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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
87/94

87、創造神の箱庭

評価、ブックマークを誠にありがとうございます。

励みになります。

「88話 世界の破滅と緑の王」は土曜日に投稿予定です。

少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります


「はっ…あははっ!」

 自分の前に立ち塞がるタマを従えたマリオとその傍らで剣を向けるヒロヤの姿にリョウは高い笑い声を上げた。

「やはり君らも聖女や錬金王と同じか。女神の被害者だ」

 蔑みを刷いた目で睥睨するリョウにヒロヤは怪訝な顔をする。

「被害者?どういうことだ」

 女神イネスからは恩恵を与えてもらったりしていて、被害にあったとは思えず聞き返す。


「君はどうしてあんなにあっさりと元の世界に帰ることを諦められた?普通ならもっと執着があっていいはずだ」

 リョウの言葉にヒロヤは虚を突かれたような顔になり、そのまま考え込む。

帰れないと知った時はショックだったが、すぐにこの世界で生きて行けばいいと気持ちが切り替わった。

指摘された通り、確かにそれは不自然と思える。


「君らはこの世界に来る時、女神に精神をいじられたのさ。この世界を愛し、守って行くようにってね」

 そう嗤うとリョウはフレイアへと目をやった。


「それは火の王たる君もだ。七王の中で一番戦闘力の高い君はこの世界を守る尖兵として僕のことを執拗に目の仇にし、今もこうして危険を顧みず乗り込んできた」

 自分に向かって指をさされ、しかしフレイアは不思議そうに首を傾げる。


「まあ、それも仕方ないよね。なんたって君は世界の破壊者だから」

 暢気な声でのマリオの言に、考え込んでいたヒロヤが弾かれたように顔を上げる。

「この世界を守るのが女神さまの仕事。それを脅かす存在が居たら排除しようとするのは自然の流れじゃないかな。いいじゃないか、仕事熱心で」

 にっこり笑うマリオに、フンとリョウは忌々し気な視線を投げる。


「やはり君が一番の強敵か」

「そうだね、他のみんなと違って簡単に丸込まれるほど純真じゃないから。そう言えば女神さまも今の君みたいな目でこっちを見てたなー」

 軽く肩を竦めるマリオの様にリョウの顔が真顔になる。


「君は…女神の洗脳を受けてないのか?」

「いや、受けたよ。けどどんな状態だろうと僕は僕だ」

 きっぱりと言い切るマリオに、なるほどとリョウから納得の頷きが返る。


「どうやらこの世界に来て初めてまともに話が出来そうだ。この世界の成り立ちについて何を聞こうと他の奴らは通り一辺倒の事しか答えられない女神の傀儡でしかないからな」

「それも君がこの世界を嫌う一因かな?」

「当然だ、決まった会話しか出来ないNPCを相手にして何が楽しい」

 断言するリョウにマリオは嘆息した。


「それでも彼らは生きている。笑い、泣き、他人を思いやる心がある。その存在をNPCとしか思えないんだとしたら…君こそ元の世界の常識と言う洗脳に振り回されているんじゃないか。僕が知る言葉にこんなのがある。


