第六話「いやいや勇者なんですから、覗きなんてしませんよ?」
「おぉー!!ここが温泉かぁ!」
俺はもうもうと湯気をあげる温泉を前にして分かりきったことを叫んでみる。
そう、俺たちはカーラさんからもらったチケットで温泉に来ていた。
あの後、俺たちはギルドを出て、宿屋に荷物を置いた後、その足で温泉に向かった。
温泉はカランド村の村はずれのちょっと山を登ったところにあった。
カランド村の温泉は冒険者向けなだけあって、泉質には魔力向上や痛みの緩和などが書いてあり、そこそこ賑わっていた。
温泉の見た目も実にいい。
元の世界の檜と似た様な木材で作られた大浴場に、露天風呂。
よく見れば釜風呂やサウナなんかもあり、外気浴でととのってる冒険者さんも居るみたいだ。
おそらく、アスタロッテが俺のいた世界なんかをモデルに、この世界の人に神託を授けて作らせたのだろう。
結局、神様チートパワーだが今回ばかりは最高。
実に、実にいい!!
俺は早速、身体についた汚れをしっかりと落として、檜風呂に入る。
「ふぁ〜……」
体の芯までほぐれるかの様な感覚と檜の独特な香り。
まさに温泉って感じだ……
家の風呂ではこうはいかない。
そうして、体の芯までぽかぽか温まった後、釜風呂、打たせ湯と渡り歩いた後、露天風呂に来た。
いい感じに温まった身体にそよそよと少し冷たい外の風が心地いい。
俺は体も心も待ちきれずいそいそと露天風呂にも浸かる。
「ぶぁはぁー……!」
最っ高だ……
冒険者の稼ぎがあれば毎日ここで風呂が入れるならもう旅なんてしなくていいかも知れない……
まあ、レンリのこともあるし行くんだけど。
そういえばあいつらはどうしてるんだ?
おそらく今、女湯の方に入っているであろうパーティーメンバーのことを思い出した俺はそっと耳をすませてみる。
勇者である俺の耳は通常の人の何倍も良くなっていて、耳をすませば隣の女湯でパーティーメンバーの会話を拾うことぐらい造作もないのだ。
そして、他の女湯に入っている冒険者や村のおばちゃん達の会話を意識の外に選別しながら、聞き覚えのある声を探っていく。
すると予想通り、うちの女子メンバー達が戯れあってる声が聞こえてきた。
カクテルパーティー効果ってやつだな。
その声を聞きながら、俺は光景を頭に思い浮かべた……
ぶるっ。
突然寒気がした様にアスタロッテが身を小さく震わせて言った。
「ん?ユウトがやましいことを考えてる気配がしますね」
「んー、まあいいんじゃない?お風呂でもそんなこと考えてるのは正直軽蔑するけど、男なんてそんなもんでしょ」
そんなアスタロッテの様子を見て、隣で身体を洗うレンリが軽く言って笑う。
「そう、ですね。気配的に妄想しかしてませんし、コレ。恐らくお風呂場で洗いっこする私たちを妄想して悦に入ってますね」
「他の人で妄想されるより、私達のことで妄想される方が、嫌なような良いような……」
ムムムと頭に泡を乗せたまま集中して俺の思考を読むアスタロッテと、微妙な顔をするレンリ。
「そう言えば、アスタロッテさんのその、ユウトさんが妄想してるのがわかるとかってどう言うものなんですかぁ?」
2人の会話を聞いて隣でシャコシャコ頭を洗うトアが素朴な疑問を投げかけた。
おおっいいぞトア!俺も一度聞いてみたかったんだ!
「強いて言えば第六感がビビッと反応してる感じですかね。仮にもマジにも女神なので、召喚した勇者の気配でその人が考えてることがなんとなくわかるんです」
「つまり、ずっとユウトさんの気配を感じてるんですねぇ」
「そうですね」
「じゃあアスタロッテさんは四六時中ユウトさんのコトを思って暮らしてるんですねぇ」
「ちょ、ちょっとその言い方は語弊があるかもしれませんが……まあ、そう、なりますかね?」
自己解釈をしてほわほわと笑うトアと、顔をヒクつかせて笑うアスタロッテ。
アスタロッテとしても、好きで四六時中俺のことを考えたいわけじゃないから本意じゃないだろう。
まあ、俺としては好きな女がずっと俺のことを考えてるってことだから、男冥利に尽きるが。
これも勇者の加護様々、なのかな?
