表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

5『え、その携帯が〇〇!?』


ユキとねねことルブランと…… 5『え、その携帯が〇〇!?』


栄町犬猫騒動記


大橋むつお


※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最後に記しておきます



時  ある春の日のある時


所  栄町の公園


人物


ユキ    犬(犬塚まどかの姿)


ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)


ルブラン   猫(貴井幸子と二役)






携帯電話を奪って、もどってくるユキ。その後を血相を変えたルブランが追ってくる。


ルブラン: この泥棒犬。今度邪魔をしたら、許さないって言ったでしょ!

ユキ: 血相変えて追いかけてきたわね。

ルブラン: 誰でも、大事なものをかっぱらわれたら、頭に血がのぼるわよ。さあ、返しなさい、わたしの携帯電話……

ユキ: よほど大事な携帯ね。でも、いまどき携帯をわざわざケースにしまってる人なんているかしら……

ルブラン: 出すな、ケースから!

麻衣: スンゲー! 見たこともない高級品!

ルブラン: いじくるんじゃない!

ユキ: ルブラン……あなた、幸子さんを携帯に変えたわね?

麻衣: え、その携帯が幸子!?

ユキ: そしてこのケースは、携帯にされた幸子さんが逃げ出さないためのイマシメ。

麻衣:そうか、万一ポロリと落っことして、人が拾っちゃったら……幸子って、携帯になっても、お嬢様なんだ……

ユキ: 考えたものよね、携帯に変えれば、肌身離さず持っていても怪しまれないし。そして、思う存分ネチネチ、ビシバシ言葉のパンチをあびせても自然だものね……ケースにもどしては……かわいそう、必要以上にしめあげたのね、皮ひものあとがこんなに……

ルブラン なにを他愛もないことを……


麻衣、なにかひらめいたらしく、力いっぱい携帯電話に水をかける。携帯といっしょに、ビショビショになるユキ。


ユキ: 麻衣ちゃん……そういうことはヒトコト言ってからしてくれる。

麻衣: ごめん、携帯に薬かけたら、幸子にもどるかなって……だって化代にかけたらもどるって……

ユキ: わたしも、そう思ったんだけど……ハックション!

ルブラン: ハハハ……まるで水に落ちた犬だね。さあ返しな。それは高級品だけど、ただの携帯電話。化代なんかじゃないんだよ!

麻衣: くそ!

ルブラン: 知っているかい、こんな言葉……水に落ちた犬はたたけってね!


しばし、みつどもえの立回り。おされ気味のユキと麻衣(戦いを表す歌と、ダンスになってもいい)


麻衣: ユキ、もうだめだ。こいつにはかなわないよ。

ユキ: あきらめないで。ルブランのこの真剣さ、この携帯、化代に違いない!

麻衣: だって、いくらやっても効き目がないよ……(片隅に追い詰められる二人)

ルブラン: フフフ、バカの知恵もそこまでさ。覚悟をおし……

ユキ: この携帯、高級品……ひょっとして……(携帯の裏側をさわる)

ルブラン: やめろ、さわるな!

ユキ: この携帯は……高級品のウォータープルーフ。つまり防水仕様になっている。

麻衣: さすが、ゼネコン社長のお嬢様!

ユキ: でも、防水仕様は外側だけ、電池ボックスを開けて、内側に、その水鉄砲を……どうやら図星ね……麻衣ちゃん、もう一度この携帯を撃って!

麻衣: よっしゃ!

ルブラン: させるか!


ユキが素早く電池ボックスを開けた携帯に、あやまたず麻衣の水鉄砲が命中!


ルブラン: ギャー!

麻衣: やった!

ユキ: どうやら、正解だったようね。わたしの手の中で、幸子さんが、自分の鼓動をうちはじめている。

ルブラン ……なんてこと……せっかく、せっかく、ルブランの夢がかなうところだったのに……(断末魔のBG、ルブラン倒れる)


暗転。明るくなる。幸子を囲んで麻衣とユキ、「幸子さん」「幸子」と声をかけている。


幸子: わたし……わたし、もとにもどれた……もとの姿にもどれたんだ!

ユキ: 幸子さん、もどれたんですね!

