69、精霊王たちの内緒話
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「70話 転移魔法陣とアンテッド」は土曜日に投稿予定です。
少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります。
マリオ達と勇者一行が出会った頃より時は少しばかり遡る。
「まあ、そんな顔をするな。皆も待っていることだし」
仏頂面で光城の廊下を歩くイツキに光の精霊王が声をかける。
「皆?」
不思議そうに首を傾げるイツキに、彼はニヤリと意味ありげな笑みを向ける。
「待たせたな」
案内された池に面した部屋には先客が待っていた。
「いらっしゃい、世界樹」
「先日はお世話になりましたわ」
にこやかな笑みを向ける2人の美女。
「お久しぶりでございます」
きっちりと頭を下げての挨拶に、相変わらず真面目ねぇと風の精霊王から苦笑が漏れる。
「仕方ありません。それが世界樹ですもの」
軽く肩を竦めてみせる水の精霊王の隣で、確かになと土の精霊王が頷いている。
「世界樹も健勝のようで何よりだ」
そう言ったのは真紅の髪をした、細身で鋭い眼光の美丈夫。
「ありがとうございます。火の精霊王・イシュガルドさま」
軽く頭を下げるイツキの前で、でもさと闇の精霊王が何気に呟く。
「光、闇、火、水、風、土、緑の精霊王が一所に集まるなんて千年ぶりくらいじゃない?」
「確かにそうですわね。特に世界樹は滅多に聖域から出て来ませんでしたもの」
「いえ、ですから…」
引き籠り呼ばわりを回避すべく光の精霊王に言ったことを口にするが。
「あら、私だって他の風精霊からいろいろ教えてもらっているけど聖域に籠りっぱなしなんてことはしないわよ」
簡単に風の精霊王に言い負かされてしまう。
「でも最近は今までが嘘だったみたいに出歩いてるのよね」
「無理もないですわ。新しい緑の王は構いたくなるタイプですもの」
「それだけじゃなくて遣ること成すこと全部面白いよ。リバーシーも強いしさ。
でも次に勝つのは僕だから」
負けっぱなしが悔しいらしく再戦に燃えている闇の精霊王に、はいはいと風の精霊王が気の無い返事を返す。
だがイツキはその言葉に我が意を得たりとばかりに嬉々として口を開く。
「そうなのです。我が王は賢者の名に相応しく賢く、それでいて謙虚で、何より途方もなくお優しく、我ら植物を深く愛しておられて…」
「わ、分かったからっ」
淀みなくマリオのことを褒め称え始めたイツキを慌てて闇の精霊王が止める。
でないと日が暮れるまでマリオ自慢が続きそうだ。
「あんなに王に対して冷淡だった世界樹が此処までバカ…いや、自分の王に夢中になるとはね」
呆れと嬉しさが混じった顔で光の精霊王が肩を竦める。
他の六王と違い、イツキと緑の王の関係は驚くほどに希薄だった。
それゆえ他の精霊王が自分の王を愛でる様が見ていられず、イツキが精霊王たちの集まりに顔を出すことはほとんどなかったのだ。
「だがあまり入れ込むと…後が辛いぞ」
ボソリと呟かれた火の精霊王の言葉に、そこにいた誰もの顔が曇る。
愛する王との別れ。
それは必ず訪れることだ。
水や光の王は長くその位に着いてはいるが、多くの王とは精霊からしたら瞬きくらいの短い期間で死に別れてきた。
それもその理由の殆どは王自身が招いたもの…自滅だ。
彼らが天啓を失い、死に逝く様を精霊はただ見ていることしか出来ない。
一度失った天啓は二度と戻ることは無いからだ。
「仕方ないわ。それが王と精霊王の運命なんだもの」
悲し気に呟く風の精霊王の傍らにそっと水の精霊王が寄り添う。
風の王はこの百年の間に5人の者が立っている。
短いものはたったの4年でその位を去っていった。
傍に居ながら見守ることしか出来なかった彼女の想いはいかばかりのものか。
「しかし改めて考えると不思議なものだ。我らと王の関係は」
しみじみとした口調で火の精霊王が呟く。
「そうだな。始まりは…初めて国と言うものが出来た頃だったか」
「うん、六千年前くらいだね」
光の精霊王の言葉を闇の精霊王が補足する。
創造神により造られた世界…リスエール。
最初にその地に降り立ったのは女神イネスと7人の精霊王。
そして神は精霊たちの属性に合わせた環境…自然を造り上げた。
最後に多種多様な生き物たちを造り、それらを世界の各地に置いて行った。
すべてが終わると神は彼らに言った。
この世界を守ってゆくようにと。
その言葉に従い、精霊王たちは多くの同族…精霊を生み出し守護の為に各地へと放った。
精霊は人の姿を取ることも人語を使うことも出来ないが。
水精霊ならば水玉、火精霊は小さな炎、土精霊は拳ほどの泥人形、風精霊は空気の渦、光と闇は星形の塊、そして緑はそのまま植物の姿を取って自らの属性がある場所に常に存在し、見聞きした事を精霊王へと伝えた。
そんな彼らを各種族は神の使いと敬い、その王たる精霊王を尊んだ。
しばらくは何事もなく平穏な日々が続いた。
しかし人族の中から自らを王と称し、人々をまとめ上げる者が現われた。
それまで小さな集落が点在するばかりで細々と生きていた各種族だったが、人族の動きをみてそれに倣うようになった。
多くの者が集まれば、それだけ多くのことが出来る力が生まれると分かったからだ。
