ライブ翌日の午後
―――ピーンポーン
昼食後リビングのソファーに座り、食後のお茶を飲んでいると、チャイムが鳴った。お手伝いの沙織さんが出る。誰が来たんだろう?
「怜さんとご友人でした。隼人さんに会いたいそうです」
戻ってきた沙織さんが教えてくれた。
(怜? 友達って? お兄に用?)
混乱していると、怜がリビングにやってきた。一緒に来たという友達はいない。
「おっす」
軽い挨拶をして、怜は朱里の前に座った。何しに来たのかと思って視線を送ると、
「亮に頼まれて、隼人兄に紹介しにきたんだ。面識はあるけど、挨拶したわけじゃないから紹介してって」
朱里が視線に込めた疑問に、気づいて説明してくれた。しかし、
「はぁっ!?」
思わず大きな声が出てしまう。どういうことよ!?と、怜を睨むと、
「昨日隼人兄のライブ観に行ったんだろ? なんか気に入ったみたいで、曲づくり?とか音楽のこと色々聞きたいんだと」
「・・何それ」
「知らねぇよ。昨日夜、アイツから電話きて頼まれたんだよ。朱里には頼めそうにないからって」
まぁ確かに、連絡先交換もしてないし、家に来て頼まれても、了承しなかったと思う。怜の説明に状況はなんとなく分ったが、亮のいつもの自分本位さに呆れるしかなかった。
「・・にしても朱里、随分亮と距離近くなったみたいじゃん」
沙織さんが持ってきたジュースを、飲みながら言う。
「あっちが勝手に近寄ってくるだけで・・」
朱里は近寄るつもりも、近づくつもりもない。
「でも音楽が絡むと、朱里は気を許しそうだし、なんだかんだ1週間で、名前呼び捨てになってるし」
「そこは気をつけるし、呼び捨ては認めたわけじゃないから」
否定すると、
「別にいいんじゃないの? 普通に仲良くなればいいじゃん」
「イ、ヤ、だ」
「頑なだなー」
はっきり否定すると、飽きられるように言われた。
ただでさえ最近、亮が普通に話しかけてくるせいで、取り巻きの人たちの視線が痛いというのに、仲良くなんてなったら、どうなるか分かったものじゃない、と、思う朱里であった。
――――――――その頃の亮in隼人の部屋
怜に隼人さんとの橋渡しをお願いして、自己紹介を終えた。
「へぇー歌手目指してるんだ、作詞・作曲もやるってスゴイね」
隼人に関心される。
「でもまだ中1だろ? そんな焦らなくてもいいんじゃない?」
作詞の相談に乗って欲しいとお願いするとそう言われた。
「でも、変声期が終わったらデビューしたいんです! 少しだけでもいいんです!」
懇願してみる。
「プロデューサーにも、この間朱里・・さんにも詩が微妙だと言われて・・」
”朱里”と呼び捨てにしそうになって、慌てて「さん」をつける。
「でも一人ではよく分からなくて、昨日サーキットのライブみて、CD聞いて、相談に乗ってもらえないかと思い立ってしまって・・すみません」
勢いで来てしまってたことに気づき、謝罪した。
「いや・・朱里にも言われたのか。うーん・・お前、ただのクラスメイトじゃなかったっけ?」
「それは彼女が言っているだけというか・・」
隼人の質問に口ごもる。
「じゃ、お前は朱里をどう思ってるわけ?」
昨日、朱里に手を出すな的なことを、言っていたことを思い出す。なんと言おうか一瞬迷うが、
「友達になりたいと思っています」
「ふーん・・」
今の素直な気持ちを言ったのだが、亮をじっと見て、
「朱里に認められたい?」
隼人は少し考えてから聞いてきた。
認められたい・・のか? 再び尋ねられたことは、全く考えていなかった事だった。朱里のことを考えてみる。
……まだ全然オレに他人行儀な朱里。朱里は今までオレの周りに居る女の子たちと全然違う。オレに興味が無い子も、いない事はなかったが、そいつらともなんか違う。オレのことを嫌いだと言い、詩が良くないと言ってた姿。まあ隼人の曲を聴けば、オレのダメさは分かる。ただどうすれば良いのか分からない。朱里のピアノを弾く姿が浮かぶ。曲は・・悪くないって一応褒められたのだろうか? ちょっとした事が気になって、もっと話してみたいと思った。仲良くなりたいと思った。でも、いつまで経ってもオレに対する態度は変わらない。
――認められたいか?
