90、魔王vs天使
評価、ブックマークを誠にありがとうございます。
大変申し訳ありません。来週の投稿は諸事情によりお休みします。
「91話 滅者vs緑の王」は再来週の土曜日に投稿予定です。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
この世界に降り立った滅者と呼ばれる者から感じる強大な力とそれに伴う畏れ。
自分が全力で戦っても勝てるかどうか分からない。
そんな相手を前にして、リョウの心に焦りとかつてない危機感が押せ寄せる。
「何故こんな奴が…」
独り言のように呟いてリョウは天を仰いだ。
「君に引き寄せられて来たのかもしれないね」
帰ってきた答えにリョウは弾かれたようにマリオを見返す。
「製作者は環境が悪化したのは目先の利益しか考えない愚か者の所為だ。だから星を害する者は一掃し、選ばれた優良な者が世界を支配する…とか考える差別主義者だったんだろうね。魔素酔いに堪えられない者を見捨てようとした君と同じだね」
マリオの言葉にリョウの目が見開かれる。
そんなリョウの前でマリオが自らが知る話を披露する。
『人が最も中毒に陥りやすいモノは何ですか?』と精神科医に尋ねたら
『自分が1番正しいんだという思い込みですね』との答えが返った。
そうなった時、人は信じられないくらい傲慢になり、また愚かにもなると。
「まさか自分に都合の悪いものを排除しようとして、その範囲内に自分も含まれるなんて思ってもみなかったんだろう。自分が信じる正義の所為で自分たちが作ったシステムに滅ぼされる…寓話みたいだね」
そう言うとマリオは此方に顔を向ける滅者を見返した。
「…あいつは自分を造った者と同じ考えを持つ者を抹殺対象にしているということか」
マリオの言葉通り、滅者は動くことなく此方を…リョウを凝視している。
「君が次元扉を開いてこの世界を破壊しようとしたのは確かだからね。世界に害をなす者を敵としてロックオンした可能性は高いかな」
そんな会話を交わす2人に、なあとヒロヤが声をかける。
「さっき流れ込んできた情報が本当なら…地球に未来は無いってことか?」
不安に満ちたその声に、マリオは緩く首を振って口を開く。
「女神さまが言っていたけど、此処とは違う世界は数多く存在している。その一つを特定し、探し出すことは砂漠の中から針を探すようなものだって。それにどんなに精密な計算でも小さなイレギュラーがあるだけで簡単にその答えは変わるものだからね。あれがいた世界が僕らのと同じとは限らないよ」
「そ、そっか」
安心したように息をつくヒロヤだったが、すぐに別の問いかけをする。
「だけど人類を絶滅させた奴と戦って勝てるのか?」
僅かに怯えを刷いた表情を浮かべるヒロヤの前でマリオが肩を竦めながら言葉を綴る。
「やってみないと分からないけど…まあ、希望がない訳じゃないから」
「何故そう言い切れる?」
油断なく身構えるフレイアの問いに、マリオは真摯な眼差しで言葉を継ぐ。
「僕の守備範囲外だけど…大地の名を冠した3分間戦う宇宙人ヒーローのラスボスがあんな感じだったからさ。僕らもギリギリまで頑張れば何とかなるんじゃないかな」
「真剣な顔して言うことがそれっ!?」
思わずそう突っ込むヒロヤだが、滅者がゆっくりと動き出したことでエリィゼ達を庇うようにその前へと立つ。
緩慢な動きで上げられた両腕。
それが優雅に円を描く形で止まる。
次には円の中央に眩い光が集まり出した。
その瞬間、ヒロヤの背を経験したことのない恐怖が走り抜けた。
「逃げろっ」
「みんな、こっちへっ」
ヒロヤの叫びと同時にマリオが皆を集める。
その手には白銀の羅針盤が握られている。
マリオの意図を察したリョクとフレイアに抱えられたエリィゼ達とヒロヤ、タマ、サボが駆け寄る。
それを機に羅針盤が光を放つ。
すぐにその姿は消えたが…。
「うわっ!」
別地点に転移したヒロヤが驚きの声を上げる。
さっきまで彼らがいた辺りがレーザーで焼かれたように遥か彼方まで一直線に焦げていた。
「まるで巨〇兵だね。…まあ、文明一つ滅ぼしたってのは同じだし」
その威力に感心するマリオに、ヒロヤが心配そうに問いかける。
「…それって言ったらいけない奴じゃ」
不安げなヒロヤにしれっとマリオが言い返す。
「見てごらんよ。魔王はあれと戦うつもりだよ」
あからさまな話題変えだが、その言葉に慌ててヒロヤは視線をリョウへと向ける。
「…凄いです。あんな数の魔法陣を一気に展開するなんて」
リョウの周囲に浮かび上がる10を超える魔法陣にレニーラが感心仕切った顔をする。
「光、闇、火、水、風、土…魔法のオンパレードだな」
その多様さにヒロヤも呆れ声を漏らす。
「仕掛けるみてぇだぞ」
身を乗り出したリョクの言葉通り、魔法陣から一斉にレベル5の魔法が放たれた。
光の矢、闇の槍、巨大な炎球、渦巻く水、疾風の刃、襲い掛かる岩礫。
それらが次々と滅者に襲い掛かる。
一瞬の静けさの後、辺りを揺るがす轟音が響き渡った。
「…やったか?」
もうもうと上がる土煙っで視界が悪い中、そうヒロヤが呟くと。
「止めておいた方がいいよ、それフラグだから」
マリオの忠告に思わず自らの口を手で覆ったヒロヤだったが…どうやら遅かったようだ。
「あ、あれってー」
ミルィが指差す先に立つ人影。
「馬鹿なっ」
