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61.広がる未来

 



 これからどうするのか。


 ぐるぐると頭の中をまわり続ける。


 気づけば、中層の中心にある決起した拠点にやってきていた。



「おおーい! その部材こっち持ってきてくれー!」

「そこの兵士さんたち! ちょっくらこの店の飯でもつまんでいかないかい?」

「うわーい、おかあさん! ごはんがたくさんあるよ!」



 もとは戦闘の拠点として使おうとした場所は、今は立派な建設地点となっていて、既に仮説住宅と集まった人たち目当ての商人たちでにぎわっていた。



「もうこんなに……」



 ここに拠点を作り始めてから数週間しか経ってないのに、もうずいぶんと発展している。

 上層、中層、下層の全ての人たちがここを拠点にし始めているからか、人も多くて至る所で作業している。


 でも俺は寝ていたのに、誰が指揮してるんだろう。



「あ、ウィリアムさん!」



 ぼーっと歩いていると声をかけられた。


 振り向けば、肩くらいの金髪をなびかせた妖艶な女性――フィデリアがいた。



「うげっ、お前かよ」


「『うげっ』はひどいです、ウィリアムさん。どちらにいらしてたんですか?」


「ちょっと城に行ってた。済ましたいことがあったんだ」



 彼女は歩いている俺の横に並んできた。



「ここがこんなに発展してるとは思わなかった」


「皆さん、ウィリアムさんが眠っている間に驚かせようと張り切っているんです。上層の人たちは初めての外ですし、中層の人たちはそんな上層の人たちに知識とか力でマウントをとるのが楽しいようです」


「性格悪いなおい」


「ふふっ、でも今までのことに比べれば、単純に教えて勝ち誇ってるだけなので随分とみなさん丸くなったんですよ」



 周りを見れば彼女の言う通り、あまり荒事が得意じゃない上層民に対して、中層民は積極的に教えて、上層の連中が感心するたびに大人げなく胸を張って鼻を高くしている。


 まるで小学生だ。


 確かに、殺気立っていたあの頃に比べればずいぶんと丸くなった。



「下層の方々はまずちゃんと食事にありつけるのでそれに感謝してばかりですね。怒りとかは二の次のようです」

「それが普通になったとき、怒りってのは後から湧いて来るもんだ。ちょっと気を付けなきゃいけないかもな」

「そうですね。それは今後も気を付けていかなければいけません」



 思った以上に、ここはうまくいっているようだった。



「みなさん、ここを次の首都にするんだーって言って、復興中の上層に負けないくらい頑張ってくれているんですよ。しかも名前はウィリアムさんからもらって、アーサータウンにするって言ってました」


「うそだろ!? それは勘弁してくれよ!」



 さすがにそれは許容できない。

 末代までの恥だ。

 なんでこんなに頑張ったのに後世まで辱められなきゃならねんだ。



「はぁ、まったく」



 ため息を吐く。

 でもこんな馬鹿なことも考えられるのはいいことだ。


 この町で、ゆっくり過ごすのもいいかもしれないな。




 ……とりあえず、次のところに行こうか。




 ◆




「ルナマリナ様―! こっちお願いします!」

「この部位は何に使えるんだ?」

「さあ? でもヴァレリアさんが欲しいって言ってるからそっちにもっていきゃいいだろ」

「竜麟! 仮面作って欲しいなあ!」



 ここはさっきの場所とほど近い、竜の死骸がある場所。


 そこの上空には一頭の大きな飛竜がいて、各所を飛び回っていた。


 あの飛竜には見覚えがある。


 エフィメラだ。



「ルナマリナ様―! こっちですこっち! この部位の肉が固いんですよ!」


「任せて……練習にちょうどいい」



 エフィメラに乗っていたのは、ルナマリナだった。

 彼女の手には鞘に納められた青いほうの神器の剣があった。


 彼女はハンターの一人に呼ばれた場所に歩いて行って、神器の剣を抜いて振りかぶる。



「え?」



 振り下ろした彼女の剣は、とても綺麗だった。


 青藍纏う神器の剣。

 彼女が振った剣のあとに青い軌跡が残り、見る者を魅了する何かがあった。



「「「おおー」」」



 すっぱりとまっすぐ斬れた竜の肉を見て、ハンターたちが感心の声を上げた。



「やっぱり……ウィリアムみたいにはいかないね」


「いやいや! もう十分綺麗な太刀筋ですって! ハンターは基本我流ばっかですから、普通に斬ろうとするとこうならないんですよねー」


「そうそう、力任せっていうかなんというか」


「任せると斬れはするけど、傷んで食えたもんじゃないんだよなー」



 親し気にハンターと話すルナマリナは笑顔だった。


 エフィメラもそんなハンターたちに撫でられてどことなく気持ちよさそうに目を細めているし、斬られた肉は流れ作業のようにテキパキと包まれていろんなところへ運ばれていく。



