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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
78/94

78、白銀の羅針盤と王城の庭

評価、ブックマークをありがとうございます。励みになります。

「79話 魔王への反撃開始」は土曜日に投稿予定です。

楽しんでいただけるよう頑張ります。


「どうしたっ!?」

「敵襲!?」

 マリオの叫びに驚いてテントからリョクを始めとした全員が飛び出してきた。


「リョクさんっ、どうしょうっ。イツキが消えたっ」

「はぁ!?消えたって…」

「本当なんだ。幾ら呼んでも返事が無いし、イツキの存在が感じられないっ。きっと何かあったんだっ」

「お、落ち着けって」

 初めてみるマリオの狼狽(うろた)えぶりにリョクはその両肩を掴んで声をかける。


「イツキって…マリオがこの世界に来た時に助けてくれた人だよね。その人に何かあったのか?」

 ヒロヤの言葉にエリィゼ達は取り乱すマリオの姿に納得する。

「とにかく落ち着きやしょうぜ。此処で慌てても何も出来ませんや」

 そう声をかけるとアレクは手持ちの水筒から茶を注いでマリオに手渡す。


「あ、ありがと。でも…イツキに何があったか早く知らないと助けることも出来ないし」

 茶を受け取りながらマリオは憔悴した様子で小さく息をついた。

「しかし行くにしてもあやつがいる深淵の森は遠いぞ」

「そうなんだけど…」

 フレイアの言に項垂れるマリオの肩をポンとリョクが叩く。


「方法ならあるぜ」

「え?」

 弾かれたように顔を上げたマリオに、ニッとリョクが悪戯な笑みを返す。


「ほれ、こいつだ」

 得意げに腰にあったマジックバックからリョクが引っ張り出したのは…。

「酒瓶?それがどうしたのさー」

 首を傾げるミルィだったがマリオはその瓶に見覚えがあった。


「それって…ガンズさんがくれた」

 俺が造った最高級酒と言った通りに本当に美味しく、その味に惚れ込んだリョクが寝酒にと愛飲していたものだ。


「おう、あのクソオヤジからの餞別だ。俺も最初はタダの酒だと思ってたんだがよ」

 言いながらリョクは瓶の底に取り付けらている丸い板を回し出す。

ポロリと外れた底板には銀色に輝く懐中時計に似た物が嵌め込まれていた。


「転移の羅針盤っ!?」

 それはエルフ国に向かう時にガンズから紹介された転移の魔道具の一つに間違いない。

「喰えねぇオヤジだぜ、飲み干したら分かるような隠し方しやがって。渡すんなら素直に渡せっての」

 そう文句を言うが、黄金の羅針盤が使えない事態を想定しての好意だと分かっているリョクには笑みが浮かんでいる。


「こいつを使えば深淵の森まで一っ飛び…とは行かねぇが、朝までには着くぜ」

「ならばすぐに行けっ」

「うん、こっちのことは心配いらないからさ」

 フレイアに続きヒロヤがそう言ってマリオの肩を叩く。


「恩人の危機なのでしょう」

「そうだよー、アタイも頑張って戦うからさー」

「行ってください。マリオ君」

 エリィゼ、ミルィ、レニーラにも言われてマリオは申し訳なさそうに頷いた。


「ありがとう。イツキのことが判ったらすぐに戻るから」

「安心しな。勇者の事は俺がちゃんと守るからよ」

「お願いします」

 忍びの頭領の顔で告げられたアレクの言にマリオは深く頭を下げた。

 

