84、 魔王城の父と娘
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「85話 父の愛と娘の涙」は土曜日に投稿予定です。
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「この階にも敵はいないねー」
つまらなそうなミルィの報告にヒロヤは考え込む。
斥候としての彼女の実力は確かで、その判断に疑問はないが…。
1階はともかく2階も3階も誰もいないことに不気味さを感じる。
「とにかく先へ進もう」
気を取り直し、皆を率いて階段を昇って行く。
「待ったー」
4階に向かう途中でミルィが茶色の丸耳を動かしながら一行を止める。
「この先に…2人いるよー」
「ようやくお出ましか」
腰の剣を引き抜きフレイアが戦闘態勢に入る。
「でも生きてはいないなー。動いてはいるけど息遣いを感じないからー」
「やはりアンデッドなのですね」
ため息混じりにそう言うとレニーラも杖を構えて火魔法の詠唱に入る。
「ならば打ち合わせ通り先手は火魔法が使える私とレニーラで行く」
そう言って前に出たフレイアはレニーラを伴って早足で階段を上がる。
「…あやつらは」
4階に出ると、そこには2人の男がいた。
1人は多くの傷が入ったいぶし銀の甲冑を纏った壮年の騎士で、もう1人も同じ年頃の裾の長いローブを着た魔法師だ。
甲冑や手にした古びた杖が彼らが歴戦の戦士だと教えてくれる。
『ようこそ』
そこへ最初の時と同じように天井から魔王の声が降って来た。
『勇者君の戦いを解析して判ったことは、その力の源はパーティーメンバーとの意思の共有…つまり思いの強さだと言うこと』
「それがどうした!?」
語気強く言い返すヒロヤに、まあまあと魔王から宥める言葉が発せられる。
『そういきり立つものじゃない。…昔、この不毛の地にも幾つか国があってね。彼らはその中でも最強と呼ばれた騎士と魔法師なんだ』
魔王の話に、なるほどと忌々し気にフレイアが呟く。
「自分が滅ぼした国の者をアンデッドにし、近衛とした訳か」
『ああ、使える物は最後まで使わないと損だろう』
そう言って小さく笑うと魔王は2人に命令を下す。
『さあ、そこにいる魔王とその手先を倒すがいい』
「何をっ!?」
驚きの声を上げるヒロヤに向かい騎士が手にした剣で切り掛かる。
「魔王っ、貴様に我が国を滅ぼさせはせんっ!」
騎士に呼応するように魔導士も杖を振り上げて叫ぶ。
「守ってみせるっ。私の故郷と家族をっ!」
その言葉に驚きの表情を浮かべた一同だったが、まさかと唖然とした様子でエリィゼが2人を見つめる。
「…生前の記憶を持ったままなの?」
『そうさ、少しばかり弄って君たちを魔王とその仲間だと思い込ませているけれどね。彼らの国や故郷を守ろうとする想いと君たちの想い…さて、軍配が上がるのはどちらかな?』
「下衆がっ!」
実に楽しそうに言葉を綴る魔王にフレイアが怒声を上げる。
「ちょ、よせっ!俺は魔王じゃないっ」
「問答無用っ。貴様などに王国の平和…民の暮らしを壊させはせんっ!」
相手の剣を弾き返しながら叫ぶヒロヤだったが、そう言い放つと騎士は続けざまに切り掛かって来る。
『水の精霊王たるウェンティルよ。その御力を我に与え給え…水槍っ』
詠唱が終わるなり魔法師の杖から刃上になった水がフレイアに襲い掛かる。
「チッ、炎よっ」
すぐに目の前に炎の壁を作り出し、水槍を防ぐ。
「無詠唱…魔王の手先だけのことはある。だがっ私は負ける訳には行かないっ。愛するミレーナの笑顔を守るためにっ」
決然と顔を上げ魔法師は杖を構え直した。
「ねぇー、もう止めようー。こんなの悲しすぎるよー」
「そうですっ、敵は同じ魔王なのにっ」
彼らの攻撃を必死に躱しながら声を上げるミルィとレニーラだが、残念ながらその声は届かない。
大切なものを守りたい。
ただその一心で戦う彼らには彼女らの声は雑音でしかないのだ。
「怯むなっ、ヒロヤっ」
戸惑いが大きいヒロヤの動きが鈍いことを叱るフレイアだが、彼女が向ける剣の切っ先も鈍い。
彼らの想いが判り過ぎるほど判ってしまうからだ。
二百年前…黒の魔王に蹂躙されたミデア大陸の国々。
その惨状をフレイアはその目で見ている。
