなかったら私がぶん殴って助けに行かせる所でしたから!」

そう言って力こぶを作るポーズをするアスタロッテ。お前、あの時「まだ悲鳴は人の物と決まったわけじゃない〜」とか何とか言ってなかったか?

「そうは言っても助けてもらったのは、事実。何かお礼を……って何でお姉さん私の名前を知ってるの?」

「そりゃお前、トロールプラントを倒した時自分で言ってただろ「ふふん!びっくりした?魔法使いレンリを甘く見ないことね!」って」

「はい!私も聞いていました!とってもかっこよかったですよ!」

「んなっ、っ〜〜〜〜!!!!」

聞かれていたのが恥ずかしかったのか、顔を赤らめて蹲るレンリ。

「くぅ〜〜、やっちゃった。また私大声で自分の名前を……」

前にも同じような事していたのか。

どうやら気分が高まると名前を叫びたくなるタイプのようだな。

自己顕示欲が強いというか、何というか……

「で、できればその、さっきの事は忘れてちょうだい。って言うかそっちのツンツン頭のおにーさんはと!く!に!ね!」

ツンツン頭って……

まあ、年頃の女の子にはあの経験はちょっと酷だろう。ここは大人しく忘れてやるとするか。

「い、いざとなったらアナタを殺してでも……」

「……」

言うこと聞いとかないと本当に殺されかねんし。

「わかったわかった。俺は何も見てない、それでいいだろ」

「見てないわけないじゃない!あ〜!もう腹立つ!何でこんなことに……」

そう言って地団駄を踏むレンリ。

わかるわかる。そうやって何とか発散したい時ってあるよな。

でもそんな事しても過去は変わらないんだよなあ……ああ、諸行無常。

「ちなみにレンリ、俺の名前はツンツン頭のおにーさんじゃなくて、ユウトだ。こっちはアスタロッテ」

「よろしくお願いします」

「そ、そう言えば名前も聞いていなかったわね。改めて、コホン。私は魔法使いのレンリ。今はソロで冒険者をやってるわ」

「ご丁寧にどうも」

10歳やそこらの女の子が膨らみかけの胸を張って自己紹介をしているのは何だか微笑ましい。

「おにーさんたちも冒険者なの?パーティー?アスタロッテって神様と同じ名前の人もいるのね」

当然、こちらの事情もレンリは様子を伺うようにして聞いてくる。

パーティーと言うのはおそらく冒険者同士の仲間を指す単位だろう。

そう言えば俺たちが魔王討伐のために旅してるのって、普通に言ってもいいもんなのか?

そう疑問に感じた俺は、すっとアスタロッテに視線を向けて意思疎通を図る。

こくりと頷くアスタロッテ。

答えは、イエスだ。

「んーとだな、まあ、パーティーかどうかって言われたらパーティーだ。俺は異世界から召喚された勇者で、訳あって魔王討伐の旅をしてる。コイツは俺を召喚した女神」

アスタロッテの許可も出たので、さらっと現状を説明してやった。

それを聞いたレンリはまさにポカーンって感じだ。

そりゃ、勇者や魔王や女神なんて言ったらこんな反応か……

「はぁ、私は真面目に聞いてるのにそんな答えではぐらかさないでくれる?魔王討伐とかは兎も角、女神で勇者って。極めつけに異世界?」

「だよなぁ、俺もレンリの立場だったらそう思う。なんて言ったらわかってもらえるか……」

「ユウト、それなら聖剣を見せたらどうですか?」

「ああ、そうか」

聖剣はっと……あれ?

「あれ?ないぞ?」

聖剣を差していたはずの鞘にはその主人の影は姿形もない。

そうか!さっきのトロールプラントとの戦いであの原っぱに捨てられたんだった!

