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57.敗者と愚者

 


 ウィリアムが立ちあがった。


 彼の体からは見とれてしまうような青い光が放たれている。


 でも状況はとっても悪い。


 彼は未だに傷だらけでお腹から血を流していて、味方だったはずのハンターたちは全員が竜に操られ、敵になってしまった。


 しかも操られた彼らの攻撃はなぜかヴァレリアの結界を貫通し、しかも今はヴァレリアの魔法は竜によって使えなくされた。


 ヴァレリアが魔法を使えないなら、ウィリアムも魔法を使えないかもしれない。


 そうなれば、彼の《大地の王テッラ・ラディスラウス》も使えない。


 竜とこれだけの軍勢を相手にはできない。



 ――だけど、彼はそれでも立ち上がった。



「無理よ……逃げましょう! こんなの勝てっこないわ! 早く逃げるのよ!」



 怯え切ったヴァレリアがウィリアムにすがりつく。



「もうここにいる人たちは竜の手先なのよ! 私たちは魔法を使えない! しかもあなたも竜には歯が立たなかったじゃない! ここは力を合わせて逃げるしか――」



 必死にウィリアムを説得するヴァレリアに――……



「うるせぇな」


「ヒッ!」



 ウィリアムはドスの利いた声で一蹴した。


 彼はヴァレリアの胸倉を掴んで、至近距離で睨みつける。



「逃げてぇなら勝手に逃げろよ。なんもねぇ臆病もんの愚者が」


「……っ」



 血まみれの手に血まみれの顔。


 ヴァレリアは息をのんだ。



「あなたは……怖くないの? 死ぬのよ? こんなの、絶対に勝てない! そんな戦いに挑んで死にに行く方がよっぽど愚か者よ! あなたもハンターたちも! 死ぬくらいなら、恥でも逃げて――」


「死んだやつは愚か者か?」



 ウィリアムはヴァレリアを投げ飛ばした。


 彼女は尻もちをついて、ウィリアムを見上げた。



「本当に恐れるべきは、死ぬことなんかじゃない。生きていながら、何もなせないことだ」



 ウィリアムは視線をヴァレリアから切り、竜と操られたハンターたちに向ける。



「なにかを成そうとして道半ばで倒れた彼ら(・・)は、たしかに敗者かもしれない。でも彼ら(・・)は決して愚者じゃない。お前はどうだ? 死にたくないと思うばかりで、長い人生で何も積み上げてこなかった」