やがてその動きはどの種族が一番かという対抗意識を生み、戦という形を取り出した。
だが戦によって傷つくのは彼らばかりではない。
戦は森を焼き、水を濁らせ、土を穢す。
ゆえに世界は彼ら以上に傷つき疲弊した。
そのことを憂いた女神イネスは、ある決断をする。
精霊と各種族を繋ぎ、その暴走を止め、諫める為の役割を持った者を選出することにしたのだ。
七王の誕生である。
王たちは人々に精霊の力を分け与えることで魔法を授け、その暮らしを助ける反面。
世界を荒らす者達に王罰を下し、殲滅していった。
しかし大抵の者はその重責に堪えられず、百年足らずで天啓を失い死んで行ってしまう。
「そう言えばこの様も、慰めになるかと王の望む姿を取ったのが始まりだったな」
遥か昔のことを思い出して土の精霊王がそう口にすると、ええと水の精霊王が大きく頷く。
「もうこれで固定化してしまいましけど、昔は王に合わせて彼らが憧れる男や慕う女の姿を模して上げたものでしたわ」
もともと精霊に性別はない。
今の姿は初期の頃の王たちの希望に沿った容姿に変わり続けた結果だ。
「精霊王にとって王はかけがえの無い愛しい存在。何故こうも心が惹かれるのか不思議よね」
「そうなるようイネス様がお望みになったからでしょう」
身も蓋も無いイツキの言葉に他の者達から深いため息が零れる。
「それを言ったらお終いだろっ。少しは空気読みなよっ」
仕向けられた感情と分かっていても自分たちの王への想いは本物だ。
それは此処に居る誰もが信じていること。
しかしながらあまり他者との交流が無かったイツキは、そう言った心の機微に大変疎かった。
「…空気とは吸うものであって読むものではないのでは?」
「あのねっ」
木で鼻を括る答えに闇の精霊王がムキになって言い返すが。
「まあまあ、それより本題に入ろう」
雰囲気を変えるように光の精霊王がパンと手を叩く。
「今日、皆に集まってもらったのは魔王について判ったことがあるからだ」
「何だとっ?」
身を乗り出してきた火の精霊王に光の精霊王が頷き返す。
「どうやら瘴気を使って何か仕出かそうとしているらしい。ミデア大陸にいる影達からそう報告が入った」
「さすがは光の王、子飼いの忍びだね。魔王相手に良く殺されずに済んだものだよ」
感心する闇の精霊王に続き、本当にと水の精霊王が口を開く。
「私たち精霊は瘴気が濃い場所には近付けませんもの。助かりますわ」
「しかし瘴気か…厄介な」
「前に我が王が看破したことと関わり合いがあるのでしょうか?」
火の精霊王の呟きの後でイツキが疑問を口にする。
「前とは?」
「ああ、あれか…。確かに瘴気絡みだけど」
鼻先に皺を寄せながら闇の精霊王がガンズが起こした事件のあらましを説明する。
「ふむ、興味深い。だがそれが魔王の仕業ならば」
「瘴気を集めて何をする気なのか」
考え込む火の精霊王と土の精霊王の横で、それとは別口だけどと光の精霊王が影からの報告を披露する。
「黒の魔王が二百年の時を経ても生き続けている理由が判ったよ」
その言葉に誰もが固唾を飲んで次の光の精霊王の言葉を待つ。
「魔王の恩恵が『解析』というのは前に水の王が看破しているけど、とうやらその恩恵を使って先々代の緑の王を解析したらしい」
「なっ!?…まさかっ」
思い至ったことに風の精霊王が顔色を変える。
「ああ、王は不死ではないが不老。その理由を魔王は解析して自分のものとした」
「つまり…究極の異常状態解除のスキルを会得したわけか」
土の王の言葉に誰もの顔に忌々し気な色が浮かぶ。
彼の言葉通り、王が不老なのはそのスキルのおかげだ。
王の紋章が身体に刻まれると同時に王はこの異常状態解除スキルを付与される。
すると病も老いもすべて異常とみなされ、解除され続ける。
ゆえに王は不死ではないが不老となり、長く王の勤めを果たして行けるのだ。
「何をする気か知らないけど、それをするための準備の時間がスキルのおかげでたっぷり取れるようになったって訳だね」
「それで死んだと見せかけて姿を消したのか」
闇の精霊王に続き、火の精霊王が怒りを込めて言葉を綴る。
「唯一の救いは、異常状態解除のスキルは死に至るほどのダメージを受けた場合は発動しないということだね」
「ならば今度こそ我が火の王が魔王を討つ、次は無い」
「火の王が身分を隠して勇者に同行しておられるのはその為ですか?」
イツキの問いに、それを知らなかった他の精霊王たちに驚きが広がってゆく。
「マジで!?世界樹に負けない引き籠りがっ?」
「ですから我は引き籠りでは…」
「フレイアは魔王打倒の為に外界との接触を断って日々研鑽に励んでいただけだっ、引き籠りではないっ」
「それを引き籠りって言うんだよっ」
「いえ、この場合は引き籠りというよりボッチなのでは?」
「さらっとディスるわね。水の精霊王…恐ろしい子」
「周囲に相手がいても独りなのがボッチだろう。カリーネがそうだったからな。引き籠りはその相手すらいないから違うんじゃないか」
話題が魔王から引き籠りの定義に変わってしまったが、それを正す者は…残念ながら此処にはいない。
「いやー、楽しいな。やはり今後は定期的に集まるようにしよう。退屈しないで済みそうだし」
そう言って光の精霊王はにっこりとお笑いになった。




