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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
74/94

74、天才魔法師の最期

感想、評価、ブックマークをありがとうございます。

「75話 天才魔法師の最期2」は土曜日に投稿予定です。

楽しんでいただけるよう頑張ります。


「ありがとうございましたっ」

「お達者で」

「良ければまた寄って下さい」

 そう次々と笑顔で声をかけてくるリコルを始めとする村人たちに手を振って、勇者一行は竜車に乗り込んだ。


「でも凄かったわね、マリオ君の草木魔法」

 百年近くまったく実を付けることな無かったポルンを見事に実らせた光景を思い浮かべてエリィゼ感心した様子で言葉を紡ぐ。

「そうだねー、マリオが一緒なら食べる物に困ることがないねー」

 実もめっちゃ美味しかったしーと相変わらず食欲に正直なミルィが言葉を返す。

しかし当のマリオは緩く首を振りながら口を開いた。


「少しも凄くはないよ。僕がしたことは一時凌ぎでしかないから」

 嘆息するマリオの言葉通りボアの肉は有限だし、ポルンの実だけでは飢えを凌ぐくらいしか出来ない。

村が抱える問題の根本的な解決には至っていないのだ。


「ミャッ」

 肩を落とすマリオを元気付けるようにタマがその頬に額を押し付ける。

その様に微笑んでからレニーラは真摯な眼差しをマリオに向けた。

「そんな顔をしないで。マリオ君は今出来る精一杯の事をしたのだから」

 レニーラの言葉に、そうだなとフレイアが頷く。


「お前は自分に出来ることをした。後は戦える我らに任せておけ。アンテッドの件が解決すれば国境の封鎖は解かれるだろう」

「うん、そうすればあの子たちの親も帰って来れるし」

 そうヒロヤが大きく頷いた時だった。

遠くから複数の騎竜の足音が響いてきた。


「あれは…」

 ヒロヤが窓から見えた光景に声を上げる。

「随分と重装備な連中だな」

 呆れを含んだリョクの言う通り、斜め前を走る百人ほどの騎竜隊の誰もが頭から爪先までフルメタルの甲冑を纏っている。


「帝国軍の旗…」

 エルフの国に攻め込んできた時に見たのと同じ旗にレニーラの顔が強張る。

「…あの甲冑、魔法無効化が付与されてるね」

 胸元から取り出したモノクルでの鑑定結果を口にするマリオに、なるほどとフレイアが感心したように頷く。


「帝国の対魔法部隊か。どうやら目的は我々と同じようだな」

「私達と違って最初から隠す気は無いみたいね」

 呆れたように呟くエリィゼに誰もが頷く。

魔王復活が(おおやけ)にならぬよう隠密行動を取っている勇者一行とは違い、彼らは真っ向から魔王に挑むつもりのようだ。


「あれだけの数で?」

 魔王と戦うには少なすぎる数に首を傾げるマリオに、もちろんとフレイアが言葉を継ぐ。

「あの者達だけではない。他にもいくつかの分隊が別ルートで魔王城を目指しているだろう。大軍を率いての進軍は国同士の戦いでは威嚇となって有効だが、そうでない場合は兵糧などが大変だからな」

 確かにマジックバックを使っても持って行ける食料には限りがある。

しかも竜…見た目は大きな2足歩行のトカゲだが、その餌や水もとなると現地調達が望めないミデア大陸では補給部隊がいなければ大勢での行軍は不可能だ。


「そっか」

 もっともなフレイアの言に納得の頷きを返すとマリオは別の疑問を口にする。

「魔王復活を知った各国の反応は現状静観がほとんどで、早々に動いたのはキリーナだけって聞いたけど」

 光の王から仕入れた情報を口にするマリオに、ええとエリィゼが頷く。

「キリーナの忍び以上に優秀な諜報はいないから、その報告を得てから動いた方がリスクが少ないと各国首脳部は判断したのよ」

「帝国はそう考え無かったのね。…どうしてこうも好戦的なのかしら」

 ため息混じりに言葉を綴るレニーラに、恐らくとフレイアが自らの考えを披露する。


「帝国軍内での派閥争いは激しいと聞く、今回の行軍は将軍の誰かが功を焦った結果だろう」

「けっ、魔法無効化くらいで魔王に勝てると本気で思ってやがるのか?だったら随分とおめでたい頭をしてんぜ」

 呆れを含んだリョクの言に、多分だけどマリオが答える。


「実際に魔王と戦ったことが無いから、その力を過小評価してるんじゃないかな。一晩でダンザ国全域を焼き払い、一瞬で川の流れを変えナウル国の王都を水没させた…だっけ。二百年前の話だし誇張されているって思うのも無理はないけど」

