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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
66/94

66、哀れな人形と死の荒野

評価、誤字報告をありがとうございます。

「67話 勇者と忍び」は土曜日に投稿予定です。

これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。


「あのですね…」

 派手なため息をついてからマリオはキリに向き直った。

そのまま目を見つめながら言葉を紡ぐ。


「もしキリさんがシグマさんと恋仲だって話が周囲に伝わったらどうします?」

「はぁ?」

「な、何を戯けたことをっ!?」

 怪訝な顔のキリと近くに控えていたシグマから驚愕の声が上がったのは同時だった。


「どうしてそうなる?わらわとシグマはそんな間柄ではないぞ」

「キリさんがそう言っても照れ隠しだと決めつけて信じない人も多いと思いますよ。シグマさんが王配になるとなったらいろいろと面倒臭いことになりますよね」

 マリオの言にその状況を思い描いたのだろう、キリの眉間に見事な皺が寄る。


「…そうじゃな。わらわはその気はないが、王配になりたがっておる野心家はあちこちにおるでな。その座を争って多くの諍いが起こるじゃろう」

「それに巻き込まれたシグマさんもいい迷惑ですよね」

「俺は姫様の影だ。どんな罵詈雑言も甘んじて受けるが…俺の存在が姫様の(キズ)となるなら潔くこの首を落とす」

 とんでもないことを言い出し懐からクナイを取り出したシグマに、さすがのキリも慌てる。


「そなたの忠義、嬉しく思うが簡単に死んではならぬっ」

「しかし…」

「これは例えの話じゃ。本気に取るでないっ」

 そう言い渡すキリに向かいマリオが言葉を継ぐ。


「人の口に戸は立てられません、勝手な噂話は人を傷つけます。一度口から出た言葉は取り消せませんから」

「むぅ」

 それには同意するしかなく、キリは観念したように頷いた。


「分かったのじゃ。在する者を巻き込むのは止めよう」

「はい、ありがとうございます」

 ニッコリ笑うマリオだったが、次のキリの言葉に癖々とした顔になる。


「さすがは賢者じゃの。ならばわらわの長年の悩みを解決して欲しい。ミヤビとも朝まで激論を交わしたが、ついに結論は出なかったのじゃ」

「…何がです?」

 聖女の名が出てきたことで嫌な予感はしたが、それは見事に的中する。


「オーカエチゼンと親友のサカキバライオリ、受けはどちらかということじゃ。あとスケとカクもじゃの」

 健全な時代劇ファンが聞いたら卒倒しそうなことをさらりと口にするキリに、マリオから日本海溝並みの深いため息が零れる。


「…そもそも何で決めないといけないんです?」

「何じゃと」

「故郷の言葉に『十人十色』というのがあります。一人一人、みな別々の趣味や嗜好があって一律ではないことを意味するものです。決めるのはその人の自由でいいんじゃないですか」

「自由か…なるほどの」

 大きく頷いたキリの様子にホッとしたマリオだったが、そうは問屋が卸さなかった。


「自由ならばその都度、立ち位置を変えれば良い。うむ、その方が話が広がるというものじゃ。ミヤビが言っておった『りばーしぶる』と言う奴じゃな。久方ぶりに創作意欲が湧いてきたぞっ。誰ぞ紙と筆を持てっ」

