木漏れ日の子守唄
「ん……」
蓮はいつの間にか意識を失っていた。
体にはひんやりとした地面の感覚。
頭には人肌程度の柔らかな感触。
「あ……?」
今の自分がどうなっているのかいまいち把握しきれない。
蓮は気怠げに、ゆっくりと瞼を開く。
視界に映るのは、仄かな朝焼けに照らされたバニラの顔だった。
不安げな顔で、新緑色の瞳をこちらに向けている。
「……大丈夫ですか、蓮さん」
安らぎと穏やかさを混ぜたような、優しい声だった。
「あァ。心配ねェよ。……それよか、これ……」
蓮は今の自分が、バニラに膝枕されているということに今更ながら気づく。
「いいのかよ、またリズがうるせェぞ」
「呆れた。あれだけ暴れてまだそんな皮肉がきけるのね」
バニラと一緒に、リズも蓮の視界に入ってくる。
憎まれ口を叩きつつも、そのアメジストのような瞳には、不安と心配が入り混じっている。
「ンな思い詰めた顔するなよ。それより、フリット……ボンボンはどうした?」
「馬にしがみついて帰ってったわよ。用心棒たちも散り散り」
そうか、と安心し、一呼吸入れる蓮。
年下の少女にこれ以上膝枕をされるのも忍び無いので、勢いをつけて体を起こそうとするも、うまく力が入らない。
「あ……?」
「あ……じゃないわよ。初めて飲んだ魔剤であれだけ魔力使って暴れ回ったんだから、しばらくはまともに動けないに決まってるでしょ。初回なら普通、二、三日は目も覚まさないんだから」
あー……、と蓮は二の句を継ごうとモゴモゴする。
要するに今このバニラに膝枕されている状態は自分ではどうにもならないということらしい。
首を横に動かせば、村の人たちが集まって、用心棒が落とした武器や装備なんかを回収しているのが見える。
つまり、この状態はすでに、村の人間にばっちり観測されているということだ。
齢十八の蓮としては、気が気でない。
というか恥ずかしい。
今まで意識していないから気づいていなかったものを、いい匂いまでしてくる始末だ。
「まぁ、今は何も言わないでおいてあげる。バニラに膝枕されてるのもね」
いい獲物を見つけたと言わんばかりに、リズは悪戯っぽく口角を上げる。
しかし今の蓮には、その表情は悪魔のほほえみに思えた。
「……村のみんな、誰も怪我もしてません」
蓮の赤い頭を撫でながら、バニラが静かに語る。
「リーちゃんと、蓮さんが守ってくれたから。ありがとうございます」
朝日が少しずつ登って来て、バニラを照らす。
新緑色の髪が、陽の光に照らされる葉っぱのようにきらめく。
穏やかな温もりが、蓮の瞼を重くする。
「ゆっくり、休んでください。今度は、私たちが、ずっと見守ってあげますから」
そう言って微笑むバニラと、ふん、とそっぽを向くリズ。
それが、再度眠りに落ちる、その前に蓮が見た最後の光景だった。
(……ああ本当に久しぶりだ)
(こんな安らかな気持ちで眠れるのは……)




