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59.神蒼結晶

 


 まるで、体が世界に溶けていくようだった。


 体の感覚があるようなないような、よくわからない。


 動かそうと思えば動くけど、意識しないとなくなりそうな気がする。


 周囲には光が無くて真っ暗だ。


 でも、とても気持ちいい。


 花のいい香りがするし、暖かくて柔らかい。


 暗くて静かだから、よく眠れそうだ。


 俺はどうなったんだっけ。


 確か竜のブレスに呑まれて、加護で防ごうとして、それから……それから?


 記憶がないな。


 もしかして、死んだのか?


 死なないって決めてたのに、なんだかかっこつかないな。



「……――ァム」



 あいつらはどうなったんだろう。


 生きてるのかな、死んだのかな。



「――アム!」



 ……あれ、声が――



「ウィリアム!」




 ◆




「……あ?」



 目が覚めると、そこは見覚えのない場所だった。


 簡素な木造の天井に、カーテンのない窓からは眩しいくらいの光が顔面に注がれていた。



 ……まぶしい。



 どうやら、俺はベッドで横になっているらしい。


 なんか、体が重い。


 寝返り一つ打つのにも上に鉛があるかのように抵抗が強くて動けなかった。


 ……いやちょっと、あまりにも動けなさすぎるな。


 痛みがある手はまだしも、無事な胴が動かないのはおかしいぞ。



 顔を上げて、腹の上あたりを見れば、



「こいつら……」



 マリナ、ヴァレリア、フィデリアが体の上やら足元やらにもたれかかっていた。


 マリナは思い切り俺の上で寝ているし、ヴァレリアは足元で、フィデリアは俺の手を握っていた。


 認識した瞬間、全身に鳥肌が立った。



「ぁぁぁああ、ああああ」



 まじで虫唾が走る。

 フィデリアが握っている手から、ヴァレリアの吐息が当たる足元から、ぞわぞわとした感覚が這い上がってくる。



「ぬぁああああああ!!!」

「わあっ!?」

「きゃああああ!!」

「いやあああ!!」



 起きていきなり、全力であばれた。


 こんな状態で暖かくて柔らかいとか思ってたのか俺は。


 最悪だ。記憶を消したい。



「おはよう……ウィリアム」



 ベッドから落っこちたマリナが満面の笑顔を浮かべてくれた。



 ……まあ、記憶を消すのはやめとくか。



「おはよう、いまどんな状況だ?」


「いま私たちがウィリアムのベッドから落とされた。寝相が悪いにもほどがある」


「知るか、勝手に人のベッドにもぐりこんでくる奴が悪い」



 ヴァレリアがしれっと立ち上がって悪態をついてきた。


 いや、こいつは人のベッドにやってくるなんてタイプじゃないだろうに。



「なんでお前がここにいるんだ」


「だって、私ここ以外に他に知り合いいないんだもの」


「お前いくつだよ、寂しすぎるだろ」



 いうと、ヴァレリアは目に見えて落ち込んだ。


 あ、こいつは真正のぼっちで自分でも気にしてるんだな。



「私は現在の国の状況を報告に参りました。そこにたまたまお二人がいたので、同行させていただいたといいますか……」


「同行してんじゃねぇ。お前はちゃんと仕事しろ」



 セビリアの受付嬢のフィデリアが若干顔を赤らめた。


 ぞわぞわと、また悪寒が走る。



「よし、マリナ以外は出て行け。俺は寝る」


「ちょっと待って! 私他に話せる人がいないの! みんな天上人嫌いだし!」


「待ってください! 私もウィリアムさんの看病がしたいです! 私ウィリアムさん担当の受付嬢ですから!」


「うるせぇクソボケ! いらねぇっつったらいらねぇんだ! なんならそこ二人でずっと話でもしてろや!」



 俺は根本的に人が嫌いなんだ。


 しかもここはたぶん病室で、俺の寝床だ。


 寝床に人がいるのは本当に不快で仕方ないんだ。



「そういわないで……二人とも本当に心配してたんだよ?」



 ……マリナが言うなら仕方ない。


 みんな生きてることから、ルナマリナとウィルベルが竜を討ってくれたんだろうから。


 深いため息を1つ吐く。



「とりあえず、報告を聞こうか」




 ◆




 ウィルベルと二人で、竜の首を斬り切った。

 途端に溢れ出してきた白い炎はエフィメラが全力で離脱したことで、ぎりぎりで回避した。


 喉まで焼けそうな熱気が無くなり、大空へと舞い上がったとき。



「やった! やった!! やった!!!」



 ウィルベルが歓喜の声をあげた。



「ついに竜をやったのよ!!」



 彼女の声につられ、下を見れば、そこには大地に横たわる首が切られた巨大な竜。

 綺麗に切断された首からは、大量の血が吹き出して地面に赤い湖を作り出していた。



 竜はもう動かない。



「やった……やったんだ!」



 実感がじわじわと湧いてきて、頭の後ろで弾け飛んだ。



「かったんだ!!!」


「やったのよ! ついに戦いは終わったの!!」



 涙ぐみながら、ウィルベルと二人で抱き合った。


 抱き合って余計に涙が溢れ出してくる。


 喉が痛い、前が見えない。


 だけど、本当にうれしかった。


 これでもう、あの辛い日々はもう無くなる。希望に満ちた未来が待ってる。



 彼はもう――



「そうだ、ウィリアムは!」


「そうだった! あいつらを助けに行かないと!」



 すぐにエフィメラは旋回して、ウィリアムたちの元へと向かった。


 彼らの場所はすぐに見つかった。


 ブレスが放たれていた地面は赤く赤熱して、ガラスみたいに光っていた。

 でもわたしたちの軍勢がいる場所だけはまるで壁があったみたいに綺麗な土色で、放射状に黒い線が伸びていた。


 よかった、みんな無事だ。


 これなら、きっと――



「なんかおかしい」



 ウィルベルの声が少しだけ震えていた。



「え……」



 軍勢をよく見れば、黒い扇の要部分に人が大勢集まっていた。


 その近くにエフィメラは降り、わたしたちもすぐに降りて人混みの中に駆け寄った。



「なにがあったの!?」


「あ、ウィルベルさん、ルナマリナさん! ウィリアムさんが!!」


「え!?」



 尋常じゃない汗をかいて狼狽するハンターたちに、最悪の光景が脳裏をよぎる。

 一瞬でさっきまであった歓喜がふき取んだ。


 いやだ、いやだ、いやだ――!


