プロローグ
オラシオン王国の南西部、第3の街、バージア。
大陸一の広さを誇るヴィエジャの森に近いこの街は、森からあふれ出るモンスターを食い止める防衛拠点であると同時にそれらの外敵から得られる希少な素材を売買する商都として王国有数の賑わいを見せていた。
だが今のバージアを訪れてそれを信じる者はいないだろう。
先日、街中に現れたドラゴンによって街を覆う壁の一部が崩れ去り、壁の近くの建物も瓦礫と化していた。
大通りは閑散としており、明かりのついていない建物が多く見られる。
そんな街の端で2人の男達が向かい合っていた。
片方は黒髪黒目の少年で、腰にさしている剣以外これと言って何か武器を持っている様子は無い。身に着けているものも防具ではなく軽装だった。
それと対峙するもう片方も黒髪黒目の青年ではあるが、がっしりとした防具と剣を身に着けいかにも冒険者という風体である。
青年ーレイーは肩で息をしながら対峙している相手の少年を睨む。
二人の力の差は歴然だった。レイは少年の攻撃を躱すどころか、いつ攻撃されたのかすら理解することができていなかった。
気づいたときにはすでに体が宙を舞っている。どうにか頭から地面に落ちないようにするのが精一杯だ。
少年が無詠唱で魔法を行使することを聞いてはいたが、実際にやられると手も足も出ない。
また、剣技でも少年はレイを圧倒する。
今まで多くの剣を使う冒険者を見てきたがそのどれとも異なり、見たことのない剣技にレイは翻弄されるばかりだった。
木の葉のように吹き飛ばされ、硬い土に叩きつけられた衝撃の影響か、レイは足元もおぼつかない。まだ剣を手放さずにたっていられるのは奇跡に近いだろう。
先ほどから渾身の力を込めて打ち込んだ連撃が相手を一歩退かせることすら出来ていない事実が何よりレイの心を蝕んでいる。
それでもレイに「諦める」という選択肢はなかった。
「お前のせいで、みんなボロボロなんだ!」
痛みと疲労で震える体を剣を杖にして支えながらレイは立ち上がり、少年に向けて叫ぶ。
「ボロボロなのは、あなたでしょう?」
しかし、相対する少年の眼はこちらに向けられることすらなく、ため息をつきながらめんどくさそうにそう言っただけだった。
「この街の状況を見ても…出て行く気はないんだな?」
「ええ、だって僕は何も悪いことはしてませんし」
「……そう…か、そう……だよな」
剣を構え直し、乱れた息を整える。
説得は不可能で、この少年の考えを変えるにはここで勝利するしかない。
実力の差を見せつけられ、挫けそうになりながらも立ち上がる。
「…道具の…使用は…大丈夫だったよな?」
「ええ。それであなたの気が済むなら。まあ、あなたのそのステータスでは僕を倒せないと思いますけど」
「……ステータス?…何の話だ?」
「いいえ、気にしないでください」
「…そうかよ」
少年の言葉の意味は理解できなかったが、今のレイにそれを気にする余裕はなく、ポーチから回復用のポーションを取り出し、一息で呷る。
さらに、追加で筋力を一時的に筋力を増強させる薬も噛み砕く。
今の自分にできる準備は全て終わった。
「………」
一呼吸ついて息を整え、
「あぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!」
レイは最後の力をふり絞り、少年に向けて突撃する。
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