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これが凡人の生きる道  作者: scarecrow
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達成報告

  

翌日、バージアに帰った後もランクアップ後の話で持ちきりだった。



「Cランクなら街の外の危険な魔物狩りだけじゃなく、街中での要人警護とかが増えるんだろ?最高じゃねーか」



「その場合、今のラウルさんみたいに気を抜いていたら何かやらかしそうですけどね」



「何だと!」



「こないだも調子に乗ってゴブリン逃がしてただろ、気を引き締めたらどうだ?」



「……うわっ辛辣だなぁお前も。もっと優しくしてくれてもいいのにさぁ~」



ミトとスズネがいつものようにラウルをからかいながらギルドに向かうのを眺めながら、レイはラウルに目を向ける。

今、ラウルのポーチの中にはスズネへの贈り物が入っている。

街へ帰ってすぐに宝石店へ駆け込みミトからのアドバイスを参考にして買ったものだ。

ギルドへ近づくほどラウルが緊張していくのがわかる。それにつられてレイとミトの口数も少なくなっていき、ギルドへ着く頃にはみんな静かになっていた。



「どうした?緊張してきたのか?」



一人だけ状況が理解できていないスズネが不思議そうに聞いてくる。



「いや、大丈夫だ」



それに対してラウルがまるで自分に言い聞かせるように答える。

普段のラウルがあまりしないような真剣な顔にスズネも少し驚いたような顔をしながら



「段々私も緊張してきたな」



そう呟き、ギルドの扉を開けた。








冒険者ギルド『トーラス』はバージアでは有名なギルドだ。

バージアの大通りに石造り2階建ての本部を構え、街の中に系列の商店や宿屋を所持している。

取り扱う依頼も様々で今回のレイたちが受注したような魔物の討伐や薬草の採取、新しく見つかった鉱山やダンジョンの探索など、街の外での活動から、要人の警護、祭りなどのイベントの警備等、街中のものまで手広く依頼を受けていた。

玄関の扉にはギルドの象徴である牡牛が刻印されており、そこをくぐると1階と2階が吹き抜けになっている大きな広間がある。

入って正面奥にギルドの受付カウンターがあり、右側に机や椅子が設置されている酒場がある。左側には2階へと続く階段があり、2階にはギルドマスターや他の役員の部屋、応接室が設置されている。


レイたちが中へ入ると酒場の方から一人の男が近づいてきた。



「お~ぅ~レぇ~イ、いまかぇりか~?」



そちらを向くとそれは同じギルドの冒険者のアーガスだった。

短い茶色の髪に吊り上がった眉と目、耳のピアスを付けた姿はまさにチンピラのそれだが、依頼先では仲間思いの頼れる男だった。レイとラウルと同じ時期にトーラスへ加入した冒険者の一人で、何度か一緒に依頼をこなした仲でもある。

ただアーガスはもう出来上がっているらしく、千鳥足で呂律も回っていない。



「お前、もう酔ってんのか…」



レイがあきれたように言うと

アーガスの後ろから別の男が近づいてきた。



「すまないな。私たちは今回の依頼で少し失敗してしまってね。彼だけの責任では無かったのだが」



男ーリゲルーはアーガスを宥めながら謝罪した。

黒く刈り上げた髪に整った顔。長身で大剣を扱うために鍛え抜かれた肉体。それでいて物腰の低い丁寧な口調と紳士的な振舞いは多くの女性から支持されている。

リゲルはバージア1人気の冒険者だった。



「ああ、そうだったのか。わかるぜその気持ち、飲まなきゃやってらんねーよな」



「そう言ってもらえると助かる、そちらは…」



「おうよ、ワイルドウルフを4頭狩ってきたぜ」



リゲルの言葉を遮るようにラウルが言う。

ラウルは以前リゲルを見たスズネが、



『なるほど、確かに素晴らしい奴だ』



と褒めてからずっとリゲルを敵視しているきらいがある。特にスズネの前だとそれが顕著で自身の功績を誇張して話すこともあった。



「それはすごい、やはり魔法職の加入はパーティーの可能性を広げますね」



しかしリゲルの目に映っているのはスズネでもラウルでも無くミトだった。リゲルはミトに好意を抱いており、日頃から明らかにミトを持ち上げるような発言をよくしていた。今回もアーガスの介抱を装いつつ近づいてきたのはミトと話すためだろう。



「いえ、そんなことないですよ。私一人では何もできません。私が詠唱している間に守ってくれる仲間がいるからこそです」



そんなリゲルの気持ちを知っているのかいないのか、ミトはリゲルの誉め言葉に対していつも素っ気ない反応を返す。



「レイ、そろそろ報告に行くぞ」



このままでは長くなってしまうと感じたのか、スズネが助け舟を出してくれる。



「っ!そうだな!すまねえアーガス、リゲル、俺らそろそろ」




「ああ、こちらこそすみません、引き留めるつもりは無かったのですが。アーガス今日はもう帰りますよ」



「いらぃがうまくいったなら後でおごれぇ」



「また今度な」



リゲルとアーガスの背中を見送って、レイたちは受付横の鑑定買取用カウンターへ向かった。




受付のカウンターにはトーラス所属の冒険者がたくさん並んでいた。



「これは俺たちの番が来るのは当分先だな」



運悪く遠征に出ていたいくつかのパーティと帰還のタイミングが被っており、ギルドは普段より混んでいた。



「仕方ないですね。全員で並んで待ちましょうか」



「いや、今回はかなり時間がかかりそうだ。俺が代表して並んでおくよ。夕方にここの酒場で集合して報酬を分配しよう」



「ならお言葉に甘えてここはリーダーに任せますかね」



「じゃあ私達は先にあっちでなんか頼もう。クリームのせ白パンというものが新しく出たらしい」



全員異論は無いようなのでパーティは一旦解散し、レイは1人受付の列に並ぶことにした。



「こんにちは、レイさん、今回受注されたのは……ワイルドウルフ4頭の狩猟ですね。では素材をこちらにお願いします」



鑑定士の女性に言われるままレイはワイルドウルフの素材が入ったポーチを渡す。



「それでは奥で鑑定しますので、こちらの番号札を持ってお待ちください。」



そしてそのまま隣のカウンターへ行くと、受付嬢が話しかけてきた。



「こんにちは!聞きましたよ、レイさんたちワイルドウルフを4頭も討伐したんですよね!