「むむぅ……」
唐突に静かになったレンリはと言うと、自分を挟んで両隣で身体を洗う2人を交互に見て自分の体と見比べ、何か思うところがある様子。
まあ確かに、アスタロッテは完全完璧な女神美乳でたぷるんって感じだし、トアは言うまでもなくどたぷんって感じの巨乳だ。
それと比べればレンリはちょーんって感じの寂しい胸元だからな……
「あ、私の方にもなんか受信した気がする。ユウトが今失礼なこと考えた気がする……」
そう言ってキレ気味に笑うレンリ。
誤解ってことにしといてくれ。
「でもなんで、あたしは全然育たないのに、二人はこんなにあるのよぉー!!」
ついに痺れを切らしておかしくなったレンリがまずはアスタロッテの胸を揉みしだく。
「アッ、ちょっとレンリさん!?女神に対して何してんですか!」
身体を洗ってる途中なのでにゅるんにゅるんと滑りがいい状態で存分に揉みしだかれ、アスタロッテの美乳がレンリにぽよんぽよんされる。
「アスタもそうよ!普段の服装だったらあんまりないのかなって思ってたのに、何よコレ!脱いだらすごい系じゃない!!裏切り者よぉ!!」
「う、裏切りってなんですか、別に私、生まれた時からこの姿ですし、何も裏切って……あっ、石鹸で滑りやすくてっ、擦れてっ……ああっ」
「あははっ、ここがいいの!?ここがいいんでしょ!?」
「ひゃわやわ!!?やめて下さい!!脇は弱いので!!こしょばいので!!かと言って胸もダメですけどぉ〜〜!!」
数分後。
「はへぇ……」
そのままおっさん化したレンリに数分ほどモミモミこちょこちょされたアスタロッテは頰を上気させてとろんとした瞳で完全に使い物にならなくなっていた。
うわあ。
コレがホントのアヘ顔ってやつか……まあ想像の中だけど。
「はぁ、はぁ……次は大本命よ……トア!!覚悟しなさい……!」
「はぇえ……私の方にも来るんですかぁ……?」
アスタロッテでハッスルしたレンリは完全にモンスターと化し、次の標的に向けて手をワキワキさせる。
そして狙われたトアの方はと言うと怯えた様子で胸元を隠す様に両手で押さえた。
でも、抑えきれないんだよなぁ、その暴力的なまでの巨乳は……
腕で押され、余計にぽよんとはみ出たその乳にレンリの理性が崩壊する音がした。
「キェァアアアア!!腕に収まらないってどういうことよぉー!!」
「ふぁああ〜〜!」
にゅるんどたぷんにゅるぷるんにゅるる!
「なっ!?指がどんどん沈んでいくっ!?」
その巨乳に暴力的に襲いかかったレンリだったが、勝敗は明らかだった。
圧倒的な質量差を前にして指を滑らせ、くねらせても、ただ全てが受け止められ、ただ翻弄されるしかない。
戦闘力が違いすぎるっ!
もはやレンリよ、それは乳ではない、山だっ!!
