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どうして好きになってしまったんだろう

作者: どんぐり

弟視点の話です。

今日、俺……世田谷せたがやわたるは、シンプルなスーツを身に纏い、結婚式上に来ていた。


なぜなら、今日は兄の結婚式だからだ。



「お! わたる

来てくれたんだな!」


式場に入ってうろうろしていると、そんな風に声をかけられた。


「……兄さん。

来てくれたんだな……って、招待状出したのそっちだろ」

「だって、だって、あんな、ツンツンしてたわたるが……うっ」

「言っとくけど俺の態度は兄さんのせいだからな」

「なんで!?」

「弟にべとべとくっつくような兄は気持ち悪いだろ」

「ひどい!」

「ひどいのは兄さんの頭だ」

「相変わらず毒舌だな。

……でも、兄さんは来てくれて嬉しいよ……感動のハグをしても良いくらい」

「やめろ気持ち悪いっ!」


……ちなみに、俺の兄は俗に言うブラコンである。

久しぶりに会ったけど、そんなところは変わってなかったらしい。

あと気持ち悪いところとバカなところも。


「あ、そうだ。

奈都なつとも全然会ってなかったよな。

式始まる前に顔見てくか?」


ドクン。


奈都なつ……その名前に心臓が高鳴ったのを感じる。


それを悟られないように、普通を装った。


「良いよ。式終わってからで」

「わかった。

奈都なつも久しぶりに会えるの楽しみにしてたから喜ぶだろうな~」


そんな風に兄さんは言った。


……本当に兄さんは、バカだ。


「兄さん」

「?」


「結婚、おめでとう」


「……」


俺がそう言うと、兄さんは一瞬固まった後、いつも向けてくれる、嬉しそうな笑顔でこう返した。


「ありがとう。わたる


兄さんは、気づいていない。


本当は俺が……心から祝福出来ていないことを。





俺が中学生。兄さんが高校生の時。

兄さんが、家に彼女を連れてきた。


恥ずかしそうに俺に彼女を紹介する兄さんを、とても嬉しそうに笑いながら見ていたのが、兄さんの彼女……宮野みやの奈都なつさんだった。


そして、こう言った。


「君のお兄さんと結婚するから、お姉ちゃんって呼んでくれて良いからね!」


その時俺は、すごく冷たい目で見たのだろう。

奈都なつさんは更にこう言った。


「えっ。ど、どうしたの?

私何か変なこと言った……?」

「初対面の彼氏の弟にお姉ちゃんって呼んでくれて良いからねとか普通言わないと思いますよ」


この時の俺は失礼だったと思う。謝りたい。

まぁ奈都なつさんも十分変だったと思うけど。


「……きみ

「はい?」

「全然、とおるくんに似てないね」

「ありがとうございます!」

わたるっ!?」


……これが、俺と奈都なつさんの出会いだった。


それから時々、奈都なつさんと話す機会があった。


俺が淡々とした返しをしても、適当に相槌をしているだけでも、楽しそうにしていた。

笑い話をしてくれた。

奈都なつさんはよく笑う人だった。

奈都なつさんは明るい人だった。

奈都なつさんは良い人だった。


奈都なつさんは……いつも、兄さんの話をしていた。




奈都なつさん。ここなんですけど……」

「お姉ちゃんって呼んでくれて良いって言ってるのに」

「え、嫌です」

「ひ、ひどい。

……えーっと、ここはね」


丁度俺が高校三年生の時、奈都なつさんは兄さんと一緒に受験勉強に付き合ってくれた。


そしてその日も、勉強を教えてくれた。いつも通りに。


そう。“いつも通り”……だと、思っていた。


ジュースを持って部屋に入ってきた兄さんは、奈都なつさんの顔を見た瞬間、部屋から連れ出した。


俺は、ただただ意味がわからず呆然としていた。


だけど気になって、兄さんの部屋に向かうと……兄さんに抱きつきながら、泣いている奈都なつさんがいた。



その日は、奈都なつさんの弟が交通事故で亡くなった日だったらしい。



その瞬間、全てを理解した。



奈都なつさんが俺を“おとうと”として接したがる理由も。

奈都なつさんは兄さんには弱音を吐くことも。

兄さんは奈都なつさんのことをよく見ているのだということも。



そんな兄さんには、優しい兄さんには……



絶対に、敵わないということも。



そんなこと、最初からわかっていたはずだったのに。

どうしようもないほど焦がれて、みっともなくても諦められ無かった。


そのことに、その時気づいた。


……俺は、バカだ。





それから数年後の今。

とうとう、二人は結婚することになった。


……だから今日でもう、終わりにする。


この気持ちに、しっかりと終止符を打つ。




これは一歩目だ。


そう思いながら、誰にも聞こえないように小さな声で、今まで抵抗するようにあえて呼ばなかった言葉を口にした。



「……好きだったよ。“義姉ねえさん”」



この気持ちは恋だった。



みじめで、滑稽こっけいで、無意味むいみで。


絶対に叶わない……恋だった。



兄さんより早く出会いたかった。

もっと違う関係でありたかった。



……そんな身勝手みがってな想いは、抱いてはいけない。



だって二人は、本当に本当に……眩しいくらいに、お似合いなのだから。



だからどうか、末永く……お幸せに。





でも、思わずにはいられない。



どうして、好きになってしまったんだろう……と。

ここまで読んでくださってありがとうございました!


悲恋は書いてるとなんだか暗い気持ちになってしまう……


Copyright(C)2020/8/14-どんぐり


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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませて頂きました。 切ない恋だなと思いました。
2020/08/14 19:19 退会済み
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