 マリオの話に誰もが頷く。

確かに魔王が仕出かしたことは常識外れも良いところで、荒唐無稽な作り話と思われても無理はない。 


「だが伝えられている話のほとんどは事実だ。それをやるだけの力も有していた」

 毅然と言い切るフレイアにヒロヤが不思議そうに問いかける。

「まるで見て来たみたいに言うんだね」

「そ、祖父がその祖父から聞いた話だ」

 実際に魔王と戦った火の王本人だからの言だが、それを告げる訳には行かずフレイアは慌ててそう言い訳をする。


「帝国兵がこっちに来るよっ」

 その時、前の席にいたミルィが窓の外を指さす。

見ると3人の騎竜兵のが隊列を離れて此方に向かってくる。



「停まれぇっ!」

 先頭にいた兵士がそういって傍へと駆け寄って来る。

その言葉に従いアレクが竜車を停めると、騎竜の上でふんぞり返った姿勢のまま口を開く。

「我らは帝国軍ロガン将軍指揮下第三部隊である。お前たちは何者だ?何処へ行く?」

 ぎろりと睨み付ける相手に素早くアレクが頭を下げる。


「へい、あっしらはこの先の村を目指しておりやす。変わった瘴魔が出たとのことで、その討伐に向かう途中でして」

「ハンターか…しかも鬼人に獣人、エルフまでいるではないか」

 あからさまに此方を見下した眼を向けながら相手は言葉を継ぐ。


「だがそれはまかりならん」

「へ?何故ですかい」

「我らの行軍の邪魔だからだ。亜人のような下賎な者が近くにいては目障りだ。さっさと引き返すがよい」

 あまりに勝手な言い草に一行の誰もが不快の表情を浮かべた。


「亜人なんて酷い呼び方をするなっ!みんな俺の大切な仲間だっ」

「ふん、尊い人族のくせに亜人等にたぶらかされおって」

「何んだとっ!」

「ヒロヤ君」

 掴みかかろとしたヒロヤの腕を掴んで止めると、マリオは兵士に向き直った。

「随分と乱暴な理由ですね。他種族を排他するのは勝手ですが此処は帝国内ではありません。あなたの言い分は通りませんよ」

「き、きさまっ。無礼であろうっ!」

 言い返されて激高する兵士に、しれっとマリオが言い返す。


「同じ帝国軍人でもゴウルガ中将はそのような物言いはなされませんでしたが」

 出された名に兵士の顔色がたちまち悪くなる。

「ち、中将閣下を知っているのかっ」

「はい、エルフ国で懇意にさせていただきました。中将は軍の意向を笠に着て威張り散らす者が何よりお嫌いだと言っておりましたが。…それで僕たちはこのまま帰っても良いのですか?」

 暗に戻ったら中将に事の顛末を報告するぞとの脅しに、相手は簡単に白旗を上げた。

「す、好きにするがいい」

 言うなり脱兎のごとく自分たちの隊へと駆け戻ってゆく。


「さすがは【賢者】だな。良く頭が回ることだ」

 呆れと感心が入り混じった顔で言葉を綴るフレイアに、マリオはふにゃんとした笑顔で応える。

「えっと…何がどうなったんだ?」

 不思議そうなヒロヤと同じ顔をするミルィとレニーラにフレイアが解説をしてやる。


「ゴウルガ中将は帝国軍では1、2を争う実力者だ。『失敗無き者』という二つ名を持つが、奴にはもう一つ隠れた名がある『身内喰らい』だ。同じ帝国軍人であっても自分と敵対する者は容赦なく平らげる。弱みを握られたら最後、先に待つのは破滅しかない」

「簡単に言うと『虎の威を借る狐』だよ。中将の名を借りて相手を黙らせたんだ。これなら平和的に解決できるからね」

「…可愛い顔してやることがえげつな」

「うん、何かな。ヒロヤ君?」

 小首を傾げての問う様は愛らしいが…纏うのは完全に腹黒オーラである。

 