隼人の言葉が頭に響く。認められたら態度が変わるのだろうか?
「はい」
しばらく考えて、亮はしっかりと答えた。返事を待ってくれていた隼人は、
「そっか。んー・・今って、買ったCD持ってきてる?」
「はい・・」
CD? 話の繋がりが見えない。とりあえず、持ってきたリュックからCDを出す。
「昨日聞いた以外で、その中で気に入った曲はあったかい?」
なるほど。作詞について、話してくれるのだろうと思い、
「昨日、隼人さんがオススメしてくれた曲も良かったです。あと、コレと・・あっコレも」
亮は歌詞カードを見ながら、記憶を思い出しつつ答えると、隼人は歌詞カードの1部分を指さした。今は最後に言った曲のページが開かれており、指さされた部分を見る。
『作詞:A 作曲:Hayato 編曲:circuit』
隼人の人差し指の先は、その「A」の部分を指している。
(作詞がAさん?)
別の曲を見てみると、『作詞:H』というのと、『AH』というものがあった。オススメしてくれた曲は『A』、昨日最初にやった曲も『A』、オレが気に入ったもう1曲が『AH』だった。歌詞カードをパラパラめくってみていると、
「“A”ってのが朱里だ。“H”はオレね」
「え?」
作詞が朱里? 朱里が作詞? サラッと言われ、思考が停止する。
「“AH”は合作、あっ、この作曲“HAyato”ってのは誤植じゃなくて、作曲も一緒にやったんだけどー・・あいつ作曲にはあまり気が乗らなかったみたいでね、その曲だけなんだ。まあ、でも色々口は出してくるんだけど」
亮が固まっていると、色々説明が加えられる。が、あまりの情報量に頭の整理が追い付かない。
「あっ、この事はバンドメンバーしか知らないからナイショね! あと両親や、怜も知ってるかもしれないけど」
「・・はい」
なんとか返事した。その後も隼人は、何故か朱里の素晴らしさ?オレの妹すごくない?という、妹愛満ち溢れた話をし、亮はそれに付き合うことになり、混乱のまま、朱里に会うこともなく佐伯家を後にした。
隼人の「オレの妹すごいだろ」という妹LOVEな話。本編に入れるにはうざすぎて(笑)途中でやめたけど一応。
「オレがバンド初めて詩を書いてたらさー朱里がマネして書きはじめたんだ。もちろん最初は童謡みたいなかんじだったけど、なんか図書館とかで勉強したりして、気づいたらオレよりいい詩を書いてて、曲つけたくなってな。それで作ったのがこの曲。まだ朱里10歳だったんだぞ。すごくない? オレの妹すごいだろ? で、オレの書いた詩に朱里が口出ししてきて作ったのが、この(AH)曲でー・・ピアノも得意だし、作曲させてみようってとりあえず一緒にやってみたけど、1曲で作曲は飽きたみたいでーハハッ・・でも口出しはしてきて、曲が気に入らないとか、合わないとか言われて作り直したんだけど、そのボツになった曲は使えなくなったと諦めてたら、その曲に合うだろう詩を書いて持ってきたんだ。あれには驚いたよ」
(オマケ)前日のライブ:1曲目、2曲目は朱里作詞、最後の曲は隼人作詞。前半朱里、後半隼人なかんじにしていた。