83、緑の王vs緑の王 終結
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「84話 魔王城の父と娘」は土曜日に投稿予定です。
少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります
「お前が新たな緑の王だとっ!?」
小脇に抱えた首にある目が怒りを灯して此方を睨み付ける。
そんなダレオス対し、ええとマリオが事も無げに頷く。
「この通り」
水の王ゼムにもらった隠蔽の魔道具であるペンダントを外し、右手にある紋章を露わにする。
その紋章に目を向いたダレオスだったが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「ふん、そのような偽物で我を騙せると思うな」
心底馬鹿にした視線を寄こしてからダレオスが言葉を継ぐ。
「緑の王は我のみ。こうして首が離れていても生きておるのは我が偉大な王ゆえ天が我を生かし続けているからだ」
自信たっぷりに言い放つダレオスにマリオは気の毒そうな視線を向けた。
「そう思い込まされているのか。…完全に魔王の遊び道具されてるな」
きっとこの状況を魔王はゴーレムを使い何処からか見ているのだろうとマリオは嘆息する。
そんなマリオに向かい、しかしとダレオスは怒気と共に言葉を継ぐ。
「我を謀ろうとした罪は万死に値するっ」
言うなりマリオに向かって左手を振り上げた。
「刃木よ、その者を刺し殺せっ」
二の腕にある紋章が光り、その光を浴びた地面にから青黒い葉を茂らせた木が生えて見る間に大きく成長して行く。
一見するとトレントのようだが、細く伸びた枝には薄く鋭い刃がついている。
刃木と呼ばれた木は一瞬で間合いを詰めると枝をマリオに向け突いてきた。
「マリオっ!」
焦った声を上げるリョクだったが、すぐにそれは安堵を含んだ呆れに変わる。
「無駄な枝が多いな。少し剪定するね」
突き出された枝がパチンという音と共にマリオ愛用の鋏で切断される。
「馬鹿なっ、刃木はミスリルよりも硬いのだぞっ」
「あの鋏は女神から与えられた名鋏だぜ。切れねぇモンなんてないのさ」
易々と落とされた枝を呆然と眺めるダレオスに、そうリョクが言い返す。
「女神だとっ…そんなことがっ!」
有り得ないとばかりに目を見開くダレオスの前で、リョクの言葉を肯定するように次々と枝が切り落とされて行く。
「よっと…かなりクセが強いね」
素早い動きで繰り出される枝を躱しながら、自在に操る鋏によって木の輪郭が綺麗に整って行く。
「はい、お終い」
笑顔と共に離れたマリオの前には…可愛らしいウサギの形に剪定された刃木がいた。
もちろん刃状の部分の枝はすべて切り落とされている。
「いいぞ、マリオっ。もっとやれ!」
嬉々とした声を上げるリョクを忌々し気に睨んでからダレオスは怒りに満ちた声を上げる。
「この役立たずめっ、我の意を叶えられぬならば枯れ果てるがいいっ」
叫びと共に葉が青から焦げ茶に変わり、バサバサと落ちて行く。
そのまま刃木は瞬く間に立ち枯れてしまった。
「何てことをっ!」
非難の声を上げて刃木に駆け寄ったマリオだったが、すぐに悲し気に首を振る。
「ダメだ、完全に枯れてしまってる」
いくら緑の王とは言え、枯れた植物を復活させることは出来ない。
「どうしてこんな酷いことを…。何で緑の王なのに植物達を愛してやらない!?」
滅多に怒らないマリオの静かだが激しい怒りを向けられ、一瞬怯んだダレオスだったが。
すぐにそのことを恥じるように肩を反らせて言葉を返す。
「我はもっとも偉大な緑の王。配下の草木は我に従えばいい。その中の役立たずを消して何が悪い」
フンとマリオ達を睥睨してみせるダレオスに、マリオはその目を見返しながら口を開いた。
「僕が知る話にこんなのがある。
「好き」と「愛している」の違いは何か?