慣れない帯剣だったもんで、すっかり忘れていた。

「しまった。アスタロッテ、聖剣さっきの戦いのとこに忘れてきちまった」

申し訳なさそうな顔をする俺に、アスタロッテはあっけらかんと言う。

「ああ、忘れたんですか?大丈夫。コールって言ってみて下さい」

「……?えっと、コール」

わけもわからないままとりあえず言ってみる。

するとさっき魔物を倒した方から、聖剣がすごいスピードで飛んできて、すっぽりと俺の手にハマった。

「おお!すごいな!」

「その聖剣は勇者の加護を持ってますから。これも勇者の技能の一つです。魔王を倒す大義はその剣でないと成就できないので、基本スキルですね」

「はは!便利だなコレは!」

思わぬところでスキル習得。

思っていたより勇者のスキルってだいぶチートなんだな。

俺が軽く感動していると、それを見ていたレンリが小刻みに震え出した。

「な、な、な、剣がひとりでに手元に……!そんな魔法は見た事ないわ」

「そうなのか?さっきのレンリの魔法と比べたらだいぶ現実的だとは思うが」

「見えないぐらい遠くにある剣を呼ぶだけで手元に戻す魔法なんて本当に魔法の域よ!基本的には大幅に物理法則を無視した魔法は使えないものなの!」

そういう意味ではさっきのレンリのイフリートの腕も相当だったが……

どうやらなにか違うらしい。

「じ、じゃあアナタたち本当に勇者と女神……!?」

信じられないと言う面持ちのレンリ。

「さっきからそう言ってるだろ」

「だってそんな事……まあでも、確かにこの剣からは聖なる気を感じるし……信じるしかない……のね」

「わかってもらえてよかったです」

まだまだ、信じられないと言う様子ではあるが、何とか理解はしてくれたレンリ。

そうして俺たちは自己紹介もそこそこにまずは目的だった街アノルド村へと歩を進めるのであった。

ちなみに、レンリも一旦村に戻って支度を整えたい(パンツを履きたい)という事で、道中一緒に向かうことになった。


アノルド村へと向かう道中、半ばまで歩いた所。

陽が落ちるまでにはまだ時間があるし、そろそろ休憩しようかと言っていた俺たちだったが、突然草むらがガサガサと音を立て、黒い影が飛び出した。

「なんだ?」

その影の主は漆黒の狼。こいつも魔物か?