「…今の話の流れで何でそうなるかな」

 嬉々として言葉を綴るキリを、マリオが頭痛を堪える仕草で見返す。


「おい、マリオっ。さっきから何の話をしてるんだっ?」

 完全に蚊帳の外だったリョクが焦れた様子で声を上げるが。

「リョクさん」

「な、何だ」

 完全に目が座っているマリオにガシッと両肩を掴まれ、普段とは全く違う様子に思わずビビる。


「世の中には知らない方がいいことってあるんだよ」

「お、おう」

 妙に迫力のあるその言葉に頷くしかないリョクだった。



「それよりもっ」

 部屋の外で控えていたレンが慌てて紙と筆を取りに行く様を横目にマリオは此処に来た目的を果たすべく口を開く。

「ミデア大陸で起こっている異変は御存じですか?」

 その問いにスッとキリの顔が真剣なものへと変わる。


「わらわが張った聖結界の向こう側…死の荒野のことかえ?」

「はい」

 静かに頷くマリオに代わり、イツキが眷属たちから聞いたことを伝える。


「光の王の聖結界付近にいたアンテッド達が一斉に姿を消しました」

「何じゃとっ!?」

 驚愕した後、まさかとキリは自らの考えに顔色を悪くする。

「…魔王の奴め」

「心当たりがありますか?」

 マリオの問いにキリは小さく頷いた。


「魔王が生きておったことはトゥルー様より聞き及んでおる。あやつが成り損ない達を集めているとしたならば何かに使う気じゃろうが」

「成り損ない…ですか?」

 小首を傾げたマリオにキリはアンテッド達の正体を告げる。


「あれらが何故わらわの浄化の魔法でも消えぬと思う?」

「知るかよっ」

 キリの問いにリョクが投げやり気味に言葉を返す。

ダンジョンなどで見かけるアンテッドは光魔法か火魔法で討伐するのが通例だ。

世界最高位の使い手であるキリの光魔法が効かない理由など皆目分からない。


「…まさか」

「気付いたか」

 目を見開いたマリオにキリは憐憫を刷いた眼差しを向ける。

「浄化が効かない…つまり彼らはアンテッドではない」

 マリオが辿り着いた答えにキリは嘆息と共に頷くと、すべては魔王の仕業よと怒りのこもった声で言葉を綴る。


「魔王が造りし黒邪の魔石。それを身体に埋め込まれた者はあやつの使徒と化した」

「黒の使徒か…あいつらは魔王が造ったゴーレムじゃねぇのか?」

「ゴーレムであることに間違いはない。その素材に人を使っておるがの」

 キリが伝えた残酷な事実にマリオとリョクの顔が歪む。


「ジジイ共の話は嘘じゃなかったってことか…」

『黒の魔王は敵を簡単に殺さず、一度連れ帰ってから殺す』

 捕虜にした者達を使って人体実験を繰り返し、その成果が黒の使徒なのだと知って苦々しい思いに捕らわれる。


「しかしすべての者が使徒に成れた訳ではない」

「それがあのアンテッドたち」

「あれらは死者ではなく(しか)して生者でもない。よって死は訪れず生きることも無く地を彷徨(さまよ)うしか出来ぬ人形(ヒトガタ)よ」

「酷でぇことしやがる」

 キリの話にリョクは顔を大きく(しか)めた。


「彼らを救う方法は?」

「残念だが無い」

 不意にかけられた声の方へ眼をやると。

光り輝く長い黄金の髪にマリオと同じ薄茶の瞳の美男子が立っていた。


「よく来たな。風と緑の王たちよ」

「光の精霊王・アルディーンさまです」

 イツキの紹介に光の精霊王は優雅な笑みを浮かべた。


「えっと…その姿は」

「我が王たるキリの望みを叶えたまで」

「ですよねー」

 納得の頷きを返してマリオは光の精霊王を見返す。

長い髪は結わずに流したままだが、服は平安貴族が着る浅黄色の狩衣だ。

洋風の顔つきなのに不思議なことにそれが良く似合っている。


「その…救う術が無いというのは」

 気を取り直して聞いてみると、光の精霊王はその優美な眉を寄せて口を開いた。


「捕らえた使徒の魔石を除けば元に戻るかと試してみたが、取り出した途端その者は砂となって消え失せた。他にもいろいろと手を尽くしたが…助けてやることは出来なかった」

「僅かに自我があった者達の誰もが『殺してくれ』と訴えておった。

