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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
53/94

53、王の責務と女神の呪縛

評価、ブックマークをありがとうございます。

「54話 首都イリイーズに到着」は土曜日に投稿予定です。

これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。


「なあ、マリオ」

 黄金の羅針盤を使い最初の川辺に戻って来たところでリョクが声をかける。

「ん?どうかした」

 小首を傾げるマリオの前でガリガリと頭を掻いてからリョクは思い定めた様子で口を開いた。

「お前がいいヤツなのは知ってるが…どうしてそんなにエルフ共に肩入れすんだ?人質を助け出してやって、そのうえ里まで送ってやるとかよ。お人好し過ぎんぜ。まあ、確かにあのまま放り出したら寝覚めが悪いけどな」

「どうし…て?」

 リョクの問いにマリオは虚を突かれたような顔をした。

そのまま何事かを考え込んでいたが。


「そうか…そう言うことか」

 そのままおかしそうに笑い出す。

「お、おい…マリオ?」

「女神さまの加護か…」

 驚いてその顔を見たリョクの動きが不意に止まる。

同時に足元にいたタマも、周囲の草木も静止画のようにピクリとも動かない。

まるでマリオ以外の時が止まってしまったよう。

しかしその異変に構うことなくマリオはさらなる言葉を紡ぐ。


「でも加護というより…呪縛の方が正しいんじゃないかな。ねぇ女神様」

『…気付いてしまったのですね』

 マリオの目の前に悲し気な顔をした女神イネスが姿を現す。

「リョクさんの問いかけのおかげでね。この世界に来てからずっと纏わりついていた違和感。それが何なのか分からなかったけれど、漸くその正体に気付くことが出来ましたよ。

魔王の【解析】聖女の【治癒】カトウさんの【錬金】そして僕の【賢者】でもこれらは元々僕らが持っていたスキルがこの世界に来ることで覚醒しただけで貴女から貰ったものではない。貴女がくれたのは…加護という名の呪縛」

 マリオの話にイネスはゆっくりと肯定の頷きを返す。


『私は…この世界を守りたいのです』

「ええ、だから貴女は僕らの心を制御することにした。…元の世界に居た頃の僕はごく普通の人間でしたからつまらないことや些細なことで怒ったりしたし、(ねた)んだり(そね)んだり、他人を平気で(おとしい)れたりもしました。

でもこっちに来てからそういった感情が無くなりはしませんけど、凄く薄いものになってしまった。

その代わりに他人を助けたいとか、役に立ちたいって想いが強く湧くようになった。…僕らが得た力をこの世界を守るために使うように仕向けた訳ですね」

『私のことを恨みますか?』

 イネスの問いに、いえとマリオは緩く首を振った。


「黒の魔王が仕出かしたことを考えると、そうせざるを得なかったんでしょう?」

『確かに最初にこの世界に来た彼には何もしませんでした。まさか彼があんなことをするとは思ってもいなかったからです』

「それで慌てて次の聖女からは善行を行うよう、その心にある(よこしま)な思いを弱める暗示をかけた。その効果で聖女さんもカトウさんも人々の為に献身的に自らの勤めを全うした」

『彼らには感謝しています。おかげでこの世界は大きく発展することが出来ました』

「それが2人の望みのようだったから良かったですけど、洗脳は僕らの世界では犯罪ですよ」

『分かっています…それでも私は』

「この世界を守りたい」

 そう先を続けてから、ふうっとマリオは大きく息を吐いた。


「だったら何故、僕を緑の王にしたんです?いくら暗示をかけておいてもその強大な力を魔王のように使わない保証はないのに」

『あなたの植物達に寄せる思いが清廉だったからです。良い王になってくれると確信しました』

 イネスの評価に、それはどうもとマリオは面映ゆそうに指先で頬を掻く。

『それに【賢者】であるあなたが愚かな真似をするとは思えませんでしたから』

「重い信頼をどうもありがとうございます」

 そんな軽口を叩いてからマリオはイネスを見つめ返した。


「貴女の掌の上で転がされていたことは癪に障りますけど…僕はこの世界が好きですよ」

 マリオの言葉に能面のように無表情だったイネスに安堵の色が広がる。

『では…』

「短い間ですけど旅をしてたくさんの人と知り合いました。大切な仲間や友達も出来ました。彼らが住むこの世界を緑の王として守って行きたいと思います。ただ王を続けるにあたって僕からも条件があります」