「……」


「人はいずれ必ず死ぬ。早いか遅いかの違いだけだ」



 ――彼の中にいる、彼に想いを託して死んでいった人たち。


 彼らは決して愚者じゃない。


 だって今、彼らが成したことによって、ウィリアムがみんなを背負って戦ってるんだから。



 ウィリアムは周囲にいる全員に向けて――



「お前らもなんのために戦ってんだ! この国の言いなりになりたくなくて、自分の力で生きるためだろ! ならいつまでも、操られたままでいんじゃねぇ!!」



 ウィリアムの体から、強い光が放たれる。



 とっても神秘的で、強くて、優しい青い光。



 ウィリアムの『加護』の光。



 彼の青い光が戦場に広がった。



「――……あれ?」

「俺達、なにしてたんだ?」

「おかあさん、どこー?」

「さっきまで町にいたよな? なんでこんなとこに」

「なにこの光……きゃ、竜よ!!」



 彼の光によって、途端に正気を取り戻したハンターと上層の民たち。



【ほう、『加護』か。久方ぶりよな。それもこれほどの強き『加護』は】



 異常を察した竜はとぐろを解いてにやりと笑い、一歩わたしたちに向けて踏み出した。


 それだけで、操られていた人たちは全員竜に気づき、何も知らない上層市民から一気に恐慌状態に陥った。


 パニックは伝染する――



「きゃーー‼ 竜よ‼」

「逃げろ、逃げろー!!」

「あ、あんた軍人だろ! 助けてくれよ!」

「うるせぇ! あんなもん勝てる訳ねぇだろうが! てめぇで何とかしやがれ!」



 醜くも人らしく、足を引っ張り合って逃げる上層の住人達。


 対して――



「すみません、ウィリアムさん。正気を失くしていたようです」

「またしても俺たちは、あなたに剣を向けてしまいました」

「どうお詫びすればよいか……」



 セビリアを始めとした中層と下層のハンターたちは、未だに落ち着いていた。


 彼らは謝りながらも隊列を整え、剣を再び竜へと向ける。


 竜から逃げる上層民と竜に立ち向かう中層と下層民たち。


 軍人ではない、見慣れぬ大勢の集団に竜から逃げていた上層の人たちは違和感を覚えた。



「あんたたち! 早く逃げろよ! 死ぬ気かよ!」

「ほっときなよ! 囮になってくれるんだよ! 軍人さんなんだから!」

「いや、あれはどう見ても違うだろ! ただの一般人じゃないか!」



 竜から逃げる方向とは反対に進む集団を前に、徐々に上層民たちの歩みは止まる。


 そして完全にわたしたちが竜の前に躍り出たとき――



「俺は人間が嫌いだ。ここにいる全員嫌いだ」



 ウィリアムは剣を構え、従うようにハンターたち全員も構えだす。



「でもお前らは愚者じゃない! 今まで何かを成そうと死も恐れずに戦ってきたお前たちは、立派な英雄だ! さあ、今俺たちの目の前にいるのはなんだ!」



 のそりと動き出す巨大な竜は、わたしたちを見て口に炎を滾らせた。



「この国に巣食う邪悪な竜! されどたかが一体だ! 俺達は何人だ!? たかが数百万人の英雄だ! こんだけ数の差があって、逃げ出す臆病者はいるか!?」


「セビリアにはおりません!」

「バルセロシアもだ!!」

「マルガ、ゲルシアも!」


 次々とハンターたちが剣を掲げ、気炎を吐いた。



「ここで逃げ出す臆病者にこの先できることは何もない! 傷病者を運ぶでもなんでもしやがれ! ここに最後、誰か一人でも立ってれば、それが俺達の勝利だ! 戦え! 戦え!! 王亡きこの国で、世界を変えるのは俺達だ!!」



 ぞろぞろと、ハンターたちの横に並び始める上層民たち。


 怪我をした中層民や最初からぼろぼろの下層民に肩を貸す軍人たち。



「人はいずれ必ず死ぬ! ここにいる全員がいつか死ぬ! だがそれは今日じゃない! いつかこの国が闇に呑まれ、業火に燃え尽きるかもしれない! だがそれは今日じゃない! 俺達が消えるのは今日じゃない!」



 竜が大あごを開けた。

 煌々たる白き炎が放たれ、わたしたちに迫る。



 呑み込まれれば一瞬で灰へと還る炎に、わたしたちは突っ込んだ。


 炎に飲み込まれる直前に。



「やあやあ、ここはあたしの出番かね?」


「もうほんとに、こんなのガラじゃないのに!!」



 わたしたちの前に現れた二人の魔法使いが炎を完璧に防ぎきった。


 現れたのは銀髪と青髪の魔女。



「なになに? 臆病者の魔法使いさんは逃げないの?」


「こんなの、逃げたらあとが怖いじゃない! 逃げたいのに逃げられないなんて最悪!」


「あはは! 筋金入りの臆病者ね! でもいいじゃない。死ぬより怖いものがあるって知れたんだから」



 ついに揃ったわたしたち――この国の全戦力。


 二人の魔法使いの力を借りて、わたしたちは炎の壁を突破して、竜の元へと駆け抜ける。



【クハハハッ! よかろう! 貴様ら全員を英雄と認めよう、この《大地の白神(ドライグウィブ)》が認めよう!】



 竜は笑い、鎌首を上げ、向かってくるわたしたちを見下ろした。


 前足を踏み下ろし、大地を揺らす。


 地面が裂け、炎が噴き出す。


 それでもわたしたちは歩みを止めず、竜へと向かう。



【我に討たれ、我が武勇の一項となるか。はたまた我を討ち、世界のその名を轟かせるか】



 竜の全身から白き炎が噴き出した。



【いざ挑むがよい。今を生きる英雄どもよ】



 厳かな宣告。


 ウィリアムは剣を掲げて――



「この剣にかけて! この命にかけて! この胸に宿るすべての人の想いにかけて!!」



 青き光が一際強まり、ついに竜の目前に迫って――



「今日! ここから! この世界を変える!」



 叫んだ。


 応じるように、地をどよもす盛大な鬨の声。



「「「ゥオオオオオオオオオ!!!」」」

「我らが王よ! 大地の勇者よ!」

「邪悪の終わりだ! この国の夜明けだ!」

「青き星に日は昇る!」


「《生きることは戦いだウィウィレ・エスト・ミリターレ》!!」


「《幸運は勇者に味方するフォルテス・フォルトゥナ・アドユァト》!」


「《息をする限り(ダムスピロ)希望を抱く(スペーロ)》!!」


「《今やらなければ(ナンクアウト)二度とできない(ナンクァーム)》!!」



 勇気を奮わせ、力を引き出す魔法の言葉。


 応えるように、竜が大きく咆哮し、わたしたちと激突する――




次回、「ごめん」

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