「ユウト、剣を構えて!コイツはコボルト。オオカミ型の魔物よ!」

「強さ的には問題ありませんが、ユウトさんでも噛まれれば痛いですよ」

アスタロッテとレンリが攻撃の構えをとる。

ってか、逆に俺は狼ぐらいなら噛まれても痛いで済むのかよ。いよいよ人間離れしてきたな。

まあ普通の冒険者でも一撃では倒されないのだろうが。

「魔物なら倒しても構わんのだろう?先手必勝!そらっ!」

俺は聖剣を素早く抜くと、躊躇わずにコボルトの首筋に一太刀浴びせてやった。

今回は強化の『ホーリーブレイド』は掛けていなかったが、なまじ元々が聖剣なので、容易くその首を胴体から切り離すことが出来た。

先程のトロールプラントとは違い、首を両断するだけでも絶命させることが出来るようだ。

「ユウト、まだよ!」

無事コボルトを倒した俺は、ほっと息をつこうかとしたのだが、レンリの声で気を引き締め直す。

「右です!」

アスタロッテの指示に従い、振り返りざま、袈裟懸けに剣を振り下ろす。

「キャイン!」

という鳴き声と共にもう一頭のコボルトも退治できた。

「まだ油断しちゃダメよ、コボルトは大抵5〜6頭で群れを作る魔物よ。あと3頭は隠れていると見ていいわ」

「なるほどな、その辺も実際の狼と変わらないのか」

「そういう事!っ……ファイヤ!」

俺は先程のコボルトが出てきた所を警戒していたが、それとはまた死角の左側からコボルトが飛び出してきた。

咄嗟に魔法で迎撃するレンリ。

「おいおい、森の中で炎の扱いは気をつけてくれよ?」

「分かってるわよ、でも変ね。ただのコボルトならこんな風に死角から攻撃したりなんてして来ないんだけど……」

そんなレンリの呟きに、そうなのか……と思っていた矢先。

草むらの茂みの奥から先程までのコボルトより一回り大きい体躯で額に角が生えたやつがやってきた。

「グルルルル……」

「あ、あれは!コボルトリーダー!?」

レンリがソイツを見て驚愕に目を丸くさせる。

「ふうん、あいつがリーダーなのか。任せろ!」

レンリが何に驚いているのかは分からないが、リーダーという事はこいつを倒せば他のコボルトはただの烏合の衆に成り下がるって事だろう。

俺は勇者の身体能力を生かし、一足で間合いを詰め、コボルトリーダーの首を一刀で両断した。

その瞬間、周りの草むらが、ざざざ、ガサガサ!と音を立て、何かが去っていく気配を感じさせた。

「他のコボルト達は居なくなったみたいですね……」

「え、ええ……」

「何とかなってよかったな」

安堵する俺とアスタロッテだったが、レンリの顔は晴れない。

「何か心配事か?」

俺は気になって、気づけばレンリにそう問いかけていた。

「うん……コボルトリーダーが現れたってことがそもそもまず危険なのよ」

「そうなのか」

「コボルトがコボルトリーダーになる為にはまず、十分な個体数が必要なの。その上で、能力的に秀でていたものが、コボルトリーダーとして進化するわ。つまり、コボルトリーダーが存在するという時点でこの森には以前よりも多くのコボルトが発生しているということになる」

「なるほどな、この森ではコボルトは珍しいのか?」

「珍しくは無いけれど、多くもない。この森は初心者でも安全に狩りができることで有名だもの」

ここって初心者向けの森だったのか。

「しかもそれだけじゃない、さっきコボルトリーダーが倒れた後、ほかのコボルトたちはすぐ引き返して行ったわ。コレはコボルトリーダー以上の強個体の存在を示唆する証拠よ」