「ふぁあ……レンリさん、そこっ、ダメっ……ですぅ……!」
「しかも感度もいい!?」
驚愕に驚愕を重ねるレンリ。
レンリはトアのあまりのその乳力?になす術もなく前のめりに顔を埋めた。
そのまま駄々っ子の様に顔を振り頬擦りするレンリ。
「何コレ!こんなのずるい!ずるいわよぉ!」
「ふぁああ!?私のおっぱいで顔を洗わないでくださいぃいー!!?」
もはやレンリの顔すら挟めるその胸を存分に全身で堪能するレンリ。
何それ羨ま……っといかん鼻血が……
そこで、俺の妄想力が限界を迎えた為、名残惜しいが、一度聞き耳を立てるのを中断する。
はぁあ……
女の子同士ってのも……こう考えてみると、いいもんだなあ……
俺は風呂とは違う別の意味で少しのぼせ気味になったので、身体を横にできる薄っすらお湯が流れている岩盤浴スペースに移動し、少し休憩することにした。
「おっほう……こりゃ今日の女湯は上玉が2人も揃ってんじゃねぇか……!!」
「いやあ、眼福ですなあ」
目を閉じてサラサラと流れる湯を背に感じながら身体を休めていると、壁際の方から男どものひそひそ話が聞こえてきた。
気になった俺は起き上がり、その声がした方に向かってみる。
すると、全裸の男2人が女湯の壁の方に顔を張り付けて何かをしていた。
そこで全てを察した俺は声をかけてみる。
「何してんすか、こんな所で」
俺に唐突に声をかけられた2人はびくりと身体をこわばらせたかと思うとにちゃっとしただらしない笑みを浮かべながら俺の方を向く。
「おいおい、お楽しみの最中に声をかけるなんて無粋だぜえ?」
「知られたからにゃ仕方がねぇ、おまえさんもこっちに来い」
歴戦の冒険者風の傷だらけのナイスミドルなおじさんと、ひょろひょろした体格の魔法使い風のおじさんがちょいちょいと手招きしてくる。
「にいちゃんここは初めてか?」
「あ、ああ」
くくく、と悪い顔で笑う2人。
「ほれこれ、見てみよ」
そう言って魔法使い風のおじさんが指差したのは巧妙に隠された魔法陣と、その真ん中に空いた穴。
つまり、覗き穴だ。
「な、なんでこんなもんが……ヤベェっすよ!?」
そう言いながらも俺はすけべ心マックスでそこに近づいていく。
「へへ、コレは俺たちの先輩の先輩くらい古い代から受け継がれている代物よ」
「冒険者としての技術の粋を凝らしたモノさ。近接系ジョブの上位スキルで貫通させ、魔術師やアサシンの上位スキルを使って男以外にゃ見えない様に隠蔽してある。掃除のおばちゃんが見ても触りでもしなけりゃただの壁にしか見えんだろうさ」
「す、すげぇ……」
すげぇバカだ。
冒険者の技術を使って何してんだこの人たち。
「本当ならコレを守り通せる口の固いやつにしか教えちゃナラねぇんだが、にいちゃんも見た所、そこそこの実力は持ってそうだし、何よりその目が気に入った」
「ああ、俺たちも覗き始めて何十年。同類の目は見りゃ分かる。アンタのその目、生粋のすけべ男の目だよ」
「あはは、わかります?」
「ああ」
そんな褒められ方したのは初めてだが、悪い気はしない。
「この俺たちの『秘宝』のこと、誰にも口外しないって約束できるな?」
「……はい!」
がしっ!!
俺たちは暑苦しく握手をして、いやらしくニヤついた顔で笑い合う。
ここにまた一つ、史上最悪のすけべ同志の協定が結ばれた。
「いい覚悟だ。じゃあにいちゃん、覗いてみなよ」
そう言って場所を譲ってくれたおじさんに軽く会釈をしてそこに顔を当ててみる。
「ご、ごくり……」
そしてその先で見えたものは、まさに桃源郷だった。
眼前に広がるのは女湯の露天風呂。
それが一望できるこのスポットは場所的にも最高の場所だ。
「先輩方っ……ぱねぇっす……!!」
「ふはは、そうだろそうだろ」
「俺もここ見つけた時には感動したもんだっ……」
後ろではうんうんと頷く先輩方の気配。
露天風呂にはみた限り何人かの女性客がおり、中にはおばちゃんもいるが、それはそれでそう言う需要の人には嬉しい光景だろう。
俺はあまり見たくないが。
そして、湯気で少し見えにくいが、それもまた風呂を覗いてるって感じがしていい。
おばちゃんを意識的に視界から外すと、他にも冒険者風のファイターの様なお姉さんや、少し貧相だが魔法使い風の長髪の女の子が見える。
みんな冒険者をしてるだけあって、程よく引き締まっていい身体をしてる。
俺が食い入る様にのぞきをしていると、後ろのおじさんがちょいちょいと肩を突いてきた。
「にいちゃん、今日はすごい人材がやってきてんだ。そっちばっかり見ずにせっかくだから左の方の露天風呂も見てごらん」
「そうそう、一人は子供で残念な体型なんだけど、後の二人は最高だ。一人はもう神がかってるほど美しいプロポーションで、もう1人はボンどころかボボンキュッボンだぞ」
「いやいや、ありゃボボボンキュッボンだろ」
「ちげぇねぇ。まあ少なくともあんな乳はそうそう拝めるもんじゃねぇ……!」
興奮した様子で語る二人。
その話の中の女性達の特徴からして恐らく俺のパーティーメンバーだろう。
何故かと言うとおじさん達の言ってる感想に身に覚えしかなく、俺がいつも思ってる事だからだ。
しかし奴ら、このタイミングで露天風呂に入ってるとは……!
