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第二話「女魔術師も歩けば罠にかかる」

異世界転生の後のなんだかんだの説明の後、勇者となった俺と女神アスタロッテは現在地から最も近い村である「カランド村」へ向かって一路、山道を歩いていた。

「ちなみにその村までは歩いてどれくらいかかるんだ?」

「ざっと半日くらいでしょうか」

「思ったより距離があるんだな」

「この世界ではまだユウトのいた世界のように乗り物も発展していませんし、道路の補強なども行っておりませんからね」

「そんなの神様であるお前の一存じゃないのか?」

「そうも行かないのです。神の力を行使するにしてもその代償が必要でして、そもそも、世界自体に進化していくためのリソースがないと出来ませんし、またその進化に至るまでの条件が整っていないと出来ないかったりと、神様とはいえただ万能なだけじゃないのですよ」

「ふーん、どっちかって言うと領地経営ゲームみたいな感じか」

「概ね間違っていませんが、なんだか敬意を感じない理解のされ方ですね……」

俺たちがそんな会話をしながら歩いていると、突然脇道の方から悲鳴のようなものが聞こえた。

「だっ誰か!誰か助けて〜!」

その声は若い女性の声のようで、随分と切羽詰った状況のようだ。

「お、おい!今の聞こえたか!?」

「もちろん聞こえました。あちらの方角ですね」

「助けに行くぞ!」

俺は自分だけに聞こえたことじゃないことを確認するや否や、声が聞こえは方の道に飛び込んだ。

「ちょ!ユウト!落ち着きなさい!まだ本当に人間の声と決まったわけじゃないんですよ!時には魔物が擬態して声を発している時もあります!」

慌てて俺の後を追うアスタロッテ。

「そうは言うが、本当に助けが必要な人だったらどうする!それに、俺は勇者なんだろ?勇者が困っている人を見過ごせるか!」

「全く……まぁ、あなたの選択を尊重しますが。それに、そういった性格だからこそ貴方を選んだ部分もありますしね」

「遅れるなよ!」

俺の性格も考慮して勇者に選んでくれていたというアスタロッテのその言葉に少し嬉しさのような感情を抱きながらも、俺は走った。

細い山道を抜けた先には少し開けた広場があり、その広場の中央には大木があり、その大木には先程の悲鳴を発したであろう女性が蔦でぐるぐる巻きにされて吊るしたあげられているのが見えた。

「大丈夫か!今助けに来た……ぞ?」

俺の語気が削がれ、語尾の勢いが崩れる。

何故なら近くに寄って、よく見えるようになった女の人は遠くから見て思っていたよりもあられのない姿だったからだ。

赤い鮮やかな髪に濡れた淡い空色の瞳。

アスタロッテももちろん美しいが、その彼女はアスタロッテとはまた違った、未成熟な少女のようなあどけなさを持った可愛らしさがあった。

そんな彼女が、今は大木のツタに絡まれ、着ていた服はズタズタに引き裂かれ、両手を上に両足を左右に引かれ、さらに宙ずりにされていた。

そして何故か履いていたであろうパンツは少し離れた枝のところにぶら下がっており……その、少女のまだ未成熟なつぼみが……って。

「あわばばばばばば!」

つい本能で観察をしてしまっていた俺に突然、天から落雷が落ちてきて体をしびれさせた。

超いてぇ!!!

「ユウト最低です」

「てめぇ!あばば、この雷やっぱり、りぁばばば!てめえの仕業、あばばば!かぁぁあ!!」

「さっきも言った通りあなたには純潔を保ってもらわないとなりません。私が人の身で顕現しているのは勇者であるユウトが邪な道に逸れないように監視する意味合いもあるのです」

「それにしたってやりようがあるだろうが!!!」

おかげでこちとら黒焦げだよ!

