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これが凡人の生きる道  作者: scarecrow
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リメディオへ

隣街のリメディオまでは今まで何度も行ったことはある。しかし、護衛の下見だと意識して見てみると周りの風景も少し違って見えた。

バージアとリメディオは交通量が多いため舗装された道でつながっており、その道から外れることがなければ基本的にモンスターや野盗などと出会う可能性は低い。

ただ、万が一にでも遭遇する可能性を考え、索敵方法や人やモンスターが隠れやすい茂みや岩のある場所などを確認し、地図に記録していく。



「今日はここらへんでキャンプを張ろう」



レイの号令で皆が一斉にその場に荷物を降ろした。



「まだ明るいけどよ。まぁ護衛対象はおっさんらしいし、当日もここくらいになるだろうなぁ。じゃあ行ってくるぜ」



そう言うと索敵の能力が高いラウルは周囲の様子を見回りに行く。

その間にミトは簡易的な獣除けの魔法を周囲に張り、レイとスズネでテントと焚火を用意する。



「今日の料理は無しか…」



スズネが少し不服そうに呟く。

普段ならここでスズネが追加で料理を1品作るが、今回は護衛の依頼を想定し最低限の荷物で来ているため、調理道具や食材は無い。

ラウルが見回りから帰ると4人はセルヴァの店で買った干し肉と黒パン、野菜の酢漬けで食事を終わらせた。

そして、最初の見張り番であるレイとミトが残り、ラウルとスズネがテントに戻ろうとしたところでラウルが口を開く。



「かぁー。これ思ったよりキツイな」



ラウルが口火を切ると他の3人もつられて話し出す。



「そうですね。1日中気を張り続けないといけないですし。見張り番も2人にするから睡眠時間も普段より少なくなります」



「何かあったらすぐに依頼人を守らないといけないからな。だが、これを3日間は俺も正直キツイ」



「……やはり食事は大切だ」



4人で考え合って決めたことのため、各自の役割自体に不満はないが1日の疲労は4人の想像以上だった。



「これに加えて当日はおっさんのご機嫌取りかぁ……」



ラウルの余計な一言でさらに4人とも憂鬱になる。



「け、けどよぉ、これを達成したら俺たちはCランクに上がれるんだ。そしたら報酬金も増えるし、待遇も良くなるし…」



さすがに言い過ぎたと思ったのかラウルが自分でフォローを入れようとするが



「でも、Cランクに上がったらこういう仕事が増えるってことですよね…」



ミトの呟きで一瞬にして無駄になった。



「まぁ、慣れてきたらまた変わってくるだろ。それに護衛の依頼内容だって様々だろうし、今弱音を吐いても仕方ねえからな。頑張ろうぜ」



これ以上続けても良いことはないと判断したレイは会話を切り上げ、他の3人を励ますのだった。





次の日も同じように地形を確認をしながらレイたちは進んだ。ただ、1日目より明らかに集中力は落ちて、背中に背負っている荷物も普段より重く感じる。



「収納魔法のポーチ、必要だな…」



昼休憩中、ラウルが水筒に口をつけながら言った。

普段は採集や素材の運搬が必要な時にギルドから借りており、今回の依頼で借りるかどうかは下見の時に決めることにしていた。



「私も同感だ。軽くなるようにはしてきたが、緊急時にすぐ動けるか心配だ。2日目と3日目は特にな」



スズネがラウルに同調した時だった。



「!」



ラウルが素早く反応し弓を構える。

続いて他の3人もそれぞれ武器を構えた。


4人の目線の先にいたのは体長1メートル前後の人型のモンスターだ。

ゴブリンと呼ばれるそのモンスターは全体的に緑色をした小型のモンスターで、雑食性のため基本的にどこにでも見られる。集団で行動し繁殖力が高いため放っておくと大量発生し人里を襲うこともあり、よくギルドに駆除依頼が入るモンスターだ。

