表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
5/94

5、街に行こう


「じゃあ、このマントとブーツと…お金を少しと」

 宝の中から選んだものを手に取るマリオに、イツキが待ったをかける。

「僭越ながら我が王、人里で過ごすならば貨幣は必ず要りようとなります。

すべてお持ちになることをお勧めいたします」

「は、はい」

 これだけは譲れないとばかりに、ズイッと顔を近付けて来たイツキの迫力にマリオは引き攣った顔でコクコクと何度も頷いた。


「異界の物は目を引きますゆえ、お着替え下さい」

 差し出されたこの世界の服、モスグリーンのチェニックに黒いズボン、黒革のベストを受け取る。

「それとこちらをお持ちになられると良いでしょう」

 【隠形】が付与されたフード付きマントを羽織り【頑強】の効果がある黒いブーツをスニーカーに代えて履くマリオにイツキから声がかかる。


「これは?」

 差し出されたのは甲に黒曜石に似た石が嵌め込まれた茶色のグローブ。

鑑定すると石は魔石で『土魔法』が付与されていた。

「緑の王の紋章は隠された方がよろしいかと。

それにこれならば庭師として土と関わるこの多い王の助けとなるはずです」

「確かにそうだね、ありがとう」

 礼を言って受け取ると、早速両手に嵌めてゆく。


「凄いね、ピッタリフィットして着けてないみたいだよ」

 感心した顔でマリオは何度も手を開閉してみせる。

「王が身に着けられたものには洗浄と状態保存が付与されております。

これならば汚れましても直に元の状態に戻りますゆえ」

「何から何までお世話になります」

 軽く頭を下げるマリオに笑みを返すが、すぐにイツキは真顔になって言葉を継いだ。


「それと女神さまの贈り物については、くれぐれも扱いにご注意下さい」

「だよね、気をつけるよ」

 モノクルで鑑定したら、イツキが言った通りにどれもがとんでもないものだった。



『水入りペットボトル』…どんな状態でも治すことが出来る完全回復薬。

『2種類のお握り』…どちらもHPを極限まで回復させる。

『チョコ菓子』…MPを極限まで回復させる。

『手拭い』…拭けばどんな物でも綺麗に出来る。

『植木鋏』…この世に切れぬものはない万能刃物。

 ※ どれも所有者登録済、登録者以外は使用不能または無効力



「称号のおかげで身体能力が上がってるとは言っても、あれだけ動いてまったく疲れないからおかしいとは思ってたけど…まさかこんな凄いものだったとはね」

「ですのでこの水筒もお持ちになって下さい」

 はぁと息を吐くマリオに、イツキが緑の筒を手渡す。

鑑定してみると底に『水魔法』が付与され魔石がある。

「ありがとう、ペットボトルは目立つからね」

 受け取って中を覗いてみると、透明な水で満ちている。

こちらも好きなだけ水を供給してくれる優れものだ。



「それじゃあ行ってきます」

「はい、我が王の(つつが)なき旅をお祈りいたします」

 笑顔で見送ってくれるイツキに手を振り返すとマリオは異世界の旅を開始した。

「さて、どんなことが体験できるかな」

 そう呟くと嬉々としてマリオは森の中を走り出した。


「快調、快調っ」

 今日も絶好調で自動車並みのスピードで移動が出来る。

背にしたリュックがマリオの動きに合わせて揺れる中、遠くに光る草を見掛けた。


「ベレナ草だね。…せっかくだから使ってみようか」

 胸のポケットからモノクルを出して見てみると。


『ベレナ草…上級回復薬の原料。高額で売り買いされる』

 

