62、今度こそキリーナ国へ
評価、ブックマークをありがとうございます。
ですが大変申し訳ありません。
地獄の年末進行のため投稿をしばらくお休みする事態と相成りました。
年明けには再開したいと思いますのでよろしくお願い致します。<(_ _)>
それでは皆様、良いお年をお迎え下さい。
「此処が帝国か」
「うん、そのセントラル駅のエンペリアだよ」
車両交換の為に乗客全員が一度ホームに降りる。
「すぐに代わりの車両がやって来るけど」
「そのまま馬鹿正直に乗ることはねぇさ。ちぃっとばっか見物しようぜ」
リョクの申し出に、そうだねとマリオも頷き途中下車することにした。
「さすがは帝国っていうべきかな。凄い支線の数と物量だね」
エンペリア駅には客車だけでなく貨物専用の支線が多数集まっていて、たいそうな賑わいをみせている。
「けど本当に人族しかいねぇな」
リョクの言う通り駅には多くの者が行き交っているのに、そこに他種族の姿はない。
何しろ帝国内では人族以外の乗客はホームから出ることを許されず、滞在も1時間以内と決められているのだ。
「そこまで他種族を排他する理由って何なんだろう?」
不思議そうに首を傾げるマリオに、さあなとリョクは肩を竦める。
「俺らを嫌う理由は分かるが他は分からねぇ。何がそんなに気に入らねぇんだか」
不快そうに眉を寄せるリョクに、それよりさと雰囲気を変えるようにマリオが街の方を指さす。
「せっかくだから此処の名物を食べて行こうよ」
「おう、そうだな。んで何が美味いんだ?」
「えっと…ビックバーガーと厚焼きステーキにホットドッグだって。ガッツリした肉料理が有名みたいだよ」
取り出したガイドブックに目を落としながらの説明に、途端にリョクの目が輝き出す。
「そいつはいいぜ。なら食い捲りだっ」
言うなりリョクは飲食街に向かって走り出す。
「楽しそうでなにより…かな」
苦笑を浮かべるとマリオは肩にいるタマに声をかける。
「僕らも行こうか」
「ミャッ」
嬉し気に鳴くと、タマはスリスリと額をマリオの頬に擦り付けて来る。
その様に笑みを浮かべるとマリオはリョクの後を追って歩き出した。
「オヤジっ、お代わりだっ」
「おう、受けて立つぜっ」
街一番と言われるステーキハウスは見物人で溢れ返っていた。
ふらりと入って来たハンターらしき若い男。
彼が最初に頼んだのは大盛りステーキセット、それも三人前だった。
「そんなに頼んで食べきれるのか?残したらその倍の金を払わすぞ」
「へっ、俺がこれくらいで満腹になるかよ。いらねぇ心配してるくれいならさっさと肉を焼けやっ」
「言ったな、この野郎っ。だったら絶対に食い切れよっ」
そんな会話の後で出されたのは…通常より多めの肉の塊と野菜たちだった。
「おい、普段より多いだろ」
「うるせぇ、サービスだっ」
常連からの文句をそう一蹴すると、大口を叩いた客を見張るように店主は腕を組んで仁王立ちした。
しかし…。
「な、何て奴だ」
すぐにその顔は驚きに彩られる。
見る間に大皿が空っぽになってしまったからだ。
「さすがはリョクさん」
店主の許しを得て膝に乗せたタマにレギュラーセットを分けてやりながら、マリオはリョクの隣で笑みを浮かべる。
「ケッ、これならもう三人前は行けるぜ。オヤジっ、お代わりだっ」
リョクの注文に店主はムンと袖を捲って気合を入れる。
「おう、受けて立つぜっ」
言うなり厨房へと駆け戻ってゆく。
「兄ちゃん、スゲェな」
「こんなに食う奴は初めて見たぜ」
見物人からそう声が掛かり、おうよとリョクは得意げに胸を張ってみせた。
「けど俺くらいの奴は他にも大勢いるぜ」
「そうなのか?」
「ああ、獣人族や虫人族はもっと食うぞ」
リョクがそう言った途端、賑わっていた店内が水を打ったように静まり返る。
