92、魔王の最期?
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「93話 王たちの再会」は土曜日に投稿予定です。
少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります。
「あれは…」
イツキに案内されるまま進んでいたマリオの前に、癒しの木に囲まれた小さな廟が姿を現わす。
「あの一件の後、作られたものです」
「どうやら僕は随分長く寝てたみたいだね」
マリオの言葉通り廟は見るからに古く、最近できたものとは思えない。
「魔法陣が光ったところまでは覚えているけど…それからどうなったの?」
マリオの問いにイツキは小さく微笑んでから口を開いた。
「まるで創造神様がこの世界をお造りになった時のようでした」
マリオが生み出した緑の魔法陣。
その光が消えた後、それまで立ったままだった滅者が動き出した。
「へっ、戦うってんなら相手になるぜっ」
意気込むリョクだったが、滅者の変化に気付いて首を捻る。
「何だぁ?」
滅者は攻撃をしてくることなく上空を見詰めている。
《…解析開始》
声なき声での呟きに驚いて誰もが滅者を見遣る。
その眼の奥で明滅していた光が消えると、頭上の空間に高度から撮った景色が映し出された。
創造神が造った四角い世界。
2つある大陸の一つ…その半分が赤黒い地面を晒している。
そうでない部分も緑が少なく、大陸全体が荒廃しているのが分かる。
その映像に変化が訪れた。
荒廃した大陸の最北端。
そこから溢れた柔らかな光が大陸全体を覆って行く。
光が失せた後に現れたのは…まさに楽園だった。
何もなかった荒れ地がたちまちのうちに地の果てまで緑豊かなものとなった。
「す、凄いな」
「こんなことが出来るなんて」
「さすがは緑の王さまだー」
「マリオ君…」
一つの大陸を元に…いや、それ以上な状態にしたマリオの魔法に感動した様子のヒロヤたち。
そんな彼らの前で再び滅者が小さく呟く。
《…荒廃地の完全緑化に成功…救世者の存在を確認》
滅者がゆっくりと歩き出す。
「リリカの蔓に向かって行くぞ…何をする気だ?」
訝るフレイアの前で勢い良く成長を続ける蔓草に近付いて行く滅者。
「あの植物は…確か」
「おう、自分じゃ立っていられねぇから傍にある木に巻き付いてデカくなる奴だ」
リョクの言葉通り、リリカの蔓は支えとなる立ち木を求めて大きく蠢いている。
《…指令達成…活動を停止》
皆が見守る中、滅者は蔓に手を伸ばす。
すると見る間にその身に太い蔓が巻き付いてゆく。
次の瞬間、滅者の身体から光が溢れた。
「…こいつは」
「まさかこのようなことが…」
驚きに満ちた顔をするリョクとフレイア。
いや、彼らだけでなくヒロヤたち勇者一行…そしてリョウも同じような顔で滅者を見つめる。
「魔素を使った分子レベルの物質分解と再構築。それによりその身を植物化させたのか…この世界の一部となるために」
小さく呟くとリョウはリリカと完全同化した滅者を見つめる。
蔓を身体に纏わせたまま動かないその姿は彫像のようだ。
「そうまでしてこの世界に存在したかったのか。随分と此処が気に入ったようだな」
同じように異世界からやって来て、執拗に元の世界への帰還を望んだ自分と正反対の行動を取った滅者をリョウは苦々し気に見返す。
自分よりも遥かに強い力を持ちながらそれを潔く捨て、新たな命としてこの世界で生きてゆくことを望み、迷いなく実行した。
その潔いまでの決断に羨望のようなものを感じている自分に気付き、リョウは馬鹿馬鹿しいと大きく首を振る。
「こんな造られたまやかしの世界にそんな価値などあるものかっ」
言い捨てるとリョウは傷だらけまま、よろけながら身を起こした。
「逃がしゃしねぇぞっ」
「その首、貰い受けると言ったはずだ」
そんなリョウの前にリョクとフレイアが立ちはだかる。
「ふん、僕なんかにかまけていていいのかい?」
「何?」
怪訝な顔をするリョクだったが、次のリョウの言葉に顔色を変える。
「あれ程の力を使った緑の王が無事で居るとでも?だったら随分とおめでたい頭だ」
「何だとぉっ!」
反射的に怒りの声を上げたリョクだが、すぐにマリオの方へと目を向ける。
そこには…。
「…我が王」
草原に倒れているマリオの傍らに世界樹であるイツキが跪いている。
遠目からもその顔が絶望と悲嘆に満ちているのが分かる。
「こいつは俺が捕らえておく。早く行きなっ」
「マリオの事をお願いっ」