「んじゃ、後の事は頼むぜ」

 軽く手を振るとリョクはマリオとその肩に乗るタマを抱え込み、羅針盤を操作する。

「まずはルイエナ大陸へだな」

 リョクの言葉が終わらぬうちに見る間にその姿が消えて行く。


「行ったか…」

 小さく息をつくフレイアの隣で、でもと困惑した様子でエリィゼが口を開く。

「転移の魔道具をああも簡単に使えるなんて」

「言われてみればそうだよねー」

 転移には多大な魔力を必要とする。

そのことに不思議がる2人に、それよりとフレイアが声をかける。


「計画通り聖結界まで進むのか?行く先々で今回のように使徒の襲撃があると思うが」

 明らかな話題反らしだが、それに気付いたエリィゼは苦笑と共に言葉を綴る。

「ええ、確かにタマちゃんとリョクさんが抜けたことで戦力ダウンは否めないけど。黒の魔王の目的を探るというのがライカム陛下からの指令だもの」

「それにこのまま何の成果もなくキリーナに帰るなんて悔しいじゃないか。今の俺達では戦うには経験値が低すぎるってのは分かっているけど」

 ヒロヤが悔し気な色を刷いて自らの手を見つめる。


「ならば私が剣を教えよう。勇者としての力を存分に振るえるよう」

「いいのか」

 驚いて聞き返すヒロヤに、もちろんとフレイア唇の端を上げた。

「ただ私の指導は厳しいぞ。ついて来れるか?」

「やるよっ。もうあいつのような悲しい存在を生み出さない為なら何でもする」

「良い心掛けだ」

 毅然と顔を上げたヒロヤにフレイアが満足そうに頷く。


「だったら私達も力をつけるよう修行しましょう」

「うん、それと力を合わせられるように連携も鍛えた方が良いよねー」

 続けられたレニーラとミルィの提案に、そうねとエリィゼが微笑む。


「ならこれからは探査と鍛錬の旅ってことでよござんすか」

「うん、改めてよろしく」

 その場にいる全員に頭を下げるヒロヤに誰もが笑顔で応えた。




「もう一息だな」

 何度か転移を繰り返し漸く深淵の森の傍までやって来た時には夜が明けていた。 

「大丈夫、リョクさん」

 移動にかかる魔力負担はすべてリョクが担ってくれていた。

そのことを気遣うマリオに、おうとリョクは笑顔で手を振り返す。


「これくれぇなんでもねぇさ」

「ごめん、僕が魔法を使えない所為で」

 イツキが消えてからマリオは緑魔法は発動しなくなっていた。


「そのことも世界樹んとこに行きゃ分るさ」

 そうマリオを元気付けるとリョクは最後の転移に入った。

「次には深淵の森の真ん中に着くぜ」

「うん」

「ミャッ」

 力強く頷くマリオとタマを見やってからリョクは羅針盤を操作する。



「こ、こんなことって」

 目の前の景色に愕然となるマリオの横でリョクもまた驚きに目を見開く。

「何にもねぇだとっ、んな馬鹿なっ!」

 その言葉通り世界樹…イツキがいた場所にあるのは黒く焼け焦げたクレーターだけだった。


「どうして…」

 力なく座り込んだマリオの前に沈痛な表情の風の精霊王が姿を現す。 

「…マリオ」

「こいつはどういうこったっ。風の姐ちゃんっ!」

 労わるように声をかける風の精霊王にリョクが詰め寄る。


「いきなり巨大な火の塊が空から降って来てな」

「世界樹が張った結界諸共、一瞬ですべてを焼き払って行ったのです」

 悲しみに満ちた様子で土の精霊王と水の精霊王がその横に並び立つ。


「あれは私と契約した火魔法ではない」

「つまり黒の魔王の攻撃ってことさ」

 続いて火と闇の精霊王が姿を見せて言葉を綴る。


「まさか世界樹を攻撃してくるとは思わなかったわよ」

「他の精霊王と違い、世界樹には本体があるからな。標的にしやすかったのだろう」

「本当にこの世界がどうなろうと関係ないと思ってるんだよ。あいつはっ」

 風の精霊王の言葉を受けて土と闇の精霊王が怒りを滲ませる。