「あ?何だ?」
不思議そうに首を傾げたリョクに、近くに居た常連らしき男が声を潜めて忠告する。
「ここらで他族のことを口にするのは止めときな」
「どうしてです?」
聞き返すマリオに困り顔を浮かべるが、男はさらに声を落として話し始める。
「皇帝陛下の御意向だからさ。陛下は人族以外が酷くお嫌いだ」
「他族に恨みでもあんのか?」
「そういった話は聞かないが…『人族こそが最も女神に愛され、一番賢く、一番気高い。故に低俗な他族の上に立つのは当然である。帝国は人族の国であり、何処よりも繁栄するべきである』という声明が出されてから、ずっとこんな調子でな」
ため息の後で紡がれた言葉には混迷が含まれていて、彼がそう思っていないことを現している。
見回せば他の客たちも同じような顔をしている。
どうやら国民すべてが皇帝の声明を支持しているわけではないようだ。
しかしそれを声高に語れば、すぐに憲兵がやってきて逮捕されてしまうのだという。
逮捕理由は皇帝陛下の意向に異を唱えた反逆罪だそうだ。
「優良なダンジョンが幾つもあるから、国内は豊かみたいだけど…言論統制や思考操作をするような国ってどうなんだろう」
バーガーやホットドッグ店でも他種族の話を振ると、同じような反応が返ってきた。
中には面倒事を嫌って途中で強制的に店から出されたりもした。
「俺なら御免こうむるけどな。けどそんなことして何の得があるんだ?」
人のいない裏路地に入り、そこで2人して小声で話し合う。
「選民思想は僕がいた世界にもあったけどね」
「あ?なんだそりゃ」
「自分達が神から選ばれた民族で他民族を導く使命をもつという思想のことだよ。選ばれし優れた民族であるというエリート意識を持たせることで、他民族・他文化を否定して支配しやすくすることに使われることが多いかな」
マリオの説明にリョクの顔が不快そうに歪められる。
「つまり此処の皇帝は他族を支配下に置こうと思ってるってことか」
「その可能性は高いね、だったら必要以上に軍備にお金をかけているのも頷けるし。世界征服…なんて子供じみたことを夢見てるのかも」
「ケッ、勝手にやってろ。けど世界に仇なすとなったら俺らが黙ってねぇぞ」
「そうだね、魔王みたいなことになったら大変だもの…イツキ」
呼び掛けに応えてイツキが姿を現す。
「帝国…特に皇帝におかしな動きがあったら教えてもらえる」
「確と承りました。すぐにお知らせいたします」
胸に手を当て恭しく頭を下げてからイツキが言葉を継ぐ。
「時に我が王、ミデア大陸に居るアンデッドですが」
「何かあったの?」
「光の王の聖結界の付近しか分かりませんが、急に姿を消し今はまったくその存在を感知できません」
「どういうこった?」
盛大に首を傾げるリョクの隣でマリオが真剣な顔で口を開く。
「魔王が何かする前兆かも。そっちも警戒しておいてくれる」
「はい、我が王」
「だったら近いうちにミデアに渡るか?」
「うん、この目で様子を見てみたいし。その前に光の王さまに会って話を聞きたいな」
「おしっ、なら急ぐぜ」
「わっ、ちょ…リョクさん」
「ニャッ」
言うなり走り出したリョクに手を引かれ、マリオとタマは駅に向かって行った。
「キリフ駅に着いたよ」
寝ているリョクの肩を揺らしてマリオが到着を告げる。
あれから丁度やって来た寝台特急に飛び乗り、マリオ達は一気にキリーナを目指した。
おかげで翌日の夕方にはキリフに到着することが出来た。
「やっとかよ」
マリオの声に大欠伸をしながらリョクが長椅子から身を起こす。
固まってしまった身体を解すように伸びをしてから窓へと目をやると。
「話の通りだな」
他の国では見られない瓦や茅葺の屋根に土壁が続く街並みに呆れを刷いた言葉を綴る。
