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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
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7、店先の花壇を直そう。


「失礼します」

 ノックの後で顔を出したのはマールと呼ばれた受付嬢だ。

「メゴルン商会の方が見えられました」

「分かったわ。さ、みんな行くわよ」

 エリンの呼びかけに一同が薬草の入った大袋を手に歩き出す。


「間に合ったのは貴方のおかげよ、ありがとう。後で報酬を渡すわね」

 マリオにそう笑いかけるとエリン達は意気揚々と部屋を出て行った。

それを見送るマリオにマールが声をかける。

「マリオさんのギルドカードが出来ました。受付カウンターまで来てもらえますか」

「はい、ありがとうございます」

 無事に身分証が手に入りマリオはニコニコ顔でその後に続く。


「こちらになります」

 差し出された銀色のカードにはマリオの名と草木魔法師であること、そして星印が一つ刻印されていた。

「最初は最下位のFランクからの登録です。

依頼の達成回数によってランクが上がり星の数も増えますので頑張って下さい。このカードは世界中のどのギルドでも使えます。

依頼を受注または完了時に提示して下さい。それとギルドに預けたお金を引き出す時にも提示をお願いします」

「分かりました」

 出来立てのカードを手にマリオが笑顔で頷く。


「そうだ、薬草の買い取りをお願い出来ますか?」

「はい、薬草には常時依頼が出てますから大丈夫ですよ」

 移動中に薬草達が心良く差し出してくれた葉を、カウンターの上へ並べる。


「これは…珍しいものばかりですね。すみません、よく見る薬草なら私でも査定できるんですが…これだと薬草課の人達でないと正確な金額が出せません。ただ今は皆さんがいないので」

「それは構わないです。お腹が空いたのでお昼を食べて来ますから。

ところで近くに美味しいお店とかあります?」

 マリオの言にホッとした様子でマールが口を開く。


「でしたら大通りの最初の角を右に入った『コマドリ亭』がお勧めですよ。

安いうえに凄く美味しいんです」

「だったらそこにします。それじゃあ、また後で」

 元気良く歩き出したマリオに、お気を付けてとマールは笑みを浮かべて手を振った。



マールに教えられた『コマドリ亭』はすぐに見つかった。

しかし…。

「酷いな、可哀想に」

 店の前にある膝高位の石板で囲まれた幅1m程の横長の花壇の花達が何かに押しつぶされたように滅茶苦茶になっている。

気を取り直して店の扉を開けたマリオを威勢の良い声が迎える。

「いらっしゃいっ、一人かい?」

 コクリと頷くマリオをエプロンを付けた女性が席へと案内する。

「あの花壇、どうしたんですか?」

 注文を取りに来た彼女に、マリオは先に気になったことを聞いてみる。

すると彼女は憤懣やるかたない顔で口を開いた。


「昨夜、店の前で酔っ払い共がケンカをおっぱじめたのさ。

花壇の上に殴り倒された奴のさらに上に相手が跨って殴り続けたもんだからあの有様だよ。まったくアタシの大事な店に何をしてくれてるんだい。

弁償させようにもどっちも文無しで払えないとかふざけたことをぬかすし。まったくいい迷惑だよ」

「…良かったら僕が直しましょうか?」

「本当かい?」

「はい、草木魔法が使えるんで」

「そりゃあいい、上手く出来たら飯代は私が奢るよ」

 ポンと胸を叩く女店主に、任せて下さいとマリオは笑顔で請け負った。



「まずは苗株を移動させてっと」

 押しつぶされ、半ばから折れてしまっている株の根を傷めないように丁寧に掘り出して種類別に隅に避けておく。


「次は土だな」

 囲いの所々が壊れ、デコボコに圧し固められてしまっている土の上にそっと手を置き、グローブに付与された【土魔法】を使ってみる。

イツキの話だと魔道具は使う者の具体的なイメージがないと上手く魔法が発動しない。

頭の中にふんわりとした柔らかな土と、それを囲む石板の様を思い描きグローブに魔力を流し込む。

するとまるでフイルムを逆廻ししたように見る間に石板が元の状態に戻ってゆく。

同時に土もマリオが望んだ状態へと変化した。


「わぉ、出来た。魔法って凄いなぁ」

 感心しきった声で呟くとマリオは次の工程に進む。

「好きに直していいってことだから…箱庭風にしようかな」

 土を盛って高低差をつけ、中央に白い小石を曲線上に並べて山から流れる川に見立てる。

山にした部分は芝で覆い、その周囲に色の濃い花は奥に、色の薄い花は手前に来るように植えて調和をもたせる。


「また綺麗に咲いて見る人たちを楽しませてあげて」

 語りかけながら手を(かざ)し草木魔法の【活性】を放つ。

マリオの言葉を受け、キラキラと光を放ちながら株から次々と新芽が出て蕾をつけた順から色とりどりの花弁を広げてゆく。


「すげえな、兄ちゃん」

「見たことのねぇ魔法だな」

「お花、きれー」

「ほんとねぇ」

「あ、ありがとございます」

 通りすがった人達から歓声が上がり、マリオは照れた顔で頭を下げた。



「ごちそうさまでした」

 空になった皿を前に、両手を合わせて軽く頭を下げる。

「今日は助かったよ。またおいで、サービスするからさ」

「はい、また寄らせてもらいます」

 上機嫌で送り出してくれた女店主に手を振り返し、マリオはコマドリ亭を後にした。

店を出ると花壇の周囲に人が集まっていて、花を眺めながら楽し気におしゃべりをしている。

その様に笑みを零してからマリオは来た道を戻ってギルドに向かった。

 



