表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
54/94

54、首都イリイーズに到着

評価、誤字報告をありがとうございます。

「55話 北の洞窟の攻防戦」は土曜日に投稿予定です。

これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。


「此処がそうか…」

「座標上ではそうなってるけど」

「ミャッ」

 呆れたように周囲を見回すリョクの隣でマリオは困り顔を浮かべた。

目の前にあるのは繊細な彫刻が施された木製の門や壁に囲まれた緑豊かな街なのだが、そこにはまったく人影が無い。

まるでゴーストタウンのような様を晒す街の中を警戒しながら進むと。

「お、何か動いたぜ」

 リョクが指さす先で小さな影が小路に走り込んでゆく。


「ちょい、待てやっ」

 言うなり走り出したリョクだったが、すぐに10歳程のエルフの子供の襟首を掴んまま此方に戻ってきた。

「ちくしょー、離しやがれっ」

 金の髪を散らしてジタバタと暴れるが吊るされた状態ではまったく抵抗にならない。

「下ろしてあげてよ、リョクさん」

 その言葉に従い子供を地に下ろすが、逃げられないようにしっかりと襟は掴んだままだ。

「少し話を聞かせてもらえないかな」

 屈み込み視線を合わせて声をかけると、猜疑に満ちた青い瞳が睨み返してきた。


「帝国の奴らに話すことなんてないっ」

「僕らは帝国軍じゃないよ。これでもハンターなんだ。僕はマリオ、こっちは仲間のリョクさんとタマだよ」

「ミャウ」

 そう言ってギルドでもらったカードをみせるが。

「そんなもの、いくらだって偽造できるっ」

「えっと…だったらこれは?」

 次にカトウ鉄道の年間パスを差し出すと子供は驚きに目を見開いた。


「年間パス?…初めて見た」

 まじまじとパス眺めていたが、すぐに我に返ってマリオ達を睨み付ける。

「う、うらやましくなんてないんだからなっ」

 フンと顎を上げた子供だったが、どうやら帝国軍とは関係ないと判断してくれたようだ。

それが証拠にリョクが手を放しても逃げる素振りは見られない。

「まずは名前を教えてくれる?」

「いいぜ、俺の名はカル―だ」

「此処にいるのは君だけ?他の人は?」

「…教えたら帝国軍を連れて来る気じゃ」

「そんなことはしないよ。知り合いにエルフ族の人がいるからね、彼を悲しませるような真似はしたくないし」

「知り合い?」

「うん、キルスさんって言うんだけど」

 その名に子供が大きく反応する。

「キルスさまの!?」

「知ってるの?」

 マリオの問いに子供は千切れんばかりに大きく首を振る。


「俺らを助けてくれた恩人だ。けどその所為で追い出されて…」

 肩を落とすカル―の話をまとめるとキルスはハイエルフであるアズリーデ家の者だった。

彼は親や親戚たちの好き勝手な振る舞いに疑問を持ち、影ながら貧しいエルフ達を援助していた。

それを知った父親は『そのような下賤な者たちに情けをかける必要はない』と叱りつけたのだが、逆に『上に立つ者として恥ずかしくは無いのか』と日頃の行いを諫められてしまう。

ハイエルフの治世を真っ向から否定したことに激怒した父親は、彼から家名を剥奪し国から追放してしまった。


「なあ、キルス様は今どこにいるんだ?無事なのか?」

 必死な問いに、大丈夫とマリオは笑顔を向けた。

「ロクサスって街で治癒師をしながら子供たちに魔法を教えているよ」

「そっか、なら良かった」

 安堵の息をついてからカルーは街の状況を教えてくれた。


「魔法が上手い奴らは森を抜けて自分達の里に帰ったり、オライリィやキリーナに向かったけど、そうじゃないエルフは北の洞窟に逃げ込んでる」

 エルフ族では魔法が巧みな者ほど高位で、そうでない者は貧民という扱いになってしまう。

「そこは安全なの?」

「出入口が一杯あるし、帝国軍が来たら誰かが相手をしているうちにバラバラに逃げればいいからさ」

 カル―の話にマリオは深いため息をついた。

「鬼ごっこだね。鬼が一人を捕まえているうちに他の子供が逃げる…捕らえられたエルフはどうなるの?」

「大抵は奴隷商に払い下げられるな。エルフは人気が高いそうだからよ」

 同じようにため息をつくリョクの言葉にマリオは眉を寄せる。

 

