表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
81/94

81、魔王vs勇者

評価、ブックマークを誠にありがとうございます。

「82話 緑の王vs緑の王」は土曜日に投稿予定です。

少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります。


「見えたよー」

 ミルィが指差す先に聳える高い塔。

光の王から渡された転移の魔道具を使い、勇者一行は5日程で目的地であるミデア大陸最北端へとやって来た。

「あれが魔王城か」

 濃い瘴気の中に佇む漆黒の建物は不気味で、自然と誰もの肩に力が入る。


「気を引き締めろ、あやつは自らは戦わず(たち)の悪い策を弄する」

「そうね、襲ってきたのは手先のアンデッドばかりだったわ」

 ため息混じりに口を開いたエリィゼに、ええとこれまでの道のりを思い返してレニーラが頷く。

何しろ少し進めば新手が現われるといった調子で、アンデッドとのエンカウント率は半端無く高かった。


「マジで引っ切り無しだったな。マリオから分けてもらった回復薬があって良かったよ」

 別れる前に渡された女神さま謹製の回復薬。

その効能は先の戦いで実証済みで、おかげでヒロヤたちは疲れ知らずでここまでやってくることが出来た。


「しかし何故アンデッドばかり…使徒はどうしたのだ?」

 フレイアが疑問を口にすると、確かにとレニーラも同意する。

「魔王が新たな使徒を生み出しているのは間違いないですし」

 その言葉にヒロヤの脳裏にエルドレッドの顔が浮かぶ。


我が儘で不遜で、やって来たことは許されるものでは無かったが…。

「それでもあんな最期は酷すぎるっ」

 良いように利用され、無理やり使徒(あやつり人形)にされて何も残すことなく消滅していった少年。

彼のことを思い、ヒロヤは怒りの声を上げた。


「…可哀想だったねー。使徒にされる時、あんなに泣いて嫌がってたのにー」

 そうヒロヤに同意の声を上げるとミルィは目の前の塔を見つめる。

「絶対に魔王を倒そー」

「ああ」

 決然と顔を上げるとヒロヤは塔を目指して歩き出した。




さて勇者一行の話題に上がった黒の使徒だが、何故姿を見せなかったのか。

それは…。


「調子はどう?イツキ」

 腰から下げたマジック袋の口からちょこんと出た虹色に輝く葉っぱ。

瘴気の濃い中でも大丈夫かと声をかけると幼い声が返事をする。


「はい、我が王の魔力を身近に感じております故、何の問題もございません」

 姿を現わした子供姿のイツキが嬉しそうに言葉を綴る。

「なら良かった。このまま次の地点に転移するよ」

 元気よく茂る木々の葉を眺めながらの言葉にイツキが笑顔で頷く。


「此処と同じく新たな森を作るのですね」

「うん、前に育てたのは魔王に消されてしまったからね。燃えてしまった草木のことを考えると心が痛むけど」

 小さく肩を落とすマリオに、お気になさいますなとイツキが微笑む。


「我らは個にして全、全にして個。例え焼き払われようともそこに土さえあれば風や鳥に運ばれた種子が芽を出し新たな森を作り出します。一時は消えても滅びることはないのですから」

「そうだね」

 イツキの話に納得の頷きを返してからマリオはリョクとタマに声をかける。


「そっちも終わり?」

「おう、使徒なんざ俺にかかれば雑魚もいいとこよ」

「ガウゥ」

 得意げに胸を反らすリョクとタマの足元に倒れ伏す3体の使徒。

その姿は次第に崩れ…やがて何も残すことなく消えて行く。


転移の魔道具で移動していたら世界樹を捜索中の使徒たちと遭遇した。

そこでリョクとタマが相手をし、その間にマリオはせっせと草木の育成作業に勤しんだのだった。

おかげで辺りは不毛の荒れ地から緑溢れる森へと姿を変えた。


『静かな眠りのあらんことを。再び生まれ来る時は良き出会いを得られるように』

 小さくそう呟いて使徒たちの冥福を祈ると、マリオはゆっくりと閉じていた目を開く。


「今までかなりの数の探査用のゴーレムや使徒を倒したし、転移した先で食事にしようか」

 マリオの提案にリョクが嬉し気な声を上げる。

「おう、だったらキリフの街で買い込んだヤツを出してくれ。まだ食べてねぇ料理がたんまりあるからな」

「了解」

 相変わらず食べることに貪欲なリョクに笑みを返すと、マリオは手にした転移の羅針盤を掲げた。




「入口のところに…門番らしいのが二人いるよ」

 斥候たるミルィの報告に頷くとヒロヤは一同を見回す。

「どう攻略しようか」

「正面突破しかなかろう。下手な策はあやつには通じん」

 ヒロヤが言い終わる前にフレイアが言葉を返す。


「まあ、それしかないな」

 苦笑と共に頷くとヒロヤは立ち上がった。

「みんな、回復薬は持ったわね」

 エリィゼが確認すると、もっちろーんとミルィが元気良く手を上げる。

「ちゃんとおやつと一緒にバッグに入れたよー」

 まるで遠足に行く子供のような顔をするミルィに誰もから笑みが漏れる。


「これがあれば即死状態じゃない限り何とかなるもの」

「文字通り命綱だな」

 大きく頷くレニーラとフレイアは回復薬が入った自らの携帯用バックを見やる。

「それじゃ行こうか」

 いい感じに緊張が解れたところで一行は塔に向かって移動を開始する。


  

