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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
79/94

79、魔王への反撃開始

評価、ブックマークを誠にありがとうございます。

「80話 世界の果てと魔王城」は土曜日に投稿予定です。

少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります。


『生きるというのは次々に新しいことが押し寄せてきて、それとぶつかって、乗り切って、それで前に進むことだ』


「あ?」

 マリオの呟きに唖然とした後、リョクは慌ててその額に手を乗せる。

「何してるの?リョクさん」

「いや、いきなり変なことを言い出すからよ。熱でもあんのかと」

「心配してくれてありがとう。…前に聞いた言葉を思い返してたんだ」

 マリオはクスリと笑みを零すと目の前に広がる光城の庭を見渡した。


調和のとれた配置の木々にそれを彩る奥ゆかしい色合いの花々。

それらに囲まれた睡蓮が咲く池の中を色取り取りの魚たちが自由に泳ぎ回る。

まさに一幅の絵のような美しい光景だ。


アレクが管理していた庭園の姿を維持しながら、所々をマリオが持つ技術で改良してある様は見事としか言いようがない。

それはマリオが此処に来てからずっと庭の手入れに勤しんでいたことの証明でもある。


「…あれから7日が経つけど何か変わったことは?」

 庭に広がる芝の上で気持ち良さそうに昼寝をしているタマを慈愛に満ちた目で見つめてからマリオが問いかけると。

「特にはねぇさ」

 そうリョクが肩を竦めながら口を開く。


「勇者一行も順調に旅を続けてるって話だ。もうすぐ聖結界に辿り着くんじゃねぇか」

「なら良かった。…魔王としてもイツキを消して僕の動きを封じたから一休みってところなんだろうね」

 続けられたマリオの言に頷きながらリョクは気になったことを聞いてみる。


「けどよう、何で魔王の奴は世界樹を燃やしたりしたんだ?」

「たぶんアンデッドの一団が森に変わったのを知って、これ以上瘴気を減らさない為にじゃないかな」

「瘴気だと?」

「うん、魔王は瘴気を使って何かをしようとしているってことだったよね。きっとそれは元いた世界への帰還だと思う。そのエネルギー源である瘴気を魔素に変えてしまう植物が邪魔だった」