『マイルールを押しつける人とは距離をとっていいです。

他人には「どうでもいいこと」であるにも関わらず、それがまるで万人が従うべき「この世のルール」と勘違いしてる人がいます。

自分のルールは自分のもの。

相手のルールは相手のもの。

こうあるべきとマイルールを振りかざす事は愚かな行為なのです』ってね」


「君は頭も回るが口はそれ以上だな…悪い意味で」

「誉め言葉として受け取っておくよ」

 にっこりと笑うマリオに、なあとリョクが声をかける。


「さっきから何を話てんでい。訳の分からない言葉を使ってよ」

 小首を傾げているのはリョクだけではない。

マリオ、リョウ、ヒロヤを抜かした全員が怪訝な顔で此方を見ている。


「姑息なことだ。どうやら女神はこの手の話をこの世界の者たちに聞かれたくないようだ」

「ああ、だから自然と僕らしか分からない言語…日本語に切り替わったのか」

 苦笑を浮かべるとマリオはリョクへと顔を向ける。


「込み入った事だから僕らの故郷の言葉で話すことにしたんだよ。その方が意思の疎通がスムーズだから」

「おう、そう言うことなら仕方ねぇな」

「…今世の風の王は単純だな」

 簡単に納得するリョクの姿にリョウが呆れ返った顔をする。


「そこがリョクさんの良いところだから。難しい理屈を捏ねて遠回りすることなく、本来の目的に向かって一直線に進めるからね」

「確かにそれは真似できないな。僕は考え無しな行動など死んでも御免だ」

 小馬鹿にした目でリョウはリョクを見返す。

理詰めで生きてきた彼にとってその生き方は唾棄するものでしかない。


「ま、生き方は人それぞれってこただね。どれが正解かは誰にもわからないし」

 そう言うとマリオは改めてリョウへと向き直る。

「話を戻そうか。君は元の世界の帰還を望んでいる。けれどその方法はこの世界の破滅と元の世界での大量死を招くってことでいいかな」

「ちょっと待てよっ。大量死って…」

 マリオの言葉に驚いてヒロヤが聞き返す。


「うん、もし大量の魔素が地球に流れ込んだとしたら人類全員が魔素酔いになるからね。そうなったら…」

 マリオの言わんとすることに気付いたヒロヤの顔が大きく歪む。

若く健康な自分ですらあんな酷い目に遭ったのだ。

それを他の者がなったとしたら。


「じょ、冗談じゃないっ。母さんは心臓が悪いんだぞっ。そんな身体で魔素酔いなんかになったら」

「病人や老人、乳幼児はまず耐えられないよね。最悪の場合、総人口の半分近くの人が死ぬか…取り返しのつかないダメージを負うことになる」

 続けられたマリオの言にヒロヤの顔が青を通り越して白くなる。


「そうまでして帰りたいのかっ!?他人の命を危険に晒してもっ」

 いきり立つヒロヤに、リョウは当然とばかりに首を縦に振る。

「この世界と元の世界、どちらにも共通することがある。『弱肉強食』弱い者、取るに足らない者が強者の踏み台になるのは自然の摂理だよ」

「お前っ!」

 まったく悪びれないリョウに、ヒロヤの怒りが爆発する。


「それにこれでエネルギー問題は一気に解決だ。魔法が使えるようになれば水力、火力、原子力といった既存のものは必要なくなる。長い目で見ればこれほど地球環境に優しいことはないだろう」

「それは…そうだけど」

 簡単に言い負かされてヒロヤは悔し気に唇を噛み締める。


「正論を言ってるようで私利私欲の塊な発言だね。どうせ誰にも魔法の使い方を教えず、自分だけで独占する気満々なんだろう。不老のスキルを持った絶対的独裁者の誕生だね。世界征服なんてカビの生えた野望を持つ辺り救いようのない中二病患者だよ」

 軽蔑を含んだマリオの言にリョウは不敵な笑みを返す。


「本当に君は小賢(こざか)しいな。しかも此方の心を容赦なく抉ってくる」

「それはどうも、そっちも誉め言葉として受け取っておくよ。それと一つ、君の間違いを訂正しておくね」

「…何だい?」

「君はこの世界を箱庭と呼んでいたけど…正確にはビオトープだ」


マリオの言う通り、箱庭とは名園、山水などを模して小さな箱の中に適宜風物の模型を配して造るミニチュアの庭園のことで、そこに生き物は存在しない。

そしてビオトープは生物群集の生息空間を示す言葉である。


「そう考えるとこの世界は調和のとれた良い世界だと思うよ。差し詰め女神さまは水の循環ポンプで精霊王や七王は水質を保つ役目のタニシやヤマトヌマエビってとこかな。そして君はその中に紛れ込んだ質の悪い外来種だ」