兵士はもちろん、女子供、老人…魔王は容赦なくすべての者を惨殺した。
『私の首を差し上げます。ですからこれ以上、民に手を出すことはおやめ下さい』
そう懇願した王女を魔王は鼻で嗤うと、捕らえた彼女の目の前で国民を虐殺し尽くしてみせた。
その様に慟哭の声を上げる王女に魔王は言った。
『君の勇気ある行動…またの名を独り善がりへの褒美だよ。受け取るといい』
台の上に並べられたのは彼女の家族…王、王妃、弟王子、妹王女の首だった。
『いやぁぁぁっ!』
魂切る悲鳴を上げ、次には虚ろな目となり何も言わなくなってしまった王女。
壊れてしまった王女をつまらなそうに見返してから魔王は彼女の首をその横に並べ、世界に向け宣戦を布告した。
その国で起こった惨劇を知った他の国は魔王との和睦を諦め、戦うことを選んだが…。
結果はこの不毛の地と化した大陸が示している。
「…あの者達も死に物狂いで戦ったのであろうな」
それなのに大切なものを守ることが出来ず、そのうえ魔王の手先として使役される。
彼らの無念はいかばかりのものか。
「何処までも外道めがっ」
魔王へ怒りを込めて剣を持ち直すとフレイアはヒロヤに向かって叫ぶ。
「集中しろっ。彼らを止めることが何よりの供養だっ!」
「…分かった」
覚悟を決めた目で相手の騎士を見返すと、ヒロヤは前に踏み出した。
「あんたの剣…その一撃、一撃に国を想う気持ちが込められているのが分かる。それだけ大切なんだよな。でも…此処で終わらせるっ。みんな、力を貸してくれっ」
言うなりヒロヤは剣に上段に振り上げた。
その剣身に仲間から放たれた光が集まってゆく。
「光剣斬っ!」
叫びと共に光の剣が一閃する。
「やった…か?」
マリオがいたら、それってフラグだよと言いう突っ込みが入ったのだろうが残念ながら此処にはいない。
しかしながらフラグはちゃんと立ったようで。
「何だと!?」
アンデッドの一団を一瞬で浄化した攻撃を喰らってもなお、彼らは其処に立っていた。
2人の身体はまさに満身創痍で立ってるのが不思議なくらいだ。
だがどちらの目も戦闘意欲を失わず、猛々しい色を纏っている。
「…此処で倒れる訳には…必ず帰るとミレーナと約…束…」
杖に持たれかけながら魔法師が途切れ途切れに言葉を綴る。
その胸に下がるのは手作りのお守り。
恐らく恋人が彼の無事を祈って作ったのだろう。
「王女様は民の為に魔王にその身を差し出した。姫を救い出すまで負ける訳には行かぬのだっ!」
揺ぎ無い忠誠心の奥に滲む王女への想い。
身分差から報われぬと分かっていても抑えられぬ…その恋情が切ない。
そんな彼らに憐憫の眼差しを向けてからヒロヤは再び剣を構えた。
「これで最後だ…光剣斬っ!」
涙を堪えて振り抜いた剣。
光の刃は騎士と魔法師を捕え、その身を二つに切り裂いた。
ゆっくりと崩れる身体。
しかしその顔は安堵に満ちていた。
「…あの世で愛する人に会えるといいな」
小さく呟くとヒロヤは目から落ちた雫を腕で拭う。
「ヒロヤ…」
気遣うように肩に添えられたエリィゼの手。
その温もりが冷えてしまったヒロヤの心を温めてくれる。
「ありがとう、大丈夫だよ」
そう微笑むとヒロヤは集まって来た一同を見回す。
「行こうっ」
「ああ、魔王は絶対に倒すっ」
決然と顔を上げるフレイアに誰もが大きく頷く。
「この塔は6階建てよ。だから…」
「次が最終防衛ラインか」
エリィゼにそう答えるヒロヤの横で、だったらーとミルィが声を上げる。
「5階にいるのが魔王の次に強い奴ってことだよねー」
「そうね。気を引き締めて行きましょう」
「どんな相手だろうと私が倒して見せる」
レニーラ言葉に頷きつつフレイアが気勢を上げる。
「…フレイアってさ」
階段を昇りながら少し迷ってからヒロヤが問いかけて来た。
「何だ?」
「もしかして…火の王君の関係者か?」
小首を傾げながらのヒロヤの問いに僅かだがフレイアの肩が揺れる。
「…何故そう思う」
「いや、だってさ。凄く火魔法が得意だし、昔のことにいろいろ詳しいしさ」
「そうね、まるで実際に見て来たみたいな口ぶりだわ」
同意の声を上げるエリィゼに、ええとレニーラも頷く。
「無詠唱なのも凄いですが、発動時間がほとんどないことも驚きです。魔法に長けたエルフでもそんなことが出来る者はいません」
