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第四話「戦いの後、それぞれの平和」

「終わったか……じゃねーですよ!!ユウトぉぉ!なぜこんな千載一遇のチャンスを物に出来なかったんですかぁああ!!」

アスタロッテがもはやガチ泣きで俺にしがみついてくる。

「だってお前、あんな無抵抗な女の子、俺に斬れるかよ!俺ぁてっきり、魔王ってのはムキムキで邪悪で、もっと悪の親玉みたいなやつかと思ってたんだよ!」

「どんな姿かたちをしていてもアイツは魔王なんですよぉおお!!?」

どれだけ言っても離れてくれないアスタロッテの対応に四苦八苦していると、レンリが後ろからやってきてアスタロッテを引き剥がしてくれた。

「まあまあ、アスタもそれくらいにして。魔王と遭遇して全員五体満足で生きてるんだから御の字じゃない」

「そ、それはそうですけどぉ……!」

レンリに宥められてもまだ諦めきれない様子のアスタロッテ。

「一体何をそんなに固執してるんだ?魔王を逃がして悔しいのはわかるが、アレなら……」

「……確かに、魔王討伐だけならユウトでも可能でしょう。魔王討伐だけなら、ね!」

「あん?どういうことだ?」


「つまり、勇者の加護は魔王を倒す為だけのものなので、ほかの魔族には通用しないんです」


「さっきまであなた、コボルトキングと死闘を繰り広げてたでしょう?」

……あぁ〜っ!なるほどっっ……!!

そうか、魔王を倒すだけならあの時が一番やりやすかっただろうが、この先いつ魔王に出会えるか分からない。

そもそも、俺に攻撃が通じないとわかった魔王がそう易々と俺の前に姿を見せることはないだろう。

それでも魔王を倒そうと思えば、俺たちはこれから先、コボルトキングよりも遥かに強い魔王の配下達を相手に戦っていかなければならない。

しかし俺たちもまだ未熟。さらに対魔王のように反則的な勇者の加護もほかの魔物には通じないと来れば、正直今の俺じゃコボルトキングより強い敵なんて倒せるかわからない……それを心配して今決着をつけることをアスタロッテは望んでいたのだ。

「……でもなあ、あんな小さい子俺には斬れねぇよ」

「あははっ。まーそうよねぇー。ま、私はユウトのそういう所好きだけど」

「そんな笑い事で解決できることでは無いですよ……」

あっけらかんと言う俺たちと絶望するアスタロッテ。

まあ、アイツを倒すかどうかはまたこれから考えていけばいいさ。

もしかしたら倒さなくていい方法だってあるかもしれないし、な。

「そういえば、トアは?」

俺が姿の見えないトアを探すと、トアは倒れた女神像の所にいた。

「……ああ、おいたわしや女神様ぁ……こんな姿になってしまわれて……」

そう言って倒れた女神像に擦り寄り、さめざめと泣いている。

この子、宗教のことになると一気におかしな人になるよな……

「まあ、壊されてしまったものは仕方ないよ、トア。形あるものはいつか壊れる、女神様もわかってくれるんじゃないか?」

なんなら今俺たちのちょうど真横にその女神居るし。

「ああ……ユウトさん……さすが勇者様。アスタロッテ様のように慈悲深く寛大なお心ですぅ……貴方様もきっと、アスタロッテ様の像が壊されて心を痛めているというのに……」

いやそんなことはないけど。なんなら女神本人もそんなことはないけど。

しかし、何とか言って説得しないと、女神像を立て直すまでここから離れないとか言い出しそうだ。

「そ、そんな事より、女神アスタロッテも早く村に帰ってスタンピードの発生を阻止したと村の人々に伝えて、安心させてあげた方がいいと言うんじゃないか?」

俺は必死の勇者スマイルで彼女の心を解きほぐす。

「あぁ、なんて神々しい笑顔……そうですね、私の使命は勇者様の旅のお供。勇者様がそうしろと言ったらそれがアスタロッテ様のご意思なのですぅ」

「ごくり……」

「おいコラそこの勇者。よからぬ事を考えてるでしょう」

俺が生唾を飲み込む音が聞こえたのかアスタロッテが釘を刺してくる。

い、いやこの盲信聖女様にエロい事言ったら何でもしてくれそうとか思ってませんヨ?

