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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
76/94

76、勇者覚醒

誤字報告、評価、ブックマークをありがとうございます。

「77話 燃える世界樹」は土曜日に投稿予定です。

少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります。


「おうりゃぁ!」

 得意の足技を放ちながら気合い十分にリョクが叫ぶ。

だがその攻撃は寸前で躱されてしまう。


「このっ、ちょこまかとっ」

 エルドレッドだった黒の使徒は、その小柄な体を生かしての素早い動きでリョクの横へと移動すると幾つもの火球を放ってきた。


「効かねぇってのっ」

 すべての火球を拳に当てて爆散させるとリョクは得意げに肩を(そび)やかす。

「俺を倒したきゃその百倍の火を持ってこい」

 得意げに立てた親指で自らを指さすリョクに、横で戦いを見ていたフレイアが苛ついた様子で声をかける。


「何を遊んでいる。さっさと倒せっ」

 風の王たるリョクならば一撃で倒せる相手。

だがリョクはそうせず力を出し惜しむかのように簡単な攻撃しか仕掛けない。


「うるせぇな、ちっとの力で戦う訓練中なんだ。黙って見てろ」

 言い返された言葉にフレイアの目が驚きに大きく見開かれる。

「何…だと。力加減馬鹿男のお前が?」

 戦う時は全力が常だったリョクの言葉に、信じられないとばかりに首を振る。


「馬鹿とは何だっ…そりゃぁ前はそうだったかもしんねぇ。けど『ぺーすはいぶん』ってのを身に着けることにしたんだよ。その方が無駄なく長く戦えるって」

「…マリオにそう言われたんだな」

「そっ、そんなことは」

 口籠るリョクに、フンとフレイアが顎を上げて言い放つ。


「お前の頭で考えつくことではないからな」

「言ったなっ、この真っ平らがっ」

「…その言葉、二度と使うなと申し渡したはずだが」

 チャキっと手にした剣の鍔を鳴らしてフレイアが凄む。

「悔しかったら少しはデカくする努力をしたらどうでぇ」

「貴様っ」

 フンと鼻で嗤うリョクを射殺しそうな勢いで睨み付けるフレイア。


「…戦いながら口喧嘩が出来るってある意味凄いね」

「俺もそう思う」

 苦笑するマリオにヒロヤがため息混じりに同意する。

「…ところでその虎って」

 目の前にいる3m程の白虎を恐る恐る指さすヒロヤに、うんとマリオが頷く。

「大きくなったタマだよ」

 ニッコリ笑うとマリオはタマのスキル…サイズ変換について説明する。

「す、凄いな」

「タマは霊獣の氷雪虎だからね。何かと頼りになるんだ」

 そう言ってマリオは大きくなったタマの頭を撫でる。

「そっか、戦えないマリオのボディーガードか」

 仲睦まじい様子に、うんうんと納得の頷きを返すヒロヤだった。



「グガァァッ!」

 リョクに放った攻撃を簡単に弾かれた使徒が、悔し気な叫びを上げ両手を地に叩きつけた。

「何だ?」

 その手から放たれる黒い波動。

「馬鹿なっ、使徒如きが魔王の技を!?」

 驚愕の表情を浮かべたフレイアが慌ててリョクに声をかける。


「気をつけろ、緑碧っ。これは召喚魔法だっ」

「召喚だぁ?いったい何を…」

 そこまで言ってリョクは周囲の異変に気付く。

「こいつは…」

 周囲を覆い尽くすように広がる巨大な魔法陣。

その中から何かが出てこようとしている。


最初に現れたのは地面から伸びた黒く腐った腕だった。

やがてそれは頭、胸、足と徐々に全身を露わにする。

男、女、老人に子供…百を超すその姿は今まで見てきた村人たちと何も変わらない。

しかしその肌は青黒く変色し、目には虚ろな光だけがある。

光の王が『無死なる者』と呼んだ通り、彼らは生者でも死者ですらない。

たださ迷い歩くだけの人形(ひとがた)…。

魔王が造った使徒の成り損ないだ。


「奴らに理性は無い、唯一残っている食欲を満たすために動く者ならば何でも喰らいついてくるぞ」