麻衣: ルブランも、もとの猫にもどって逃げていったわ。

幸子: ありがとう、麻衣ちゃん、ユキちゃん。

ユキ ユキでいいです。そう呼ばれなれてるから。

幸子: ううん、ユキちゃんが気づいてくれなかったら、わたし死ぬまで携帯電話のままだった。

麻衣: 水鉄砲撃ったのは、あたしだからね。

幸子: ありがとう。

麻衣: でも、防水仕様には気づかなかった。これは、ユキのお手柄。しかし、ルブランてのは相当の悪だったわね。

幸子: ルブランがこうなったのも、わたしのせいだと思う。甘やかしたり、いじめたり。わたし自身、思いあがって、わがままのしほうだい。そんなわたしを、ルブランはじっと見ていたんだわ……

麻衣: あたしと、ねねこも……

幸子: わたし、ルブランを探しに行く。

麻衣: あたしも、ねねこを……

ユキ: それはよした方がいいわ。

幸子: え……?

麻衣: どうして?

ユキ: 今はまだ、あやまりに気づいたばかり。気づいただけだもん。もう少し時間と努力が必要だと思う。ちゃんとしたパートナーとしてつきあうために二人と二匹には……もう少し、もう少し、人と自分を見つめる時間と努力が……

幸子: そうよね……ユキちゃん、えらい!

麻衣: さすが、まどか御自慢の愛犬ユキだ!……ごめん、まどかはまだ見つかってないんだ……

ユキ: ううん、大丈夫。いずれは……(ユキの骨形の携帯電話が鳴る)もしもし……え、まどか!?

二人: え……!?


ストップモーション。ユキだけが動く。


ユキ: 電話は、わがあるじ犬塚まどかからでした。運よく犬の国へは行けたらしいのですが、見ると聞くとは大違い! たった半日で嫌になり、人間の世界にもどってくると言いました。わたしが、うっかりまどかの前で犬の友だちとなつかしそうにしゃべっていたことが災したようです。この点は、わたしも反省。そして、これで、わが栄町の犬猫騒動は終わりをつげました。どうです、この二人。まどかからの知らせがあった、その瞬間の表情です。麻衣ちゃんなんか、少し間が抜けて見えますが、二人とも、友の無事を知った、その一瞬の驚きと喜びがよくあらわれています……われわれペットは、こういう人間の表情を、実によく見ているものです……今のあなたたちと同じように……犬や猫が、天使になるか悪魔になるか。それはあなたたち次第。わたしは、明日まどかがもどってきたら、またもとの犬の姿にもどります。一歳ちょっとにしては小柄な、しっぽをキリリと巻き上げた、白い、一見紀州犬……もし、町で見かけたら、気軽に声をかけてください。もちろん人間の言葉で。そしてもちろんわたしは犬の言葉でお返しします。ワンワンワン、ワン! わかりました?「今日は、お元気?」ってな意味です。そのうちわかるようになりますよ、バウリンガルとかなしででも。それじゃあみなさん、ワォーン……これ、さよならって意味ね。ワォーン、ワンワンワン……

  

これに和するように、大勢の犬の「ワォーン」重なる。キャスト、スタッフ、出られる者は全員舞台に出て、イヌとネコと人の歌とダンスになる。  

 

みんな(唄う) 桜の花が、舞い散るころは、心はそぞろ。気もそぞろ。

新しいことが始まるような。

新しいものが来るような。

何かが、わたしを待っている。

誰かが、わたしを待っている。

そして、他の、何かを、誰かを忘れてしまう。

どこだ、どこだ、だこだ!?

忘れちゃならない、大切なこと。

忘れちゃならない、大切なひと。

新しきものに、心うつろう、その前に、覚えておこう。


桜の花が、舞い散るころは、心はそぞろ。気もそぞろ。

新しいことが始まる前に。

新しいものが来る前に。

わたしは、立ち止まってみる。

わたしは、耳を澄ましてみる。

そうして、わたしは、何かを、あなたを覚えておこう。

そこだ、そこだ、そこだ!

忘れちゃならない、大切なこと。

忘れちゃならない、大切なあなた。

新しきものに、心うつろう、その時に、覚えておこう。

新しきところ、心ひらける、その時に、忘れぬように。     

   



※ 本作は無料上演である限り作者名「大橋むつお」を記していただければ自由に上演していただいてけっこうです。上演許可も取らなくてかまいません。チラシやパンフレット、中高生の場合はコンクール等で連盟に提出する書類等に作者名「大橋むつお」を明記してください。連盟から上演許可書を求められる場合は書類を返送用の封筒を同封のうえ送っていただければ必要事項を記入して返送いたします。

 大幅な脚色、たとえば、登場人物が増えるとか減るとか性別が変わるとか、劇中のエピソードや台詞が変わる時は脚色者を記していただければ幸いです。


 2024年4月 大橋むつお

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