「だから支柱の世界樹を燃やしたのかっ。ふざけやがってっ!」

 その望みの所為でこの世界は滅亡の危機に陥っている。


「何を望もうとそれは個人の自由だけど、その為に他人に迷惑をかけるのは許されることじゃないよね。だから魔王の望みは絶対に叶えさせない」

 毅然と言葉を綴るマリオにリョクから安堵の息が漏れる。


「やっといつものマリオに戻ったな」

「そう?」

「おう、スゲェ思い詰めた顔して庭の手入れをしてるからよ。世界樹を無くしたショックでどうかなっちまったのかとみんな心配してたんだぜ」

「なんかゴメン。何かしてないと落ち着かなくて…それに魔法が使えないただの庭師の僕に出来ることはこれしか無かったから」

 リョクの言葉にマリオは済まなそうに頭を下げる。


「いいってことよ。…ところでよ、お前がそう言うからには何か手立てがあんだろう」

「まあね、確定じゃなかったから今まで言えなかったけど」

「そいつを言ったってことは」

「うん、ここらで反撃に出ようと思うんだ」

「マジかっ、そいつはどうやるんだっ!?」

 大きく頷くマリオにリョクが意気込んで聞いて来る。


「それは精霊王さま達や光の王さまの前で話すよ。みんな聞きたいだろうからね」

 もっともなマリオの言に、おうとリョクも頷く。

「何度も話すのは七面倒臭いからな」

 ニッと笑うとリョクは善は急げとばかりにマリオの背を押して光の王の下へと急ぐ。



「それで?どうするというのじゃ。魔王の事も問題じゃが最優先は世界の救済じゃぞ」

 口元に扇を添えながら光の王が問いかける。

世界樹を失い滅亡が迫る世界をどうやって救えばいいのか。

それはこの部屋に詰めている6人の精霊王たちも同じ気持ちだろう。


あれから祈りを捧げ続けたが女神イネスからの答えはなく、世界を救う術も見つからず八方塞がりとなっていた。

それゆえ誰もが縋るような目でマリオを見つめている。


「僕の故郷にこんな言葉があるんです『割れたカップを元に戻す方法はカップを割らないこと』って」

「は?」

「何だよそりゃぁ、当たり前のことじゃねぇか」

 唖然とする光の王の前で呆れたようにリョクが言葉を綴る。


「ふむ、哲学的ではあるな」

「だからそれがなんだってのさっ」

 考え込む光の精霊王の横で闇の精霊王が焦れた声を上げる。


「つまりこう言うことです」

 ニッコリ笑うとマリオは傍らに置いてあったリュックから白地の植木鉢を取り出した。

そこに植えられていたのは葉が淡い虹色に輝く小さな木。


「そ、それはっ」

「まさか…」

 驚愕する一同の前でマリオがその名を紡ぐ。


「イツキ」

「はい、我が王っ」

 マリオの呼びかけに幼い声が返事をする。

同時に鉢の横に5歳ほどの子供が姿を現わした。

長く豊かなエメラルドグリーンの髪に同色の澄んだ大きな瞳をもつ白皙の美貌。

それは燃えてしまった世界樹の化身・イツキと同じ。


「えええぇっ!?」

「まあっ可愛らしいっ」

「せ、世界樹っ?」

「何でじゃっ!?」

 叫びを上げる風、水、土の精霊王と光の王に向かい小さなイツキがペコリと頭を下げる。


「御心配をおかけしました。ですがこの通り我は無事です」

「な、何故だ、世界樹は確かに焼き尽くされたはず」

 驚きも露わに問う火の精霊王にイツキは胸を張って答える。


「すべて我が王のお力です。偉大な知恵者であり、何よりその優しさは海よりも深く…」

「緑の王の自慢はいいからっ。それよりどうして世界樹が無事で、しかもこのサイズなのさっ」

 延々と続きそうなイツキの話を遮り、闇の精霊王がマリオに詰め寄る。


「こっちに来た次の日にイツキから枝をもらったんです」

「はい、我が見たものを我が王にも見ていただくために渡したのですが…」

「使ったのは最初だけで、後はずっとリュックに入れっぱなしだったから挿し木が出来るかもって」

 時間停止が付与されたリュックの中にあった世界樹の枝は瑞々しいままで、これならもしかしてとマリオは一縷の望みをかけて植えてみたのだ。


「どうなるかは賭けだったから話せなくて…」

 草木魔法が使えぬマリオでは無事に根付くよう祈るしかなく、その為に今まで誰にも言うことが出来なかった。

不確かな希望を与えて、それがダメだった時の失望は計り知れないからだ。


「本当にちゃんと根付いてくれて良かったよ。それにこのサイズでも世界樹としての力は変わりなく使えるみたいだし」

「はい、問題ありませぬ。ですが我が王、我としては早く元の姿に戻りたいのですが」

 少しばかり情けなさそうに幼くなってしまった我が身を見つめるイツキに、マリオが笑って言葉を紡ぐ。


「そこは我慢して。いきなり元のサイズまで成長させるとイツキに負担がかかるし、黒の王に気付かれてまた燃やされたりしたら大変だから」

「分かりました、我が王」

