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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
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6、ハンターギルドで身分証をもらおう。


「ここがギルドだ」

 ユゲルが指をさして教えてくれたのは石造りの3階建ての大きな建物。

そこの扉を開けると左側に長いカウンター。

右側の壁にはたくさんの依頼書が張られている。

「一番奥が新人の登録受付だ。俺はそこの買い取り口にいるからな。

何か困ったことがあったら来な」

「はい、いろいろありがとうございます」

 深々と頭を下げるマリオに、いいってことよと少し照れた顔で手を振るとユゲルは手前の受付へと向かい持っていたカバンから今日の得物を次々と取り出してゆく。


この世界では空間魔法を付与したマジックバックが普及していて、百キロくらいなら楽に入る物が一般的に出回っている。

ただしマリオが持っているリュックのように時間停止機能が付いているものは存在しない。

さすがは女神さまの贈り物といったところだろう。



「さて、上手く登録できるといいな」

 気合を入れてマリオは奥にある受付へと歩み寄る。

「すみません」

「登録ですか?」

 笑顔で応対してくれたのは可愛らしい猫耳を生やした年若い職員だ。

「ええ、でもハンターじゃなくて技能職の方でお願いします」

「珍しいですね。大抵の人はハンターを希望するんですが」

 ハンターと技能職では一月の収入が3倍近く違うので、それはもっともだろう。


「僕には向いてなさそうなのでやめておきます」

 ポリポリと人差し指で頬を掻きながら苦笑を零すと。

「分かりました」

 確かに荒事に向いているとは思えない体格であるマリオを見て納得の頷きを返すと、受付嬢は一枚の紙を差し出した。


「ここに必要事項を記入してください。字は書けますか?」

「大丈夫です」

【言語理解】のおかげで会話はもちろん、読み書きもバッチリだ。

「ハンター登録には見合った力があるか知るための実技試験があるんですが、技能職にはそういったものはありませんから」

 受付嬢の説明に、技能職希望で良かったとマリオは心の中で安堵する。


「出来ました」

「はい…え?24っ!?」

 ユゲルと同じく彼女もマリオが未成年と思っていたようだ。

まじまじとマリオを見てから受付嬢は気を取り直して、特技の欄に目を落とす。

「…草木魔法…ですか?」

 戸惑いも露わな様子に、マリオが不安げな顔で問いかける。

「えっと…ダメですか?」

「い、いえそんなことはありません。魔法が使える方は大歓迎です。

ただ大変珍しい魔法なので」

 慌てた様子で顔を上げてから、受付嬢は草木魔法師の現状について教えてくれた。


草木魔法は緑精霊が滅多に人前に現れない為に契約が難しく、そのうえ他の魔法に比べて攻撃力が弱く汎用性も低い。

魔法適正を一種類しか持ち得ない者が多い中では、火や水など使い勝手の良いもの選ぶのは人情というものだろう。

よって草木魔法は人気がなく、今では使う者はほとんどいない。


「でも新しい緑の王様が即位して神殿の紋章に光が戻って良かったですね。

でないと魔法が使えませんから」

「そ、そうですね」

 頷きながらマリオはイツキから聞いた話を思い返す。


王が死ぬと各地にある神殿の属性の紋章が輝きを無くし、空位になったことを民に教える。

何故なら空位の間は精霊と交わした契約が一旦無効となってその属性の魔法は使えなくなってしまうからだ。

天命を受け新たな王が即位をすると紋章が光り出し、再び魔法が使えるようになったことを知らせる。


「前に風の王様が退位した時は次の王様が決まるまで2年もかかったので凄く大変でしたけど、今回はすぐに決まったし、草木魔法は使う人が少ないので混乱も起こらなかったですし」

 そう言って笑うと、ところでと興味津々な様子で問いかけて来た。


「私も草木魔法師の方に会うのは初めてです。具体的にはどんなことが出来るんです?