この問いに対するブッダは秀麗な答えは次のようなものだ。
花が好きと言う場合、ただ花を摘むだろう。
だが花を愛していれば、世話をし、毎日水をやるだろう。
これがわかる者は、生きることを知る。
僕の師匠である弥彦祖父ちゃんもよく言っていた。『庭師は植物の世話をしているのではなく、世話をさせてもらっているんだって。ましてや自分が支配しているなんて努々思ってはならない』って。そんな傲慢な考えを持つと、誰もついて来ない外れ者になってしまうって戒めだよ。貴方には遅すぎる忠告だけど」
「戯言を…」
「そうかな、貴方の周りを見回してみなよ。一人の味方も力を貸してくれる者も、その身を案じてくれる者もいないじゃないか」
「う、うるさいっ!」
マリオの指摘にダレオスは顔を真っ赤にして言い返す。
「我以外の者は我に傅いておれば良いのだ。我に逆らう者は皆死ねばよいっ!」
子供が癇癪を起すように喚くとダレオスは左腕を高く掲げた。
「我の敵を討てっ【棘闘士】」
ダレオスの声に応え全身に鋭い棘が生えた人形の植物が現われる。
「お気を付けください、我が王。彼の者は長きに渡り幾多の命を奪って来た王の近衛です」
イツキの言う通り棘闘士はダレオスの勘気に触れた者を屠って来た。
そのほとんどが王への陳情者だ。
礼にと持ってきた品を気に入るものにしていなかった。
薄ら笑いを浮かべているのは王を馬鹿にしているからだ。
そんな言いがかりに近い理由…ダレオスの気分次第で多くの者がその命を奪われた。
「…あの子、泣いてる」
棘だらけの恐ろし気な姿。
しかしマリオにはその向こうに子供のように泣きじゃくる様が見える。
「…可哀想に。今、開放するね」
棘闘士に向かってそう言うとマリオは迫って来たその身を抱き締める。
「マリオっ!?」
「我が王っ」
突き刺さった棘がマリオを傷つけ、着ていた服が赤く染まって行く。
「もう大丈夫だから」
優しく声をかけるマリオから放たれた暖かな光が棘闘士を包み込む。
「意に染まないことを遣らされて辛かったね、悲しかったね。でももうそんなことをする必要はないから…【治癒】」
光りに包まれた棘闘士の姿が徐々に小さくなってゆく。
やがてそれは膝丈ほどの木となり、枝先の蕾が開くと可憐な純白の花が咲いた。
「こいつは…」
「棘闘士…いえ、あれが冬薔薇の本来の姿です。ダレオスさまの命によりあのようなことになっておりましたが、本来は心優しい木なのです」
イツキの説明に、なるほどなとリョクが頷く。
「これでいい。遣りたくもないことを無理にやらされるくらい辛いことはないから」
満足げなマリオをダレオスが嘲笑う。
「愚かな。草木にそのような感情などないっ」
「そんなことはないよ。植物にだってちゃんと感情はある。イツキがそうであるように」
「イツキ?」
「貴方の。今は僕の大切な相棒…世界樹だよ」
マリオの言に顔を歪ませるとダレオスは吐き捨てるように言い返す。
「世界樹など主である我に苦言しか言わぬ無礼千万な木偶ではないかっ。あやつが居ねば力が振るえぬゆえ存在を許したが、そうでなければ早々に消し去っていたわっ」
忌々し気なダレオスの言葉に、見る間にイツキの肩が落ちて行く。
かつての主にそんな風に思われていたことがショックなのだろう。
「甘言に踊らされて苦言を言う者を遠ざける…だから貴方は死んで二百年経った今でも愚王と言われているんだ」
「…愚王…二百年?」
そう呟いてからダレオスの目が大きく見開かれる。
「魔王も我に向かってそう言った…愚王だと」
そこまで言ってダレオスは自らの状況がおかしいことに気付いたようだ。
「あれから二百年が経ったというのかっ!?…その後…我は…」
ダレオスの脳裏に微笑みながら剣を振り翳した魔王の姿がフラッシュバックする。
「我は…魔王に…」
愕然とした様子で言葉を綴るダレオスだったが、その目が狂気に染まる。
「おのれ、魔王っ。我に手をかけたことを後悔するがいいっ」
そう叫ぶとダレオスは抱えていた首を高々と掲げる。
「すべての地に生える草木に命じる。枯れよっ、腐り果てよっ」
途端に近くにあった癒しの樹と冬薔薇の花が一気に散り始める。
「なりませんっ、こんなことで王罰などっ!」
悲痛な叫びを上げるイツキの言葉にマリオとリョクに驚きが広がる。
