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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
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82、緑の王vs緑の王

評価、ブックマークを誠にありがとうございます。

「83話 緑の王vs緑の王 終結」は土曜日に投稿予定です。

少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります。


5月26日に『神様にスカウトされて異世界にやって来ました。―家電魔法で快適ライフ―』の単行本1巻がCOMICスピアより配信されました。特装版限定のおまけ漫画も収録されています。

宜しければお目を通して見てください。


「あれがそうかな」

 遠くに姿を見せた漆黒の塔。

それを指さすマリオに、おうとリョクが元気良く返事をする。


「魔王の野郎はこの手でぶっ倒すっ」

 ヒロヤたちと別れてからずっと本来の姿…飛蝗族となって意気込む様をマリオが楽し気に見返す。

「そうやってるとホントに本郷さんそっくりだよね」

「お前の憧れのヒーローだったか?見てろ、そいつ以上の活躍をしてやるからよ」

「うん、頑張って」

「ガウっ」

 そう微笑んだマリオを守るべくタマが前に進む。


「へっ、どうやらお客だぜ」

 嬉々として構えを取るリョクの前にアンデッドの一団が現われる。

「行くぜ、タマ公っ」

「ガッ」

 承諾の声を返すとタマはマリオを見やる。


「大丈夫、此処で大人しくしてるよ。…アタランテ」

 そう声をかけて種を地に置くとたちまち巨大なイバラが出現する。

イバラ…アタランテはマリオの周囲をぐるりと囲むとその棘を外に向かって伸ばす。

その様は難攻不落の砦のようだ。


「ガウッ」

 安心した様子で頷くとタマはリョクを追ってアンデッドたちに向かって走り出す。

「オラ、オラ、オラァ。少しは遣り返してきやがれっ」

 さすがは風の王。

リョクの手足に風魔法を纏わせた攻撃にアンデッドの一団が簡単に蹴散らされる。


「ガオォッン」

 タマも負けてはいない。 

咆哮と共に繰り出されたブリザードによって見る間にアンデッドたちが氷の塊へと変わり、次いで砕けて行く。


「さすがだなぁ」

 二人の戦いを感心の眼差しで見つめていたマリオだったが、その背をザワリとした悪寒が駆け抜ける。


「…何だ、これ」

 自分と似た…しかし決定的に何かが違うもの。

それが此方に近付いて来るのを感じる。

やがてそれはゆっくりと姿を現わした。


「あ、あれはっ」

 その姿をイツキが恐怖に満ちた目で見つめる。

幽鬼のような足取りでゆらゆらと揺れながら歩いてくるのは灰色の髪をしたエルフ。

周囲に元は騎士らしきアンデッドを従えたその目は虚ろで、小声で何事かを呟き続けている。


「知り合い?」

 マリオの問いに、信じられないとばかりに首を振りながらイツキがその名を口にする。

「…ダレオス様です。先々代の緑の王の」

「えっ?」

 驚いて相手を見返せば、確かに露わになっている右の二の腕にマリオと同じ紋章がある。


「でも先々代の緑の王は黒の魔王に…」

「はい、首を落とされ深淵の森の外に晒されました」

 イツキがそう言った途端、不安定に揺れていたダレオスの首がころりと転がり落ちた。


「うわっ」

 眼前で起こったホラーそのものな出来事に、さすがのマリオも驚きの声を上げる。

そんなマリオの前でダレオスは事も無げに落ちた首を拾うと、小脇に抱えて再び歩き出す。


「まるでデュラハンだね」

 デュラハンとはアイルランドに伝わる死を予言、または執行しに来る首のない男の姿をした妖精のことだ。

「で、ですが何故此処に。御遺体はエルフ国の王墓に埋葬されたはず」

「墓を荒らして回収したんだろう。それで使徒にされたってとこかな」

 ため息をつくマリオの耳に大きくなったダレオスの呟きが届く。