「僕としては懐かしいような…複雑な気分かな」
見た目は時代村…しかしそれを派手なネオンサインが照らす様はミスマッチしか感じない。
しかも駅を出て街中に繰り出すと、それはさらに顕著となる。
「着物姿でバイクに乗ってたり、黒板塀の茶屋でフルーツパフェ売ってたりって…某有名漫画で見たことあるような」
現代と江戸時代を無理やり同居させたような佇まいにマリオから苦笑が漏れる。
「俺としちゃ美味いもんが食えりゃあ文句はねぇぜ」
辺りを見回しながら飲食店の品定めに入ったリョクに苦笑しつつマリオが声をかける。
「まずは泊まる宿を決めないとね」
「おう、んじゃギルドに行くか」
ギルドには最新の情報が集まっているので宿探しの助けになる。
通りがかった人に道を聞き、2人はハンターギルドへと向かう。
「俺は其処の食堂に居るぜ」
ギルドに入ってすぐにリョクがそう言って奥へと進む。
何しろさっきから腹を刺激する匂いが食堂から漂って来ていて我慢ならないのだ。
それに交渉事はマリオに任せた方が良いと分かっているので、リョクは本能のままに行動することにする。
「うん、いってらっしゃい」
「ミャッ」
笑顔で手を振るとマリオは肩にいるタマと共に受付へと歩み寄る。
「ようこそ、キリフギルドへ」
カウンターに行くと桜柄の着物が似合う鬼人族の美女が笑顔で迎えてくれた。
「素材の買い取りをお願いします」
ロクサスダンジョンでの得物が残っていたので、そう告げれば。
「でしたら7番窓口へどうぞ」
教えられた場所へ行くと総髪で作務衣を来た男性が座っていた。
2本の小角の下にある鋭い眼光を此方に向けている。
「物を見せてみろ」
渋い声の主に言われるまま、マリオはリュックから魔石とコーカサス甲虫の外皮を取り出す。
「…これは」
その品々に男は驚きの表情で身を乗り出す。
魔石はもちろんだが、コーカサスの外皮はキリーナでは鎧の素材として人気が高い。
「品質も強度、艶ともに最上級と言っていい。他には無いのか?」
「そうですね…これはどうでしょう」
「うーむ」
新たに差し出された物に思わず唸る。
それは三日月の形をしたスタッグ甲虫の大顎だ。
優美な曲線と銀色に輝く様が実に美しい。
こちらも兜飾りとして珍重さてれいる。
「すべて買い取ろう」
提示された金額はとんでもない高額で、これにはマリオも少しばかり慌てる。
「えっと…いいんですか?」
「この品達に見合った金額だ。これより低い額など提示しては品に対しての冒涜にあたる」
毅然と言い返され、分かりましたとマリオは素直に頷く。
文句をつけるのは彼の鑑定人としてのプライドを傷つけることになると気付いたからだ。
「ではこの紙をもって受付に行くといい」
「ありがとうございます」
渡された紙を大事そうに手に取るとマリオは静かに頭を下げた。
「礼を言うのは此方だ。良い品を見せてもらえた」
そう笑うと彼はマリオを見返して言葉を継ぐ。
「私の名はシグマだ。また名品が手に入ったら此処に来てくれ」
「はい」
ふにゃんとした笑みを返すとマリオは受付へと戻ってゆく。
「換金をお願いします。それとお勧めの宿とかあったら教えて欲しいんですが」
ギルドに来た第一目的を口にすると、そうですねと受付嬢はカウンターから薄い冊子を取り出した。
「ランクはどういたします?」
「Cで良いのがあればそれで」
希望を伝えると受付嬢が4つの候補を上げてくれた。
「えっと…この中で一番御飯が美味しいのは?」
「でしたらの広葉亭ですね。宿飯コンテストで常に上位入賞をしている人気店です」
「じゃあそこにします」
「では此方をお持ちください。ギルドからの紹介状です。宿に出せば割引をしてくれますので」
礼を言って笑顔で紹介状を受け取るとマリオはリョクを探しに食堂へと足を向けた。