 そのまま言葉を切ったマリオにイネスが不安げな視線を向ける。


「故郷での教えにこんなのがあります。


『人を一番強く殴れるのは、極悪人でもサイコパスでもなく正義を信じる者。

「○○のため」という大義名分があれば、普通の人でも平気で相手を殴れるようになる。

でも結局、力で解決しようとすれば力で滅びることになる。

拳の力も、言葉の力も、使い方を間違えないようにしなくてはならない』


王だと言われて一番初めに思い出したのがこの言葉です。どんな力だろうとそれを持つ者には責任が伴います。イツキにも言いましたが僕のすることが間違っていたなら遠慮なく排除してください」

 毅然と言葉を綴るマリオにイネスは小さく頷いた。

『…分かりました。ですがそうならぬことを祈っています』

 優し気な笑みを向けるイネスの姿が徐々に薄くなってゆく。


『最後にあなたにお願いがあります』

「何です?」

『いずれ起こる(わざわ)いからこの世界を守って欲しいのです』

「災い?」

 怪訝な顔をするマリオの前でイネスが呟くように言葉を綴る。

『黒の魔王は…生きています』

「はい?どういう…」

 思わず聞き返すが、それに答えることなくイネスはマリオの前から姿を消した。



「おい、マリオっ」

 掴まれた肩を大きく揺さぶられ我に返る。

「いきなり固まっちまってどうした?」

「お加減が悪いのですか?我が王」

「え…ああ、リョクさん。イツキ」

 心配そうに此方を見るリョクとイツキの姿に安堵を覚えながらマリオはゆっくりと首を振った。

「ちょっと女神さまとお話ししてた」

「はぁ!?」

 口を大きく開けたまま固まるリョクの姿に、虫が入るよと笑いながら忠告する。

「んなことはどうでもいいっ!女神さまだとぉぉっ」

「大丈夫?落ち着いて」

 完全に挙動不審になっているリョクをそうマリオが宥める。


「し、しかし神殿でもないところで神託が授けられるなど前代未聞ですが」

 珍しく激しく動揺しているイツキの様子から、どうやら今回のコンタクトは例外中の例外だったと分かる。

「まあ、女神さまも渡来人善人化計画が見破られて焦ったんだろうね」

「あ?何のことだ」

 怪訝な顔をするリョクに、何でもないよとマリオは笑顔で首を振った。

「それよりリョクさん。女神さまからの頼み事なんだけど」

「頼み事だぁ?」

「うん、これから起こる災いからこの世界を守って欲しいって」

 マリオの言葉にリョクの顔が真剣なものに変わる。


「その災いってヤツはいったいどんなもんなんだ?」

「それは女神さまにもまだ分からないみたい。ただそれを起こす相手は判明してるけどね」

「誰なのですか?」

 身を乗り出して聞いて来たイツキにしれっとマリオが答える。

「黒の魔王だって」

「はぁぁっ!?」

 思いもよらない名にリョクが引っ繰り返らんばかりに驚く。

「け、けどよっ、死んだ奴がどうやって…」

「まだ生きてるって言ってたよ」

 マリオの言にリョクはハクハクと無用に口を開閉し、イツキは完全にフリーズした。

そんな2人に構うことなくマリオは近くの木陰に向かい呼び掛ける。

「いらっしゃいますか、トゥルーさま」

「何だい、マリオ」

 すぐさま影の中から闇の精霊王たるトゥルーが姿を現した。


「女神様からの神託です『これから黒の魔王が起こすであろう災いからこの世界を守って欲しい』とのことです。このことを他の王さま達に伝えて…」

「ちょ、ちょっと待ったっ!」

「どうかしました?」

「厄災級にもの凄いことを簡単に言わないでもらえるっ!」

