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53.神器の力

 



「ひどい有様ね……」



 城の外に出れば、もうそこにはさっきまで広がっていた上層の街並みはなく、瓦礫と炎だけが地面を覆いつくしていた。


 これじゃ、この女の人を置いてける安全な場所がどこにもない。


 ……そうだ、この城の地下なら!


 思いついたらすぐに、あたしは外から回り込むように城の地下へと飛び込んだ。


 竜はこの城は襲わない。

 この城にはあの王がいる。

 どんな王様だって、あのブレスに当たったらひとたまりもない。

 なぜかはわからないけど、あの王と竜は結託してる。


 だから、城の根幹でもある下層部分を竜が狙うことはない、と思いたい。



「えっと、地下で安全そうな場所は……」



 城に入って下の方へ下の方へ、壁が分厚そうな場所を目指して歩く。

 すると、人気が無くて固そうな石壁が立ち並ぶ場所に出た。



「ここは、牢獄?」



 そこは、石壁の奥には鉄格子に阻まれた部屋がいくつもあった。

 でも人気はない。


 ここはたしかに頑丈そう。


 何度か、彼女と牢獄に視線を移す。


 ……仕方ない。


「ごめんね。今だけここで休んでて。すぐに迎えにくるから」


 牢獄の中、空いている部屋のベッドに彼女を寝かせてあたしはすぐにそこを出た。



 そこには他に誰もいない。そう思っていたから――



「考えることは皆同じ、か?」

「――ッ!」



 地下に響くしゃがれた男の声。



「まさかこんな地下にくるとはね」

「貴様らの考えることなどお見通しよ。余は王である。すべてを見通してこその王である」



 いけない、ここを戦いの場にしちゃいけない。

 あたしは男が牢獄に姿を見せる前に、石部屋から飛び出して男を迎え撃った。



「《玉響剣》!!」



 廊下に男の姿が見えた瞬間に、魔法の剣を浮かべて放った。

 しかし、相手に向かっていく魔法剣は、奴が振るった黄金の剣が作り出す光の柱によって一瞬で溶かされた。


「うわっと!」


 光の柱はそのまままっすぎにあたしのほうへ飛んできた。

 慌てて脇の通路に飛び込んで回避する。



「うっひゃ~、やっぱりとんでもない威力ね。神器ってホント反則」



 でも、倒せないわけじゃない。

 相手は人間、魔法使いでもないただの人。



「空間魔法なんて柄じゃないんだけどねぇ」



 飛び込んだ通路を、空間魔法で空間の連続性を切り離す。

 その中で炎を放つ。

 炎は何もない通路で燃え続け、やがて黒い煙だけを残して収まった。


 あとはここに、奴をおびき寄せるだけ。



「おーにさーんこーちらー、手ーの鳴るほーうへ―」



 歌いながら、他にもいくつもの地点で同じ罠を仕掛けた。

 やがて廊下を歩く足音が近づいて来た。



「小賢しい真似を」



 廊下を反響した男の声。

 響きまくってるせいで、男の居場所はよくわからない。

 さすがに空間の連続性が断たれて、ほんの数ミリズレただけで全く様子が違う廊下を見たら、警戒するか。

 でも、傍目じゃどう危険かわからない。

 そして通らなければ、あたしのところには来られない。


 まずは通って確かめようとするでしょう。

 そのときが終わりの時よ。



「空間魔法。その手は知っている」

「え――」



 悪寒が走った。


 とっさに頭を抱えてその場に伏せた。



 直後にあたしの背後の壁が糸を引くように横一線に引き裂かれた。



「うっそ!!」

「王は虚言は吐かぬ。余は全てを切り裂き、すべてを貫く」



 がらがらと崩れる切り裂かれた壁の上側。

 あたしの頭上に崩れてくる瓦礫を魔法で弾き、無理やり爆発の魔法で距離を取った。


 男を見れば、奴の左手にはもう一つの神器。



「今度は何でも切り裂く神剣ってこと?」



 黄金の剣の対となるのは、青藍纏う白銀の剣。

 剣じゃ切れないはずの石壁を簡単に切り裂いたのは、奴の左手にある剣だった。



「遠近両方最強ってこと!? とんだ反則ね!」

「それが王だ。凡人には成せぬことを成すのが王。故に、余を殺せるものなどこの国には存在しない」

「とんだ暴論ね!」



 再び振り下ろされる白銀の剣を、あたしは結界を張って防ごうとしたけど、やはり神器の剣の前では生半可な剣では無意味、すぐに結界が破られた。


 でもその一瞬で、あたしは数歩距離を取り、再び杖を振るう。



「《落とし穴(エルデロッホ)》、《墨煙弾(アトラメントゥム)》!」



 男の足元に落とし穴を、視界を塞ぐ黒い粘着性の煙幕を張る。


 そのままあたしは杖を持って――



「小賢しい真似を!」



 奴は黄金の剣を振るい、足元の地面を破壊した。その衝撃で周囲の煙幕も払われる。



「これで――なに?」

「どう? すごいでしょ?」



 払われた先にいるのは、このあたし。

 杖から小さな光の剣を生やしたあたし。


 軽い杖を男の心臓めがけて振るう。


 しかし、咄嗟に男は反応し白銀の剣で防ごうとした。

 ただ、あたしの剣は魔法で作った紛い物。

 物理法則には従わず、奴にまっすぐに向かった刃は防ごうとした白銀の剣の刀身を滑り、男の手首に突き刺さった。



「ぬぅ!」