そう言って一息、レンリはゴクリと喉を鳴らして言った。


「コボルトキングが発生している可能性がある」


「……えっと、それってやばいのか?」

「やばいわ。何十年に一度の事よ。ギルドに早く報告して、緊急依頼を出してもらわないと」

おやおや、休憩どころではなくなってしまったな。

「仕方ない、急いで村まで行くとしますか」

「そうね。これ以上コボルトが増える前に」

「行きましょう!」

そうして俺たちは休憩を諦め、村に行く準備を整えた。


「そういえば、このコボルトたちの死体はどうするんだ?」

「ああ、コボルトの死体は毛皮や牙なんかが日用品や服飾に使えるからギルドで買取ってくれるわ」

「なら、一応回収した方がいいのか」

俺はそう言って生臭いが、何とかコボルトの死体を持ち上げてみる。

「うっ結構重いな」

「今は一刻を争う事態だし諦めてもいいんじゃないかしら?」

「そうだなあ……」

「おっとと!諦めるまでもありませんよユウト!あなたは勇者です。取っておきの魔法があるんですよ!」

そんな中、さっきまで静かだったアスタロッテが会話に割り入ってきた。

「ふうん、どんな?」

「『ストック』と、唱えてみて下さい」

「わかった。『ストック』」

俺がそうつぶやくと、虚空に魔法陣のようなものが浮かび上がった。

「まさか、次元収納魔法!?神代魔法じゃない!実物は初めて見るわ!」

「ふふふ、その反応いいですね!私もそういう反応が見たいんですよ〜、それなのにユウトと来たら反応が薄いって言うか塩対応って言うか……」

そういやこいつ女神なんだったな……色々あって忘れそうだぜ。

「まぁ、反応についちゃ考えといてやるよ、ところでこれってどうやって使うんだ?」

「簡単です、中に入れたいものに手をかざして、もう一度『ストック』と言ってもらえれば入ります」

なるほど。

「『ストック』」

言われた通りにコボルトの死骸に手をかざしながらそう唱えると、死骸は淡い光に包まれて 消え去った。

「おお。ほんとに消えた」

「便利ね〜、勇者の能力って」

「そうでしょう?すごいでしょう?ちなみに出したい時は『リリース』です」

「『リリース』」

どんな風に出るのかの確認のため、リリースも一度やって見る。

すると、魔法陣が移動し、その魔法陣の真下に湧き出るかのように先程『ストック』したコボルトの死体が出てきた。

「なるほど、使い方は理解出来た」

「ちなみに魔力消費は高いですが、勇者であるユウトの魔力は底なしなので、コレぐらいで戦えなくなったりはしません。気軽に使っていってもいいと思います」

「わかった。便利に使わせてもらおう」

そうしてコボルトの死体を回収した俺たちは改めて、カランド村へ向かった。


コボルトリーダーのこともあり急ぎ足で向かったことで、村には予想よりだいぶ早く着いた。

入口の門の前には衛兵が立っており、よそ者の俺たちを少し睨むように一瞥したが、特別呼び止められることも無く、すんなりと村に入ることが出来た。

「ここがカランド村か……」

思っていたよりも文化的で、活気溢れる村だ。

畑には作物が沢山実り、看板を読むと「ようこそ冒険と温泉のカランド村へ」とある。

温泉もあるのか、一度浸かってみたいもんだ。

「まずはコボルトの件を伝えにギルドに行きましょう」

「やっぱりあるのか」

異世界のお約束、冒険者ギルド。

「ユウトの世界には無いの?」

「ないな。そういうのが必要ないくらい平和だったから」

「ふーん、信じらんない話ね」

そう、不思議そうに言うレンリの後に着いて、俺たちは冒険者ギルドに向かった。

冒険者ギルドは歩いて五分ほどのほど近いところにあった。

西部劇に出てきそうな扉を手で押して入ると、冒険者ギルドとしての依頼掲示板らしきものや受付、また酒場のような施設も隣接しているようだ。

しかし入ってからこちらに突き刺さる敵意の視線はなんだ?

そんなに新参者が珍しいのだろうか。

そう思いながら、ズンズン進むレンリについて行く。

いや、よく見たらこの視線は全て俺に向けてじゃない。

レンリに向けて、だ。

俺に対して向いているのはほとんど好奇の視線で敵意は感じられない。

ではなぜレンリがこれほどまでに敵意を向けられているのか?

思い返せば村に入ってからも幾度かこのような視線は感じていた。

「ちっ、酒が不味くなるぜ」

そんな心無い冒険者たちのつぶやきが聞こえる。

名指しまではしてこないものの、いい気分じゃあない。

レンリは気づいているのだろうか?

いや、おそらく気づいている。

これだけの視線に気づかないわけが無い。

ならば気づいた上で無視をしているのだ。

なんだァ?一体……

俺が周りに対して威嚇していると、いつの間にかギルドの受付カウンターの前に来ていた。

受付嬢はどことなく柔らかい雰囲気を持ったお姉さん。

「ただいま、カーラ。緊急でギルドに動いてもらわなければならない報告があるわ」

真面目な顔でそう告げるレンリ。

それを聞いたお姉さん……カーラさんはふるふると震えた後、ばっとレンリに抱きついた。

何事!?