「あれだけの魔法攻撃を受けたのにっ!?」
驚くフレイアとレニーラの視線の先に居る滅者は無傷。
まったく何のダメージも見受けられない。
「随分と硬い素材を使って…いや、魔法そのものを無効化してるのか」
自分が使った反魔法を越えた解魔法の存在にリョウは忌々し気に舌打ちする。
「やっぱりあれは地球産では無かったね。魔法が架空の存在である地球で魔法を打ち消す方法が生み出されることはないから」
「そっか…良かった」
地球の未来は滅亡では無かったことを告げるマリオにヒロヤから安堵のため息が零れた。
「でも彼はがっかりしてるだろうね」
「え?」
不思議そうに首を傾げるヒロヤに、マリオはリョウを見やりながら口を開く。
「彼が望んだ魔法が存在する世界でも『破滅』からは逃れられなかった。止めを刺したのはあのシステムだろうけど、そもそもそれを生み出さなければならない程に環境を悪化させたのはその世界の人達の自業自得だもの。どんなに便利な道具があっても、それを使う者がダメなら結果も同じってことだね」
「確かにそうだな」
納得したように何度も頷くヒロヤの前で、でもとマリオは軽く肩を竦めた。
「彼は『自分ならそんなことにはならい』とか思っていそうだけど」
「…その根拠の無い自信はどっから来るのかな?」
「ああ言った思い込みの激しいタイプは自分の力を過信しやすいし、余程の事が無いとそれを訂正することもしないからね」
そんな会話をしていたマリオとヒロヤに、ところでとフレイアが声をかける。
「アイツの狙いは魔王だろう。だったら魔王を倒したら元の世界に戻るんじゃないか?」
開いたままの次元の裂け目を指さす彼女に、マリオは緩く首を振った。
「そう簡単には行かないと思うよ。今のターゲットは彼だけど、倒してもすぐに別のターゲットを見つけて戦いを始めると思う。システムはプログラムされたことしか出来ないから」
「主が命じたことしか出来ぬのか。そういったところはゴーレムと同じだな」
残念そうにため息をつくフレイアに、面白れぇじゃねぇかとリョクが意気込む。
「向こうが戦うってんなら相手をしてやればいいこった」
「相変わらずの考え無しだな、貴様は」
「何だとぉ!」
「奴の力を見ただろう。我らが束になっても勝てる相手ではない」
「へっ、臆病風に吹かれた奴は後ろに引っ込んでなっ。俺はこの世界を守る風の王だ。勝てそうにねぇからって簡単に諦められるかっ」
王としての誇りに満ちたリョクの言に、フレイアの目が大きく見開かれる。
「確かにな。私としたことがこれしきで気後れするとはまだ修行が足りぬ」
「へぇ、やけに素直じゃねぇか。真っ平らのクセによ」
「…その言葉、二度と口にするなと申し渡したはずだが」
チャキッと剣の鍔を鳴らすフレイアに、やるかとリョクが構えを取る。
「もう、ケンカしないの。今はそんなことをしてる場合じゃないでしょ」
間に割って入ったマリオの言に、2人してバツが悪そうに黙り込む。
そこへ今度はレニーラが話に加わって来た。
「さっきから魔王も滅者も動きが止まったままなのですが」
彼女が言う通り、どちらも睨み合ったまま微動だにしない。
「まるで番に出会った時みたいだー。ひょっとして恋に落ちたとかー?」
「そんな訳ないでしょ。いったいどうしたのかしら」
ミルィの言葉をサクッと全否定してエリィゼが首を傾げる。
「お互い、相手の出方を見てるってとこかな」
マリオの言葉が終わらぬうちに魔王と滅者が静かに動き出した。
「次で決めるつもりだね」
皆が見つめる中、魔王はその足元に巨大な魔法陣を組み上げ。
そして滅者は自らの胸の前で指先を合わせて輪を作り上げる。
「来るぞっ、みんな伏せろっ!」
リョクの叫びに誰もが地に伏せた後、魔王の魔法と滅者が造り出した光の奔流が正面からぶつかり合う。
「うわっ!」
「きゃぁぁっ」
次の瞬間、瘴気の所為で薄暗かった空が真昼のように明るく照らされ、地が大きく揺れた。
衝突した巨大なエネルギーによりビリビリと空気が震え、その衝撃に息をするのも辛く感じる。
「…勝ったのはどっちだ?」
無理やり顔を上げたリョクが周囲を見回す。
「あれは…」
唖然となるヒロヤの横でフレイアとレニーラが言葉を綴る。
「どうやら魔王は重力魔法で滅者を裂け目の向こうに弾き飛ばそうとしたようだな」
「でも…叶わなかった」
レニーラの言う通り、上空からゆっくりと滅者が地に向けて降下してくる。
一方、魔王はと言うと。
「生きてはいるみたいだよー。物凄くボロボロだけどー」
ミルィが指し示す先にいるリョウは、まさしく満身創痍。
焼け焦げたローブを血で染めて地に倒れ伏している。
「このまま死なれちゃ、さすがに目覚めが悪いかな」
そう言うとマリオは滅者を目指して歩き出す。
「お、おいっ」
「無茶をするなっっ」
慌てて止めに入るリョクとフレイアにマリオはニッコリ笑顔を返した。
「大丈夫。手はあるから」
親指を立ててサムズアップをしてみせると、横に来たタマとサボを従えてマリオは滅者に顔を向けた。
「世界に害を成す者が敵なら、その逆を成す者にはどう対するのかな」
小さくそう呟くと、マリオは腰に下げていたマジック袋の口からちょこんと出た虹色に輝く葉っぱを見やる。
「行こうか、イツキ」
「はい、我が王」
嬉し気な声に頷き返すとマリオは歩を速めた。




