5月GWの遭遇
ゴールデンウイーク!
若干あるある?
今日の午後、朱里は電車に乗ってお出かけ。・・といっても、2つとなりの駅、隣り町に行くだけだけど、その場所へ、一人で行くのは初めてだ。
目的の駅で降り、駅前広場を歩く。GWということもあり、人が多い。目的地方面へ歩いていると、目の前に高校生くらいの男子が二人、こちらに向かって歩いてくる。ぶつからないよう、よけようとすると、
「君ひとり?」
と、声をかけられた。右には茶色い短髪で体育会系っぽい人、左には右の人より少し背が高くて長めの髪がサラサラしている人だった。どう反応していいか分からず、俯いて黙っていると、
「これから一緒にどこか行かない? お茶でもどう?」
(む・・無理ぃぃぃっ)
「・・待ち合わせてて・・」
なんとか声をしぼり出すと、右の人が、
「じゃあ、その子も一緒で大丈夫だからー」
腕をこちらに伸ばしてくるので、後ずさりしつつ、
「いっ、行くとこあるのでっ」
「えーどこ? じゃあ一緒にそこ行こうよ」
断りきれず、どうすれば良いのか分からなくなる。誰かっ・・と、誰も知り合いなんて近くにいるわけないのに、心の中で助けを求めていると、
「朱里?」
背後から声がきこえた。聞き覚えのある声に、思わず振り返って見ると、少し後方に亮がいた。普段分けてセットしている前髪をおろし、眼鏡をかけていた。そして、何か気づいたかのようにツカツカ歩いてきて、彼らとの間にわざと入り、朱里に振り返ると、
「ごめん、待った?」
そう言うと、朱里の右手を取り、軽く握りしめるので、顔をみると、彼らから見えない位置で『あわせて』と口だけを動かしていた。
「・・今きたとこ」
ボソッと言うと、亮は満足したみたいで、背後の高校生をチラリと見る。
「んだよ、待ち合わせって男かよ」
左側に居た人がチッと言って、二人は離れて行った。それにホッとしていると、
「じゃ、行こうか」
亮が、朱里の手をとったまま機嫌よく歩き出した。
「えっ? ちょっと・・」
(てっ、手っ、なんでそんなサラッとっ)
戸惑っていると、
「いや、まだあいつら見てるし」
振り返って確認する気にはなれず、仕方なくそのまま移動した。
広場から、1本脇道に入ったところで、
「もういいでしょ、さっきはありがとう」
お礼を言い、朱里は手を離そうと引っ張ってみるが、亮は離してくれない。
「ちょっと・・」
「朱里、は、一人? これからどこか行くの?」
(なんかさっきの人たちと、同じこと言ってない?)
「はぁー・・人に会いにいくのよ」
ため息と共に言う。それより手を離してほしい。
「そっか・・まあオレも行くところがあるんだけどね!」
朱里としては亮の事情はどうでもいい。さっきは助かったけど、一緒に行動するつもりは無いのだ。
仕方ないね・・と、亮は残念そうに、繋いだままの手を一度見てから離した。
目的地へ向かう朱里だが、後ろから亮がついてくる。時々スマホを見て、場所を確認しているようだが・・・。
しばらくして、朱里は立ち止まる。
「どうしたの?」
亮が近づきながら話しかけてきた。
「・・・・ストーカー?」
「ちっ、違う違う、たまたま同じ方向なんだろ? ホラ、ここに行きたいんだ」
じとっとした目で見て言うと、慌てて亮は、スマホの画面を見せてきた。
「!!」
「知ってる?」
そこには、朱里の目的地であるライブハウスが載っていた。
(なんで?)
「地元の近くで一番有名なライブハウスみたいだからさ、一度見てみたくて」
朱里の心の声が聞こえたかのように、亮は話す。
「・・怜に聞いたの?」
「怜? 何を?」
「聞いてないならいい」
怜に、朱里がそのライブハウスに行っていることを、聞いたわけではなさそうだったので、これ以上聞くことは無い。
一緒に行きたくはないが、行かないという選択肢はないので、仕方なく向かうことにした。
「朱里?」
素っ気なく言ったまま、歩き出したため、亮は意味が分かっていないがだろうが、ついてくる。
角にさしかかり、道の向こうを指さす。数軒先に目的のライブハウスの看板が見える。亮も朱里の指す先を見て、
「あぁ、あそこか。ありがとう」
案内してもらったと思ったのだろうが、朱里はライブハウスに向かって歩き出す。ここでお別れかと思っていた亮は、朱里の行動に戸惑いながらも、一緒に向かう。
「朱里ちゃん、こんにちは。何なにー? 今日は彼氏連れ?」
入口に立っていたライブハウスの、顔見知りの女性スタッフに声をかけられた。
「こんにちは。違います。ただのクラスメイトです」
“ただの”に若干力を込めて答えるが、女性スタッフはクスクス笑っていた。
店の中に入り、受付へ向かう。
「朱里、ここ何度も来たことあんの?」
この状況で初めてとは言えないので、頷く。受付で、前売りのチケットを渡し、ドリンクチケットをもらう。ついでに、
「この人、クラスメイトなので、同じで」
年齢確認など省けるように、受付の人に言って、その場を離れる。受付の先の扉を入ればすぐホールなので、迷うこともないだろう。それに、別に一緒に行動する必要もない。
ただ、亮はそう思わないわけで、
「これ、どうすればいいの?」
BARカウンターに向かっていると、亮が追いかけてきた。まあ、朱里も、ついてくるのは予想の範囲内ではあったが・・・
「ここで好きなの1杯、そのチケットで交換できるの」
簡単に説明して、メニューを示し、
「ももソーダください」
自分の分を注文した。亮はコーラを頼み、ドリンクを受け取ると、朱里は近くの空いている、立ち見用の小さなテーブルに向かった。もちろん亮もついてくるので、
「好きなとこで見ればいいのに・・」
まだライブ開始まで時間はある。テーブル席・・といっても立ち見用で、ホール後方にあるので、近くで見るなら、前に行くのが良いだろう。既に前方は半分ほど埋まっている。
「いや、ここでいいよ」
コーラを一口飲み、亮は辺りを見渡した。相変わらず嬉しそうだ。
「朱里の言ってた会う予定の人って、この後ライブするバンドの人?」
朱里が特に待ち合わせしている様子がなく、周りはほとんど大学生っぽい女性客ばかりだから聞いたのだろう。
「・・そうだけど」
「ファンなんだ」
「うん、まあ」
「へぇー楽しみだな」
確か大学生のバンドだっけと、スマホで調べるようだ。
朱里は思わずその様子をしっかり見てしまい、そういえば・・と疑問を思い出す。お気に入りのバントのライブに来られて気分が良く、なんだかんだと話していたせいで、
「今日は、いつもと髪型とか違うんだね?」
つい、ポロッと口をついた。朱里から初めて話しかけられ、スマホを見ていた亮は、ガバッと顔をあげる。まさか朱里から話しかけられると思ってなかった亮は、すごく驚き動揺し、
「えっ? あぁ・・一応変装?・・変、かな?」
おろした前髪をさわりながら、戸惑い気味に答えた。
「別に・・気になっただけ」
つい話しかけちゃったよ。ってか、なんで私この人と、ここに居るんだろう? と、思う朱里だった。
ライブハウスは、かなり昔数回行ったことあるだけで、その時の記憶と、少し調べた結果を組み合わせて書いたかんじなので、今と違うところがあるかもです。