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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
77/94

77、燃える世界樹

評価、ブックマークをありがとうございます。

「78話 白銀の羅針盤と王城の庭」は土曜日に投稿予定です。

楽しんでいただけるよう頑張ります。


「大丈夫?ヒロヤ君」

 心配そうにかけられた声に、それまでエルドレッドが消えた場所を見つめていたヒロヤの顔が上がる。

「…マリオ」

 そこにあったのは今にも泣き出しそうな子供の顔。

「泣いていいよ、辛い時や悲しい時にちゃんと泣かないとそれは(おもり)になってずっと心に残ってしまうから」

 そう言うとマリオは労わるようにヒロヤの肩に手を置く。


「う…」

 肩から伝わる暖かさが引き金となって堪えていた感情が爆発する。

「うわぁぁっ!」

 さっきのエルドレッドのように声を上げて泣き出したヒロヤをマリオは黙って抱き締めた。


末弟を彷彿とさせた我が儘な少年。

彼を助けたいと手を伸べたが、それはその命を終わらせるという最悪な結果に終わってしまった。

平和な日本で育った17歳の少年であるヒロヤには過酷な体験だったろう。

この世界に迷い込まなければこんな思いはしなくて済んだはずだ。

その理不尽さに心を痛めるマリオの腕からするりとヒロヤが抜け出す。


「…その…ありがと。もう大丈夫だから」

 子供のように泣いてしまったことが恥ずかしいのだろう。

顔を赤くしながらも、それでもヒロヤ毅然と前を向いた。


「俺、戦うよ。魔王と…」

「ヒロヤ君」

「もうあいつみたな悲しい者を二度と出させない。俺は勇者だから」

 自らの役割を受け入れた顔は決意に満ちていた。


「うん、君がそう決めたのなら僕は応援するよ。誰が何を言おうと僕は君の味方だから」

「…あとがと」

 マリオの言葉を噛み締めるようにヒロヤが頷く。


「皆、此方に来るようだな」

 フレイアの声に振り向けば、アレクが操る竜車がやってくるのが見える。

「ならその前に…」

 そう言ってリョクは虫人から人族へと姿を変える。

虫人が畏怖の対象であるのは此処でも変わらないからだ。


「早く元の姿でも歩けるようになるといいんだけど」

「しけたツラすんな。ありがてぇがお前が気にすることじゃねぇ。こいつは俺ら虫人が変えて行くことだからな。なあに、すぐにそうなってみせるぜ」

「うん、リョクさん達なら出来るね」

 胸を張ってみせるリョクの言葉にマリオは笑顔で頷いた。 



「ヒロヤっ、フレイアっ」

「マリオ君、リョクさん」

「でも良かったよー、アンデッドが現われた時はどうなるかと思ったもん」

「心配かけてゴメン」

 そう頭を下げてからヒロヤは周囲を見回した。


「助かった帝国兵は?」

「奴らなら本隊に帰ぇりやしたぜ。黒の使徒に全滅寸前にさせられたことを報告してこれ以上の進軍を止めさせるとか言ってやした」

「ほう、石頭ばかりの帝国兵にしては物分かりが良いな」

「でもそれが正解だわ。このまま進んでも犠牲者が増えるばかりだもの」

 感心するフレイアに、そうエリィゼが言葉を添える。


「ところでコイツを見ておくんなせい」

 そう言ってアレクが手にしていた物を披露する。

「それは…さっきの鳥か?」

 フレイアの問いに、ヘイとアレクが頷く。

「こっちに飛んで来やしたんで撃ち落としときやした」

 その言葉通り小鳥の胴体部分にはクナイが刺さった跡が見える


「こいつは…ゴーレムみたいだな」

 小鳥の外見をしているが、その内部は明らかに作り物だ。

「でもこれで魔王の情報源が分かったね。こうやって小型のゴーレムを世界中に放っていたんだ。動物を模したものなら何処に居ても怪しまれずに済むし」

 リョクに続いてそう言葉を綴るとマリオは顎の下に手を添えて考え込む。


「だとすると此方の手の内は(ほとん)ど知られていると考えた方がいいね」

 探査用のゴーレムが何体いるか分からないが、黒の人形師事件の情報の詳細さから考えてかなりの数が活動しているのは間違いない。

「チッ、面倒臭いことになったぜ」

 そうリョクがボヤいた時だった。


「アンデッドですぜっ」

 アレクが指差す方向に、まだ残っていたらしいアンデッドの一団が姿を現す。

「俺が…」

 飛び出そうとしたヒロヤをマリオが止める。


「ちょっと試したいことがあるんだ。此処は僕に任せてくれる?」

「いいけど、何を」

 戦闘はからっきしと言っていたマリオをヒロヤが不思議そうに見返す。

同じような顔をしている一同の前でマリオは手にした袋から一つの種を取り出した。


「まずは【発芽】に【成長】と」

 足元の地面に種を埋めると緑魔法を発動させる。

すると小さな芽が出てたちまちのうちに本葉が茂り、次いで黄色い花が咲く。

その様は地球のたんぽぽによく似ていた。


「次は【進化】と【増殖】だね」

