64、試練終了と光の城
評価、誤字報告をありがとうございます。
「65話 聖女が齎したもの」は土曜日に投稿予定です。
これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。
「またかよ」
細い小路を抜けて出た広場の奥に現れた新たな洞穴。
「今度は4つだね」
増えた選択肢にリョクから派手なため息が漏れる。
「どれが正解だ?」
困り顔を浮かべるリョクの隣でマリオが壁の一点を指さした。
「あれがヒントみたいだよ」
そこには入口のと同じ立て札があり、お決まりの文句の下に人が妖魔に喰われている絵があった。
「正しき道は銀月に聞けか。銀と月…銀の元素記号のAgはギリシャ語のアルギュロスに由来するんだっけ。意味は『輝く』または『明るい』。そして月の輝きは太陽の光が反射したもの…となると」
「あ?どういうこった」
盛大に首を傾げるリョクに、たぶんこういうことだよとマリオはランプの光を立て札へと近付ける。
すると光は立て札を中心に四方八方へと乱反射し、次には壁に当たった光の束が一つに集まり、右から二番目の洞窟へと差し込んだ。
「立て札の周りの壁によく磨かれた黒御影石が嵌め込まれているんだ。そこに光を当てるとこうして正しい道を示す仕掛けになってるんだよ」
「さすがは『賢者』の称号持ちだな」
感嘆の声を上げてからリョクは光が差し示した洞窟へと向かう。
「けどよ、間違った道を選んじまったらどうなるんだ?」
その問いに、きっとと肩を竦めながらマリオが答える。
「他の穴は妖魔たちの巣になっているんだと思うよ。でもちゃんと脱出口は用意されているね」
マリオが指さす先には先程の絵。
よく見ると絵の中に小さく外に繋がる光の道が描かれている。
「謎が解けない馬鹿に会うつもりはねぇってことか。相変わらず偉そうな女だぜ」
チッと舌打ちをするリョクに、ところでとマリオが問いかける。
「リョクさんからみた光の王さまってどんな人なの」
小首を傾げるマリオにリョクは渋い顔を向けた。
「今もそうか知らねぇが、俺が会った時は聖女がこの世界に唯一持ち込めたっていう本にかぶれ捲ってたぜ。何しろ住む処、着るもん、喰うもん、全部その本にあった通りにしていてよ。風の姐ちゃんも呆れてたくれぇだ」
「究極のコスプレヤー化しちゃたのかぁ。随分とその物語が気に入ったんだね」
「物好きにも程があんぜ。あんな窮屈な形の何処がいいんだか」
「何だか会うのが楽しみになって来たな」
理解不能とばかりに首を振るリョクを見つめながら、光の王に想いを馳せるマリオだった。
うねうねと何処までも続く道は徐々に登り坂へと変わり、やがて垂直に近い壁となった。
「此処が終点か?」
赤茶色の岩壁を軽く拳で叩きながらのリョクの言に、マリオが上を指さす。
「先はまだあるみたいだよ」
岩壁の頂上に洞穴の上部と思われる黒い空洞が見える。
それも複数。
「さっきと同じように正しい道をみつけろってことか」
はぁと大きく息をつくとリョクは背にある羽を広げる。
「ほれ、手ぇだせ」
「ありがとう。でも重くない?」
気遣うマリオに、はっとリョクは余裕の笑みを浮かべてみせる。
「お前と小さくなったタマ公くらい屁でもねぇぜ。しっかり捕まってな」
「うん」
嬉し気にその手を握るマリオを引き寄せると、リョクは頂上目指して一気に地を蹴った。
そんな風に行く先々で複数の洞穴に出くわし、近くにある立て札のヒントを元に正解を求めること数度。
ついにマリオたちは終点と思われる場所に出た。
「こいつは…」
2人の足元に広がるのは、直径5mはあろうかという巨大な魔法陣。
「で、これからどうしろって?」
足元の魔法陣を見つめるマリオに問いかけると。
「きっとこれが最終関門だよ。転移の魔道具にあった魔法陣と同じだから、これを起動させるだけの魔力の持ち主だけが光の王さまの下に行けるってことなんだと思う」
「けっ、回りくどい真似ばっかしやがって。会ったら山ほど文句を言ってやるぜ」
そう言うとリョクは魔法陣に向かって自らの魔力を流す。
さすがは風の王だけあり、すぐさま足元の魔法陣から眩い光が溢れた。
「光の王さまか…話通りの人なのかな」
マリオの呟きを残し、彼らの姿はその場から掻き消えた。
「…御殿だ」
目の前に現れた建物を見たマリオが思わず呟く。
そこにあった屋敷は寝殿造とばれるもので、一町四方の築地塀に囲まれた敷地の真中に東西棟の主殿、その左右にそれぞれ南北棟の対の屋が配置され、間を渡殿や透渡殿と呼ばれる渡り廊下で繋がれている。
さらに南側には池のある庭園が広がっており、東西の対の屋から南へ延びる廊が釣殿とよばれる池に接する建物へつながり、池に向かって「コ」の字型の建物群を作っている。
「平安時代にタイムスリップしたみたいだな」
