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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
75/94

75、天才魔法師の最期2

評価、ブックマークをありがとうございます。

「76話 勇者覚醒」は土曜日に投稿予定です。

楽しんでいただけるよう頑張ります。


「何者だ?」

 帝国軍を一掃し哄笑するエルドレッドにフレイアは眉を顰めた。

「あいつはな…」

 エルフ国で見た時と何も変わらない様に癖々としながらリョクが知る限りのことを教える。


「国宝の魔導書を盗み出した!?しかもそれを悪いとも思っていないだとっ」

「おうよ、水のジジイに叩きのめされて説教されたが…あの様子じゃ少しも懲りてねぇな」

 呆れるリョクにフレイアが忌々し気に言葉を継ぐ。


「そんな奴が得意げに火魔法を使うだとっ」

「声がデケェ!」

 思わずそう注意したリョクだったが、その声の方が大きかったのはいかにも彼らしい。


「誰さ?」

「チッ、見つかっちまったぜ」

 小さく舌打ちするとリョクは潜んでいた岩陰から姿を見せる。

その後ろにフレイアも続いた。


「マリオ達の為にもう少し時間を稼ぎたかったが仕方ねぇ」

 エルドレットと戦うことに否やは無いが、戦いが始まれば周囲への被害は免れない。

そうなると救助活動をしているマリオ達が巻き込まれてしまうことは必至だ。


「お前がそんなことを言うとは…」

「何、絶句してやがるっ。俺だってなぁ少しは成長してんだ。…ほぼマリオの奴のおかげだがよ」

 最後の方は消え入りそうなほどの小声だったが、その言葉に思わずフレイアが微笑む。

「…そうか。良き出会いをしたのだな」

 少しばかり羨ましそうに言葉を綴ると彼女はエルドレッドに向き直った。


「貴様は黒の魔王の手先か?」

「手先?馬鹿言わないで欲しいね。僕とあいつは対等な取引相手さ」

 フンと顎を上げてみせるエルドレッドにリョクが呆れたように言葉を返す。

「本気でそう思ってやがるのか?」

「だとしたら類を見ない大馬鹿者だ」

 続けられたフレイアの言葉に途端にエルドレッドの眉が上がる。


「僕を馬鹿にするなっ。炎よっ」

 たちまちその手の平に直径1mほどの火球が現われる。

「僕の邪魔をする奴はみんな消えろっ!」

 勢い良く飛んで来た火球。

「笑止っ」

 しかしそれは進み出たフレイアが軽く手で払うと簡単に掻き消えてしまう。


「なっ…どうしてっ!?」

 信じられない事態に愕然とするエルドレットだったが、すぐに気を取り直して次の攻撃に移る。

「だったらこれでどうさっ。風切っ」

 向かってくる風の刃。

「けっ、そんなもん」

 小馬鹿にしたように顎を上げたリョクが一瞥した瞬間、無効化される。


「何でだよっ。何で僕の魔法がっ!?」

「お前の力は借り物に過ぎないと言うことだ」

「元を断たれちまえばこんなもんだろ」

「…ま、まさか」

 フレイアとリョクの言葉にエルドレッドは驚きに目を見開く。

だがそれで大人しくなることは無かった。


「王だからって偉そうにするなっ。闇剣っ」

 瞬時にリョクとフレイアの足元…影の中から漆黒の剣が飛び出す。

「あっぶねぇだろうがっ」

 しかしさすがは武闘派と名高い風と火の王である。

2人とも難なくその剣をいなして見せる。


「三属性持ちかよ。これならいい気になるのも仕方ねぇか」

 呆れたように言葉を綴るリョクにフレイアも頷く。 

「周囲が神童だ、天才だと持ち上げ続けたのだろう。それで増長した挙句に魔王の手先とは見事なまでの転落人生だな」

「うるさいっ!闇針っ」

 今度は周囲にある影から一斉に5㎝ほどの黒い針が襲い掛かる。


「…王と判っても牙を剥くか。そこまで腐っていては救いはないな」

 それらを炎を纏った剣で薙ぎ払いながらフレイアが怒りの眼差しを向ける。

「な、何だよっ」

 向けられた本物の殺気と威圧にエルドレッドの足に震えが走る。

それに気付いたリョクから心底から呆れた声が上がった。


「偉そうなことを言ってたクセにちゃんと戦ったこともないお子ちゃまだったのかよ」

 リョクの言葉通り、幼い時よりエルドレッドはその桁外れな才能を常に賛美されて来た。

望みは何でも叶えられ、欲しいものは何でも与えられてきた。

しかしそんな環境でまともに育つ方がおかしい。

故にエルドレッドは気に入らぬことがあればすぐに癇癪を起し、同時にその膨大な魔力を暴走させた。

その被害は甚大で、そのため誰もが彼を恐れ、機嫌を損ねないようにしていた。


戦闘においても一方的に攻撃するだけで彼が反撃を受けることは無かった。

そうなる前に敵を殲滅出来ていたからだ。

しかし初めて向けられた殺気と圧倒的な実力差に、彼の中で生まれて初めて恐ろしいという感情が芽生えた。

 