「とにかくその洞窟に行ってみよう」

「だったら食料を運ぶのを手伝ってくれよ」

 そう言うとカル―は小路の奥にある建物にマリオ達を連れてゆく。

どうやら街にいたのは食料を調達するためだったようだ。

「此処は?」

「ハイエルフ御用達の高級料理店の倉庫さ。持ち主は逃げ出しちまったしな」

「泥棒は良くないけど、緊急事態だしね」

「残しといても帝国軍に略奪されるのがオチだからな、構わねぇだろう」

 肩を竦めたリョクに頷き返すとマリオは背にしたリュックを下ろす。


「すげぇ…」

 驚きに目を見開くカル―の前で山を成していた食料がリュックの中に消えてゆく。

「俺のにはこんなに入らないから兄ちゃんたちに会えて良かったよ」

 ポンと肩にかけたマジックバックを叩いてからカル―は嬉しそうに笑った。

「まだ入るけど他にもある?」

「こっちだよ」

 カル―に示されるまま倉庫街を渡り歩いて衣類や薬なども回収する。

「こんなものかな。ところで洞窟にはどれくらいの人がいるの?」

「だいたい2千かな。逃げることが出来ないガキやジイチャン、バアチャンがほとんどさ」

「そっか、じゃあそろそろ洞窟に行こうか」

「うん」

 先頭に立って歩き出したカル―を追ってマリオ達も歩き出す。



「帰ったぜっ、クウルのじっちゃん」

「この馬鹿ったれが!」

「でっ!」

 拳固を入れられたカル―が頭を抱えて蹲る。

「街は危険だと言ったじゃろうっ。何で言うことをきかんっ」

 黙って街に向かったことを叱るが、それに対してカル―から抗議の声が上がる。

「だってこのままじゃすぐに食う物が無くなるじゃないかっ」

 その言葉通り此処には着の身着のまま逃げて来た者が多く、食料はそう多くは無い。

「し、しかし…」

「それよりお客さんだぜ」

「客だと?」

 見れば洞窟の入り口に2人の人族が佇んでいる。


「キルス様の知り合いなんだってさ」

「何じゃとっ!?」

 その名に焦った様子で長い白髭を垂らした老人が此方に駆けて来る。

「あんた達は…」

「初めまして」

 軽く頭を下げて自己紹介をするとマリオはカル―に声をかける。

「持ってきた物は何処に置いたらいいかな?」

「こっちだよ」

 光魔法で淡く照らされた奥に進むと開けた場所があり、そこには怯えた様子のエルフ達が集まっていた。

「此処に出してくれよ」

 カル―がその一角を指さす。

「了解」

 次々とリュックから出される食料に、遠巻きに此方を見ていたエルフ達が歓声を上げて近付いてくる。


「あ、ありがとうの。これだけあれば当分の間は(しの)げる」

 クウルと呼ばれた老人が眼を潤ませながら礼を述べる。

「お役に立ったのなら良かったです」

「ほら、今から配るから並びな」

 にっこりと笑うマリオの横でカルーが声を上げると、すぐに列が出来て誰もが笑顔で食料を受け取ってゆく。


その様子を眺めながら、ところでとマリオがクウルに問いかける。

「この国の状況を教えてもらえます?」

「…ワシも詳しいことは知らんが」

 地に腰を下ろしたクウルが語ったことによると。

2日前、伝文の魔法による巨大な文字が街の上空に現れた。

その内容は帝国からの最後通告だった。

『条約違反を犯すエルフ国に対し、帝国は武力を持って報復する』

 それから国内は狂乱と言っていい状態となった。

まずハイエルフ達が手勢を率いて逃げ出し、続いて取り巻きだった高位のエルフ、そんな彼らを追って兵や商人が次々と国を出て行った。

残っているのはハイエルフ達に屋敷を守るよう命じられた奴隷兵くらいだ。