近付くと軒越しに見える室内は檜らしき白木が使用されていて、絵巻などで見られるような灯りや丁度品、御簾、畳の縁が綺羅で華やかに飾られている。
「取り敢えず危険はないみたいだし、タマは小さくなってもらえる」
「ガウッ」
マリオの言葉に頷くとタマは仔猫サイズになって肩の定位置に戻る。
氷雪虎の姿のままでは周囲に無用の脅威を与えてしまうからだ。
「んじゃ俺も」
言うなりリョクの姿が飛蝗族から濃い緑色の髪に碧い目の美丈夫へと変わる。
「そこに居るのは誰です?」
凛とした声の方を見ると萌黄色の十二単を纏った黒髪の美女が塀越しに此方を見つめている。
「えっと…すみません。此処は光の王さまのお城ですよね」
マリオの問いに彼女は額の中央にある薄紫の小角を揺らしながら頷いた。
「そうです。あなた達は…試練を果たした者ですね」
「はい」
「珍しいこと。成功者は二十年ぶりです」
まじまじとこちらを見る彼女の言に、あの内容ならそうだろうなとマリオは軽く肩を竦めた。
「僕はマリオ、こっちは仲間のリョクさんとタマです」
「おう、よろしくな」
「ミヤッ」
片手を上げるリョクとマリオの肩で頭を下げるタマに女性の唇に笑みが浮かぶ。
「わたくしは王君にお仕えする内命婦で黒睡蓮と申します。レンとお呼び下さい」
優雅な仕草で裾を捌くとレンは軽く会釈をする。
「黒睡蓮…海外の有名カードゲームのウルトラレアと同じ名前だな」
ただの紙のカードにオークションで一千万の値が付いたと一時期話題になったことを思い出しながら、目の前の女性にピッタリな名だと思わず呟く。
「後学の為にお聞きしたいんですが」
「何です?」
「道を間違えた者は何処へ?」
マリオの問いに安心なさいとレンは笑みを浮かべた。
「元の参道に戻るようになっています。諦められず間違った場所からやり直す者も多いですが、何度か失敗を繰り返すと心が折れて帰るようです」
「無事なら良かったです」
ホッとするマリオの横で、でもようとリョクが不満気に口を開く。
「なんだってあんな七面倒臭せぇことをさせんだ?会いたいって奴には会ってやりゃあいいじゃねぇか」
「そう言う訳にも行かないのです」
少しばかり困った顔をして彼女は試練の意味を口にする。
「かつてこの光城は誰にでも門戸を開き受け入れていました。ですが…そのほとんどは王君への陳情です。病を怪我を治して欲しいという」
「確かにそれ全部に答えるのは不可能ですよね。で、王様の恩恵から漏れた者達の間に不平不満が溜まっていったってところでしょうか」
続けられたマリオの話に彼女は哀し気に頷いた。
「はい、四百年前にそれで大規模な暴動が起こってしまいました」
「昔の緑の王と同じかよ」
以前に聞いた話を思い出し、リョクが苦々し気に呟く。
求められるまま緑の力を使いエルフ族の生活を豊かにしていった王。
しかしそれを羨む他族の者達にその恩恵を寄こすよう言われ、その言葉に従って力を使うと今度はそれから零れてしまった者達から恨まれるようになった。
その不満を解消するために力を使えば、何故彼らだけが優遇されるのかと批難され糾弾された。
それを躱す為に力を使い、そうなるとまた別のところから文句が出てと…まったく収拾がつかなくなってしまい。
『…疲れた』最後にそう呟いて王は亡くなってしまった。
「それで『試練』を与えることで陳情者を振り分けたのです。心底から叶えて欲しい願いがあるなら、どんな試練であっても打ち勝って此処に辿り着くだろうと」
三代前の緑の王は自らの力に振り回され自滅したが、光の王は試練を設けることで何とか踏み止まることが出来たようだ。
「ところで此処のお城…ってうか御殿は光の聖女さまの」
「はい、聖女殿がお持ちになった書物『ゲンジモノガタリ』に出てくる様を模したものです。聖女殿の功績により医療が発達し陳情者の数が驚くほどに減りました。おかげで心の安寧を得たことを大いに感謝し、その物語に感銘を受けた王君は自らの城をこのように変えたと聞き及んでおります」
「でも凄い再現度ですね」
感心するマリオにレンが誇らしげに言葉を継ぐ。
「文字と絵で描かれた漫画というものだったので作り易かったとか」
「なるほど、コミカライズ版の源氏物語かぁ」
苦笑と共にマリオが頷くと。
「此方でしたか、我が王」
不意にイツキがマリオの隣に姿を現した。
「世界樹さま!?」
驚くレンに笑みを返しながらマリオは改めて自らの名を告げる。
「えっと…新しく緑の王になったマリオ・タチバナです」
「んってもって俺は風の王の緑碧だ」
そう言って胸を張るとリョクは虫人へと姿を戻す。
「こ、これは風の王君…七年前の即位時にいらして以来でございますね。新しき緑の王君もようこそいらっしゃいませ」
少しばかり焦った様子でレンは二王君に向けて深々と頭を下げた。