「ルナマリナ様はどこで剣を教わったんで?」


「教わったというか見ていた感じかな……ずっと目の前できれいな剣を見てきたから」



 ここはもう、大丈夫そうだ。


 マリナももう1人で生きていける。



「あっ! ウィリアムさん!」



 突っ立っていると声をかけられた。


 振り返ると、そこには知らない男が一人、首からなにやら肉が入った箱を下げてこちらにやってきた。



「見てください! 古竜の肉ですよ! 食えねぇかなって味見してみたらひっくり返っちまうかと思っちまいやした! めっちゃうまいんですよ!」


「え、マジで?」


「マジですまじまじ! 一口どうぞ?」



 男がけっこう大きな塊肉を渡してくれた。


 その肉は塩をかけて焼いただけのシンプルな味付けだったが、見た目はものすごくジューシーでほどよい脂のせいで艶があり、とても美味しそうだった。


 ごくりと喉を鳴らし、恐る恐る食べる。



「――んまッ!!」


「そうでしょうそうでしょう!」



 口の中でジュワッと広がる肉汁には、しつこくないうま味が凝縮されていて、まるで煮込んだかのようにとても柔らかい。


 味付けがシンプルなおかげかあっさりしていていくらでも食べられそうだった。



「古竜はすごく大きいですから、食べたくなったらいつでも来てください! ウィリアムさんなら大歓迎です!」



 そういって男は後ろ向きに手を振りながら去っていった。



 ここでうまいもん食って、マリナの成長を見守って生きるのも悪くないのかもしれない。



 ……次はどこへ行こうか。




 ◆




 再び上層に戻ってきた。


 王城以外の上層はすっかりと燃え尽きてしまって、もはや炭と煤けた石材しか残っていない。


 でもそんな廃材もてきぱきと外へと運ばれて、代わりに外から真新しい建材が入ってくる。



「そうそう! まずはこっち頼む! ここは住宅街だったからな!」

「エドガルドさん! この建材はどこへ運びましょう?」

「そっちは向こうに業者がいるから、渡しといてくれ!」

「よっしゃあ! お前ら! 上層なんか関係ねぇ! ここを第二のセビリアにすんぞ!」

「おい! それじゃ森だらけになっちまうだろうが!」

「じゃあバルセロシアで!」

「滝か!? 滝作る気か!?」



 ここは見た目だけなら一番被害がひどくて憂鬱になりそうなのに、意外にもここが一番活発だ。


 これはひとえに、まとめてるやつの性格がでてるのかな。



「エドガルドっつったっけ?」


「んお? おお! 坊主じゃねぇか!」



 一際目立つ聖人の男エドガルド。

 天導隊唯一の生き残り。

 背中に二本の槍を背負って図面と格闘しているエドガルドは、俺を見てぱっと顔を明るくした。

 顔にはまだ痣があるし、頭や手に包帯がいくつも巻かれていて右目は隠れているが、それを感じさせない愉快な顔だ。



「ここは今どんな感じなんだ?」

「ああ、竜の炎のせいでひっでぇことになっちまったからなぁ。まずは使える建材と使えないもんの仕分けして、使えないもんは外に運んで、使えるもんは一つにまとめて管理してんだ。必要になったら、そっから必要分とってくって感じだな」



 おチャラけているように見えて、意外にもしっかり考えているようだ。


 周囲を見れば、みんな楽しそうに作業している。



「……こんなときがくるとは、思いもしなかったよ」


「? エドガルド?」



 さっきまでとは違う、複雑な想いが込められた呟き。



「俺はさ、実は諦めてたんだよね」


「なにを?」


「天導隊のアティリオ、マティアス、レオナルド、レジナ、ナタリアたち。大勢の天導隊の連中はこの国をどうにかしようとずっともがき続けてた。一応俺も腕が立つから、天上人側の人間としてスパイの真似事してたんだけどさ」



 エドガルドはアティリオと双璧を成す天導隊きっての実力者。


 だから彼は一番危険な天上人のスパイとして彼らと親密な関係を築いてきた。


 秀英を鍛え、彼をまともな人間として育て上げながら、上位の天上人に迎合できるように育て上げた。


 それはとても難しく危険だったろう。


 だからこそ、彼は一番痛感していたのかもしれない。



「無理だって、ほんとは思ってたんだよね。魔法が使える天上人には勝てない。よしんば暗殺したところで、竜に守られた王には勝てないし、天上人はいくらでも補充される。対して俺たちは自力で自分を鍛え上げるしかない。それに世論は天上人の味方。なすすべ無しじゃん」