 フレイアの言葉通り、その口には鋭い牙が見え隠れしている。

「倒すには完全に消滅させるか、身体の何処かにある魔核を破壊しなきゃダメだったな」

 光の王から聞いたことを口にしてリョクが前へと進み出る。


「俺もっ」

 参戦しようと立ち上がったヒロヤの耳に悲鳴が届く。

見れば後方に位置する竜車の周囲にアンデッドが迫っている。

「エリィゼっ、みんなっ!」

 急いで方向転換するとヒロヤは竜車に向かって走り出す。


「タマも一緒に行ってあげて。僕は大丈夫だから」

 そう言うとマリオは腰に下げていた小袋を手に取る。

「ガウゥ」

 その様に安心したように声を上げるとタマはヒロヤを追って走り出した。


「よろしくね。アタランテ、ラフレア」

 取り出した種を地に置くと手を翳して【成長】を発動させる。

すると蜘蛛に似た姿のイバラと巨大な口を持った赤紫の花が姿を現す。

イバラ…アタランテは『攻守の堅茨』の称号通りすぐさまマリオを囲んで鉄壁の盾となり。

『暴食の大華』の称号を持つラフレアは近付くアンデッドを手当たり次第に喰らって行く。


「さすがは緑の王と言ったところか」

 その様に感心したように呟くとフレイアは目の前のアンデッドを炎の剣で切り伏せる。

炎はすぐに業火となってアンデッドを包み、後には何も残らなかった。


「ケッ、お前ばっかにいいところを持って行かれちゃたまんねぇからな」

 言うなりリョクは右手を迫ってきたアンデッドの一団へと向ける。

「喰らえっ、ソニックバスターっ!」

 目には見えないが確実に放たれた風魔法。

それによりアンデッド達の身体がぐにゃりと歪み崩れ始める。

手も足も他の部分も、ほとんど音らしい音も立てずに崩壊して行く。

リョクの得意技、超高周波という風の刃による物質破壊だ。



「な、何故!?」

「こんなことって…」

 信じられない事態にレニーラとエリィゼの顔が強張る。

アンデッドを倒すには火魔法で焼くか光魔法で浄化するしかない。

しかし今回の敵は彼女たちの魔法を受けてもその歩みを止めることはなかった。

ゆっくりとだが確実に、朽ちかけた身体を引き摺るように此方にやってくる様は幽鬼そのものだ。


「みんな無事かっ!?」

 そこへヒロヤが駆け寄って来た。

「ええっ、大丈夫よ」

「今のところはねー。でもこのままじゃ勝てないよ」

 ため息混じりのミルィの言葉通り、魔法攻撃が通じなければ勝ち目はない。


竜車を庇うように立つヒロヤの前にアンデッドが迫る。

「このっ!」

 手にした剣で切り伏せるが…すぐに何事も無かったように起き上がって来てしまう。

「くそっ、どうしたら」 

 悔し気に唇を噛み再び剣を構えたヒロヤの横から氷魔法が放たれた。

吹き荒れた絶対零度の冷気は周囲にいたアンデッドを凍り付かせる。


「ガァァッ!」

 次いで上がった咆哮。

ビリビリと空気を震わせ、それに合わせて氷塊となったアンデッド達が粉々に砕けて行く。


「タマちゃんっ」

「ええっ!?」

 嬉し気なレニーラの声にヒロヤ以外が驚愕の声を上げる。

「タマはさ…」

 そこでヒロヤはマリオから聞いた話を披露する。

「そう言うことだったのね」

 感心するエリィゼだったが。


「エリィゼ、後っ」

 ミルィの叫びに振り替えるとまだ幼い子供の姿のアンデッドがすぐ近くに迫っていた。

「えっ?」

 光魔法を放とうとした手が思わず止まる。

その子がエリィゼを見るなり花が咲くように笑ったのだ。


「…マ…マ…」

 小さな声が紡いだ言葉と縋るように差し出された手に戸惑う。

姿はアンデッドだが、その声と眼差しは母を求める幼子そのものだ。

「あ…」

 その様に攻撃を躊躇(ためら)う。


「きゃぁぁっ」

「エリィゼっ!」

 だがその隙を突かれ右肩に食いつかれる。

鋭い牙が容赦なくエリィゼの肩を食い千切ろうとする。


「このっ、離れろっ」

 その頭を掴んで引き離そうとするが、子供とは思えぬ力で抵抗されて微動だにしない。

その間にもエリィゼの肩は噛み砕かれてゆき、白いローブがどんどんと血に染まってゆく。

「エリィゼが死んじゃうよーっ」

 悲痛なミルィの叫びにヒロヤの中で何かが大きく動いた。