「正真正銘の箱入りだね。楽しいだけの世界しか知らなくて、それを壊す邪魔者を排除して来たけど今回ばかりはそうは行かなかってとこかな」

 ため息混じりに紡がれた声に振り向けば、呆れた様子のマリオとヒロヤがいた。

「ケガ人の救助は終わったのか?」

「うん、おかげさまで。助かった人達は一先ずアレクさんの竜車に収容したよ」

「他のみんなはその介護に当たってもらってる」

 マリオに続きそう言うとヒロヤはエルドレッドに向き直った。


「お前は自分が何をしたか分かってるのか?簡単に命を奪ったりするのは悪いことだと分からない年でもないだろう」

「うるさいっ。僕に説教するなっ!僕は他の奴らとは違うんだ。僕は誰よりも女神さまに愛されて魔法の才を授けられた特別な存在なんだから」

 エルドレットの叫びにマリオは諭すように言葉を継ぐ。


「特別だから何をしてもいいってことにはならないよ。此処に来る前、オライリィで酒造りの才能に溢れた職人の弟子に会った。彼も君のように自分は女神さまに特に愛された者だと言って仲間の弟子たちを見下していた」

「当然さ、才能の無い奴を下に見て何が悪い」

 マリオの話にフンとエルドレットは小馬鹿にしたように顎を上げた。

 

「けど彼は師匠に『お前は酒造りに対して非凡な才がある。だがその才能に胡坐をかいてるのはいただけねぇ。思い上がるなよ、この世にはお前より美味い酒を造れる奴はごまんといる。狭い世界の中でお山の大将を気取ってりゃぁ気分はいいだろう。だがそれでお前はいいのか?広い世界から見りゃぁお前が出来ることは酒造り…ただそれだけだ。自分はそれしか出来ねぇ役立たずだと自覚して周りを見てみろ。自分がどんだけ小っせい奴だったかが分かるぜ』って言われて自分の間違いに気付いたんだ。君はこの話を聞いてどう思う?」

 真摯な眼差しでの問いにエルドレットの顔に迷いが浮かぶが。


「う、うるさいっ。そんな奴と僕を一緒にするなっ。僕は天才なんだっ、誰もが僕の言うことを聞いてればいいんだっ」

 幼い子供が口にするような言葉に誰もから派手なため息が漏れ出る。

  

「…中学生くらいに見えるけど、もしかして中身は幼稚園児なのか?」

 呆れ顔で聞いて来るヒロヤにマリオは苦笑を浮かべた。

「見かけは子供、頭脳は大人だったら良かったんだけどね。どうやら逆みたい」

 そう言うとマリオは前に進み出る。


「子供には道理を教えて間違いを正さないとね。まずは君がそうなってしまった原因を無くそうか…トゥルーさま」

「呼んだかい?」

 マリオの影の中から一人の少年が姿を現わす。

「すみません、こんな瘴気の濃い中に呼び出して。彼なんですが」

「気にしなくていいよ、僕とマリオの仲じゃないか。…これで良し」

 トゥルーが指を鳴らすとエルドレットの中から何かが消える感覚がした。


「じゃあね」

「はい、ありがとうございます」

 笑顔で手を振るとトゥルーは影の中に姿を消した。


「い、今のは…」

「闇の精霊王さまだよ。君との契約を解除してもらたんだ。これで君が使える魔法は無くなったね」

「う、嘘だっ」

 叫ぶなりエルドレットは魔法を発動させようとするが…何も起こらない。

闇だけでなく火と風も王からの依頼で精霊王が契約を解いてしまったからだ。


「そんな…」

「これで君は天才でも何でもないただの子供になったよ」

 マリオの言葉にエルドレットはオロオロと周囲を見回した後…。

「う…うわぁぁんっ」

 小さな子供のように大声を上げて泣き出した。


「こら、ガキっ。泣いて済むと思ったら大間違いだぜっ」

「リョクさんそこで凄まないの。余計に泣いちゃうよ」

「ミヤッ」

 同意の声を上げるとタマはマリオの肩から飛び降りて泣いているエルドレットの下へと歩み寄る。

そのまま肩によじ登り、頬を濡らす涙をペロリと舐めて慰める。


「あの子の泣き顔、末の弟に似てるな」

「弟さん?」

「うん、歳が行ってからの子供だったから親も周りも甘やかしちゃってさ。それで随分と我が儘に育っちゃって。小さい頃は思い通りにならないとよくああやって大泣きしてたよ」