「世界樹がなくなったらこの世界はどうなるんでぃ?」

 リョクの問いに、それはと最後に姿を見せた光の精霊王が深いため息と共に答える。

「すぐには変化は起きない。だがすべての植物が緩やかに力を失い枯れて行くだろう。世界樹は植物達の支柱、それが無くなってしまったのだからな」

「だったらこの世界はっ」

「遠からず滅びることになるだろう」

「ふ…ざけんなっ!」

 光の精霊王が告げた言葉にリョクが怒りを爆発させる。


「そんな簡単に滅ぼされてたまるかっ!此処には守らなきゃならねぇモンがいっぱいあんだっ。どうにかなんねぇのかよ!?」

 必死なリョクの問いに精霊王たちは辛そうに目を逸らせた。


「世界樹を生み出した創造神さまなら何とか出来るかもしれませんけど」

「しかし創造神さまは世界誕生の後、いずこかに去ったままだ」

 考え込む水の精霊王にそう答えると土は闇へと向き直る。


「時間操作の魔法で世界樹が燃える前に戻せないか?」

 だが闇の精霊王は哀し気に首を振った。

「無理だよ。時を戻すにはその者が過ごした時間そのものを変える必要がある。原初の樹である世界樹の時間を変えるだけの魔法力を持った者は存在しない」

 もっともな答えに誰もから深い息が零れる。


「クッソ、手立て無しかよっ!」

 怒りも露わにリョクは焼け焦げた大地に拳を打ち付けるが、聞こえてきた呟きにそちらを見やる。

「…イツキ」

 地にへたり込んだまま静かに涙を流すマリオ。

「ミヤァ…」

 そのマリオの涙をタマが必死に舐め取ってゆく。

しかしそれが渇くことは無い。


「とにかく此処に居ても仕方がない。一度我が姫の下に行くとしよう」

「ええ、魔王の攻撃の所為で世界樹の聖域が瘴気に満ち始めてますもの」

「緑碧はともかく人族のマリオには毒だわ」

 魔法が使えなければ魔道具も起動させることが出来ない。

よって今のマリオは光の王からの餞別である指輪を使うことが出来ず無防備状態だ。

光の精霊王の提案に水と風が同意し、それを受けてリョクは白銀の羅針盤を取り出した。


「ほれ、行くぞ」

 座り込んだままのマリオの腕を取るとリョクは素早く羅針盤を動かす。

「目的地は…光城」

 その呟きと共に2人とタマの姿はその場から掻き消えた。



「ほんに困ったことになりおった」

 漏れ出たため息を手にした扇で抑えると光の王は宙を睨んだまま言葉を綴る。

「世界樹を燃やせばどうなるか、それが分からぬ魔王でもあるまい。なのに敢えてそれを成したということは…あやつの悲願であった元の世界への帰還が叶うことになったと考えて良いじゃろう」

「だから行き掛けの駄賃とばかりに世界を滅ぼすことにしたってかっ。ふざけんなっ!」

 怒りも露わなリョクに頷き返すと、ところでと光の王が問いかける。


「マリオは何処に行ったのじゃ?」

 その問いかけに内命婦のレンが気の毒そうに言葉を返す。

「緑の王君は…庭に居ります」

「庭じゃと?」

「はい、何かしていなとおかしくなりそうだと。一心不乱に庭の手入れをしておられます」

「無理もないの。王としての一番の拠り所を無くしてしもうたのじゃから」

 レンの話に光の王は憐憫のこもった眼差しを庭へと向ける。


「けど本当にもうどうにもならねぇのかよっ!?」

 たまらずリョクが声を上げるが。

「精霊王さま達がこぞって女神イネスさまの神託を受けようと祈り続けておるが…今のところ音沙汰なしじゃ」

 肩を落とす光の王にリョクは悔し気に拳を握りしめた。


光の精霊王の話では、この世界の植物達は何もしなければあと3年で完全に枯れ果てる。

そうなれば何者も生きては行けない。

待つのは滅びだけだと。


「どうすりゃいいんだよ…マリオ」

 親友の名を呟き、リョクもまた力なく肩を落とした。




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