「き、きっとそうだと思う。この度は女神様が見守ってくれているからな!さあ!そうと決まればコボルトキングの死体を回収して村に戻ろう」

「はいなのですぅ!」

そうして、何とかトアの説得も成功。

俺は倒した証明としてストックでコボルトキングの死体を回収し、俺たちはパーティーで協力して、コボルトの残党を蹴散らしながらカランド村に帰って行った。

ちなみにコボルトキングの手前、コボルトの無益な殺生はやめておいた。

あいつが命をかけて守っていた家族たちなんだ、無駄に殺しすぎることもないだろう。


一方で魔王城では。

「ま、魔王様なぜあんな無茶をしたのですか!」

「だって、余が負けるとは思わぬじゃろう」

珍しく本気で怒るベルゼブと素直に怒られるリーゼベルデの姿があった。

「それはそうですが、相手は勇者。魔王様を討伐するために呼び出された者なのですから、警戒するのは当然のこと!これからはもっとご自分を大事になさってください!」

「うむむ……いつにも増して口うるさいのぉ」

「ちょっと魔王様!?ちゃんと話を聞いているんですか!?」

「あーもーうるさいのじゃ!」

話半分にしか聞かない魔王の姿を見て余計に怒るベルゼブ。

「まあまあ、ベルゼブ様も怒るのもそれくらいにしてあげてください。退屈なさっていたのは本当でしょうし……」

「ミネルバさんは甘すぎるんですよ!」

その二人の間に入ったのは魔王お付のメイドであるミネルバ。

「もしあの時、勇者が戦意を喪失していなかったら、どうなっていたことか……!私は考えただけでも震えが止まりません……」

「お、かえってきてたのかお前ら」

「あ、魔王様だー☆あと、うるさいハエとメイド」

そこにトレーニング上がりなのかタンクトップ姿のバーニヤと、魔法少女のようなきゃるんとした可愛いドレスに身を包んだもう一人の魔物が現れた。

「おお、バーニヤとクラウではないか。クラウまで居るのは珍しいのう」

「おひさー☆魔王様っ☆」

この語尾に☆つけながら喋るのは四天王の一人。夢幻自在、クラーケンのクラウだ。

「この前は居なかったがどこに行っていたのだ?」

「んーと、部下の人魚たちとショッピングしたりバカンスしたりかなっ☆魔王様も今度一緒にどお?」

「え、遠慮しておこう。余はそういうの向いてないと思うのでな……」

「えー、そーかなー☆」

キャピっと首を傾げるクラウ。

そんなクラウを押しのけてバーニヤが前に出てきた。

「そんなことよりさリーゼ」

「ちょ、そんなことってなんだよバカ龍」

押しのけたバーニヤにキレてクラウの口調が戻っているが、皆慣れたものでサラッとスルーする。

「お前、勇者とは戦ってきたのか?きっちり殺してきたんだろうな?」

「ゆ、勇者!?ボクそんなの聞いてないよっ☆」

「そりゃまあ、あん時お前はバカンス(笑)で居なかったからな」

「んなっ、そんな大事な情報はすぐに伝えなさいよーっ☆そこのハエを使うなり何なりすればバカンス中のボクにも伝えられたでしょー?」

☆をつけながらでも微妙にキレるクラウ。

「伝えたからってどうすんだよ、お前が帰ってきて勇者を倒してくれんのか?それに言ってないのはお前だけじゃなくてファティマにもさ」

「あーあの色気ババア……アイツならもう別ルートで知ってそうだけどね……」

「まあな……それで?勇者には勝ったのか?」

クラウとの話はそれまでと言うようにリーゼベルデに話を持っていくバーニヤ。

「あーまあ、なんというか……」

そしてバーニヤのその勝ちを疑わないキラキラした瞳にリーゼベルデはバツが悪そうに頭を搔く。

「んー、なんというか、調子が悪かったというのもあるのじゃが……ま、負けた」

「へ?」「なに!?」

その予想外の言葉に驚くバーニヤとクラウ。

それはそうだ。

リーゼベルデはコレでも魔王軍では最強の力を持つ魔王。

その魔王が負けたというのなら一体誰が勇者を止められるのか。

「い、いや、こうしてワシが無事に帰って来とるのだし、むしろ痛み分け……かの?」

「いや完全に温情で逃がしてもらっただけ……」

「ベ、ベルゼブは黙っておれ!」

「ぐふぅ!?酷イイっ!!」

その部下ふたりの反応を見て、まずいと思ったのかリーゼベルデは慌てて少しマシな報告を上塗りしたが、ベルゼブが見事に追い打ちをかけてきたのでグーパンチで黙らせる。

ベルゼブは吹っ飛んで壁にめり込んでいたが殴られて喜ぶ変態なので良しとする。

「しっかし驚いた。まさかリーゼに勝つニンゲンがいるとはな。面白ぇ……!」

「ボクもっ!ちょっとキョウミ沸いちゃったかもー……☆」

しかし、慌てて誤魔化したリーゼベルデの取り繕いも上手く効果を発揮することが出来ず、四天王イチの戦闘狂と、四天王イチの粘着質は各々ドス黒い笑みを浮かべてリーゼベルデの元を去っていった。

