55、北の洞窟の攻防戦
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「56話 水の王VS天才魔法師」は土曜日に投稿予定です。
これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。
「イツキ」
「はい、我が王」
外に出て一人になったところで呼び掛けると、すぐにイツキが姿を見せる。
「帝国軍の動きは?」
「2万のうち1万5千が逃げ出したハイエルフの捜索にあたり、残りが街を目指して進軍しております。街にはハイエルフ達の屋敷がありますゆえ」
「貯め込んだお宝を盗りに来たわけか」
「そのようです。ついでに捕らえたエルフ達を売り捌くつもりらしく奴隷商を同行させております」
「そつがないな。今回の遠征の将は合理的な人らしいね」
「はい、指揮しているゴウルガ中将は『失敗無き者』と呼ばれ帝国内でもやり手と有名です」
「その中将の目的は何かな?」
マリオの呟きに、恐らくとイツキが言葉を継ぐ。
「我が王の出方を見極めるつもりかと」
「うん、ここで緑の王がどんな動きをするかで今後の帝国の方針を決めるつもりなんだろうね」
2万もの大軍で、ほとんど戦闘経験の無いエルフ国を攻める。
これは必勝を期すためではなく対外的なパフォーマンスに他ならない。
蹂躙と言って良いほどに力の差がある戦を前にして緑の王はどう動くのか。
エルフ国を助けるならば双方の関係は今まで通り、まだエルフは人質として使える。
逆に助けることなく傍観するならば利用価値は無いので、占領し支配下に置く。
「さて、どうしようかな。迂闊に動けば帝国の思う壺だし」
考え込むマリオに、しかもとイツキが言葉を継ぐ。
「今回従軍している魔法師の中に厄介な者がおります」
「厄介?」
怪訝な顔をするマリオに、はいとイツキが頷く。
「此処に向かう途中で見た手配書のことを覚えておいでですか?」
言われてオライリィの国境での検問のことを思い出す。
「確か国宝の魔法書を無断で持ち出したエルドレッドって人を探してるって…まさか」
「はい、その者が帝国軍と行動を共にしております」
イツキの話にマリオは派手なため息をついた。
「持ち出した魔法書を手土産に帝国に逃げ込んだ訳か。本当に広域殲滅魔法を使えるとなると被害はどれくらい出るかな」
「レベル5の火魔法ですと…3発も放てばイリイーズの街くらいは簡単に焼き払えましょう」
「迷惑この上ないね。その人のことも見張っておいてくれる」
「分かりました」
胸に手を当て会釈をするとイツキはすぐさま姿を消した。
「とにかく僕が出来ることをしておこうかな」
取り出しておいた種たちを帝国軍がやって来そうな道へ植えてゆくと、マリオは周囲に人影が無いことを確認して右手を上げた。
光の中、芽吹いた木が天を目指して大きくなってゆく。
「エルフ以外の者を通さないようにしてくれる」
その声に応えるように幹の中央に罅割れが入り、両端が笑んだように上がる。
「よろしくね」
「ムオー」
愛想良く返事をする3体のトレントに手を振ってマリオは洞窟へと戻って行った。
「戦えるヤツは全員配置に付いたぜ」
翌朝、意気揚々とリョクが作戦本部となった洞窟の一角に戻ってきた。
「年寄り達の中に腕のいい弓使いが多くいたんで守りを固く出来たしな」
「ありがとう、リョクさん」
笑みを向けるマリオに、おうと照れたようにリョクは鼻の下を指で擦る。
「私にも何か手伝わせて下さい」
そこへ疲れが抜けたとは思えない顔色のキルスがやって来た。
「まだ寝てなきゃダメだって言っても聞きやしないんだ」