これでランクアップが決まったんじゃないですか?」



元気よく話しかけてきたのはトーラスの看板娘、マフターニだ。

西方では珍しい紫色の長い髪と金色の瞳。頭に生えた2本の巻角。彼女は魔族と呼ばれる種族だった。彼らは人種と比べて長寿で知られ、成人すると容姿の変化が止まってしまう。

このギルドの古参の冒険者が登録したときから全く容姿が変わっていないと噂されている。

彼女目当てでこのギルドに移籍してきた冒険者がいるというのも納得だった。

彼女は東の地方出身で本名はマフターニ・ラハーシャナクというが、長いし可愛くないからという理由で皆にマフちゃんと呼ぶように言っていた。



「ああ、ありがとなマフちゃん。俺達もようやくギルドに認められるようなパーティーになってきたって感じで嬉しいよ」



「皆さん優秀ですから、このギルドに登録されてからあっという間でしたけどね~」



マフちゃんはレイと話しつつ書類に目を通しながら慣れた手つきで記入し、判を押していく。

そして、いくつかの書類を纏めてレイに手渡した。



「こちらが現在トーラスに入っている依頼一覧、今ギルドに入っているモンスターの目撃情報です。依頼達成の証明書の発行は鑑定が済み次第お渡しします。もう少しお待ちくださいね」



依頼達成証明書はギルドがその冒険者が依頼を達成したことを証明するもので、依頼者との間に起きる問題、例えば今回のような討伐依頼であれば冒険者がワイルドウルフを狩ったと言っているのにワイルドウルフが同じ場所に現れた場合、依頼者に依頼が達成されていないと誤解されてしまうことがある。

そのため、ギルドが冒険者が持ち込むモンスターの素材を鑑定し、狩られた場所、日時を特定し証明書として発行することによって誤解が生まれないようになっている。



「そういえば、依頼人の商人さんたちとどこでお知り合いになったんですか?直々のご指名なんてすごいじゃないですか!」



「まぁ、色々とな。じゃあ証明書ができるまで少し向こうで待たせてもらうぜ」



「はーい、できたらお呼びしまーす」



それと、とマフちゃんは続けた。



「今渡した一覧以外のモンスターを発見していたら言ってくださいね」



モンスターの目撃、出現情報は冒険者達の命綱と言っても過言ではない。特に新米の冒険者であればあるほどその価値は上がっていく。

しかし、新米冒険者ほど情報を軽視したり、そもそも入手できなかったりする。

そこで、ギルドは同じ地域の他のギルドと協力し合い、冒険者達が入手した情報を共有し、その一覧を作成、配布することによって自身のギルドに所属する冒険者達を守ろうとしていた。

依頼の奪い合いや移籍などライバル関係になることの多いギルド同士だが、これに関しては惜しみなく協力し合っていた。



「ああ、確認しとくよ」



そう言うとレイは酒場に向けて歩き出そうとして、ふと足を止めた。

トーラスのギルドマスターは一介の冒険者とも気安く接する変わり者として有名で、普段なら若手が難易度の高い依頼を達成したと聞けば呼ばずとも自分から酒瓶片手に祝いに来るような男なのだ。それなのに今日はまだ一度も顔を見かけていないというのは妙な話である。



「そういえば、ギルマスのおっさんは?」



少し不思議に思ってマフちゃんに聞いてみると、彼女は周囲を見渡してから声を潜めて答えた。



「実はですね…最近マカトでドラゴンが目撃されたとの情報がありまして…」



「えぇっ!それ本当かよマフちゃん!」



ドラゴンと言えばその強さと希少さから最早ランク付けが意味をなさないと言われるほどの規格外のモンスターであり、もし出現すれば都市が一つ滅ぶと言われる天災に等しい存在である。

そして、マカトはここバージアから人の足で10日ほどの街だ。



「しっ!声が大きいですよレイさん!まだ公式には発表せずギルドの代表同士で協議中なんです」



それだけに、マカトにドラゴンが現れたとなれば街は大混乱になるだろう。

レイはマフちゃんに謝りつつ、周囲に聞かれないよう小声で聞き返した。



「それで、マカトは大丈夫なのかよ?街が崩壊したって話は聞いてないけど」



「正確に言うと、マカトではなく採掘場のヒアルデ山で目撃されたらしいです。ですから現在、ヒアルデ山での採掘は禁止になっているそうです」



「…でもドラゴンとなると…」



「ええ、飛竜であればその行動先は範囲が広すぎて予測が不可能です。正直、こちらに来ないよう祈るしかないでしょうね」



「…だよなぁ」



竜殺しの伝説は劇の演目や詩として人気なものではあるが、実際にそれを達成した人がいるとは聞いたことがない。ギルドマスターたちの間での協議も、来ないことを祈る、それ以外の結論にはならないだろう。

公式の発表があるまでは絶対に言わないでくださいね、とマフちゃんに念押しされてから、レイは皆の待つ酒場へ向かった。


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