 なのに、わからないもんだな――


 エドガルドは笑って俺を見た。



「アティリオたちは正しかった。この国は変われる。坊主がそれを教えてくれたよ」


「……そうか」



 エドガルドの右目に巻かれた包帯がジワリと滲んだ。



「父さんは……先生たちはどうなった?」


「裏切りは当然許されなかった。……全員捕らえられて、マルコスや王の手にかかって大勢の前で処刑されたよ」


「……」



 ごめん、父さん、先生方。


 助けられなくて。



「そうしんみりしなさんな。みんな満足そうだったよ。坊主が無事に生き延びたって聞いた瞬間にみんな投降して、最後まで希望を捨てずに笑って逝った」


「……でも」


「ははっ、知ってるか? 記憶もないアティリオが最後の言葉」


「え?」



 エドガルドは俺の肩に手を置いて――



「『ウィリアム、愛してる』って笑ってさ。記憶も何もないはずなのに、意識すら朦朧としてたのに。それでもお前さんを信じてた」


「――ッ」



 また視界が滲んだ。


 喉まで熱がこみあげてくる。



「坊主……ありがとな」


「うるせぇ……俺だっていろいろ言いたかったのに」



 目元を拭う。



「中層の連中が張り切ってるからな。ここの奴らも首都の座は渡さねぇって気合入ってんだ。坊主が手伝ってくれりゃ百人力だ。好きに街を作れるぜ?」


「そりゃいいねぇ」



 エドガルドは本当に楽しそうだ。


 この町の復興を手伝うのもやりがいがあって楽しいかもしれない。


 一仕事終わった後の酒が上手そうだ。



「そういえば、秀英は?」


「ああ、あいつは――」




 ◆




「こんなところにいたのか」


「ウィリアムか。もういいのか?」



 そこはグラノリュース王城の外れの区画。

 数少ない無傷の部屋だった。


 無機質な石の壁と明るすぎない程度に差し込む窓からの光。


 簡素なベッドと丸テーブルと丸椅子。


 病人でも食べやすいような流動食が減った状態で置かれていた。


 部屋の中、椅子に座っていたのは秀英だった。



「俺の心配より、自分の心配しとけよ。お前、傷だらけだぞ?」


「三日も寝込むほど重症じゃない。意識も体もしっかりと動くからな」



 悪態の付き合いに互いに少し笑いあう。


 秀英と向かい合って、もう一つの椅子に座った。


 この部屋には俺たち以外にもう1人、人間がいた。



「…………」



 意識のない黒髪の女性がベッドで横たわっていた。


 ウィルベル曰く、元『ステラ』だった女性。

 ウィルベルの目の前でステラは生贄となり、あらたな天上人としてやってきた女性。


 眠っている女性はまるで死んでしまったかのように動かない。



「彼女の容体は?」


「命に別状はない。それどころか、どこにも全く異常はない。なぜ目を覚まさないのかわからない」



 秀英がため息を吐いた。

 お手上げなんだろう。


 彼女は天上人、他の人とは違う。

 俺と同じでもしかしたら記憶も飛んでいるかもしれない。


 だから同じ天上人である秀英が彼女の面倒を見ている。


 本当ならヴァレリアが適切なんだろうけど、彼女は人見知りだしめんどくさがりだし臆病だし、何より有能だから本人の意思を無視してあちこちに引っ張りだこだ。



「……どうしようか」


「……どうにもできんさ。少なくとも今は」



 彼女が目覚めない限り、俺達には何もできない。



「なんにしろ、ヴァレリアがいる。彼女ならこういった天上人の召喚なんて何度も経験があるだろうし、そう心配はいらないだろう」


「そうだな」



 この身体の中にある『ウィリアム』の記憶。


 その中にある『ステラ』という女性を、実はあまりよく知らない。


 ただ、強烈な感情の残滓だけが残っていて、それがステラという女性の存在を俺の頭に刻み込んでいるのだ。



「彼女はいいとして、お前はこれからどうするんだ?」


「俺?」



 ああ、と秀英は頷いた。



「俺はこのままこの国で師とともに復興作業に当たろうと思う。この状態では、おちおちゆっくりしていられないんでな」


「外に行こうとは思わないのか?」



 秀英は薄い笑みを浮かべて、頬杖を突いた。



「いろいろあったが、俺はこの国が好きなんだ。醜い世界かもしれないが、多くの人が一つになって懸命に未来のために戦っていた。その姿を美しいと思ってしまったのだ。亡くなった人も大勢いる。だからこそ、生き残った者として、俺はこの国を良くしたい」



 彼は彼なりに、この国に思い入れがあるようだった。


 その気持ちはよくわかる。


 ひどい国だったけど、だからこそそれを壊してこれから自分たちの国を一から作れる。


 そこにどれだけの希望があるか、夢があるか。


 自分たちの力で手に入れた平和を、これ以上ないほど大切にしたいと。



「この国にはまとめるものが必要だ。それこそ誰もが認める王がな。……お前も協力してくれれば助かる。王になって自分が作った平和を見守るのも悪くないぞ?」


「ははっ、そうかもな」



 珍しくやわらかな笑顔を浮かべる秀英を見ると、ちょっと調子が狂いそうだ。


 この国の王、か。


 自分が作った平和の国。


 この国をどうしていくのか、どんな国にしたいのか。


 手ずから作っていくのもやりがいがあって楽しいかもしれない。



 この国でいろんな可能性が生まれた。


 いろんな未来が広がった。



「どうしようかなぁ」




次回、最終話「旅立つ君へ」

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