「や…めろっ、やめろぉぉっ!」

 引き抜いた剣に光が集まってゆく。

その光はヒロヤからだけでなく、レニーラ、ミルィ、遠くにいるフレイアから放たれていた。

傷ついたエリィゼからも光が飛び出しヒロヤの剣に宿る。


「光剣斬っ!」

 自然と口から出た技名と共に剣が一閃する。

「う、うそぉー」

 驚愕の声を上げるミルィの前で周囲に集まっていたアンデッドが跡形も無く消えて行く。


「こ、これって…」

「恩恵の【共鳴】が発動したみたいだね」

 その威力に唖然となるヒロヤの耳にマリオの声が届いた。

「共鳴…そっか、さっきの光が」

 納得したように頷いてからヒロヤが言葉を継ぐ。


「仲間の力を分けてもらって発動する。なんだか『みんな、このオラにちょっとずつだけ元気を分けてくれ』ってやつと…」

「そこまでにしとこうか。それも言ったらいけない奴だから」

 しっと人差し指を立ててみせるマリオの笑みに、ヒロヤはぶんぶんと何度も首を縦に振った。


「エリィゼさん、これを」

 マリオが差し出した回復薬を傷にかけると、すぐに綺麗に治ってゆく。

その様に安堵の息をついてからヒロヤはまだ戦っているフレイア達の方へと目を向けた。


「今の俺の力なら…あいつを倒せるよな」

「いいの?」

「…ああ、あいつは使徒にされることを泣いて嫌がってた。したくも無いことをやらされるなんて酷いことはもう終わりにしてあげたい」

 毅然と上げられた顔に迷いは無かった。


「分かった。此処はタマと僕で守るから」

「行ってくるっ」

 マリオの言葉に大きく頷くとヒロヤはエルドレットの下へと走って行く。



「ったくよう。これじゃキリがねぇぜ」

 呆れるリョクの言葉通り、魔法陣からは切れ目なくアンデッドが出現している。

「召喚している使徒を倒さねば終わらん」

「けどなぁ」

 フレイアの言に頷きつつもリョクは困り顔を浮かべた。


当の使徒は魔法陣の中央に陣取り、その周囲を数多くのアンデッドで固めている。

リョクやフレイアの攻撃でその数を減らすことは出来るが、すぐに補充されるために使徒にまで届かないのだ。

「大技の一つも繰り出しゃぁ簡単に終わるが…」

「馬鹿がっ、そんなことをしたらこの辺り一帯は消し飛ぶぞ。我らは良くとも勇者一行は無事では済まぬ」

「そんくらい分かってらぁっ。だから困ってるんじゃねぇかっ」

 王力を使うならばその被害は甚大だ。

放たれれば二度と生き物が棲めぬ荒野と化すだろう。

大きすぎる力は得てして使い勝手が悪いのだ。


「どうしたもんか…」

 考え込むリョクの目が此方に向かってくるヒロヤの姿を捕える。

「此処は俺に任せてくれっ」

「何か手立てがあるようだな」

 その顔に溢れる輝きにフレイアが悟ったように頷く。


「ああ、【共鳴】の使い方が分かったんだ。この力ならあいつを倒せる」

 凛然と言葉を綴るその姿は、旅の始まりの頃に比べると別人のようだ。

「分かった。此処はお前に任せるぜ」

 そう言うとリョクはフレイアと共に後ろに下がる。


「すぐに終わらせる。もう辛い目には遭わせない」

 小さく呟くとヒロヤは剣を構えた。

「光剣斬っ!」

 輝く刃が大きく振り切られる。

その軌跡に沿って次々とアンデッド達が消滅して行く。

残ったのは…エルドレッドだった使徒だけ。


「…辛かったな、苦しかったな。でももうこれで終わるから」

 ゆっくりと歩み寄り、ヒロヤは輝く剣を振り下ろした。

使徒を包み込むように溢れた光…。


「ごめんな、こんなことでしかお前を助けてやれなくて」

 その光の中で元の姿に戻ったエルドレッドは笑みを浮かべていた。

解放されることを喜ぶように。

やがてその姿はヒロヤの前から静かに消えていった。


「…魔王」

 すべてが消えた後、ヒロヤの唇がその名を紡ぐ。

「お前は…お前だけは絶対に許さない。必ず俺が倒すっ」

 決意を込めての宣言。

それと同時に彼に新たな称号が刻まれる。


〈称号〉魔王を討つ者

    光の勇者





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