かつてダレオスは思うがままに幾つもの国を王罰により滅ぼした。
草木は枯れ果て、食料を失ったその土地は僅かな間に生き物のいない不毛の地となった。
こんどはそれが世界規模で起ころうとしている。
「王罰だとっ!こんな奴の所為で世界中から草木が消えちまうなんて冗談じゃねぇ」
焦るリョクの前でマリオが静かに言葉を綴る。
「そんなことはさせない…【活性】」
マリオの右手から光が溢れ、光は空高く浮かび上がると周囲に拡散してゆく。
次いでさながら蛍火のように小さな光がゆっくりと空から舞い降りて来た。
その光を受けた癒しの樹と冬薔薇に新たな花が咲き出す。
「おおっ、ダレオスさまの魔法が打ち消されました」
歓喜の声を上げたイツキが大きく両手を広げる。
「さすがは我が王。祝え!王が新たな力を示した瞬間に立ち会えたことを誇りとするがいい」
「やっぱお前はスゲェ奴だぜ」
「ガァッ」
芝居がかったセリフを放つイツキの横でリョクとタマが我が事のように誇らしげに胸を張る。
「あ、有り得ぬっ。我の魔法を消すなどと…」
愕然とした顔でマリオを見やるダレオスの頭に初めて浮かんだ疑問。
こんなことが出来るのは…緑の王に他ならない。
では自分の前に居るのは本当に。
「ち、違うっ。緑の王は我ぞっ。我こそが最も偉大な王」
必死に否定の言葉を綴るとダレオスは冬薔薇に向かって命令する。
「我の敵を討てっ、棘闘士!」
しかしマリオの魔法で元の姿となった冬薔薇に動く気配は見られない。
「何故言うことを聞かぬっ」
「…それはもう貴方が王では無くなったから」
ダレオスが最も恐れていた言葉がマリオから放たれる。
「そんなはずはないっ、我は…」
そこまで言ってダレオスは息を飲んだ。
「も、紋章が…」
ダレオスの腕にあった緑の王の紋章が薄くなり端から消えて行く。
「とうとう天に見放されたってこった。天啓を失った王の末路は判ってるよな」
冷たさを纏ったリョクの言葉にダレオスは目を見開いて叫び返す。
「そんなはずはないっ、我が王だ。我以外の王など存在して良いはずがないっ!」
言うなりダレオスはマリオが切り落とした刃木の枝を拾い上げ、そのままマリオに襲い掛かる。
「お前が消えれば我がまた王となるっ!」
だがそんな勝手な言い分が通るはずもない。
「何を馬鹿なこと言ってやがるっ」
リョクが放った飛び蹴りがマリオに近付いてきたダレオスの身体を後方へと吹き飛ばす。
「わぁ、見事なラ〇ダーキックだぁ」
感動の声を上げたマリオだったがダレオスの変化に気付いて眉を寄せる。
「な、何なのだっ。これはっ!?」
叫ぶダレオスの身体が急速に崩れ始めた。
「紋章の最後の仕事が終わったんだ」
「どういうこった?」
「ガッ?」
仲良く同方向に首を傾げるリョクとタマの前でマリオが淡々と言葉を綴る。
「紋章を得た者は王の資格と共に『究極の異常状態解除』のスキルを授かるよね」
「おう、だから王は不死じゃねぇが不老。そんでもって病気知らずって訳だ」
リョクの言葉に頷くとマリオは崩れ行くダレオスへと目を向ける。
「たぶんあの人は使徒にされてからずっと眠らされていた。それで僕らの相手をさせる為に起こされた。だから目覚めると同時にスキルが発動して」
マリオの言に、ああとリョクが納得の声を上げる。
「そんでそいつが効いて来て元の状態…死体に戻ったってことか」
「うん、アンデッド化も異常状態だからね」
「ん?待てよ。そいつは魔王も分かってたことだよな」
リョクの問いにマリオが小さく頷く。
「解析のスキルを持っているからね。タイムリミットがあることを知ったうえで僕らの下に寄こしたんだ。僕の緑の王としての力を見る…ただそれだけの為に」
「最初から俺らを倒す気は無かったって?」
「そこまでは考えてないだろうね。上手く打ち取れたらラッキーくらいに思ってたんだろう」
「ならあいつは完全に噛ませ犬じゃねぇか」
呆れたようにダレオスをみやると、既に身体は崩れ首だけが残されている。
「おのれっ、魔王めぇぇっ!。許さぬっ、貴様だけはっ…滅びるがいいっ!」
地に転がった首が魔王に向かって怨嗟の叫び声を上げる。
それを最後に先々代緑の王・ダレオスの首は崩れ…後には何も残らなかった。