 マリオの手から放たれた光に包まれ、黄色い花が辺り一面に広がってゆく。

「綺麗っ」

「本当に」

 荒涼とした大地を覆い隠すように増えて行く花の絨毯にレニーラとエリィゼから感動の声が上がる。

やがて花は白い綿毛へと変わって行った。


「リョクさん、風で綿毛を飛ばしてくれる。出来たらこの辺り一帯すべてに」

「おう、任せろ」

 大きく頷くとリョクは風魔法を使い綿毛たちを一斉に空へと吹き上げる。


「ちょっ、あれぇぇっ」

 綿毛が宙を舞うさまを眺めていたミルィが驚きの声をあげて一方を指さす。

その先に居たのは…アンデッドの一団。

ゆっくりと、だが確実に此方に歩み寄っていた彼らの足が停まった。

その身体には多くの綿毛が取り付いていて、幾つかは芽を出している。

「まさか…」

 これから起こることの予想がついて絶句するフレイアの前でそれは起こった。


芽吹いたタンポポはアンデッド達の身体を苗床に見る間に大きく成長し…。

あるものは大きく枝を広げた高木となり、またあるものは生い茂る草の塊へと変わり。

何時しかそこは緑あふれる小さな森となっていた。


「こ、これって…」

 唖然となるヒロヤにマリオが笑みと共に口を開く。

「地面に根付いたものは元の姿のままだけど、アンデッドに付いたものは木や草になるように進化させたんだ。これで聖結界の外に現れた者達を土に還してあげられる」

 呆気に取られる一同だったが、リョクが気を取り直したように顔を上げて言葉を綴る。


「ま、これなら魔王の奴もここらで新たにアンデッドを召喚しようとはしねぇだろうしな」

「召喚した端から草木になられてはかなわんからな」

 ため息混じりに言葉を返すとフレイアはマリオに向き直る。


「さすがは『賢者』だな。種一つでアンデッド問題を解決してみせたか」

「本当に凄いわ。これで近いうちに国境封鎖も解かれるでしょう」

「あの村の子達も救われるしー」

 フレイアに続き手放しで褒めてくれるエリィゼとミルィに、マリオは緩く首を振って口を開く。


「僕は草木魔法しか使えないから。でもそれが役に立ったのなら良かったよ」

「まったくよぅ」

「わっ、リョクさん」

 ニッコリ笑うマリオの頭をリョクが呆れ顔で撫で回す。

「前にも言ったろっ、お前がやったことはスゲェことなんだ。そのことに素直に胸を張れ」

「う、うん。ありがとう」

 照れたように目を伏せてからリョクに礼を言うマリオを、フレイアは切なげに見つめた。



「今日は此処で野営ですぜ」

 陽が落ちたところでアレクがそう言い、竜車を中心に各自のテントを張ることにする。

賑やかな夕食の後、交代で見張りをしながら就寝となった。


「…フレイアさん」

 焚火を前に見張りをしていたフレイアはその声に顔を上げた。

「マリオか。どうした、眠れないのか?」

「ええ、気になることがあって」

 小さく笑うとマリオはフレイアの近くに腰を下ろす。


「魔王の事か?」

「いえ…フレイアさんの事です」

「何?」

 怪訝そうに眉を寄せたフレイアだったが、次のマリオの言葉に思わず目を逸らせる。


「どうして僕とリョクさんを見る時、あんな切なそうな目をするのかなと思って」

「そ、それは…」

 僅かな仕草を見られていたことに、自身の不甲斐なさと羞恥がフレイアの心を覆う。

 

「…家を飛び出してから私の味方は誰もいないと思っていた。だから王であっても良き友を得られたマリオと緑碧が私は羨ましかった」

 真摯な眼差しを前にして誤魔化しは出来ないと悟ったフレイアが心の内を吐露する。


「でもフレイアさんにもいるでしょう」

「え?」

「火の精霊王さまは心からフレイアさんのことを思っていましたよ」

「…確かにそうだ。私にはイシュガルドがいたな」

「それに僕らもです。僕ら…ヒロヤ君やエリィゼさん、レニーラさん、ミルィさんもフレイアさんの仲間で友達ですよ」

 指摘されたことにフレイアから自嘲の笑みが浮かぶ。


「愚かなことだ。私にも友はいてくれたというのに、マリオに言われるまで気付きもしないとは。…しかし良く私の眼差しに気付いたな。私もまだまだ修行が足りぬ」

 苦笑するフレアに、それはとマリオは気付いた訳を口にする。

「僕が庭師だからでしょうね」

「どういうことだ?」

 不思議そうなフレイアに、マリオは以前イツキに話したことを伝える。

「なるほど常に気を配り、俯瞰で物事を見極める庭師ならではということだな」

 そう感心するとフレイアは深く息を吐いてから、身の上話を始めた。


「…私は帝国のフレナガン家の出でな。父は将軍だった」

 フレナガン家は代々有能な騎士を輩出して来た名門で、多くの者が将軍職に就いていた。

しかし当時のフレナガン家には娘であるフレイアしか子供がいなかった。

そこで父親はフレイアを男として育て、立派な騎士になるよう厳しく指導した。


「同じ年頃の娘達がドレスを着て礼儀作法を教えられる中、私は鎧を纏い剣の修行に明け暮れていた。だがそれを辛いと思ったことはなかった。腕が上がれば父が褒めてくれる。それが何より嬉しかった」

