図書館・続
三題噺もどき―さんびゃくじゅうご。
※タイトル通り前回のお話「図書館」の続きです※
ロビーを足早に駆けながら、電話先の相手を何とかして落ち着かせようと声を掛ける。
正直、自分自身もかなり混乱しているが、他にこれだけ混乱している人が居ると逆に冷静になれる。
「わかった、おちついて、ね」
電話は母からだった。
まだ仕事先中のはずだから、この時間に電話が来ること自体がおかしいのだ。
その上、聞いている限り、かなり状況が切迫している。
「お母さんまだ職場にいる?」
少しずつ落ち着き取り戻した母に、確認をしつつ動く。
建物を出て、車へと向かう。きょうが土曜日でよかった。ここは基本的には利用料金がかかってしまうが、土日は無料なのだ。
変な時間を取られずに済む。
「…うん、わかった。じゃぁ、お父さんにも連絡してね」
まだ職場にいたらしい母にそう声を掛け、電話を切る。
職場にいるなら、焦って車を運転するなんてこともないだろう。
父にも連絡をするように頼んだし、かなりもう落ち着いてきたはずだから、平気だろう。
あんな状態で車の運転をする方が危ない。
―それこそ、事故になりかねない。
「っふ――……」
かく言う私も、内心焦ってはいるし、混乱はしている。
運転をすると危ないのは同じかもしれない。落ち着かなくては。
一応、事の起こっている場所は聞いた。ここからそう遠くない。
歩いて行ってもいいが、どうしようか。そっちの方がまだましな気がしている。
落ち着こうにも落ち着けない。
手が震えているし、呼吸が乱れそうになる。
まだ。まだ、泣くのは早い。
まだ。
まだ。
まだ、あの子が。
―妹が。
―死んだと決まったわけじゃない。
「っ――――」
ぎゅうとのどが絞まる。
あぁ、ダメだ。
想像しただけでこれだ。
まだ、事故に遭ったと聞かされただけで、死んだわけではないのに。
最悪を想像してしまう。
最善を見るべきなのに。
どうしてこう、最悪ばかりが見えてしまうんだろう。
「―――っふぅ……」
目を閉じ、呼吸を整え、落ち着かせる。
よし。歩いていこう。
ここから近くだ。走って言ってもいい。
最低限は手に持っている。
改めて今日が土曜日でよかったと思う。
―そう思いながら、意識を少しそらす。
「……」
車から降り、扉を閉め、鍵をかける。かかったことを確認して。
事故現場だと言う場所に向かう。
現状、どのようになっているか分からない。
母に電話をしたのは誰だろう。救急?警察?目撃者の誰か?分からないが。
行けば分かる。
「――」
無意識に小走りになっていた。
私はどんなふうに見えているんだろう。
必死に駆ける私は一体、どう、見えているんだろう。
「――」
駐車場を出て、真っすぐ歩道を進んでいく。
数人とすれ違う。
コソコソと話している声が、なぜか耳に響く。
大通りに出る。
車がやけに多い。
渋滞している?
「ぁ――」
違う。
そうだ。
あっちだ。
その先で、何かがあったんだ。
「――」
大通り沿い。
渋滞の先。
車の横の歩道を走っていく。
お願いだから。
お願いだから。
「――」
必死に祈り、走る。
コソコソとした声が聞こえる。
一つの単語が耳に飛び込む。
それに続いてもう一つ。
小さな呟きのはずなのに、やけに耳に入る。
聞こえるはずないのに。
「――!!」
渋滞の先。
一つの横断歩道がある。
道路の少し先には、大き目のトラックがちらりと見える。
救急車とパトカーの赤い光。
人々がカメラを構えている姿。
「――」
一瞬にして怒りを覚える。
どけ。
どいてくれ。
なんでお前たちは。
いつもそうやって。
他人の不幸を。
おもちゃにして。
「どいて!!!」
怒りは声として漏れて。
人混みを掻き分けて。
先が見渡せる場所に立つ。
「――――」
息をのむとはまさにそれ。
見るも無残な姿になった自転車が一台。
―私の妹の自転車。高校指定のシールが貼られている。番号が振られたもの。
―その近くには、あの子が大切にしてた懐中時計。ガラスが割れて、針は止まっているようだ。
―少し離れたところに、白い塊。あれは、ビニール袋だろうか。勢い、中身が飛び出している。
「はっ――」
息が苦しい。
妹は。
妹はどこだ。
救急?
父と母は大丈夫だろうか。
こちらに向かっていないといいけど。
「――」
ふらりと足が動く。
途中何かに止められたが、あの子の姉だと告げると離してくれた。
気味が悪くて離しただけかもしれないが。
「 」
声にならない何かが漏れた。
涙も出ない。
息もできない。
真っ赤に染まったその姿と。
ピクリとも動かないその体。
「 」
袋から飛び出していたものは、私の好きなコンビニおにぎりだったなぁ。
なんてことを、ふと思った。
お題:懐中時計・泣く・コンビニおにぎり