種を芽吹かせたり、少しばかり成長を促したりと農家では歓迎されますが。でもそれくらいで大した力は無いって聞きましたけど」

 その問いにマリオも考え込む。

「…そうですね」

 小首を傾げていたマリオだったが、カウンターの隅に置いてあった花瓶に気付いて手を伸ばす。

そこには少しばかり萎れた花が生けられている。


「こんなことが出来ます」

 心の中で花に向かって『元気出して』と語りかけながらイツキに教えてもらった草木魔法の【活性】を使うと。

「嘘ぉーっ」

 受付嬢の前で見る間に花が生気を取り戻し、見事に咲いてゆく。



「薬草課に救世主が現われたわっ!」

 背後からの叫びに驚いて振り向くと、赤毛に黒い2本の小角のある美人が興奮も露わにマリオを見つめている。

「ちょっとあなたっ、こっちに来てっ」

「あ、あの…何処へ?」

 マリオの問いに答えることなく腕を掴むなり奥へと引っ張ってゆく。

「エリン先輩っ!?」

「マールはこの子のギルドカードを発行しておいてっ。さっ行くわよっ」

 ぐいぐいと引っ張られるままマリオは別室へと連行された。


「ようこそ薬草課へ」

 ドンとマリオの背を押して中に入れるなり、エリンと呼ばれた女性がそう言って両手を広げた。

部屋の中は薬草が山を成し、それを4人の男女がせっせっと寄り分けている。

「えっと…」

「誰だい、その子?」

 困惑するマリオとエリンを見やりながら部屋にいた男性の一人が声をかけて来た。


「薬草課の救世主よ、ニック。彼は草木魔法師なの」

「は?」

 エリンの言葉に部屋にいた誰もが驚いて作業の手を止める。

「それは…」

「何というか…」

「外れクジを引いたものね」

「うん、お気の毒さまだわ」

 思いっきり同情の眼差しを向ける同僚に、そうでもないわよとエリンがニヤッと笑ってみせる。


「さ、さっきみたいにこの薬草を蘇らせてちょうだい」

 差し示されたのは萎れてしまった薬草の山。

「これは?」

「ハンター達が持ってきたものよ。でも採取してから時間が経ち過ぎて商品ランクはG判定…つまり粗悪品よ」

「これを新鮮な状態に戻せばいいんですね?」

「そういうこと。早くやってみて」

「分かりました」

 小さく頷くとマリオは薬草の山にそっと手を乗せてさっきのように【活性】の魔法を発動させる。


「うわぁっ」

「本当に戻ったっ」

「やったーっ」

「これで納期が守れるっ!」

 萎れていた葉が元の色を取り戻して生き生きとした状態に戻ったことに4人から歓声が上がる。


「草木魔法ってこんなことも出来るの?」

「確かにこれなら僕らにとって救世主だよ」

「さあ、急いで選別してしまいましょう」

 嬉々として薬草を分け始めた同僚たちを横目に、エリンがマリオを手招く。

「本当に助かったわ、ありがとう」

「いえ、お役に立てたなら良かったです」

 ふにゃんと笑うマリオにエリンは改めて今回の事態を説明する。


3日前、契約先である薬種問屋メゴルン商会から緊急要請が入った。

回復薬の大量発注があり、製薬に使うメルル草、レダ草、ロルア草を今日までに500本ずつ納入して欲しいと。

すぐに3種類の薬草の採取依頼を出し、急ぎということでギルマスが普段より買い取り額を多めに設定したのだが…。

どうやらそれが裏目に出てしまったようで、普段は薬草採取などしない者達までが参加し、当然のことながら慣れない彼らは薬草の扱いが悪く、粗悪品ばかりが大量に集まって来てしまった。


「採集専門の人達からは素人が採集場所を荒らしてしまって仕事にならないって文句を言われるし、踏んだり蹴ったりよ」

「あー、なるほど」

 派手なため息を吐くエリンに気の毒そうな眼差しを向けてから、良かったらとマリオが声をかける。

「僕も手伝いましょうか?薬草には詳しいんで」

「いいの?助かるわぁ」

 ポンと手を合わせるとエリンはメルル草の山の前へマリオを引っ張って行く。

「右から状態の良い順に並べてくれる?」

「了解です」

 ピッと片手を上げると、マリオは選別を開始した。


「出来ました」

「えっ?もう?」

 机の上に綺麗に並べられたメルル草にエリンは驚きの目を向けた。

きちんと分別され、丈も揃えられている様はベテラン職員の仕事に勝るとも劣らない。

「…こっちは何なの?」

 しかし左端に置かれているメルル草は鮮度も良く、弾かれる物のようには見えない。

だがマリオから発せられた答えにエリンは驚愕する。


「こっちはメルル草じゃないので避けておきました」

「ええっ!?」

 悲鳴のような声を上げるエリンの前でマリオがメルル草と弾いた物を並べて説明する。

「よく似てますけどこっちにはメルル草特有の茎にある白い筋が見られません。これはパルム草と言って薬効のない普通の草です。

採取専門の人なら間違うことは無かったんでしょうけど…今回は慣れない人が多かったから混じってしまったんでしょうね」

「そ、そんな…」

 マリオの話にエリンだけでなく、部屋にいた全員が魂が抜けた顔で膝から崩れ落ちた。

エリン達も薬草のプロなので普段だったらこんなミスは犯さなかっただろう。

しかし今回は納品期限が迫っていて時間がないうえに一度に大量の薬草を選別しなければならず、うっかり見逃してしまったのだ。


「…だったら…これ全部もう一度見直し?」

 メルル草の山を前にしての虚ろな声での呟きに、職員全員が力なく床に突っ伏した。

「これじゃあ絶対に間に合わないぃぃ」

「昼にはメゴルン商会が薬草を取りに来るのにっ」

 誰もが絶望に満ちた声を上げる中、あのっとマリオが手を上げた。


「選別なら草木魔法で出来ますよ」

「そうなのっ!?」

 マリオがそう告げると、ゾンビのようだった全員がキラキラとした目をして顔を上げる。

「はい、えっと…【招集】パルム草は僕の下に」

 マリオの命に薬草の山の中からパルム草が宙を飛んで集まって来た。


「す、凄っ!」

「草木魔法ってこんなに便利だったのねぇ」

「私も水精霊じゃなくて緑精霊と契約すれば良かった」

 感心する一同にパルム草をまとめながらマリオが聞いてきた。

「近くに草食の動物を飼っているところはありますか?」

「ギルドの裏に専用の(うまや)があるけど…」

 どうしてそんなことを聞くのかと不思議そうなエリンにマリオは笑みと共に言葉を継ぐ。

「パルム草は薬効は無いですけど、草食動物の食欲を増進させる作用があるんです。疲れてる時や食欲のない時にあげると良いかなと思って。このまま捨てられたらパルム草も可哀想だし」

「…分かったわ。後で厩番に渡しとくから」

 クスリと笑ってエリンはパルム草を受け取った。




 


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