そこへ闇の王たるガンズと土の王カリーネが闇魔法の【転移】で姿を現わす。
「いくわよ【石牢】」
カリーネの声と共にリョウの足元から何本もの石の柱が立ち、その上を石板が覆う。
「そらよ【空間固定】だぁ!」
続くガンズの叫びと同時に石牢の周りの空間が歪む。
「これで【転移】で逃げることも出来めぇ」
フンと顎を上げるとガンズはリョウを睨んだ。
「テメェもいい歳なんだ。遣ったことのケツはちゃんと拭きやがれ」
「…言葉に品が無いな。王の選定基準はどうなっているんだ?」
呆れたように呟くとリョウはため息と共にその場に腰を下ろした。
「大丈夫かっ、マリオっ!」
駆け寄ったリョクが見たもの。
それは呼吸も鼓動も感じないマリオの姿だった。
「う、嘘だろ…」
「奇跡を起こして…逝ってしまったのか」
クッとフレイアが強く唇を噛み締める。
「おい、マリオっ!。いつまで寝てんだっ、起きやがれっ」
泣きそうな声で叫び、その身を揺するがマリオが動く気配はない。
「乱暴に扱うでないっ」
「そうじゃ、こんな時こそ落ち着かんかい」
パシンと畳んだ扇でリョウの手を叩くと光の王たるキリと水の王であるゼムがリョクを諫める。
「何でお前らが此処に…」
突然の二王の登場に唖然となったリョクだが、ゼムの手に黄金の羅針盤があることで姿を現わした訳を悟る。
「瘴気が綺麗さっぱり消えたのでの」
「お前たちが魔王の計画を阻止したと確信したんじゃよ」
そう先を続けると、じゃがとゼムは顔を曇らせた。
「魔王が集めた二百年分の瘴気を急激に魔素に変換し行使したことにより、マリオの身体と魂は大きなダメージを負ったようじゃな。二つが完全に分離しておる」
「分離だとぉ!?」
「そうじゃ。このままではやがて肉体は滅び、還る器を失った魂もいずれ消えてしまうであろう」
キリの言葉にリョクとフレイアは息を飲んだ。
「どうにか出来ねぇのかっ!?」
「お願いだっ、マリオを助けてくれっ」
懇願する2人にゼムは腕を組んで考え込む。
「彷徨う魂を探す術はない…しかし」
「器が無事であれば時がかかろうともいずれ魂は戻ってくるじゃろう」
ゼムとキリの言葉にリョクは一縷の望みを見出す。
「ならマリオの周りだけ時を止めといてやるぜ」
そこへ不敵な笑みを浮かべたガンズが歩み寄ってきた。
そのまま闇魔法である【時間停止】を行使する。
するとマリオの身体を紫の靄が包み、やがてそれは薄紫の繭へと変わった。
「うむ、これならば魂が戻れば復活するじゃろう」
太鼓判をおしてくれたゼムの言に周囲から安堵の息が漏れる。
「なら次は魔王をどうするかだな」
ガンズの言葉にリョクは我に返ったように顔を上げた。
「おう、あの野郎には返す借りが山ほどあるからなっ」
肩を聳やかせリョクはリョウの下へと歩き出した。
「ああ、それで僕は幽霊みたいになってるんだ」
納得顔をするマリオに、はいとイツキが頷く。
「以来、ずっと王のお帰りをお待ちしていました」
「ごめんね、長く待たせて」
すまなそうなマリオに、いえとイツキは緩く首を振る。
「ほんの20年ほどです。大した時間ではありません」
「20年!?」
イツキの言葉にマリオから驚愕の叫びが上がる。
一万年の時を生きて来たイツキには些細な時間なのだろうが、マリオにしたら20年は決して短い時間ではない。
「でもだったらどうしてイツキは…」
20年も経っていたのならその姿が幼いままなのはおかしい。
「それはアレク殿のおかげです」
「アレクさん?」
その名に首を傾げるマリオの目に廟の傍らにあるベンチとテーブル、その上にある鉢植えが映る。
「あれって…イツキ」
虹色に輝く葉は世界樹に間違いない。
しかしその大きさはマリオが植えた時とほとんど変わっていない。
「聖女さまが伝えたものの一つである『盆栽』という技法だそうで、木を小さいまま生かす方だと」
どうやらアレクが自らの庭師の才を駆使してイツキのこの大きさにとどめてくれていたようだ。
「なるほどね、それでイツキは小さいままなのか」
「元の姿に戻るのは我が王が目覚めた時と決めておりましたので」
そう言って胸を張るイツキにマリオが笑みと共に礼を言う。
「ありがとう。僕を待っていてくれて」
「当然のことです。さあ、我が王。廟にいらしてください」
イツキに促されるまま中に入ると…。
「…僕?」
中央に置かれた寝台に薄紫の繭に包まれたマリオがいた。
「はい、あの時は仮死状態で息もされず御魂は何処に行ったのか皆目見当がつきませんでした。無事に戻られて何よりです」