俺とアスタロッテが驚いているとそのままカーラさんはレンリの頭をよしよしと撫で始めた。

「そんなことより!レンリちゃん!よく帰ってきたわねぇ〜!少し服が破けているけど、どこも怪我はしてない?体調は大丈夫?誰かに悪いことはされなかった?」

矢継ぎ早にそう言ってレンリを撫で回しまくるカーラさん。

なぜか、撫でながら「100点!100点!」と言っている。

一方レンリは慣れた様子で淡々としたものだ。

「私自身は問題ないわ。それよりさっき森でコボルトリーダーを倒したの」

「コボルトリーダー?」

「証拠もあるわ。ユウト、死骸を出して」

「あいよ。『リリース』」

そう言って床の上にさっき収納したコボルトリーダーの死骸を出す。

それを見たカーラさんはさっきのレンリを愛でていた表情とは打って変わって引き締まった表情でそれを見た。

「そこの彼の魔法には驚いたけれど、そんなことより、確かにこれは間違いなくコボルトリーダーの死骸ね」

「それだけじゃない。リーダーを倒された後、残りのコボルト達はなりふり構わず森の奥に逃げていった。普通コボルトリーダーが倒された後はがむしゃらに向かってくるのに」

「つまり、それは……」

その先をカーラさんが言おうとした時、下品で空気の読めない声がギルド内に響き渡った。

「おいおい!今度はそんなものを持ち込んで人の気を引こうってか?ええ?レンリお嬢様よ?」

「ぺド……」

「いや、もうお嬢様じゃねぇから、ただのレンリちゃんか?けひひひっ!」

その一言目から失礼極まりない喋り方の男性はぺドと言うらしい。

大柄な体に屈強な体躯。

背中に背負ったハンマーを見たところおそらく戦士なのだろう。

その威圧的な風貌はまるで世紀末漫画から出てきた悪党のようだ。

「そこの坊主がどんな手品を使って出したかは知らねぇが、コボルトリーダーの死骸自体は手に入れようと思えば無理な品物じゃない。あんたみたいなヒョロいガキと女子供が集まった所で倒せるような相手じゃねぇんだ。嘘つきおままごとは大概にして人様に迷惑かけないようにしないとなあ?」

「む……」

言わせておけばつけ上がりやがって……

「レンリちゃんもいい加減冒険者なんてやめて俺のところに来いよ。今なら永久に俺の所で養ってやるからよ。もちろん死ぬまで、朝から晩までベッドの上でもなぁ?」

「ひっ……」

俺が何もしないのをいいことに大男はずんずんとレンリに近づき、その肩をレンリの顔ほどもあろうかという大きな手で鷲掴みにする。

「いっ……た……」

「ちょっと!ぺド!」

カーラさんがなにか言おうとしている。

だが、それよりも先に俺の体は動いていた。


「おいそこの変態ゲス野郎。その汚い手をレンリから離せ」


そう言いながら俺はレンリにつかみかかっている男の腕を捻りあげた。

「ぐっいででででで!?」

堪らずレンリの肩から手を離す男。

「て、てめぇ、舐めた真似しやがって!」

「それはこっちのセリフだダボ」

正直、勇者が人間に怒るなんて大人気ないとは思うが、これは引き下がれない案件だ。

「てめぇ新参者だな?そこにいるメスガキがどんな奴か知らねぇんだろ?」

「ああ、知らないね」

弱いやつほどぎゃあぎゃあ喚くと言うが、こいつはその典型だな。

俺が知らないと答えたからか、ぺドはレンリを指さしながら自信満々の顔で告げる。

「そこのレンリってのはよう、王城に魔族を呼び込んで処刑された大罪人の娘なんだよ!国家反逆罪の大悪党の娘だ!誰も助けちゃくれねぇ様な最低最悪なガキなんだよ!!」

「なるほどな……」

俺はサッと辺りを見回す。

酒場にいる冒険者共は皆そ知らぬ顔をして、俺と目が合いそうになるとサッと目を逸らす。

全く。

どいつもこいつもクソばっかりだ。

「分かったらとっととお前も……!」

「だからどうした?」

「あ?」


「だからどうしたって言ってんだ!この****野郎!!」


「ふぁ?へ?」

思っていた展開じゃなかったのか、目を白黒させるぺド。

ちなみに****はこの世界の言葉じゃなかったのか意味を理解しているのはアスタロッテだけで、他の人はよく分からないとばかりに目をぱちくりさせている。

「ああそうかいこの世界には****って言葉はなかったな。こう言ったのさこのケツ穴野郎ってな!」

「て、てめぇ……」

「揃いも揃ってケツ穴のちいせえ野郎どもだ、寄って集ってこんな小さな女の子になんだ!?家族が悪党だからってなんだ!?それだけでお前達にはこの子を糾弾する資格があるってのか!?このクソ野郎共が」