そんな言い合いをしていると、木に捕まった女の人からも声がかかった。

「ちょ!ちょっと!冒険者の人!助けに来てくれたのよね?その、早く降ろしてもらえると助かるのだけど……さ、さすがにこの格好は恥ずかしいし!!あ、あんまりまじまじ見ないでよね!」

「そ、それもそうだな……!しかしこんな太い枝どうやって切るか……!?」

「何を言っているのですかユウト。あなたは勇者ですよ?この世界のものであればあなたが念じて聖剣で切るだけで大抵のものは切れます!」

「マジでか!……じゃあ物は試しだ!」

ついでに頭に浮かんだ呪文も唱えてやる!

「『ホーリーブレイド』!」

俺はそう唱えながら、少女を搦めとる太い大木の枝に聖剣を振り下ろした。

すると呪文を唱えた矢先から、聖剣の刃が神秘的な輝きを放ち、まるで手応えを感じないような感触で少女を縛る太い枝をぶった斬ることができた。

「きゃあ!?」

少女を縛る枝を切ることは出来たものの、支えを失ったその身体は自由落下を始める。

……間に合うか!?

俺はその、落ちる身体を受け止めるべく、半ばスライディングのような形で地面と少女の間に割って入り……なんとかその身体を受け止めることができた。

「いたた……?ってあれ?痛くない?」

自分の身体に襲い来るであろう衝撃に身を強張らせていた少女が、その衝撃が無かったことに驚く。

「大丈夫?」

「あ……ありがとう」

ん……?なんだか俺をみて顔を赤らめているようだが?

さっきの恥ずかしい格好の記憶でも思い出しているのかな?不可抗力とはいえ流石に悪い事をした。

お互い顔を見ないようにしていると、鋭い叫び声が飛んできた。

「何を惚けているのですか!まだ戦いは終わってませんよ!」

そんなアスタロッテの声と同時に、重い衝撃が俺の頭上に襲いかかった。

ガギィン!

「っぶねぇ!」

俺はアスタロッテの声のおかげで何とか剣でその打撃をいなし、攻撃を仕掛けてきた敵である大木から距離を取る。

「何なんだこいつ!」

「これはトロールプラントという魔物です。蔦や枝を使って攻撃して来るので気をつけて下さい!」

アスタロッテが警戒しながら説明してくれる。

件のトロールプラントは完全にこちらをロックオンしており、蔦を使い逃げられないよう巧みに攻撃してくる。

どうやら枝などの太い部分は大技用で、基本は蔦などで牽制や絡め取りを使った攻撃をしてくる魔物のようだ。

何とか助けた女の子やアスタロッテに蔦が当たらないよう聖剣をぶん回しながら戦っているが、防ぎきれず自分に当たってくる蔦が地味に痛い。

まあ、鞭みたいなもんだもんなぁ。

「っく!おいアスタロッテ!このままじゃジリ貧だ、弱点とかってないのか?」

「弱点と言えば、すべての魔物には魔石と呼ばれるコアの部分があります。そこに攻撃を入れられれば勝機はありますが、ユウトの剣だけでは分が悪い戦いになりますね。あと、魔物とはいえ、木の魔物ですので、炎などは有効なのですが、ユウトはまだ習得していませんしっ……」

「なす術なしか!?」

このまま戦っていても、いずれ俺の体力が尽きる。

何かいい手は……?

「あるわ!」

悩んでいたところに、先ほど助けた少女が声を上げた。

「私は魔法使いよ!さっきまでは捕まって魔力を吸い取られていたからどうにもできなかったけど、今なら魔法が使える!私が詠唱するまで時間を稼いで!」

「なるほど、それに賭けるしかないか……!どれぐらい稼げばいい!?」

「せめて20秒!」

「オーケー!」

そんな会話をしている間にもプラントは次々と攻撃をしてくる。

奴は牽制の蔦の攻撃の手を緩めないままに、いつの間にか本体の方で枝を絡め合い、大きな拳のような形を作り出していた。

「やべぇ、あれでぶん殴る気か!?」

しかもこちらは蔦の攻撃により一箇所に固まるしかなく、非常に狙いやすい状況だ。

おそらくまんまと誘導されていたって事だろう。

アイツ……戦い慣れてやがる!