 自分を思いやるマリオの言葉に笑顔で頷く様は実に可愛らしくて、風と水の精霊王から歓喜の悲鳴が上がる。


「本当に可愛くなったわねぇ」

「ずっとこのままの方が良いですわ」

 ニコニコと言葉を交わす2人に頷き返してから、光の王は気になっていたことを聞いてみる。


「しかし何故じゃ?世界樹が齎す情報を直に見聞き出来る便利な枝を使わぬとは」

 不思議そうな光の王に、それはとマリオがイツキを見つめながら口を開く。

「イツキが話してくれることを一々確認するのは二度手間だと思って」

「虚偽を教えられるとは思わなんだのかえ?」

 小首を傾げる光の王に逆にマリオが聞き返す。


「この世界で得た大切な相棒が信じられないなら、他の誰を信じればいいんです?」

「確かにな、これはわらわが一本取られたわ」

 コロコロと笑う光の王に笑みを返すマリオの横ではイツキがフルフルと震えている。


「か、感激です。我が王っ。そこまで我の事をっ」

「当り前だろう。イツキは僕のかけがえのない相棒だもの」

「はい、ありがとうございます。我が王っ」

 幼い世界樹と柔らかな笑みを浮かべる童顔のマリオ。

見つめ合う姿が実に絵になる2人である。


「うむ、まさに『仲良きことは美しき哉』じゃな」

 かつて聖女から教えられた言葉を呟くと光の王はグッと手にした扇を握りしめる。

「その方らの姿を見て血が滾ったぞっ。これぞミヤビが言っておった『ショタ愛』と言うものなのじゃなっ」

「おおぃ、またなんかおかしなことを口走り出したぜ」

 目を爛々と輝かせ出した光の王の様子にリョクが怯えた顔で周囲を見回す。


「我が姫が再び禁断の扉を開いてしまったか」

 深いため息をつく光の精霊王にマリオが呆れた口調で問いかける。

「その扉、ガバガバ過ぎませんか?」

 何にせよ子供相手は犯罪だ。


「実害の無いようきちんとした管理をお願いします」

「分かっている。じっちゃん…ではなく私の名に懸けて」

 心ここにあらず…と言うか既に頭の中が人に言えない妄想で埋め尽くされたらしい光の王を見やりながらのマリオの言に、光の精霊王は何度も大きく頷いたのだった。



「それでこれからどうするんでぃ?」

 皆でイツキの復活を喜んだ後、そうリョクが問いかけて来た。

「差し当たっては魔王の邪魔かな」

「邪魔とは?」

 怪訝そうに首を傾げる土の精霊王にマリオは良い笑顔を浮かべて言葉を継ぐ。


「魔王に気付かれないようにミデア大陸に緑を増やして瘴気を消して行こうかと。転移の魔道具を使えば広範囲に渡って活動が出来ますから」

「ふむ、忍びの如く神出鬼没と言う訳じゃな」

「確かにそれなら魔王も後手に回るしかないね」

 感心する光の王と精霊王に、はいとマリオが頷く。


「そうすれば魔王はこっちに掛かりっきりになるからヒロヤ君達も動き易くなるだろうし」

「陽動作戦ということね」

「ええ、魔王を倒せるのは勇者であるヒロヤ君だけだと思うんです。そのサポートをするのが僕の役目です」

「さすが【賢者】だわ。己が成すことを良く分かっているのね」

 楽し気な声を上げる風と水の精霊王だったが、でもと心配そうにマリオを見やる。


「それだとマリオが危険ではなくて?」

 憂い顔の水の精霊王の前で、任せろっとリョクが胸を張る。

「俺が一緒なんだぜ。マリオには指一本触れさせやしねぇよ。…それにタマ公もいるしな」

「ミャッ」

 自分を忘れるなとばかりに窓辺から姿を現わしたタマにリョクが苦笑と共に言葉を継ぐ。


「世界樹はどうするのだ?ここに置いて行くのか?」

「いえ、イツキは連れて行きます」

 土の精霊王の問いにそうマリオが答えると、たちまち辺りが騒然となる。


「どういうことだっ?」

「世界樹を持ち歩くなんて前代未聞だよっ」

 驚く火と闇の精霊王に、しれっとマリオが答える。


「下手なところに置いておくとまた魔王に攻撃される恐れがあるし、魔王もまさか僕と一緒にいるなんて思わないだろうから却って安全ですよ」

 もっともなマリオに言に誰もが二の句を告げず沈黙を友とする。


「我が王と共に旅が出来るのですかっ?嬉しいですっ」

 そんな中、イツキが眼を輝かせて喜びの声を上げた。

「よろしくね、イツキ」

「はい、我が王っ」

 笑い合う主従を此方も笑みを浮かべて見やってからリョクが口を開く。


「おっしゃ、ならすぐに出発すんぜ。好き勝手出来んのは此処までだ。見てろよ、魔王っ!」

 リョクが勢い良く宙に向かって拳を突き上げる。


「うん、他人に何かしたら良いことも悪いことも同じように返って来るって教えてあげないとね」

 自分がイツキを無くした時に感じた絶望を、そっくり彼に返してやろうと心の中で誓うマリオだった。





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