「…我は七王の中でも最も尊い偉大なる王。我の言葉は神に等しく、誰もが平伏し従わねばならぬ」

「自分で偉大とか…かなり痛い人だね」

「…はい」

 マリオの言葉にイツキは肩を落として頷いた。

話には聞いてはいたが、当人を目の当たりにするとその為人に呆れるしかない。


「そこに居たかっ」

 抱えられた首にある虚ろだった目がマリオの姿を捕えた途端、カッと見開かれた。

「魔王めがっ」

「え?」

「そのような稚児を連れて、慰み者にでもしているのか?。邪な貴様らしい」

 憎々し気に此方を見る様にマリオは驚いた顔で言葉を綴る。 


「…僕を魔王だと思ってるのか。しかもイツキに気付かない」

 幼い姿に変わっているとは言えパートナーであったイツキが判らないとは。

どうしてそんなと首を傾げるマリオを指さしダレオスが怒りを込めて言い放つ。

「我に無礼を働いたことを後悔するがいい」

 大きく振るわれた左腕。

すぐにその足元から数多くの草が生え、やがてそれが集まり人の形になる。


「あれって…」

「緑魔法の一つ『草兵』です。火魔法以外で倒す術の無い強者ではありますが…根を持たぬゆえ、その命は半日で尽きます」

 そう言ってイツキは悲し気な表情を浮かべた。


「随分と自分勝手な魔法だな」

 最初から使い捨てるつもりで生み出す。

草木を愛でる庭師のマリオからしたら忌むべき魔法だ。


「行けっ」

 命じられるまま此方に走り寄る3体の草兵。

しかしその動きは鋭い棘を持った茨によって阻止される。


「アタランテっ」

 マリオを守っていた茨が大きくその蔓を振り上げ、向かって来た草兵をバラバラに吹き飛ばす。

千切れてしまった草たちは、再び動くことは無かった。

そのことにダレオスの顔が大きく歪む。


「我に逆らうな。従えっ」

 そう言った途端、マリオを守っていたアタランテが恭順を現わすように棘を引っ込めて地に這いつくばる。

「そうか、天命を失う前に殺されたから今も王のままなんだ」

 植物にとって緑の王は絶対的君主だ。

ゆえにその命に逆らうこと出来ない。

「開闢以来です。このようなことは…」

 2人の緑の王が存在するという有り得ない事態にイツキが動転した声を上げる。


「何でぇ、そいつらは?」

「グゥ?」

 そこへアンデッドたちを倒し終えたリョクとタマが戻って来た。


「先々代の緑の王だって」

「はぁ?」

 マリオの答えにリョクが頓狂な声を出す。

「今は魔王の使徒だけどね」

 それだけでリョクは大まかな経緯が判ったようだ。

「ケッ、いけ好かねぇ真似しやがる」

 そう言い捨てるとリョクはダレオスにニヤリと笑いかける。


「面白れぇ、緑の王の力がどんなもんか試してやらあっ」

 言うなりダレオスに向かって行くが。

「何だとっ!?」

 その足をアタランテの茨が絡め捕り、高く持ち上げられ逆さまに吊るされる。


「このっ!」

 すぐに風魔法で切り刻んで自由を取り戻すが、次々と襲ってくる棘に防戦一方だ。

「火魔法が使えりゃ簡単なんだが…こんな時に限って居やがらねぇ」

 此処に居ないフレイアに文句を言いつつ新たな構えを取ったリョクにマリオの声が届く。


「下がって、リョクさん」

 そのままマリオはアタランテに呼び掛ける。

「リョクさんは僕の大切な仲間なんだ。攻撃しないでくれる」

 マリオの頼みにアタランテの動きが止まる。


「何をしている。我の敵を殲滅せよっ」

 ダレオスの命令にアタランテが再び動き出そうとするが、その動きは鈍い。

細かに震えて必死に抵抗しているのが分かる。


「ありがとう。もういいよ」

 そっと労わるようにアタランテに触れると、マリオは種へと戻るように声をかける。

残して行くマリオを気遣う素振りを見せるアタランテだったが、大丈夫だからと微笑まれて名残惜しそうに種へと姿を変えた。


「魔王め、我と同じ魔法を使うかっ」

 忌々し気に此方を睨むダレオスにリョクが言い返す。

「ああっ?何すっとぼけたこと言ってやがる」

 そんなリョクの横でマリオが緩く首を振る。