「……仮にも勇者が言う言葉じゃないですね」

小声でアスタロッテが何か言っているが知ったことか。

「こんな状況で遠巻きに見てる他の冒険者の奴らもみんな同罪だ!コイツと同じだ!お前らには人の心ってもんがねぇのか!」

「い、言わせておけばァ……!てめぇが庇い立ててんのは大罪人の娘なんだよ!親父が犯罪者なら子供も同じだ!この国の逆賊なんだよ!」

「そんなこと俺が知るか!」

そう言って俺はぎゅっとレンリを引き寄せ、抱きしめる。

「俺にゃ貴族も平民も奴隷も関係ねぇ!そんな正義がまかり通る国なら王様だって敵に回してやらぁ!」

「ユ、ユウト……!?」

腕の中で照れたように顔を赤くするレンリに微笑みかける。

そんな俺を見て痺れを切らしたのかぺドは背中のハンマーを構えた。

「クソがっ!痛い目を見ねぇとわかんねぇみたいだな!?」

その姿を見て俺はカーラさんにレンリを預け、指でぺドをくいくいと挑発する。

「かかってこいよ三下。お前なんざ武器無しで十分だ」

その俺の言葉に完全にプッツンしたのかぺドはハンマーを振り上げ、、周りのものをなぎ倒しながら向かってくる。

「言ったなァ!オラァぁああ!!」

ガキィン!

そうして俺を殺さんとばかりに振り下ろしてきたハンマーを俺は拳をぶつけることで受け止めた。

「なにっ!?」

「よそ見してんじゃねぇ」

ハンマーを拳1つで止められた驚愕からがら空きになったぺドの顎に俺のアッパーカットがキレイに入る。

2〜3メートルくらい吹っ飛んだぺドはそのまま意識を失って、立ち上がることはなかった。

相当力加減はしたが、当分は起き上がってこないだろう。

「これに懲りたら真っ当に物事を見れるようになりな」

そんな言葉もやつにはもう届いていないだろう。

振り返りレンリの方にを見ると同時に、ギルド内は歓声に包まれた。

なんだなんだ?

「すげぇ兄ちゃんだな!」

「正直あの大男鬱陶しかったのよ〜」

「俺も……レンリちゃんの見方に先入観がかかってたかもしれない……」

「いいぞー!やっぱ喧嘩は冒険者の華だよな!」

酔っ払いや何やかんやがザワザワと喚いてやがる。

が、その中に自分を見つめ直すやつの声も聞こえて、俺は何となく悪い気はしないのだった。

「あ、ありがと……ユウト」

「なんでもねぇ、俺は俺の思ったままをしただけだ」

「カッコつけちゃって」

「うるせぇ駄女神」

「あー!また駄女神って言ったー!!」

「うふふ、あははははっ」

俺とアスタロッテのそんなやり取りを見て笑うレンリ。

何故だかその瞳から涙がこぼれ落ちていたが、これを口に出すほど野暮じゃない。

この子はこの子なりに精一杯今まで戦ってきたのだろう。

我慢してた何かが弾けだしただけ。

そんな様子のレンリの頭をぽんぽんと撫でてやると、少しくすぐったそうにしてレンリはこちらを見る。

「何よ、私の頭になにかついてる?」

「いんや、なんでもねぇ」

「ばか」

そんな罵倒の裏腹に、彼女の目からは憂いが少し消え去っていた。

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