「…イツキやみんなにいっぱい心配をかけちゃったね」
申し訳なさそうに肩を落とすマリオに、いえとイツキは緩く首を振った。
「必ず戻ると信じておりました。風の王君も『こんな事くれぇでマリオが死ぬわけがねぇっ。あいつは絶対ぇ目ぇ覚ますに決まってんだっ』と強く言っておられました」
「…リョクさんらしいなぁ」
クスリと笑うとマリオは魔王の事を尋ねる。
「…実は」
深いため息と共にイツキが口を開く。
「あれから集まった六王君と精霊王さま達でその処遇を話し合ったのですが…」
議論は見事に二派に分かれた。
リョクは『生かしといてもロクなことにはならねぇ』と処刑を推し進め。
フレイアとガンズもそれに同意。
『簡単に殺してしまっては詰まらなかろう。まずは自らの行いを悔いさせねばの』
というキリにゼムとカリーネが賛同。
侃々諤々の後、リョウに隷属の魔道具を着けキリの下で働かせるとういう結論に達した。
余談ながら精霊王たちは『人の世は人が治めるもの』と世事にはノータッチというポリシーを貫き、議論には一切加わらなかった。
「じゃあ魔王はキリさんの所に?」
「そのはずでしたが…」
マリオの問いにイツキが困り顔で首を振る。
「逃げられたの?」
「いえ、最初から魔王は其処にはいなかったのです」
「え?」
謎の言葉に思いっきり首を傾げたマリオだったが、すぐに答えに辿り着く。
「そう言えば魔王はゴーレム…いや、ホムンクルスを造るのが上手かったね。僕らと戦ったのはその内の一体だったってことか」
「さすがです。我が王っ」
マリオの名推理にイツキから歓喜の声が上がる。
「祝え!王がその優秀さを示した瞬間である」
両手を広げて芝居がかったセリフを放つイツキに、懐かしいねとマリオが笑みを零す。
「リョクさん達は怒ったろうね」
「はい、それはもう凄まじいばかりにお怒りで」
大きく頷くとイツキはその顛末を語った。
「勝手に僕の事を決めないで欲しいものだ」
そう肩を竦めるリョウに、何だとぉとリョクが凄む。
「そんな口を効けねぇように腕の一本も喰っとくかっ」
「やめろ、緑碧。そのような下賤なものを喰ろうて腹でも壊したらどうする」
リョクより辛辣なことを口にするフレイアに、やれやれとリョウは首を振った。
「勝手にやってくれ。僕はそろそろお暇させて貰うよ」
「ケッ、此処から逃げられると思ってんのか?テメェの頭の方がよっぽどおめでてぇぜっ」
せせら笑うリョクだったが、次のリョウの言葉に顔色を変える。
「簡単なことさ、この人形を放棄すればいいだけだ」
「貴様っ!」
石牢に詰め寄るフレイアの目の前でリョウと思われていた者がガクンと力なく倒れる。
まるで糸が切れた操り人形のように。
「待てっ、この野郎っ!」
叫ぶリョクだったが、その身体はピクリとも動かない。
しかし…。
「…言い忘れていたがこの人形は僕との意識リンクが外れると5分後に爆発する仕組みになっている」
人形の口だけが動き、とんでもないことを言って来た。
「早く逃げた方がいい。爆発するとこの辺りは木っ端微塵だからな」
「どうしてそんな…」
唖然とするカリーネが素朴な疑問を口にすると。
「機密保持」
短くそう答えて人形がニヤリと嗤う。
「テメェっ!」
「また会えることを楽しみにしているよ」
言いたいことだけを言うと今度こそ人形は動きを止めた。
「此処から退避じゃっ!」
あまりの事に呆然となっていた皆の耳にキリの叫びが届く。
その声にマリオを抱えたガンズを先頭にヒロヤたち勇者一行を含めた全員が血相を変えて黄金の羅針盤を持つゼムの周囲に集まる。
「緑碧っ、何をしているっ。逃げるぞっ!」
じっと人形を睨んだまま動かないリョクの腕を、フレイアが掴んで引き摺って行く。
引っ張られながらリョクは此処にはいない魔王に向け吠える。
「馬鹿にしやがってっ。絶っ対ぇ殴りに行くからなっ。首洗って待ってろぉ!魔王っ!!」
派手な怒号が澄み切った青空に響き渡った。
「あれだけ策を弄する相手があっさり姿を見せたから何かあるとは思っていたけど…黒の人形師って名乗っていたのは伊達じゃなかったね」
魔王本人は別の場所に居て、意識をリンクさせたホムンクルスを操って事に当たっていたのだろう。
その周到さに呆れながらマリオはイツキに問いかける。
「それで魔王は?」
「今も杳としてその行方は判っておりません」
イツキの答えにマリオから嘆息が漏れ出る。
「何だかまたトラブルの予感がするな」
やれやれとばかりに大きく首を振るマリオだった。