「あ、マリオさんっ」

 ギルドに到着するとマールが焦った様子で駆け寄って来る。

「すぐに薬草課に行って下さい。エリン先輩たちが大変なんですっ」

「え?」

「とにかく急いでっ」

「は、はい」

 追い立てられるように薬草課に行くと、マリオが持ち込んだ薬草を前に唸っていたエリン達が一斉に此方を振り向く。

何故かその眼差しは肉食獣もかくやとばかりにギラついていた。


「マリオ君っ、あなた何処でこんな貴重な薬草を手に入れてきたのっ!」

 ズイと目の前に迫ってきた鬼人族のエリンの迫力に仰け反りながらマリオはオズオズと言葉を紡ぐ。

「ど、何処と言われても…森の中としか」

「いったいどんな森よっ。こんな魔素が濃い場所でしか採れない薬草ばかりが生えてるなんて深淵の森の中央部しか考えられないわっ」

「止めなよ、エリン」

 ニックと呼ばれた男性が、マリオに詰め寄るエリンを引き離す。


「採集場所やその方法を聞くのはタブーだろ。誰だって手の内を簡単にさらしたくはないからね」

「…そうだったわね」

 はあっと大きく息を吐くとエリンはマリオに向き直った。

「ごめんなさい。つい興奮して」

 深々と頭を下げるエリンに、いえっとマリオは手を振ってみせる。


「とにかくあなたが持ち込んだ薬草はどれも滅多に入らない希少品なの。

とてもじゃないけど此処のギルドじゃ買い切れないから競売にかけることになるわ」

「つまり…すぐに換金は出来ないってことですね」

「悪いけどそうなるわね」

 申し訳なさそうなエリンに、慌ててマリオは首を振った。


「今はお金に困ってる訳じゃないんで大丈夫です。

ただ出来たら僕が持ち込んだことは秘密にしてもらえます?」

「構わないけど…公表した方が評判が上がって次の仕事が得られ易くなるわよ」

 首を傾げながらのエリンの言に困り顔でマリオが口を開く。


「僕はハンターじゃなく技能職なんで。今回のはたまたま運良く手に入れられた物ですし」

 マリオの言葉に、そうねとエリンは納得の頷きを返した。

「確かにハンターでもないマリオ君にSランクの妖魔がうろつく場所にまた行けというのは酷だものね」

 そう言うとエリンは一枚の木札を差し出した。


「三日後には競売が終わるから、その時にこれをカウンターに出してくれたら支払いをしてもらえるわ」

「分かりました」

「それとマールの処に寄って今日の報酬をもらっておいて。

いろいろ助かったからちょっと色を付けておいたわ」

「はい、ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げるとマリオは競売の準備を始めた薬草課を後にした。



「これが今回の報酬です」

 渡された銀貨2枚を受け取るマリオに、それととマールが言葉を継ぐ。

「ギルドカードを渡してもらえますか?」

 言われるまま銀色のカードを差し出す。

「少々お待ちくださいね」

 そのまま奥に行ったマールだったが、しばらくして戻ってきた。

「今回の希少薬草の納品依頼完了によって昇格条件を満たしましたのでマリオさんはランクが上がってEランクになりました」

 返されたカードを見ると確かに星が2つに増えている。


ハンターギルドでは F・見習い、E・駆け出し、D・一人前、C・中堅、

B・ベテラン、A・超人、S・レジェンド と言われている。


「凄いですね。一日でランクアップする人ってなかなかいないんですよ。

Eランクになると受けられる仕事の種類も増えますから頑張って下さい」

「えっと…ありがとうございます」

 両の拳を握って励ましてくれるマールにお礼を言って軽く頭を下げたマリオの背後が一人の男の声で一斉にざわつく。


「大変だっ。街の近くに虫人が現われたぞっ!」

 その言葉にハンターの誰もが武器を手にして殺気立つ。

「正確な出現場所の確認を急げっ」

「念のため街に避難の放送を流すか!?」

 途端に騒がしくなった周囲にマリオが不思議そうに首を傾げる。


「虫人が現われたらいけないんですか?」

 その問いにマールが信じられないとばかりにマリオを見返す。

「当り前じゃないですかっ。誰だって食べられたくはないでしょうっ」

「へ?」

 ポカンとするマリオに、逆にマールが聞いてきた。

「虫人のこと知らないんですか?」

「う、うん。僕の故郷には居なかったから」

「どんなところですかっ。…いいです、詳しく教えますね」

 深いため息の後でマールは虫人について語り出した。






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