「うん、しっかり鑑定できてる」

 モノクルの働きに満足げに頷くと、マリオは足元のベレナ草に声をかける。

「少しもらってもいいかな?」

 するとベレナ草が、どうぞとばかりに葉をマリオの方へと伸ばしてきた。


「ありがとう」

 礼を言ってマリオは植木鋏を出し、丁寧に切り取ってゆく。

祖父から山菜や薬草を採る時は繁殖を考えて必要以上に取ってはならないと厳命されていたので、この世界でもマリオはその言い付けを守って適量を採取する。

「こんなもんかな」

 採った薬草をリュックに入れ、再び森の中を走りだす。


途中で他にもいくつか薬効が高い薬草をみつけたので、休憩がてらそれらを摘んでは先を急ぐ。


「よっと」

 こちらに向かってきた肉食獣ぽい妖魔をひらりと躱かわし、そのままダッシュでその場を離れる。

そんな風に何度か大型の妖魔に見つかりはしたが、マリオに追いつけるものはなく、余裕で振り切ってゆく。




「草原だっ」

 かなり走ったところで突然に視界が開け、広々とした草原が現われた。

SやA級の妖魔には通用しなかったが、マントの【隠形】の効果のおかげでそれ以外とは遭遇しても気付かれることなく移動が出来た為、あまり時間をかけず森を抜けられた。


「えっと…西に向かって行けばいいんだよね」

 そう呟くと周囲の草たちが風もないのに肯定するように一斉に西へと (なび)いた。

「教えてくれてありがとう」

 その様に笑みを零してからマリオは西に向かって走り出す。

すると草原の先に道のようなものが見えた。

近付いてみると(わだち)の跡が残る幅2m程の道が地平線の先まで続いている。

その道に沿って進んでゆくと、遠くに横長の石壁が見えてきた。


「あれがゴーザの街かぁ…まずは身分証のゲットだね」

 イデア国の端にある辺境の街・ゴーザ。

深淵の森に近く、そこに棲む妖魔から獲れる魔石や皮や牙などの加工や売買で栄えている街である。


妖魔を狩る者達をハンターと呼び、ゴーザには辺境ながら彼らを統括する組織のハンターギルドが置かれている。

ギルドには妖魔の解体や加工、武器製造等の職人達も所属しており、そこに技能職として登録し身分証を得ると良いとイツキから教えられていた。



壁なりに進んで入り口に辿り着くと、そこには多くのハンターと思しき者達が並んでいる。

「えっと…すみません」

「おう、何だ?坊主」

 【隠形】を解いて列の最後尾にいた青い髪の大柄な男に声をかけると、男はマリオを見下ろしながら返事をする。

170cmのマリオも小さい方ではないのだが、男はさらに20cmは上背がある。


「ここはゴーザの街ですよね」

 身長差から顔を上に向けて尋ねると。

「そうだが…お前、余所者か?」

 (いぶか)し気に此方を見る相手に、はいっとマリオが元気よく答える。

「仕事を探しに田舎から出てきました」

 ニコッと邪気のない笑みを向けると、男の目が柔らかいものに変わる。


「出稼ぎか…ちゃんと親の承諾は得てるんだろうな?」

 どうやら童顔なマリオのことを未成年と思ったらしく、そんなことを聞いてきた。

「親はもう死んでいません。ついでに兄弟もなしです」

「そ、そうか。悪いことを聞いたな」

 屈託なく言葉を綴るマリオに、男から気の毒そうな視線が送られる。

どうやら強面(こわもて)の見かけによらず心優しい人のようだ。


「それで何の用だ?」

「はい、この街は初めてなんでハンターギルドの場所を教えてもらえたらって」

 腰に下げられた大振りの剣や金属製の胸当てという出で立ちから、男がハンターであろうと予想して聞いてみたら。

「お前がっ!?よせよせ、そんな細っこい体じゃすぐに死ぬぞっ。

ハンターはそんな甘いもんじゃねぇ」

 男は渋い顔で大きく手を振ってみせる。


「いえ、ハンターじゃなくて。手先が器用なんで職人で登録したいと思って」

 マリオの言葉に男は安心した様子で頷き返す。

「そいつは賢明な判断だ。最近の若い奴らは実入りがいいってだけで簡単にハンターを目指しやがる。死んだら元も子もねぇってのによ」

 見かけ通りにハンターとして歴戦の戦士らしき男は、そう言って苦々し気に息をついた。


そうこうしているうちにマリオの番がやって来た。

門番の兵士の質問に答え、入街税として銀貨2枚を払う。


この世界の単位はドン。


1ドン   鉄貨1枚

10ドン  銅貨1枚

100ドン  銀貨1枚 

1000ドン 金貨1枚


物価はパン1つがだいたい5ドンで鉄貨5枚。

宿が一泊200ドンほどで銀貨2枚。

よって金貨が10枚もあれば一ヵ月は楽に暮らせる。


「ほれ、こっちだ」

 先に入っていた男が待っていてくれてマリオを手招いている。

「ハンターギルドまで連れていってやるよ」

「ありがとうございます。僕、マリオって言います」

「俺はユゲルだ。よろしくな」

「はいっ」

 トレードマークのふにゃんとした笑顔を浮かべるマリオを連れ、ユゲルはギルドを目指す。



「うわーっ」

 門を抜けた途端、マリオは驚愕の声を上げた。

古いヨーロッパような石造りの街並みが続く道を人間だけでなく獣人やドワーフと思われる風体の人々が行き交う様はまさにゲームの世界だ。

「ははっ、驚いたか。辺境と言われてはいてもゴーザの街くらい盛況なところはそうないからな」

 田舎者が都会に驚いていると思ったらしいユゲルは、そう言ってマリオの頭をぐりぐりと撫でてきた。


ユゲルに案内されるまま街の大通りを進んでいたマリオは、目にした物に驚いて足を止める。

「SLっ!?」

 そこにはドーム状の屋根をした立派な石造りの駅舎に停車しているSL機関車の姿があった。

「おう、そうだぜ。あれが有名なカトウ鉄道のSL型魔導列車さ。

日に一度、ああしてやってきて王都とこのゴーザの街を繋いでくれてる」

 その雄姿を前に我がことのように胸を張ってユゲルが自慢する。


ユゲルの話によると魔導列車の動力は魔石。

闇魔法の一つである浮遊魔法で少しだけ車体を浮かして移動する。

列車の周囲には結界魔法が張られているので魔物や盗賊の被害も少なく、安全かつ大量に荷を運べるのでこの世界では大いに利用されていた。


ここゴーザでも王都や周辺の街にハンターが狩った妖魔から獲れた品を運び、帰りには食材や生活用品などを積んで来る。

おかげで昔に比べて随分と日々の暮らしが豊かになったとユゲルは嬉しそうに笑った。


「そっか、線路は難しいからリニア式にした訳か。凄いな、カトウさん」

 魔導列車でも姿はSLというところがいかにも鉄オタらしいが、この世界に鉄道事業を根付かせただけでなく、大いに貢献しているカトウの努力と夢の成功に敬意を表してマリオは駅に向かって静かに頭を下げた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