まさに神が与えたもうチャンス。
さっきまでは妄想しかできなかったんだ。
ここらでしっかりと肉眼に焼き付けさせてもらうぜ……!
そして俺はおじさんの話を頼りに左の方の露天風呂でみんなの姿を探す。
そして俺の目がアスタロッテの特徴的な髪色を捉えた。
周りにはトアとレンリも居るみたいで、三人でゆっくり身体を湯につけて休んでいるようだ。
若干湯気がキツくて、姿は全然見えないが、次に風が吹いた時にはくっきりはっきり見えるだろう。
さあ我が自慢のハーレムメンバーたちよ!
その姿を俺の眼前に現せ!!
「あ、なんかユウトの邪念をキャッチしました。天罰っ!!!」
ゴロッピシャァァァァアン!!!
「あわばばばばばばばばばあ!!?」
ビビビビリリリリリリリリ!!
「にいちゃん!?」
やっと風が吹いて湯気が散ったと思った瞬間。
アスタロッテがばっとこちらに振り向き、胸を隠しながら天を指さしたかと思うと、次の瞬間には電流が全身に流れ、眼前が真っ白にホワイトアウトした。
水で体が濡れている分、余計に電流が全身を駆け巡る。
「お、おい、にいちゃん大丈夫か!?」
「か、雷魔法か!?そんなレベルの威力じゃなかったが……!一体どこからだ!?」
「なんてこった、黒焦げじゃねぇか……これ、死んでねぇか?とにかく運び出さねぇと!」
全身黒焦げになり、覗きの体勢のままぶっ倒れて痺れる俺を囲み慌てるおっさん二人。
その後、逞しいおっさん二人の腕に抱えられ、持ち上げられたところで俺の意識は途絶えた。
なんでだよ神様、俺だってちょっとぐらい、いい思いしたっていいだろうよ……
一方その頃女湯では。
「ん?どうしたのよアスタ。突然変なポーズして」
突然、空を指さして叫び出したアスタロッテを怪訝な顔で見るレンリ。
アスタロッテはその視線を感じて少しバツの悪そうな顔をしながら湯に戻る。
「ユウトの、さっきとは違う直接的な煩悩を感じて念の為に天罰しておきました」
「あー、なるほどね」
そう言いながら、すぐにその会話に興味を失っい、腰を滑らせてより深く湯船に浸かるレンリ。
「ふぁあ……でも、ユウトさんが今ホントにえっちなことしてなかったら、ただ雷に打たれただけで打たれ損ですねぇ……」
お風呂に溶けるようなぐらい全身で湯を堪能するトアが念の為といった感じでそう口にする。
それでもぷよぷよと湯に浮かぶおっぱいにレンリは恨めしそうな視線を送っているが本人は気づく様子がない。
「まぁ、大丈夫でしょう。98%くらいの確率で予感は当たりますし」
「それでも2%は間違いの可能性があるのね……」
あっけらかんというアスタロッテを見ながら、ユウトを思って合掌するレンリ。
その後は、絶賛医務室で緊急治療を受けている勇者のことは忘れ、勇者パーティーの超絶美少女三人組は存分に温泉で羽を伸ばすのだった。