「正面突破とは言っても騒がれるのは不味いな」 

 気配を絶ってギリギリまで近付いてから小声でヒロヤが呟く。

「だったら私が…マリオ君からもらったこれで」

 ニッコリ笑うとレニーラは風魔法を使い小袋に入っていた粉を見張りに向かって吹き付ける。

しばらくすると見張り達はまるで糸が切れた操り人形のように地に倒れ伏した。


「古代植物の実から採った痺れ粉だったか…大した威力だ」

 感心の声を上げるとフレイアは剣を構えた。

「とどめは任せろっ」

 言うなりその姿が瞬時に見張り達の傍へと移動する。

彼女が得意とする抜重で移動する奥義・瞬歩だ。

そのまま一刀の下に2つの首が地に転がる。


「やはり使徒か」

 ゆっくりとその身が崩れて消えて行く様に、フレイアがため息混じりに言葉を綴る。

「どうやら魔王は全く他人を信用していないみたいね」

「そうですね。自分が造ったゴーレムしか近寄せないなんて」

「寂しい奴だねー」

 エリィゼの言葉にレニーラとミルィが揃って頷く。


「魔王か…ホントに何を考えているんだ?」

 二百年前に起こした惨劇。

その後も人の命をオモチャのように(もてあそ)び、多くの者を不幸にしてきた。

同郷とは言え、どうしてそんなことをするのかヒロヤにはまったく理解出来ない。


「あやつのことだ。何かとんでもないことを仕出かそうとしてるに決まっている」

 怒りを込めてそう言うとフレイアは奥にある漆黒の扉に目を向けた。

「それを知るためにも進まないとな」

 ヒロヤの言葉に頷くと皆して扉に近付いてゆく。


「…何もないな」

 息を殺して開いた扉の向こうは、奥に階段があるだけの広いホールとなっていた。

「大勢の使徒が待ち構えているかと思いましたが」

「拍子抜けだー」

 小首を傾げるレニーラの隣でミルィがつまらなそうに頭の後で腕を組む。


『ようこそ、勇者諸君』

 突然に天井から響いた声。

瞬時に身構える一同にさらなる言葉が降って来る。


『君たちを歓迎するよ』

「黒の魔王っ」

『何かな?』

「どうしてエルドレッドにあんな酷いことをした!?それに瘴気を集めて何をする気だ!?」

 ヒロヤの叫びに魔王は忍び笑いを漏らした。

『そう一度に聞くものじゃない。答えが知りたいなら最上階まで来るといい』 

「…何を企んでいる?」

 フレイアの問いに、心外だとの声が返る。


『遥々こんなところまで来てくれた君たちを僕なりに歓待したいだけさ』

「歓待だと」

 魔王の言葉をフレイアが鼻で嗤う。


「どうせろくでもないことだろう」

『それは来てのお楽しみだ。待っているよ』

 それきり声は聞こえなくなった。


「…行こう」

「ああ、罠と判っているが此処で引く訳には行かぬからな」 

 頷くフレイアを見やってからヒロヤはエリィゼに向き直る。

「エリィゼ達は…」

「此処で待っていろとか言ったら怒るわよ」

「私たちは仲間でしょう。ヒロヤさん達だけ危ない目に遭わせる訳には行きません」

「そうだよー」

 毅然と顔を上げる彼女らに、悪いとヒロヤは頭を下げた。


「仲間だものな、みんなで行こう」

 そう言うとヒロヤはマリオから教わった話を口にする。


『本当に自分に自信がある人は、他人を見下したり、馬鹿にしたりする必要はないのです。そんなことをする人は「自分は欠点だらけの卑怯卑劣でみっともない最低最下等な根性の人間です」と発表しているのと同じなのです』


「確かにな。そう思えば魔王など恐れるに足らぬ」

「うん、そんな奴はガツンと一発入れてやるに限るって父さんが言ってたよー」 

 フレイアとミルィの言葉に笑みを浮かべるとエリィゼとレニーラはヒロヤの傍に歩み寄る。


「参りましょう」

「私は何時だってヒロヤの側にいるわ」

「ああ」

 大きく頷くとヒロヤは階段へと足を向けた。




「もっと戦わせて瘴気を増やしたかったが…来てしまったものは仕方がない」

 そう呟くと魔王は手元の魔道具を操作する。

「彼らの相手は…こんなものか」

 各階に選んだ使徒を配置すると魔王は水晶球へと目を遣る。


「どうやら役者が揃ったようだ。君に会えるのが実に楽しみだ…緑の王」

 その視線の先には塔に近付くマリオ達の姿がある。

「無事に此処まで来れることを祈っているよ」

 クッと嗤うと魔王は別の魔道具を手に取った。


「この世界の者たちを一掃する為に使うつもりだった玩具だ。精々頑張って相手をしてくれ」

 上機嫌で言葉を綴ると魔王は魔道具を操作してそれをマリオ達に向かわせる。

「結果が楽しみだ」

 そう独り言ちると魔王は水晶球へと視線を戻す。

そこには階段を昇る勇者一行の姿が映し出されている。


「beginning of a game」

 その呟きを最後に室内は沈黙に満たされた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