「完全に僕を魔王だと思っている。いや、記憶をいじられてそう思い込まされてるみたいだね」

「どういうこった?」

「魔王だと思わせておけば確実に僕を殺そうとするからだよ。それが証拠にイツキの事を覚えていない」

 マリオの話にリョクの全身から怒りのオーラが立ち昇る。


「あの野郎っ、ふざけた真似しやがってっ」

 一本気なリョクにしたらマリオを狙うことも腹立たしいが、王の相方である精霊…イツキの記憶を消してしまったことが許せない。

それほど王にとってパートナーたる精霊は大切な存在なのだ。


「此処は僕に任せてくれる?」

 怒りまくるリョクを宥めるようにその背を軽く叩くと、マリオが前に進み出る。

「お、おい」

「ガウッ」

「大丈夫、ちゃんと勝算はあるから」

 案ずる眼差しを向けるリョクとタマに笑みを返すとマリオはダレオスに呼び掛けた。


「僕の故郷にこんな言葉がある『優秀な人というのは「間違えない人」ではなく「間違えたと分かった瞬間に直す人」です』って」

 マリオの言にダレオスの眉が上がる。


「でも貴方は自分の間違いに気付いても直すことは無かった。それどころか王権を振り翳し、気分次第で多くの人を不幸にした。王とは民を守り導くもの。それをしなかった貴方は傍迷惑な独裁者でしかない」

「うるさいっ、魔王の分際で!」

 マリオの言葉を掻き消すように叫ぶダレオスの足元が光り出す。

やがてそれは複雑な模様をした魔法陣へと変化する。


「何をする気だ!?」

 (いぶか)るリョクにイツキが怯えを刷いた声で答える。

「あれは…滅の樹を生み出す魔法陣」

「なんだそりゃ?」

「八代前の王が造り出した…捕らえた者の力を吸い糧とする樹です。彼の樹が生えた地には何者も存在できません」

 まさしく天災クラスの怪物。

「ど、どうすんだっ。そんな奴が現われたら…」

 さすがのリョクも焦りを隠せない。

そんな彼らの目の前に漆黒の枝を広げた不気味な大樹が姿を現わす。


「こ、こいつが…」

 その禍々しさに息を飲むリョクの前で滅の樹はダレオスを守るように居た騎士アンデッドたちを地から伸ばした根で絡め捕る。

「ぐあぁぁっ」

 苦悶の声を上げたアンデッドの身体がたちまちのうちに枯れ木のように痩せ細り、次いで砂と化して消えて行く。

体内にあった魔核の力を吸い尽くされたようだ。


「ガウッ」

 マリオを守るべく前に出たタマだったが、その足が驚きに停まる。

何とマリオは自分から滅の樹に近付くと、その身を絡め捕ろうとした根を握り込んだのだ。


「滅の樹なんて酷い呼び名だね、君はただ生きたいだけなのに。そう呼ばれてしまうように造った者が悪い」

 そう言い放つとマリオは紋章から光を溢れさせた。

「もう忌み嫌われることのないようにするよ…【進化】」

 暖かな光が辺りを満たす。

「力ではなく瘴気を糧に。そして此の地に生きる物を守ってあげて」

 マリオの呟きと共に滅の樹の姿が変わって行く。


「…こいつは」

 呆れ声を上げるリョクの前にあるのは…枝先に梅に似た薄紅の花をつけた樹。

その花の美しさと香しい匂いに心が洗われるようだ。


「これからは滅の樹じゃなく、癒しの樹と呼ぼう。その香りは生きるものの生命力を高め、その実はケガや病気を治す薬となるから」

「ははっ、こいつはスゲェ…変身の実を造り出してくれた時みたいだぜ」

 虫人の国でのことを思い出し、リョクは爽快な気分で空を振り仰いだ。

 

「これこそが世界を豊かにし、多くの命を育む緑の王の御業。やはり我が王こそ歴代最高の王君です」

 感動しきった様子で嬉々としてイツキが言葉を綴る。


「ば、馬鹿なっ。何故こんなことが出来るっ。…お前はいったい」

 マリオが起こした奇跡のような出来事。

それを目の当たりにしたダレオスの顔に動揺が走る。


そんなダレオスに向かいマリオが笑顔で口を開く。

「改めて初めまして。僕はマリオ・タチバナ…新しい緑の王です」

 マリオの言葉にダレオスは悲鳴のような呻き声を上げた。




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