魔石を壊すかその身を完全に破壊しない限り動き続け魔王に操られる彼らが望むのは自らの消滅のみじゃ」

 続けられたキリの言にマリオは哀し気に俯き、リョクはその瞳に怒りの炎を灯らせた。


「人を何だと思ってやがるっ、命をオモチャにしやがってっ!」

「…前にリョクさんが言ってた通りなのかも」

「あ?」

 ポツリと呟かれたマリオの言にリョクがその顔を見返す。


「大した失敗もなく順調に来た奴ほど自惚れて、自分が偉ぇと勘違いする。

そうやって付け上がった奴は、自分以外はゴミ屑だと本気で思ってんのさって」

「…ああ、きっとそうなんだろうぜ」

 だからこうも簡単に命を無下に扱えるのだろう。


「わらわ達に出来ることは安らかな眠りを与えて次の輪廻に乗せてやることしか出来ぬ。それすらも難しいがの」

「聖結界の向こうは瘴気溢れる死の世界だ、生者は赴いただけでその影響を受けて命が脅かされる」

「まさしく人外魔境ですね」

 キリに続く光の精霊王の言葉にマリオは深いため息をついた。


「それでも君は行くのかい?瘴気が濃い場所に私たち精霊は近付くことが出来ない。手助けは望めないよ」

 光の精霊王の言葉に、はいとマリオは頷いた。


「このまま何もしないのは自分の心に嘘をつくことになりますから」

「何故じゃ。何故そうまでして…」

「僕の大好きなヒーローの一人はこう言っています。

『守りたいものを守る!!それが今の僕の戦う線引きです!!』って。僕もその言葉に賛成です」

「マリオが行くなら俺も行くぜっ。コイツは大事なダチだ。それに黒の魔王の奴に一発くらわさなきゃ俺の気が済まねぇ」

 凛然と言葉を綴るマリオと隣で意気込むリョクにキリは微苦笑を浮かべた。


「…決心は固そうじゃの。わらわも共に行きたいところじゃが魔王の動向が分からぬ以上、迂闊に動くなと水の王ゼム殿から言われておってな」

「それは正しい判断だと思います。戦いが起これば多くのケガ人が出ます。それを助けられるのは医療師と光魔法師しかいません。キリさんが討たれたらすべての光魔法は使えなくなってしまうんでしょう」

「そうじゃ、新たな王が立つまで光魔法は使えぬ。よってこれを持て」

 そう言うとキリは袖の中から2つの指輪を取り出した。


「これは?」

「わらわの聖結界魔法を宿したものじゃ。これを身に着けて居れば瘴気の影響から逃れられる。共に戦えぬわらわからの餞別じゃ」

 説明が終わるのを待ってシグマがキリから指輪を受け取り、マリオ達の下へと届ける。


「ありがとうございます」

 笑顔で礼を言うマリオに、それでのとキリが言葉を継ぐ。

「その見返りと言っては何じゃが…2人して勇者の供をしてくれぬか」

「はい?」

「どういうこった?」

 仲良く同じ方向に首を傾げる様に、にんまりと笑うと(どうやら創作意欲が刺激されたらしい)キリはその訳を話し出した。


「キリフの神官が女神様より神託を受けたのじゃ。『勇者の称号を持つ者をミデア大陸に向かわせよ』とな。それゆえゼム殿より魔王復活を知らされたキリーナ政府は勇者を含めた斥候部隊を死の荒野に送ることにしたのじゃ」

「…なるほどそれで勇者君が行くことに」

 まだこの世界に来たばかりで戦う術も修練中の彼が行くことになった理由を知ってマリオから同情の声が上がる。


「そうじゃ、そなたらと同じ指輪を一行には渡してあるがマリオも同郷の者のことが気になるじゃろう。何、着いてゆくのはわらわの結界の手前までじゃ。そこから先は好きに動くと良い」

「分かりました」

「何を企んでるか知らねぇが…此処は大人しく乗ってやるぜ」

 頷くマリオの隣でそう言ってリョクが顎を上げる。


「詳しきことはアレックスに聞くがいい」

「アレックスさん?」

「我ら御庭番衆の頭領だ。この城の庭師でもある」

 シグマの言葉に、ポンとマリオは手を打った。

「確かに、庭の番をする忍びで御庭番ですもんね」

 目的の人物に会えると素直に喜ぶマリオの横で。

「アレックス…どっかで聞いたな」

 と、盛んに首を傾げるリョクだった。




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