「ケッ、意気地のねぇ連中だな。戦おうって奴はいねぇのか?」

 リョクの問いにクウルは緩く首を振った。

「エルフ国は長きに渡り泰平(たいへい)じゃったからの、戦を経験した者はおらん。魔法が得意とは言え戦うことが専門の帝国軍相手では勝負にならんよ。王君の庇護の下でのうのうと栄華を貪っていたツケを払う時が来たんじゃな」

 他人事のように言葉を綴るクウルにマリオも同意の頷きを返す。


「このまま此処でじっとしていても仕方ありませんから取り敢えず防備を固めましょう。戦える程度の魔法が使える人はどれくらいですか?」

「百人ほどかの。それでさえ使えるのはレベル1か2じゃが」

「無いよりマシってとこか」

 やれやれとリョクが首を振った時だった。


「キ、キルス様っ!?」

「何故、此処に?」

 驚くエルフ達の間を縫って旅装束のキルスが此方にやって来る。

その身は埃にまみれ、酷く疲弊しているのが見て取れた。

どうやらロクサスから此処まで不眠不休で急いでやって来たようだ。


「やはり此処にいたんだね。マリオ君」

 その言葉に不思議そうに首を傾げるマリオを前にしてキルスが徐に口を開く。

「君のステータスを覗き見た時、それはごく普通の草木魔導士のものに思えた。けれどそれにしては君の魔法は優秀過ぎる」

「だから何か隠し事があると思ったわけですか」

「ああ、けれど君の魔法から悪意は微塵もなく深い慈しみしか感じられなかった」

 そのまま一度言葉を切ると、キルスは真摯な眼差しをマリオに向ける。


「君は緑の王君…」

 咄嗟に身構えたマリオとリョクだったが、次の言葉に思い切り力が抜ける。

「の使徒なんだろう」

 この世界で使徒と言えば魔王の『黒の使徒』が有名だが、聖域に留まっている王君の命を受けて動く者達のことも使徒と呼ばれ尊ばれている。


「だからエルフを助ける為に動いてくれているのだね」

「まあ、そんなものです」

 微苦笑を浮かべて頷くマリオに、やはりそうかとキルスは安堵の息をついた。

「ハイエルフ達がどうなろうと自業自得だが、他のエルフ達には何の罪もない。どうか彼らを救って欲しい」

 深々と頭を下げるキルスに、ええとマリオは頷いた。

「僕らも出来る限りのことはします」

「任せとけ。戦えねぇガキや年寄りを見捨てたら男が廃るからな」

「ありがとうございます」

 男気満載なリョクの言葉にキルスは嬉し気に顔を(ほころ)ばせる。


「その前にキルスさんは休んでください」

「おう、今にもぶっ倒れそうな顔してんぞ」

「しかし…」

「お二方の言う通りですぞ」

「そうだよ、キルス様」

 マリオ達だけでなくクウルやカル―にまで言われ、観念したようにキルスが頷く。

「分かりました。少し休ませてもらいます」

「こっちだよ」

 カル―に手を引かれ、見るからによれよれのキルスがこの場を離れて行く。


「それじゃあ防衛作を立てようか。各出入り口に配備する人選はリョクさんに任せていい?」

「おう、国でも似たようなことをしてたからな」

 さすがに飛蝗族の元頭領だけあってリョクの言葉に淀みは無い。

「僕は…帝国軍がやって来そうなルートに罠でも張ろうかな」

 言いながらマリオは腰に下げた袋から数粒の種を取り出す。

この後、種から芽吹いた植物たちが帝国軍を恐怖に(おとしい)れることになる。


「行こうか、タマ」

「ミャッ」

 肩にいるタマに声をかけ、マリオは外に向かって歩き出した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