「そんなにですか?」

 小首を傾げるマリオに、あのねっと切れ気味にトゥルーが言い返す。 

「そもそも死んだ魔王に…」

「生きてるそうですよ」

「どうやってだよっ。いくら魔王だからってそんなに長く生きられるはずが」

「延命の方法は分かりませんけど、でも生きてることは確かだと思いますよ」

「は?…何か根拠でもあるのかい?」

 その問いに、ええとマリオは頷いた。


「この世界を管理している女神さまがそんな嘘をいう必要がありませんし。何よりそれらしい人物を僕は知っているので」

「何だってっ!?」

「此処にくる途中で2つの事件に遭遇したんです。その首謀者は黒の人形師と呼ばれる者で、用意周到に罠を張り巡らす狡猾さ、人の心を(もてあそ)ぶ残忍さは話に聞いた黒の魔王と同じものを感じました。思うに何かを仕出かすまでの暇つぶしのつもりで遊んでいたんじゃないかと」

「そんな…」

 愕然となる闇の精霊王にマリオが真摯な眼差しを向ける。

「なのでトゥルーさまとイツキに監視体制の強化をお願いします。まあ、向こうもそれなりの情報網を持ってるみたいですから簡単に尻尾は出さないと思いますけど」

「情報網?」

 怪訝な顔をする闇の精霊王にマリオはその根拠を口にする。


「2つの事件は対象者の内情をかなり詳しく知らなければ成し得ないものでした。余程有能なスパイがいないとそんなことは出来ません。後でイツキから聞いたんですけど黒の人形師と名乗る人物が関わった事件は他にも広範囲に渡って30件ほどありました」

「つまりそれだけの規模を網羅できる手下がいるってことか…厄介だね」

「ええ、ですから他の王さま達に緊急時にすぐに動けるよう体制を整えておいて欲しいと伝えてもらえます?」

「分かった。すぐに伝えるよ」

「よろしくお願いします。ただ女神さまの話だとすぐに魔王が動くことはなさそうなので長期戦になることを覚悟しておいて下さい」

「ああ、無用に気負う必要はないって言っとくよ」

 大きく頷くなり闇の精霊王は影の中に飛び込み、その姿を消した。


「おい、マリオっ」

 そこで漸くにして再起動したリョクがマリオに詰めよる。

「何?リョクさん」

「どうしてそんなに落ち着いてんだっ。ちっとは慌てろっ!」

 八つ当たりに近いことを叫ぶリョクの様子から、黒の魔王がこの世界で仕出かしたことの大きさを改めて認識するマリオだが。

「慌てない慌てない、一休み一休みって僕の故郷の偉いお坊さんも言ってるよ」

 そう笑顔で言葉を綴る。

「あのな…」

 その様に何かを言いかけたリョクがガックリと肩を落とす。


「まだ起こってもいないことで悩んでも仕方ないよ。困った時に考えれば良いことだもの」

「…確かにそうだな」

 はぁっと大きく息を吐いてから上がった顔は、もういつものリョクだった。

「そんでこれからどうすんだ?」

「予定通りにエルフ国に行こう。このまま戦いになったら多くの人が犠牲になってしまうと思うし」

 マリオの言葉に、そうだなとリョクも頷く。

「では我は引き続き帝国軍の様子を探ります」

 そう申し出るイツキに、うんとマリオは笑みを向ける。

「頼むね。それと魔王の方もお願い」

「はい、我が王」

 その眼差しに宿る信頼に嬉しそうに頷いてイツキも姿を消してゆく。


「そんじゃ、マリオ」

「うん、目的地は首都イリイーズ」

 手の中の羅針盤が光を放ち、マリオ達は一気にイリイーズに向けて転移した。




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