そんなキルスの傍らには案じる眼差しを向けるカル―がいる。
「こんな時に暢気に寝てはいられませんよ。それで帝国軍は?」
「斥候に出た奴の話じゃ街で略奪に励んでるそうだぜ。此処に来るのはそいつが終わってからだろう」
リョクの話にキルスは小さく息をついた。
「イリイーズは外壁ですら最高峰の工芸品と言われるほどに美しい街並みなのですが…もはや跡形もないのでしょうね」
「ええ、奪うのが目的だと街の保存にまで気を回すことはないですから」
同意するマリオの言葉にキルスからさらなるため息が漏れ出る。
立ち話も何だからと手近な岩に腰を下ろしたマリオが、カル―にクッキーの大袋を差し出す。
「子供たちと分けて。帝国軍が攻めてきて不安だろうから」
「ありがと、渡してくるぜ」
嬉し気に袋を抱えて走ってゆくカル―を見送ってから、キルスはマリオに視線を向ける。
「洞窟の出入り口に戦える者を配置したそうですが」
「はい、でも目的は牽制です」
「ガチで戦うつもりはねぇ。本職の軍人と戦いの素人じゃ勝負は見えてるからな」
「ではどうやって帝国軍と渡り合う気です?」
首を傾げるキルスにマリオが今回の作戦を説明する。
「そ、そんなことが…」
「心配ないですよ。『勝利の法則は決まった!』ですから」
唖然となるキルスの前で、特撮オタにしか分からないことを言ってマリオは微笑んだ。
「お待たせっ」
昼近くになって影の中からトゥルーが姿を見せた。
「久方ぶりじゃの」
「また会えて嬉しいわ」
続いて銀と銅の羅針盤を手にしたゼムとカリーネが現われる。
「オライリィの国境近くに受け入れ場所を設けてもらったよ。いつでも移動できる」
「すみません。お手数をおかけしました」
ペコリと頭を下げるマリオに、何のとゼムが笑う。
「我らの嘆願書を無下に出来る者などおらぬよ」
「確かにな」
帝国にまだエルフを擁護していると思われない為に緑の王のものは無いが、闇、水、土、風の四王の紋章が記された書を前に頭を抱えるガバナス王の姿が簡単に想像できてリョクは可笑しそうに肩を揺らした。
「こ、この方たちは?」
突然の登場に驚くキルスにマリオが笑んだまま説明する。
「僕らの仲間で脱出計画の頼もしい協力者ですよ。転移の魔道具を使ってみんなを避難場所まで運んでくれます」
「本当ですかっ…ありがとうございます」
深々と頭を下げるキルスに、ではとゼムが声をかける。
「運ぶ順を決めてもらえるかの」
「子供たちは最優先よね、それとお年寄りと戦う術の無い人もね」
続くカリーネの言に、はいとキルスが頷く。
「まずはオライリィ国と折衝出来る者を一番に送って受け入れ態勢を整えてもらいます。その後で食料なども運ばないと…」
「ああ、それなら僕のリュックがあるから一度に運べますよ」
「は?あのそれは…」
マリオの言に信じられないと言った顔をするキルスの袖をクイクイとカリーネが引っ張る。
「本当よ、マリオのリュックは女神さまからの贈り物なんですもの」
「め、女神様…ですか」
我がことのように胸を張るカリーネに唖然とした顔を向けてから、キルスは緩く首を振った。
「どうやら一々驚いていたら身が持たないようです。さすがは緑の王君の使徒様ですね」
半ば呆れたように言葉を綴るキルスに、ふにゃんとした笑顔を返すマリオだった。
「ついに来やがったぜ」
木の上から周囲を窺っていたリョクが楽し気に報告する。
「進路と数は?」
「正面から四千、背後と右から五百づつってとこだな。包囲して一気に叩くつもりなんだろうがそうはさせるか」
言いながらリョクは打ち合わせ通りに裏手に回る。
「まだ残っている人はどれくらい?」