「ユウト!あれヤバいんじゃないです!?」

「わかってる!どうすっか……!」

「集えマナよ……今呼び声に応え、主人の力として形作れ……!」

少女は詠唱中、アスタロッテはおそらく何もできないポンコツ女神……!

くそ、ええい!どうにでもなれ!

要は時間を稼げればいいんだろうが!

「『ホーリーブレイド』!」

「ちょ!ユウト?今更、剣を強化してどうするのですか!?」

「こうするの……さァ!!」

完全なる思い付きだが、俺は迫り来る巨木の枝ハンマーに対して強化した聖剣を、ぶん投げた。

ズガガッ!!

剣は思った通り、敵のハンマーにぶっ刺さり、真っ二つに両断することが出来た。

「っし!」

「ユウトってば無茶苦茶しますね……!」

まあ、何とか一撃必殺の攻撃を未然に防ぐことが出来たが、迫り来る蔦は防御のしようがない!

「魔法はまだか!?」

約束の時間まで残り3秒!

トロールプラントは煩わしそうにその枝に刺さったままの聖剣を弾き飛ばした後、直接俺に向けて蔦を放ってきた。

その蔦は何本もより合わされ、先を鋭利にされており、いかにも串刺しにされたら痛そうだ。

もうダメか、そう思った時、少女の方から爆ぜるような魔力の衝撃が飛んできた。

詠唱が終わったのか!

「其は業火の奔流、偉大なるイフリートの腕なり!貫け!」


「『バーンナックル・イフリート』!」


少女が声高に魔法の名前を叫ぶと、空中に浮いた魔法陣から周りが歪んで見えるほどの高温を纏った巨大な腕が現れ、槍のような鋭さでトロールプラントに飛んでいった。

その炎腕の力の奔流、もはや炎の濁流と言ってもおかしくないそれがトロールプラントに触れた瞬間、カッ!という甲高い音と、鼓膜が破れるような爆発音が森に響き渡る。

ゴオオオオ!

そして荒れ狂う炎の濁流は瞬く間に巨木を焼き尽くし、5メートルはあろうかと思える程の火柱でトロールプラントを焼き尽くした。

ちなみに、すんでの所で俺に届こうとしていた蔦の槍はイフリートの腕が現れた瞬間、なす術もなく塵となって消滅していた。

「こ、これが魔法……!」

「ふふん!びっくりした?魔法使いレンリを甘く見ないことね!」

煌々と立ち上る炎を見ながら満足げに言う少女、名前はレンリというらしい。

「まさかこんな所で最上級の炎魔法を見ることが出来るなんて……」

アスタロッテも開いた口が塞がらないようだ。

ってか最上級魔法なんだ、今の。

そりゃあんな威力の魔法が何発も打てたら問題だけどさ。

何者なんだ?このレンリってヤツは……

俺とアスタロッテが惚けてレンリを見ていると、ニカっと俺たちに向けて人懐っこい笑みを浮かべた後、レンリはピースして見せた。

死ぬかと思ったが何とか一安心……だな。

よかったよかった。

そう思ったのも束の間、今度はイタズラな突風が吹き、レンリのスカートをフワリと逆撫でていった。

「あ、ノーパン」

そう言えば、レンリのやつトロールプラントにパンツ脱がされてたっけな……はっ!?

しまった、と思った時には大抵の事はもう遅い。

次の瞬間、俺を神罰のビリビリと容赦ない炎が襲う!

ビリビリボボボウビリビリボボボボ!

「全くアナタって人は本当に度し難いですね!」

「2回も見た!死刑!死刑よ!」

「あっつ!いった!あぁああ!不可抗力ダァァアアアア!!」

常人なら5回は死んでるダメージだと思うんですけど、この生き地獄が勇者の加護ですかね、神様。

ってこの世界の神様は今まさに俺を3回ほど雷で殺してるコイツだった……

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