僕と父さんと星と星座と
遅くなりました!
第一話です。
星をきれいに見るためには条件がある。
①暗いところ。
大都市なんかが近くにあってはダメだ。
最低でも10㎞は大都市から離れたい。
②空気が澄んでいる。
標高が高く、かつ湿度が低い方が好ましい。
出来れば冬。
③晴れること
これは、まあ良いだろ?
晴れてなきゃ星は見えない。
これらを考慮すると、東京近郊では難しい。
僕はいま、父さんの地元、徳島の剣山に来ている。
決してバカにしているわけではないが、徳島は田舎だ。
電車はないし、サイゼもないし、唯一のデパートそごうは撤退するしお世辞にも栄えているとは言えない。
でも星を見るにはもってこいだ。
満天に広がる星空はものすごく綺麗だ。
寝転べば目の前には手が届きそうなところに星がある。
昔、よく父さんとここへ来ていた。
父さんは星が好きだった。でも、二人で星を見ているときでも星の話はしなかった。
決して自分の好みを強要しない。
そして、僕の好きなものにも文句を言わない。
それが父さんの主義だった。
そういえばあれは父さんが死ぬ一年前だった。
いつものように星を見ていて、珍しく父さんが話しかけてきたのことがあった。
「流星、お前は星が好きか?」
「うーん、よく分かんない」
「そうか。それで良い。自分の好きなものは自分で決めれば良い。誰かに言われたから、みんなそうだから、そんなものはくだらない。そんなことに騙されない。そんな芯のある男になれ」
「うん。よく分かんないけど分かった」
「そうか。いつか分かるときが来るよ、いつかな」
あれが父さんとの最後の星空観察だった。
父さんは飛行機のパイロットだった。
あちこちを飛び回り、いろいろな国を周り、短い休みで星を見に行っていた。
僕は父さんが好きだったし、尊敬していた。
そんな父さんだったが、いきなり心不全で倒れこの世を去った。
場所はベトナム。
僕たちが死に際に間に合うわけもなく、最期の言葉はもう覚えていない。
尊敬する父さんはもういない。
その事実だけが僕を見つめていた。
母さんは妙な責任感を持つようになった。
「父さんのぶんまで……」
というのが口癖になり、細かいことで怒るようにもなった。
僕にとって家の中に居場所はなくなった。
そんなある日、僕は父さんの実家で一冊のノートを見つけた。
ー星座ノートー
表紙にはそう書いてあった。
開くとまるで定規を使ったかのような綺麗な文字で一つ一つ星座のことが書いてあった。
構成する星、神話、見える時期、方角。
とにかく貪るように全てを読んだ。
そこにまるで父さんがいるような気がして……
でも、父さんは誰か向けてこれを書いたわけではなかったと分かった。
父さんの父さんによる父さんのためのノートだ。
それでも久しぶりに父さんと会話できた気がした。
それから僕が星座に興味を持つまでにかかった時間はほとんどなかった。
最初はなぜ父さんが星好きになったのかを知りたかったから。
次には、願いを叶える手段として気になった。
それもなくなって、最後には自分の気持ちだけが残った。
今の僕は誰に何を言われても、星座が好きだ。
多分芯を持ったんだと思う。
午前0時を回った。
1日が終わり、新しい1日が始まる。
そして、今からが星空観察のゴールデンタイムだ。
僕はなんとなく持ってきたCDプレイヤーに電源を入れ、音を流す。
この音が僕とこの世を結びつける。
ゆっくりと空が回る。
この世とは思えない感覚が僕を襲う。
自分が物凄く小さくなったような感じがして、宇宙の一部となる感覚が来る。
こうなってきたら、ゆっくりと首を回して星座を見つけていく。
今は夏だから真上に白鳥座があって、横にはとかげ座何てのもある。
一つ一つ星と星を繋げて星座を見つけていく。
ゆっくりゆっくり時間が流れていく……。
僕だけの時間が……。
どのくらい時間がたっただろうか。
太陽が登り始めてきた。
星の時間は終わりだ。
僕はCDプレイヤーの電源を切り、山を降りる準備を始める。
簡易テントをたたみ、リュックを背負い、辺りにごみを落とさなかったか確認する。
よし、下山だ。
良いリフレッシュになった。
星座に感謝だ。
第一話どうだったでしょうか。
また次もがんばります!