 すぐに強引に人混みの中に体を入れた。人の肘だったり胸だったりにぶつかったけど、そんなことはどうでもよかった。


 かき分けたさき、人の中心には――



「ウィリアムさん!」


「しっかりしなさい! 何が起きてるの!?」


「この青い結晶はなんだ!? 人じゃなくなってるのか!?」



 炎に焼けて赤くなったウィリアムが横たわっていた。


 しかも彼の体からはいくつもの小さな青い結晶が生えていた。



「なに……これ」


「あ! ルナマリナさん! ウィリアムさんからものすごい青い光が出て炎を防いだと思ったら、ウィリアムさんが倒れたんです! そしたら体からどんどんこんな結晶が生えてきて!」



 フィデリアが顔を真っ青にして瞳に涙を浮かべていた。


 わたしもウィリアムに駆け寄って、様子を見る。



「これは! ……神気の結晶!?」



 ウィリアムの腕に生えていた青い結晶を観察すると、彼の『加護』と同じ神聖な力を感じた。



「ちょっと、なにこれ!?」



 追いついたウィルベルがもともと大きな瞳をさらに大きく見開いた。



「すぐに治療しないと危ない! こいつの体は聖人! 神気でできてるから、早くしないと全身結晶になっちゃうよ!」


「結晶になるとどうなるの!?」


「人じゃなくなる!」



 断言したウィルベルの焦りから、本当なんだと嫌でも痛感した。


 どうすれば――



「治療しながら全身の結晶を引き抜くわ。マリナ、いける?」



 迷いのないウィルベルの眼。


 すぐにわたしは頷いて、祈る。


 途端に溢れ出してくる白い神気の輝き。



「取り出すわ! あんたたちも手伝って!」


「は、はい!」



 ウィルベルとハンターたちが一斉に彼の体から結晶を抜き出した。

 結晶は深い場所まで侵食しており、抜いた途端に大量の血が噴き出した。


 でもそれは、わたしが塞ぐ!



「お願い……帰ってきて!」




 ◆




「という感じで、ウィリアムさんは助かったんです」

「そ、そんなことが……」



 改めて自分の体を見下ろせば、そこかしこに包帯が巻かれているし、ベッドの横にある机には樽一杯に大量の青い結晶があった。


 そのうちの一つを手に取る。



「こんなのが俺から生えてたのか」


「それはもう大量にね。取っても取っても生えてくるから、出なくなるまで本当に時間かかったのよ。ちなみにそこにあるのはほんの一部。この部屋に運ばれてからも時折出てきたから、その分ね」



 ふーん、と相槌を打ちながら光に透かしてみると、透過した光が結晶の中で反射してきらきらと輝いていた。



「これ、売れそうだな」


「あなた、自分の体から生えたものを売り物にするなんてなかなかの変態ね」



 黙れヴァレリア。

 俺から生えたと言われなければ宝石といっても通るレベルだぞ。



「ルナマリナとあの魔法使いの子に感謝することね。あの二人がいなきゃ今頃あなたは結晶になって死んでたわ。それはそれで、莫大な高値がつきそうだけど」



 呆れを含んだ笑みを浮かべながら、ヴァレリアは部屋を後にした。



「ヴァレリアさんもすごく心配されてましたよ。あんな感じですけど、やっぱり唯一生き残った天上人ですから、心細いんでしょう。ハンターからすれば敵そのものでしたから」



 そんなもの自業自得というものだ。


 ……それに、結局ここにいる連中は全員彼女に何度も命を救われている。


 そんな彼女を非難する奴がいたとすれば、そいつらを殺したとしても誰も文句は言わない。



「それはそうと、この国の状況についてなのですが」



 フィデリアが姿勢を正し、あの戦いの後について教えてくれた。


 俺はどうやら三日ほど眠っていたらしく、その間に中層のハンターたちが中心となって下層民と町おこしをして、上層民と一緒に上層の町の復興に当たっていらしい。


 マリナも手伝って飛竜を率いてセビリアに戻って、山の幸やらなんやらを取って飢え死にしないように食料を配って回ったらしい。


 もうこの国に層を隔てた諍いはない。


 中層を中心に、上層も下層も手を取りあって前に進んでいる。



「……もう俺は必要ねぇな」


「ウィリアムさん?」



 なんでもない、と首を横に振った。


 窓の外を見れば、青く澄み渡った空と眩しく光る太陽があった。



 平和だ。



 ようやく手に入れた平和だ。



 ついに、約束を叶えられる。



「ちょっと出るわ」



 ベッドから出る。


 部屋にいるフィデリアとマリナを見る。



「……?」


「……どうしたの?」



 二人とも一切動こうとせず、こっちを見て首をかしげるだけ。



「俺、出て行くんだけど」


「ええ、聞きました」


「どうかしたの?」


「着替えたいんだけど」



 俺はいま患者みたいな薄手の簡素な服しか着てない。



「おかまいなく」


「気にせずどうぞ」


「出て行けっつってんだよ!」




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