「戦える者を含めて二百人ほどです」
ゼム、カリーネ、マリオの3人で次々と転移を繰り返したおかげでほとんどの者の移動は終わっている。
「ならば適当に相手をしてやるかの。マリオとカリーネはこのまま救助を続けるんじゃ」
「分かりました」
「頑張ってね、おじいちゃん」
可愛らしく手を振ったカリーネの姿が周りに居たエルフ達と一緒に消えてゆく。
「それじゃあ、後の事をお願いします」
ペコリと頭を下げマリオも多くのエルフを連れて転移する。
「お前さんは逃げんのか?」
傍らに立つキルスにゼムがそう声をかけると。
「私は事を引き起こしたハイエルフの一族として最後まで残る責任がありますから」
毅然と言い切る姿に、そうかとゼムは軽く肩を竦めた。
「ならば確と見届けるんじゃな。幾度となく繰り返されてきた滅びと再生の様を」
二千年の長きに渡り在位して来たゼムはそのまま前を見据えた。
「全軍、止まれっ」
進路上に現れた3体の妖魔に、討伐軍の司令官であるゴウルガ中将は訝し気に首を傾げた。
「こんな所にトレントだと」
本来トレントはダンジョン深部や深淵の森のような魔素の濃い場所に出没する妖魔だ。
それが森の近くとは言え、こんな浅い場所に現れるなど聞いたことが無い。
「まあよい、木ならば燃やせばいいだけだ」
「はっ、魔法師部隊っ!」
中将の言葉を受けて部下が指令を発する。
「火魔法を放てっ」
その声に合わせて前に進み出た10人の魔法師たちが持つ杖から炎が上がる。
杖を振るうと火の塊がトレント目指して飛んで行き、次に起こる巨大な爆発。
もうもうと上がる黒煙に誰もが勝利を確信する…が。
「ば、馬鹿なっ」
「無傷だとっ!?」
煙が晴れた先に居たのはノーダメージ状態のトレントだった。
「怯むなっ、ならば叩き折れっ!」
飛んだ檄に剣や槍を構えた兵士たちが果敢にトレント達に向かって行く。
「ムォー」
だが奮戦虚しく彼らは振り回される大枝に弾き飛ばされ、たちまち戦闘不能に陥ってしまう。
「何故だっ、帝国軍の精鋭がこうも簡単に」
傍らの部下の呟きにゴウルガも小さく唸る。
森の中では他の木に紛れての不意打ちを警戒しなくてはならない厄介な相手だが、平地では動きが遅くその剛枝の攻撃に注意すれば良いだけの相手のはずだ。
だが目の前のトレントは信じられぬ程に動きが早く、帝国兵を簡単に撃退して行く。
しかし彼らが驚くのも無理はない。
マリオが育てた3体は只のトレントでは無く、古代に存在したエンシェント・トレントなのだ。
鋼鉄並みに硬い身体は火に強く、植物の妖魔の中では最強と呼ばれる者達だ。
しかもその戦闘力は凄まじく本気で戦えば氷雪虎であるタマも苦戦は必至だろう。
一方、洞窟の裏手では。
「オラオラオラァ!逃げねぇで戦えやっ」
追って来る飛蝗族の姿に兵士たちは恐怖に顔を歪める。
「急げっ!」
「喰われるぞっ」
軍人ならば殺し合いは覚悟の上だが、食料として狩られるという本能的恐怖に抗う術は無い。
斥候を得意とする小隊だったこともあり、彼らはリョクの姿を見るなり蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
何しろ虫人は目にする相手が一人だとしても、近辺に30人は隠れていると言われている相手だ。
今にもそこらの草陰から虫人の大軍が現われるのではと、その恐怖に逃げる足が早まる。
「おいっ!ちょっ待てよっ」
大して戦うことなく逃げてゆく様にリョクから不満の声が上がる。
「失礼な奴らだな。いくら俺でもそう見境なく喰ったりはしねぇぞっ」
そうボヤくが…普段の食欲を見る限り素直に同意はしかねる。