「お父さんのことが大好きだったんですね」

 フレイアの話に頷きながらマリオがそう言葉を綴る。


「…そうだな。強い父のことが好きだった。父のような騎士となり、いずれは帝国初の女将軍となる。それが私の夢だった。…しかし」

 小さく息を吐くとフレイアは天空に輝く星を見つめる。


「私が12の時、母が後継ぎである弟を生んだ。それから私の運命は大きく変わってしまった」

 諦めていた男児の誕生に父親は狂喜した。

この子こそ正当なフレナガン家の後継ぎだと周囲に触れ回り、フレイアの事はまったく(かえり)みなくなった。


「いくら私が剣の腕が上がっても、父は所詮は女のままごとにすぎんと一蹴した。何より悔しかったのは、そんなことをしている暇があったら礼儀作法やダンスを学べと私が今までして来たことを真っ向から否定したことだ」

 それが我慢ならなくて、フレイアはよりいっそう剣の修行に励んだ。

そうすればいずれ父も自分の努力を認めてくれると思ったからだ。

しかし現実は非情だった。


「帝国騎士団に入ろうとした私を叱りつけ、あろうことか勝手に婚約を決めて来たのだ。嫁いで夫に尽くすことが女の幸せだと言ってな」

「それは随分と勝手な言い草ですね。自分の都合でフレイアさんを男として育てておいて、後継ぎが出来たらあっさり手の平を返して女として生きろなんて」

「ああ、私も父の物言いには心底から腹が立った。剣ダコや傷だらけの手に剣ではなく扇を持って男に媚を売れと言われ素直に頷けるはずもない」

 悔しげに唇を噛むとフレイアはその後のことを教えてくれた。


「父が連れて来た婚約者とやらに剣で勝負を挑み、私に勝ったら婚約を認めると宣言した」

「で、相手をボコボコにしたと」

「もちろんだ。同じような年頃の子供に負けるような修行はしていなかったからな」

 連れ来る者をことごとく打ち負かす娘に業を煮やした父親は、次の相手を倒したら勘当だと言い渡してきた。

だがそれを素直に聞くフレイアでは当然なくて、悠々と勝利するとそのまま身一つで家を出た。


流れの剣士として生活の糧を得ながら5年ほど旅をしていたら、突然目の前に火の精霊王が姿を現した。

自分を新たな火の王として迎えに来たと。


「じゃあ御家族とはそれっきり」

「一度だけ王であることを隠して家の様子を見に行った。私も意地を張っていてな、訪れたのは20年後だったが。…家は従兄が継いでいた。弟は7歳の時に母と共に流行り病で亡くなり、父も数年後に失意のうちに死んだそうだ。以来、私にはもう帰るところも待つ者もいないと思っていたが…それは間違いだったな」

 乾いた笑いを浮かべるフレイアに、でもとマリオは小さく肩を竦めた。


「間違いはもう一つありますよ。フレイアさんから剣を遠ざけようとしたのは、お父さんなりの愛情だったんだと思います」

「何?」

「自分の我が儘でフレイアさんに剣の修行ばかリさせていたことにずっと罪悪感があった。だから弟が生まれた今ならもうそんなことせずに着飾ったり、ダンスをしたり、娘らしいことをして欲しかったんじゃないかな。凄く不器用な愛情の示し方ですけど」

 マリオの言葉にフレイアは虚を突かれたような顔になり…やがて低い笑い声を漏らす。


「確かに父は不器用な男だった。…マリオは凄いな、私はそんなこと考えてもみなかった」

「あくまで僕の想像ですけど」

「いや、きっとそうなのだろう。父は頑固で融通が利かず、言葉が足りなかった。…私と同じだ」

「似たもの親子ですね」

「ああ、そうだな」

 小さく笑うとフレイアは夜空を振り仰いだ。


「父はこんな私を愛してくれていたのか」

「ええ、きっと」

 そうマリオが大きく頷いた時、突然目の前にイツキが姿を見せた。


「イツキ!?」

 驚くマリオの前でイツキが悲し気に手を伸ばす。

「…我が王…我は…も…う…」

「イツキっ、イツキ!」

 マリオの呼びかけに小さく笑みを返すと、イツキは炎に包まれ消えていった。

「イツキーっ!」

 マリオの叫びが夜空に長く響き渡った。 




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[気になる点] ええっーーーーー!? イツキ?どうしたのーーーー!?イツキーーー!? って、題名に書いてあるねぇ。燃えちゃったのーーー? 最後ビックリしすぎてエルドレッドの最期のしんみり感がなかったこ…
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