 楽し気に弟の話をするとヒロヤはエルドレットの下に歩み寄る。


「うぅっ」

 タマのおかげで泣き止んだエルドレットにヒロヤが声をかける。

「悪いことをしたら反省して謝る。それくらい出来るよな」

 兄の声でそう話しかけるとエルドレットは驚いた様子で顔を上げた。


「そのような奴に情けを掛ける必要は無い。魔王の配下になった時点で死罪確定だ」

 フレイアの言葉にエルドレットの顔が恐怖に歪む。

「確かにコイツがしたことは大罪だけど、いきなり死刑ってのはどうなんだ。やり直しの機会くらい与えてやってもいいんじゃないか」

「優しいね、ヒロヤ君」

 微笑むマリオの言葉にヒロヤが照れた顔で頭を掻く。


「優しいのとは違うかな。コイツが弟に似てるから見捨てるのが心苦しいだけだし」

「確かに『無知は人を横柄にして、博識は人を謙虚にする』と言うしね。何も学ばず子供のままっていう怠慢な彼には死よりも贖罪と言う名の猛勉強をさせた方がいいと僕も思うよ」

 さらっと黒いことを言うマリオに苦笑を浮かべて頷くと、ヒロヤはエルドレットに向かい手を伸べた。


「お前がしてきたことでたくさんの人が悲しんだ。お前はこれからその人達に対して償いをしなくちゃいけない。分かるな」 

「…でも…どうやって」

 困惑するエルドレットに、大丈夫だとヒロヤは笑みを向ける。


「それは俺らが教えてやるよ。少しづつで良いからちゃんと謝ろう」

 綴られた言葉には思いやりと優しさが感じられて、初めて聞く暖かな声にエルドレットは少し迷ってから小さく頷いた。

「…うん」

 そのままエルドレットはヒロヤの手を取るべくおずおずと右手を差し出た。

2人の手が触れ合う寸前、彼らの頭上に一羽の小鳥が舞い寄る。


『王を王とも思わない君のことは結構気に入っていたんだけどなぁ』

 小鳥が男の声で言葉を紡ぐ。

「ま、魔王っ」

 エルドレットの言葉に誰もが驚く中、小鳥が言葉を継ぐ。


『やはりこの世界に属する者は屑ばかりだね。…さようなら』

 その言葉が終わるなり、エルドレットの身体に異変が起こる。

見る見るうちにその身が両腕の先端から漆黒に染まってゆく。


「これはっ!?」

 異様な気配にフレイアが剣を手に身構えた。

「い、嫌だっ。嫌だぁぁっ!…あぁぁっ」

 泣き叫ぶエルドレットの姿が漆黒の装甲を纏った使徒へと変化する。


「黒の使徒だとっ!?」

「…既に魔核を埋め込まれていたか」

 忌々し気なリョクの横で痛々し気に呟いてから、フレイアは毅然と顔を上げて前に踏み出した。

「ま、待てよ。あいつは…」

 殺気を放つ様に驚くヒロヤにフレイヤが迷いなく言葉を放つ。


「こうなっては救う術はない。殲滅あるのみだ」

「でもっ」

「長引かせても奴を無用に苦しませるだけだっ」

 強く言い切られてフレイアを止めようと上げられたヒロヤの手がゆっくりと落ちて行く。


「…だったら俺が倒すっ」

 覚悟を決めた顔でヒロヤが腰の剣を引き抜く。

「これ以上アイツに罪を犯させるわけには行かない。俺の手を取ろうとしたあいつだってそんなことをしたくはないはずだからっ」

 悲痛な顔でそう言い切るとそのままエルドレットに向かってゆく。

しかし…。

「うわっ!」

「ヒロヤ君っ」

 その手から生み出された火球によって後方へと吹き飛ばされる。


「火魔法っ!?馬鹿なっ。契約は解除されたはずだっ」

「たぶんあれは魔王と同じで精霊との契約ではなく、それを解析して作り出された魔法なんだと思います」

 続けられたマリオの答えにフレイアも頷くしかない。


「危ねえっ、マリオっ」

 再び現れた火球、それがヒロヤの下に駆け寄ろうとするマリオの背に迫る。

「ガオォン!」

 だがそれは大きくなったタマの氷魔法によって簡単に掻き消された。

「よしっ、タマ公はそのままマリオを守れっ」

「ガウッ」

 当然とばかりに頷くとタマはマリオの前に陣取る。


「テメェは俺がぶっ倒すっ。…変身っ!」

 たちまちリョクの姿が元の飛蝗族の姿へと変わった。

「何だ、その掛け声と無用な構えは?」

 呆れるフレイアに、こまけぇことはいいんだよと言い返すとリョクはエルドレットに向かって行く。


「おうりゃぁぁっ!」

 風のドリルを纏った手足がエルドレットの硬い装甲を砕いてゆく。

「ロクサスのダンジョンで戦った時より威力が上がってるね」

 感心するマリオの横ではヒロヤがその光景に無用に口を開閉させている。

「あ、あれって」

「リョクさんの本当の姿だよ」

「で、でも…どう見ても仮め…」

「本郷さんに似てるのは認めるけど、それ言っちゃダメなヤツだから」

 しっと唇に人差し指を当てるマリオにコクコクと頷くしかないヒロヤだった。




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