「本当は火の王さまだったりしてー」
冗談交じりにそう言ったミルィだが、フレイアの答えに度肝を抜かれる。
「…ミルィの言う通りだ。私が今世の火の王・フレイアだ」
「えぇぇっ!」
「ま、マジでっ!?」
驚きの声を上げるミルィとヒロヤ。
エリィゼ、レニーラに至っては絶句したまま固まっている。
「黙っていて済まぬ。だが水の王・ゼム殿から王は簡単にその正体を口にしてはならぬと戒められていてな」
申し訳なさそうなフレイアに、確かにとヒロヤが納得の声を上げる。
「最初からフレイアが火の王さまだって知っていたら、俺らフレイアに頼り切って本気で戦おうとしなかっただろうからな」
「そうですね。黙っていていただいたおかげで私たちは大きく成長することが出来ましたもの。改めてお礼を申し上げます。王君」
深々と頭を下げて礼を尽くすレニーラにフレイアが大きく首を振る。
「そのように他人行儀な敬語はやめてくれ」
「よろしいので?」
「ああ、頼む。私たちは仲間だろう」
困り顔で頭を掻くフレイアに仲間たちの間に笑みが広がって行く。
「じゃあさー、フレイアがこのパーティーに参加したのってやっぱりー」
「ああ、魔王と決着をつける為だ。二百年前に討ち漏らさなければ今回の事は起こらなかった。無用な犠牲者を出してしまったのは私の責だ」
苦々し気に言葉を綴るフレイアに、その場に居る誰もが大きく首を振る。
「フレイアの所為じゃないっ」
「そうよ、すべての元凶は魔王なのだからそこを間違えないで」
「もしそのことを責める者が居たとしても私たちはフレイアさんの味方です。貴女は私たちの大切な仲間なのですから」
「うん、フレイアは悪くないよー」
自分を認め、必要だと言ってくれる仲間たち。
過去に父に求め、だが決して得られなかったものを与えてくれた相手にフレイアは泣き笑いの表情を浮かべて口を開く。
「…感謝する。私は私のままで良いのだな」
「うん、俺は今のフレイアがらしくて好きだよ。…そう言えばマリオが言ってたな『僕の好きな言葉は「live my own way」意味は「自分らしく生きる」だよ』って。フレイアも同じでいいんじゃないかな」
ヒロヤの言に、ああとフレイが感嘆の声を漏らす。
「さすがはマリオだな。長年私の心にあった悩みをそれだけで解決してくれた」
そう苦笑を零すとフレイアは晴れ晴れとした様子で顔を上げた。
「これで心置きなく魔王と決着をつけられる」
「うん、頑張ろうっ」
「誰が相手だろうと負けないぞー」
ミルィの声に頷くと皆して階段を駆け上がって行く。
「1人だけ…か?」
辿り着いた5階で待っていたのは4階に居たのと同じように甲冑を纏った騎士だった。
兜で顔は判らないが、その体格や雰囲気から年配のように思える。
「何だ、おっさんじゃん」
口を尖らせるミルィに向かい騎士が小馬鹿にしたような声を返す。
「まだ襁褓も取れぬ小童では相手にならぬ。最強の兵を出すが良い」
「こ、小童ってー。それにもうとっくの昔に取れてるしー」
憤慨して言い返すミルィの前にフレイアが進み出る。
「私が相手をしよう」
フレイアの姿を目にした途端、相手の纏う雰囲気が一気に強烈な殺気へと変わる。
「お前は…そうかお前がっ」
言うなり切り掛かっていた相手。
だが次に放たれた言葉に誰もが驚愕する。
「娘の仇めっ!」
聞き捨てならない言に誰もが一斉に反論を開始する。
「馬鹿なこと言うなっ」
「そうですっ」
「フレイアさんはそんなことしませんっ」
「間違えるにも程があるよー、おっさんっ」
「うるさいっ、その姿と名を奪った。それこそが娘を殺した証っ!」
その言葉にフレイアが固まる。
「まさか…父上…か」
愕然となるフレイアの前で騎士が兜を外す。
そこにあった顔は父親であるアーサー・フレナガンに間違いない。
『火の王たる君に僕が特別に用意してあげたプレゼントさ、墓から持ち出して使徒にしておいたから遠慮なく受け取ってくれ』
楽し気な魔王の声が彼が此処に居る訳を教える。
『もっとも彼にとって君は愛娘を殺した憎い仇でしかないけど。さあ、思う存分親子で殺し合ってくれ。二百年前、僕を追い詰めてくれたささやかな返礼だ』
「魔王っ!」
怒りの声を上げるヒロヤの前で父と娘の戦いが始まった。