「い、いや。何でもないっ」

 千切れんばかりに首を振るヒロヤにレニーラが嬉しそうに声をかける。

「でも私たちのことを俺の大切な仲間だって言ってくれて嬉しかったです」

「え…そ、そうか」

 真っ赤になって頭を掻くヒロヤの姿にミルィとエリィゼも頷く。

「凄くカッコ良かったよー」

「庇ってくれてありがとう、ヒロヤ」

 微笑ましいやり取りを見つめてからマリオがため息混じりに言葉を綴る。


「でもこれだと魔王はもう帝国の動きに気付いてるよね」

「ええ、魔王なら既に刺客を放っていると思うわ」

 頷くエリィゼの前で、だよねとマリオが眉を寄せて口を開く。

「これは本気で迎え撃つ準備をしないとかな」

 考え込むマリオに向かいフレイアが自らの考えを伝える。


「先の戦いでは尖兵となった黒の使徒の働きが大きかった。まず来るとしたら使徒だろう」

「でも使徒は火の王君が全滅させたとききましたけど?」

 レニーラの問いにフレイアは緩く首を振りながら言葉を継ぐ。

「すべてではない。多くはないが残った者は未だにいるだろうからな」

「それに新しく造ったものもいるだろうし」

 そうマリオが言った時、轟音と共に前方に巨大な火柱が上がった。


「なっ!?」

「あれはっ!」

 急いで外に飛び出すと先を走っていた騎竜隊が炎に包まれていた。

「早く助けないとっ」

 走り出そうとしたレニーラを慌ててマリオが止める。

「気持ちは分かるけど落ち着いて。闇雲に突っ込んでいっても被害が増えるだけだよ」

「で、でも…」

 困り顔を浮かべるレニーラに大丈夫とサムズアップをしてみせると、マリオはリョクに向き直った。


「リョクさんとフレイアさんは先行して敵の牽制を。でも無理はしないで下さいね。その間にヒロヤ君とミルィさんとレニーラさんは怪我人の救助。出来たら騎竜たちも助けてあげて。僕とエリィゼさんはその治療を。アレクさんは竜車を安全圏まで避難せて下さい」

 マリオが割り振った役割に誰もが頷き、素早く自らが成すことをする為に動き出す。


「うらぁ、行くぜ、行くぜ、行くぜぇっ」

「待てっ、先に行くなっ緑碧っ」

 マリオに教えられたセリフを口にしながら勢い良く駆けて行くリョクの後をフレイアが全速力で追って行く。


「そっちに2人倒れているわっ」

「分かったー」

 探査の魔法を使い怪我人がいる場所を指示するレニーラに、任せてと素早さが自慢のミルィが片手を上げる。

「こっちにも1人。ほとんど息が無いから急いでっ」

「了解だっ」

 そう請け負うとヒロヤは見つけた怪我人を担いでエリィゼたちの下に運んでゆく。



「これは酷いな」

 最初に運び込まれた者は両手足が千切れていた。

その様に眉を寄せるとマリオはリュックから女神さま謹製の回復薬を取り出す。

それをかけると、たちまちのうちに手足が復元された。

「う、嘘っ」

 信じられない効能に呆然としたエリィゼだったが、かけられたマリオの声に我に返る。

「重傷者は僕の回復薬で対応するんで、エリィゼさんは軽傷者の方をお願いします」

「ええっ」

 頷きながらエリィゼは横たわる者達に向かって光魔法の『治癒』を施してゆく。


「…今のところ生存者は4人。生きていた騎竜は6頭か」

 しかし状況から見てこれ以上の救助者発見は難しいだろう。

「リョクさん達、大丈夫かな」

 こうも簡単に命を奪う者の冷酷さに怒りを覚えると共に、それと対峙しているであろうリョクとフレイアの身を案じてマリオは今だ黒煙が上がる荒野へと目をやった。



一方、当のリョク達はというと。

「アイツはっ」

「知っているのか?」

 焼き尽くされた荒野の中央に立つ人影。

まだ幼さが残る容姿だが、その顔は愉悦に染まっている。


「そうさ、これが本当の僕の力なんだ」

 一瞬で帝国軍の精鋭部隊を屠った自らの力に酔い、得意げに言葉を綴る。

「あんな忍びにやられるなんて何かの間違いだったのさ」

 魔王によって新たに与えられた両腕を振り上げてエルドレッドは哄笑を上げた。





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