「二人とも、完全に新しいおもちゃを見つけた笑みだったのぉ……」

「ま、あの二人が勇者を始末してくれるならヨシ。そうでなくても、私にもうひとつ考えがございますので」

二人の去っていく姿を確認していると、いつの間にか復活して背後に立っていたベルゼブがリーゼベルデに耳打ちしてくる。

「も、もう復活したのかベルゼブ……して、考えとは?」

「私の得た情報によりますと、勇者を護る加護には条件があり、それは勇者が童貞であることらしいのです」

「んなぅ!?どっどど……!?こら!耳元でそんなはしたない言葉を言うでない!」

童貞と言う言葉を聞き耳まで赤くなるリーゼベルデ。

「……今更童貞如きでなんですか魔王様。しかし勇者の加護の条件がソレならば魔王様には夢魔から何から何までイロイロ配下に居られますから。四天王にもそのエキスパートがいらっしゃいますし、手近なところから魔王様がご命令なさってみては?」

「なっ!ならぬならぬ!!あやつにファティマを差し向けるなど!!」

ベルゼブの言うことは最もである。

童貞でさえ無くすればいいのなら、色仕掛けで何とかしてしまえばいい。

しかしその提案をリーゼベルデは頑なに拒否した。

「ふむ……なぜ?」

「イイから!それはダメなのじゃっ!!お主はもう良い!いつもの諜報業務に戻れい!!」

「はあ、魔王様のご命令とあらば。しかし、気が変わったのなら私に一言言って頂ければ、催淫剤に近いものなら私でも用意できますし、お力になれると思います……それでは。また定時連絡の時に」

強引なリーゼベルデ命令に若干の不満を感じていたようだが大人しく職場に戻っていくベルゼブ。

しかし、魔王リーゼベルデにも、その時の感情の理由は分かっていないのだった。

「はて?しかしなぜ余はあやつにファティマをけしかけるのが嫌なのじゃろうか?」

勇者ユウトあの者の顔を思い出すと胸の動機がいつもと違って激しくなる。

リーゼベルデは胸が苦しくなり、気づけば一番の信頼をおく配下であるメイドのミネルバに尋ねていた。

「なあミネルバよ、先程から勇者のことを思うと胸が苦しくて堪らんのじゃ。何かの病気かのう?」

「へ?いやいや、魔王様がご病気なんて万に一つもありませんよ。魔王様に勝てる病原菌がいませんもの」

「で、ではなんじゃと思う?」

「え?そ、それはー……」

詰め寄ってくるリーゼベルデにミネルバは答えあぐねる。

「ち、ちなみに勇者って顔はどんなだったんですか?」

「か、顔かのう?それは……」

そんなミネルバの問いにユウトの顔を思い出したのか真っ赤になるリーゼベルデ。

「その、とても凛々しくて、けれど暑苦しくなく、その……カッコよかった」

「………………あー」

そしてこのセリフである。

さすがにミネルバは察した。

「やっぱ魔王様病気ですね。つける薬が無い類の」

「びょ、病気じゃと……この余がか……?」

「はい。ついでに勇者ってどんな人でした?」

「えっと……余のことを可愛いと言ってくれて、こんな女の子を殺せない、と」

「……ほぉ」

そのセリフにミネルバは勘違いした。

いや勇者の方にも脈アリじゃね?と。

完全に言ってることがロリコンのそれやろ、と。

そこでミネルバは思いついた。

魔王様は確実に勇者に恋をしておられる。

そして勇者もまたその言動から重度のロリコンであることは間違いないだろう。

コホンと一つ咳払いをしてミネルバはそのあまりに荒唐無稽な作戦を話し出す。

「魔王様はファティマ様を勇者の元に行かせたくないのですよね?」

「うむ、なぜかはわからぬが」

「そして勇者は魔王様を殺さない、とも言っていたんですよね?」

「う、うむ……あやつはただ簡単に剣を振るだけで余を殺せた所を仲間の声も押し切って殺さぬと言った」

「……この不肖ミネルバ、ベルゼブ様の案も通しつつ、リーゼベルデ様のご意向にも沿った妙案を思いつきました」

そこまで聞いて、伊達メガネをくいっと上げるミネルバ。

あげた拍子に、城の廊下を照らす照明に反射してミネルバのメガネが怪しく光る。

「なっなに!?申せ!」


「魔王様が色仕掛けで篭絡すれば良いのです」


「…………は?」

大真面目な顔で言うミネルバと、固まるリーゼベルデ。

魔王とメイドの勇者篭絡作戦はここから始まった。

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