ただ、単体ではあまり強くないため、少数のゴブリンの討伐は駆け出しの冒険者達の訓練として扱われている。



「前方草むらにゴブリン6匹、全部通常種だ」



「こっちに気づいているか?」



「いない」



「周囲に人は?」



「いない」



「奇襲する」



最低限の会話で情報を共有し、4人は動き出す。

まず、スズネがミトの前で大盾を構え、ゴブリンの視界からミトを隠す。次にミトが自身の杖で地面を叩き、レイから発せられる音を消す支援魔法をかけた。

それと同時にレイは自身の体内の魔力を開放しながら走り出し、一瞬にしてゴブリンに迫り先頭の1匹を切り伏せた。



「ぐぎゃ!?」



その後ろで驚き、動きを止めたゴブリンがラウルの矢で頭を貫かれ絶命する。

一瞬で仲間が2匹やられたことに理解が追い付かず、他のゴブリンたちはただ茫然と立ち尽くす。その間にレイの剣がもう1匹のゴブリンの首を刎ね飛ばした。


仲間が3匹殺されたところでようやくゴブリンたちは我に返り動き始めるが既に手遅れだった。

レイの正面から突撃したゴブリンは振り下ろされた剣によって真っ二つになり、後ろに回ったゴブリンは再び飛んできた矢に頭を射貫かれる。



「ふぎゃぁ!」



最後の一匹がレイに向けて突撃するがレイはこれを難なく躱しすれ違いざまに剣を振り抜いた。



「ふぅ、こんなもんか…」



ゴブリンの死骸を確認したレイは剥ぎ取りはせずに3人のところへ戻り、息を吐いた。



「本番も私がミトと依頼人を庇いながらでいけそうだな」



「まあ、ラウルもいるしな。ゴブリンくらいだったら前張は俺だけで大丈夫そうだ」



「あともう何匹か増えても索敵をしながら援護はできるぜ」



「支援魔法だけなら追加でもう何種類かいけます」



実際に動いた感想をそれぞれ言い合って認識にずれがないか、どれだけ動けるかを確認する。



「…しかし」



ある程度確認が終わったあと、レイはふと疑問に思ったことを口に出す。



「珍しいな。道沿いでゴブリンが出てくるなんて」



「確かにそうですね。ギルドで大量発生の兆候が見られるなんて聞いてませんし」



「私も聞いていない。リメディオに着いたら一応報告した方がいいだろう」



「練習になったからありがたかったけどな」



多くの人が行き交う道沿いにまでゴブリンが出てくるのは珍しく、考えられることは大量に増えている、もしくは生息地を追われている、のどちらかだ。

一瞬ドラゴンの影響を考えたレイだが、ドラゴンに追い出されたのであればゴブリンだけでなく、他のモンスターも現れるはずだと考えなおす。

結局今の段階では予測はできないと結論付け、その日の夜に想定される様々な状況について改めて話し合い、役割を確認し合って2日目を終えた。


3日目は街に近づいたためか、ゴブリンや他のモンスターと遭遇することもなく陽が傾く前にリメディオに到着した。



リメディオはもともと王都とバージアの中継地として造られた街だ。北にはオラシオン王国でも有数の鉱石の採掘場があるマカトが、南には他国との貿易にも使われる巨大な港を持つレバスがあり、現在はバージアとマカト、レバスの商品が行き来する中継地としても使われている。街のすぐ近くにはリーデル湖という巨大な湖があり、そこで獲れる魚やモンスターの素材がリメディオの特産品となっている。

国から多大な支援があるバージアほどではないが行き交う商人たちによって成長を続けている街だ。

検問を抜け街へ入るとレイたちはトーラスのリメディオ支店に向かう。バージア本店ほどではないがリメディオ支店の建物は大きく、冒険者用の宿泊施設も兼ね備えている。


無事に宿を確保したレイたちはそのままギルドにゴブリンのことを報告したが、やはり大量発生の兆候は見られないとのことだった。






「ほらなぁ。だから俺は違うって思ってたんだ」



ギルドへ報告したあと、レイたちは近くの酒場に来ていた。

テーブルの上には近くの湖でとれる魚の料理とレバスから入ってきた香辛料をたっぷりと使った肉料理、北のマカトの名産である蒸留酒が並んでいる。

普段飲んでいる発泡酒や葡萄酒よりも酒精が強いためかラウルは数杯で酔っていた。



「だが、おかげでドラゴンに関する情報が得られたぞ?」



スズネが彼女の頭ほどの大きさもあろうかという肉の塊にかぶりつきながら答える。



「…ドラゴン…ねぇ」



ラウルが焦点の定まらない瞳を天井へ向けながら言う。



「んなもん本当にいるのか怪しいくらいだよなぁ。人の言葉を話すとか、血を浴びれば不死身になるとか。いろんな話は聞くが……んなモンスター出会ったことねえよ」



「人間を餌にしないらしいからな。山奥とかの方が餌が豊富なんだろ」



「そもそも食事を必要とするのかすら分かっていないモンスターですからね。劇などでは英雄と3日3晩死闘を繰り広げていたりしますし」



「私も出会いたくはないが…私たちの意思で変わるものではないしな」



レイたちが街を出てちょうど1日後にギルドから正式にドラゴンの目撃情報が開示されていた。しかし、マカト近くのヒアルデ山にそれらしき大きな影が見られた、と発表され、遭遇したとしてどうしようもないこと、そして目撃されたヒアルデ山に最も近いマカトの街に何の被害も出ていないことから、そもそも見た影が本当にドラゴンのものであるのか信憑性が薄い、と酒場での話の種程度にしかなっていなかった。



(マフちゃんの反応的に本物が見られたのかと思っていたが…)



混乱を回避するためにギルドがそう発表した可能性も考えながら、レイは酒を流し込んだ。


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