「…言ってくれる」

「もちろん、外来種だからって簡単に排除するのは良くない。ちゃんと共存できるならそれ越したことはないけど…残念ながら君にその気はなさそうだ」

 マリオの言葉にリョウは当然とばかりに頷いた。


「僕はこんな歪な世界はまっぴらだ。どんなことをしても元の世界に戻ってやる」

「君がそう決めたのなら仕方ないね」

 小さく息をつくとマリオはリョク達へと向き直る。


「交渉決裂。やっぱり戦うしかないみたい」

「おう、自分の事しか考えねぇ奴ぁ話すだけ無駄だぜ」

 そう意気込むリョクの隣にフレイアが並び立つ。

「二百年前の決着、ここで着けさせてもらうっ」

 炎を纏った剣を構え、ヒロヤに声をかける。


「必ず打ち取るぞっ」

「ああ、やっぱりあいつは許せないって分かった。絶対に帰還計画は阻止するっ」

「待て、待てぇ。俺にも戦わせろっ」

 2人の間にリョクが割り込んでゆく。


「さ、僕らは後方支援に徹しよう」

「ガウッ」

 はいはいとエリィゼ、レニーラ、ミルィをタマと共に下がらせるとマリオはリョクに声をかける。

「いいよ、リョクさん」

「おう、覚悟しろよ。魔王っ!」

 構えを取った姿は某ヒーローにそっくりで、マリオが残念そうに呟く。


「そこは魔王じゃなくシ〇ッカーの首領の方がいいんだけど、贅沢を言っちゃダメだよね」

 勝手に悪の組織のボスにされたことを知ってか知らずか、リョウは不敵な笑みを浮かべたまま右手を上げた。


「僕の計画の邪魔はさせない…ウィンドアロー」

 その手に集まった魔素が風の槍となって3人を襲う。

「ケッ、風の王に風魔法とはな。へそが茶ぁ沸かすぜっ」

 言うなりリョクは魔王の魔法を自らが打ち出した風の刃で相殺してみせる。


「次は此方から行くぞっ、大炎っ!」

 振り上げた剣から吹き上がった炎の渦がリョウに向かって行く。

「チッ、アイスウォール!」

 その前面に氷の壁が立ち上がり炎を弾き返す。


「今だ、ヒロヤっ」

「分かったっ。光剣斬っ!」

 リョウの横に回り込んだヒロヤが構えた剣を振り抜く。 


「くっ、ダークホールっ」

 展開した闇魔法でヒロヤの光魔法の斬撃を吸収するとリョウが反撃に出る。

「グリーンホールドっ」

 リョウの足元に広がる魔法陣から何本もの蔓が伸びる。


「何だとっ!?」

「これはっ」

「緑魔法っ!?」

 驚く3人の身体がたちまち蔓によって拘束されてしまう。


「何を驚く?僕に使えない魔法は…」

 そこまで言ってリョウは異変に気付く。

「…『退化』しばらく大人しくしていて」

 マリオの言葉に従い蔓たちが元の種へと戻って行く。


「呼び出すならせめてこれくらいの子を呼んで欲しいな」

 そう笑うとマリオは右の手の平に魔法陣を描く。

「…召喚『我が下に来よ。我が(しもべ)』」

 淡い光を放つ魔法陣の中から姿を現わしたのは、サボテンによく似た姿の小さな妖魔だった。 


「ムー」

「久しぶり、サボちゃん」

「ムムー」

 嬉し気に手を振り可愛らしい声を上げる。


「そんな奴が何の役に立つと?」

 完全に馬鹿にしているリョウにマリオは意味ありげな笑みを返す。

「それは身を持って知ると良いよ。サボちゃん、お願い」

「ムー」

 元気良く両手を上げるとサボはぴょんとマリオの手から飛び降りた。


「ムムーン」

 一旦屈んでから大きく伸びをするサボ。

すると見る間にその身体が光に包まれ、一気に大きくなってゆく。


「おいおい、マジかよ」

 驚きの声を上げるリョクの前に長く鋭い棘の剣を携え、緑の甲冑に身を包んだ騎士が姿を現わす。

騎士はマリオに対して臣下の礼を取るとリョウに剣先を向けた。

「僕の祝福を受けて『進化』した棘の騎士だよ」

 マリオの言葉が終わる前に騎士の姿が消える。


「なっ!」

 リョウの左頬を風が撫でて行く。

次いでぬるりとその頬が血で染まる。

高速の剣によって切り裂かれたのだ。


「サボちゃんは『瞬歩』の達人だからね。切り刻まれる前に降参することを勧めるよ」

「断るっ」

 頬の血を腕で拭いながらリョウは毅然と言い返した。

「そうか…残念だよ」

 軽く肩を竦めニヤリと笑うマリオの姿に思わずヒロヤが呟く。


「何か…マリオの方が魔王ぽいのは俺の気のせいか?」

「それを言うなってっ」

「そうだ、世の中には口に出してはいけないことがあるのだ」

 必死な様子のリョクと焦ったフレイアの手で口を塞がれたヒロヤは、その迫力にコクコクと何度も頷くのだった。

 



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