 さすがの奴も手首に刺さった杖の剣は痛いようで、苦悶の声を上げた。

 当たり所が良かったのか、白銀の剣を取り落とす。



「よし!!」

「間抜けが」



 すぐにその剣を回収しようとしたけど、今度は右手の黄金の剣が振り下ろされ、あたし拾うのを断念してその場から飛び退いた。

 そのまま光の柱があたしを追撃してくる。



「ちぇっ! 拾えれば強かったのに!」

「余が盟友を使おうなど、万死に値する!」



 咄嗟に距離を取り、周囲をあえて壊して瓦礫を盾にするも、何度も放たれる光の柱。

 いてもたってもいられず、どんどんとその場から離れていく。



「これじゃ地下も危ないわ! ウィリアムは!?」



 歯を食いしばりながら、あたしは魔法で男と戦う。

 地下の女性、そしてウィリアムを気にしながら。




 ◆




「なにが起きてるの?」



 上層の外で、ヴァレリアとハンターや軍人たちをまとめていたところで、急に聞こえてきた低くお腹に響いてくる巨大な唸り声。

 そして上層と中層を遮る壁の上からでも見える巨大な白き炎。



「ヴァレリアは……何が起きてるかわかる?」



 隣で魔法の準備をしている青髪の魔女ヴァレリアに聞くと、彼女は小さく首を横に振った。

 魔法の準備中だから、余計なおしゃべりは難しいみたい。


 ……やっぱり心配だ。


 待つのは辛い。


 わたしも二人と一緒に戦いたい。


 自分の手のひらに目を落とすけど、ウィリアムとは全然違う。

 ごつごつしてないし、腕も細い、固くもない。


 剣なんて持てない。



「悔しい……」



 こぶしを握る。

 そして、隣にいるヴァレリアを見た。



「《強固神界ソリデュス・スクートゥム



 彼女が魔法の言葉を唱え、杖の柄で地面を叩いた。

 その瞬間、杖を起点に波動が広がり、瞬く間にハンターたちを覆う結界が出来上がった。



 ――わたしにはウィルベルやヴァレリアみたいな魔法もない。



 あるのはただの聖人であるというだけ。


 それだけじゃ何もできない。なにも力になれない。



「来るわよ」



 ヴァレリアが短く言った。

 その言葉でわたしの意識は現実に引き戻される。


 目の前には、大勢の虚ろになった民兵が混じった大軍団。



「撃て――!!」



 アルバンの野太い掛け声とともに、大雨のごとく弓矢が降り注ぎ、敵軍に突き刺さった。

 幾人もの人が悲鳴も上げず、ただ虚ろなうめき声をあげて倒れていくだけ。

 倒れた人も気にせずに、まだ生きている彼らは倒れた彼らすら踏みつけにして迫ってきた。



「なんだ、あいつらは……」

「味方じゃないのか!?」

「こっちにくるぞ! あんな数、勝てるのか!?」

「うろたえるな! 敵は後に引けないだけだ! 引きこもりの上層民に後れを取るな!」



 うろたえだしたハンターたちをアルバンたち各町のギルド長が必死に鼓舞した。



「弓隊準備! 盾隊、槍隊は陣形を取れ!」

「ファランクスだ! 盾の合間から突き出せ!」

「合図で全員突撃だ! 弓隊準備はいいな!!」



 あちこちから上がる怒声。


 そして、ときは来て――



「いけーーー!!!」



 両軍はぶつかった。


「うぉおおおお!!!」

「上層民なんぞに負けるかああ!」

「今までの恨みを思い知れ!」

「この国は今日、ここから変わるんだ!!」


 雄叫びを上げて武器を振るう戦士たち。

 相手もまた虚ろな瞳を向けたまま、しかしその瞳とは反対に鋭い攻撃を仕掛けてきた。



「こいつら! 本当にただの民兵か!?」

「強いぞ! 全員気を抜くな!」

「ぐあああ!!」



 争いとは無縁の一般市民とは思えないほどの鋭い剣と動きに、百戦錬磨といってもいいはずのハンターたちが次々と倒れていく。



「なんで? ……どうして」

「この現象はおかしい」

「ヴァレリア?」



 杖を保持し続けるヴァレリアの額には玉のような汗が浮いていた。



「私の結界があるから、物理攻撃は軽減される。この数のハンターを守り切るのは難しいけど、死なせないだけならどうとでもなる。でも相手が異常ならその限りではない」

「やっぱり異常なんだね……原因はわかる?」



 ヴァレリアは首を横に振った。

 しかし、ただ――と言葉を続けて。



「恐らく王かそれに類する何かがいる。あの上層の空気を醸し出している何かがこの事態の原因よ」

「……取り除かなきゃ」

「それは無理よ。あの二人に任せるしかない」



 ウィリアムとウィルベルに、この戦場の趨勢がかかっている。


 いや、この国のすべての命があの二人の肩にのしかかっている。


 ――わたしも二人の重荷を一緒に背負いたい。


 もう背負われるだけは嫌だから。



「わたしも戦う!」



 わたしは傍に控えていたエフィメラに飛び乗った。



「待ちなさい! あなたは回復役よ! そのあなたが飛び出しては二人が危険にさらされる!」

「エフィメラがいるから大丈夫! ……空からなら力になれる!」



 エフィメラの背中を叩くと、エフィメラは一度鳴いてから飛び立って、敵軍の上空に舞い上がり、地上に炎のブレスを吐いた。



「ありがとう……このまま行こう!」



 わたしも戦う!






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