GW明けの学校
長い休み明けの、気が重い月曜日。教室の自席につくと、
「朱里、おはよう!」
亮が当然のように近づいてきて、挨拶して真横に立った。教室内の女子たちの視線が、一斉に二人へ向く。朱里はいつもどおり、会釈しておくと、亮の取り巻きの一人が近づいてきて、
「ねぇ、GWに佐伯さん見かけたんだけど、一緒に居たのって、まさか亮くん?」
一度朱里を見てから、亮に視線を移し、尋ねてきた。
市内・・それも通学路圏内を、歩いていたわけだから、目撃した人が居ても不思議じゃない。普段から亮を見ている人なら、髪型を少し変えたくらいでは、変装にならないだろう。チラッと亮の様子を見る。
「そうだよ」
亮の即答に、クラス内がざわめき立つ。
「なんで? その・・付き合ってるの?」
続けざまに彼女は聞いてくる。もうクラス内は、朱里たちに注目状態だ。
「いや、たまたま出かけた場所で会って、一緒に帰ってきたけだよ」
「そっかー・・なるほどねー」
彼女はそういうと、疑問がとけ満足したのか、少し離れて見ていた、友達らのところに去っていき、何やら会話をしはじめた。やりとりを見ていたクラスメートたちも、「なんだー」というかんじで目線をそらしていく。
(変なこと言われなくて良かった)
亮が、ちゃんと状況のみ簡潔に述べてくれて、安心した。ホッとしていると、
「そうなればいいとは思ってるけどね」
小さな声で、ボソッと亮がつぶやいた。
(そうなればいいって、付き合えればってこと?)
思わず顔を亮に向けると、目が合った。
――ドキッ
思っていたより顔が近くにあって、ドキッとしてしまった。その反応を見て亮は微笑むと、自分の席へと戻っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
その後数日は、最近のいつもと同様、亮とは朝の挨拶だけする毎日だったが、木曜のお昼、今日は音楽室に、ピアノを弾きに行く予定日だ。行かない選択肢はないので、行く予定だが、あの人がまた来るのではないかと不安になる。しかしそれは杞憂に終わった。
そろそろ予鈴が鳴るので終わりにしようと、ピアノのふたを閉めると、
―――コンコン
音楽室のドアがノックされた。
「はい」
誰だろうと返事すると、ドアを開けて入ってきたのは亮だった。
(そういう手できたか)
終わり間際を狙ったように、やってきたのだろう。思わず顔をしかめる。
「ちょっと話あるんだけど」
「・・もう予鈴鳴るから」
無駄だろうと思いつつも、時間がないと断る。
「すぐ済むから」
やっぱり押し切るようだ。朱里は答えず、はぁ・・と軽く息をはくと、亮は、
「今日の帰りさっ、一緒に帰ろう!」
今日からテスト前で、部活動停止期間になるからだろう。だからといって亮と帰るつもりは無い。
「莉奈と帰るから」
キミとは帰りません。と、言外にこめる。
「堀川さんも一緒でいいよ。あと怜に声かけて、4人で帰ろうか!」
二人が居ればOKするとでも思ったのだろうか。まあ莉奈は嬉しいかもね。莉奈はずっと怜に、片思いしている。それを亮も分かっているのかもしれない。
「うーん・・じゃあ今日の帰りは別々でいいから、朱里んち行っていい?」
返事しないでいたら、そんなことを言ってきた。
(何その二択みたいの)
いや・・一緒に帰った上で、ウチに来るつもりだったのか。「仕方ない」とつぶやく亮を見て、そう理解した。
―――キーンコーン・・
予鈴が鳴る。
「却下。鍵閉めるから、出て」
亮が先に出て、戻ってもらわないと困る。
「うーん・・ダメかぁー・・」
残念そうに言いながら、ドアへ歩き出す亮。
朱里は電気を消してから、ドアへ向かうと、まだ亮は、ドアを出たところに居た。音楽室側の壁を背にして立っている。不意をつかれたが、なんとか平静を装い鍵をかける。無視して、職員室へ向かうべく、亮の前を通るところで、
「今日、朱里んち行くから。1度ちゃんと話をしよう」
さっきまでと違い、真剣な声で言われた。質問ではなく、相変わらず勝手に決定してくる。
「話がしたいんだ」
素通りしようと思ったら、必死そうにそんなことを言われ、思わず足を止め、亮を見る。
――ドキッ
真剣な目で見つめられ、ドキドキしてしまう。表情はなんか必死そうで、
「・・わかった」
目をそらし、朱里はなんとか小さく言って、その場から速足で去った。
(顔が熱い)
話がしたいって何なのよ。結局亮に押し切られる形になってしまったが、諦めるしかなかった。
―――――その日の学校帰り。
「なんか朱里、気分沈んでない?」
学校から莉奈と帰っていると、探るように言われた。これから亮が家に来るかと思うと、気分も沈みますわ。
「ハハ・・かもね」
乾いた笑いをしてしまう。
「なんかあったの?」
心配そうに問われるが、
「いや、これから・・」
口ごもるが、莉奈が先をうながすように見てくる。通学路で、しかもテスト前週間で、下校時間は全学年ほぼ一緒なので、周囲に同じ学校の人たちがちらほら居る。聞かれたくないので、もう少し人がいなくなった場所で話したい。その意図を莉奈は感じ取り、いつもの、朱里の家と莉奈の家の、方角が分かれる交差点まで行く。
「で?」
莉奈が問う。
「・・今日これから、あの人が家に来るって」
「あの人って・・? あー」
一瞬考えるが、誰だか分かった模様。
「なんで?」
「話がしたいって」
「何それ・・」
「だよねー私も分からない」
関わりたくないから、まともに話していなかったら、話しがしたいだなんて、意味不明だ。
「断ったんだけど、押し切られちゃった・・」
「それ・・そのままズルズル距離縮まるんじゃ・・」
朱里が亮と関わりたくないことを、知っている莉奈は心配する。
「そうならないよう気をつけるよ」
「・・だといいけど」
押しに弱いからなーとボソッと不安気に言われた。うむぅ・・
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