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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
49/94

49、自分が出来るなら他人も出来て当たり前?

評価、誤字報告をありがとうございます。

おかげさまで評価が 800ptを越えました。

本当に感謝に堪えません。

「50話 帝国の進軍と勇者の噂」は土曜日に投稿予定です。

これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。


本日29日よりRentaコミックスさまより配信が開始となりました。

詳細は以下の通りです。


書名:『神様にスカウトされて異世界にやって来ました。―家電魔法で快適ライフ― 1』

著者名:[著]干支宮ひかる [原作]太地文

配信日:10/29

発行:Rentaコミックス

レーベル:COMICスピア


よろしくお願い申し上げます。



「心配をかけて申し訳ありませんでした」

 しばらくして頭に派手なコブをこさえたターザがガンズと共に戻ってきた。

「明日になったらワイマンのところに詫びに行くぞ」

「…はい、すみません」

 しかし謝罪の言葉とは裏腹に、その顔には納得がいかないといった不満が溢れている。

その様にお節介とは思いつつもマリオはターザに声をかける。


「内に秘めた思いがあるならちゃんと言葉にして出した方がいいよ。不満をいつまでもしまっておくと心がくすんでしまうから」

「大きなお世話…だっ!」

 ふんと顔を背けたターザの頭にガンズの拳固が飛ぶ。

「思いやってくれる相手の言葉を(ないがし)ろにするんじゃねぇっ」

 頭を抱え痛みに呻くターザをそう叱るとガンズはマリオに向き直り頭を下げる。

「本当にすまねぇ」

「いえ、ガンズさんが謝ることじゃ」

「弟子の不始末は師匠の責任だ」

 そう言い切るガンズにマリオは微苦笑を浮かべた。


「そういうとこ、僕の師匠でもある弥彦じいちゃんと同じですね」

 不思議そうな顔をするガンズにマリオは祖父のことを伝える。

「僕のじいちゃんは故郷では名の知れた庭師で、その教えを受けたいと毎日のように大勢の弟子志願の人が押しかけて来ていて。あまり弟子を取らないじいちゃんでしたけど一度弟子にしたら実の子供のように親身になって面倒をみてました」

「確かにそう言ったところはこのクソオヤジと一緒だな」

 頷くリョクの前で、でも少し寂し気にマリオが言葉を継ぐ。

「それがじいちゃんと父さんを引き裂く原因になってしまったけど」

「あ?どういうこった」

 不思議そうなリョクにマリオは遠い目をして口を開く。


「父さんもじいちゃんの跡を継ぐために弟子入りして同じ庭師になったんだけど…2人とも頑固だったからちょっとした行違いからケンカになって、それきり会うこともなく死に別れてしまって」

 マリオの話にガンズとターザだけでなく他の者達も息を詰めて聞き入る。

「残された弥彦じいちゃんはいつも言ってました。

お前にも明彦にも本当にすまないことをした。明彦には儂の息子ということに甘えた職人になって欲しくなかった。だから敢えて距離を置き、どの弟子よりも厳しく接した。良かれと思ってしたことだが、それが明彦には辛かったのだな。

こうなってみて初めて分かった。何故もっと息子と話をしなかったのか。大切な事は親子と言えど、きちんと言葉にしなくては伝わらないのにって」

 弥彦の後悔に満ちた言葉を聞いた誰もが押し黙る。


「だから何も言わずに終わらせるのは良くないですよ。言いたいことがあるならちゃんと相手に伝えないと」

 マリオの言葉に背を押され、ターザは意気込みも露わに口を開く。


「親方っ、俺はもういらない弟子なのか!?」

「何だそりゃっ!?誰がそんなこと言ったっ」

「ワイマンの奴らだっ。俺が工場から出されたのはもういらないからだって」

「そんな訳あるかっ!」

 瞬時に言い返されたことに安堵の表情を浮かべてからターザは言葉を継ぐ。

「他にもこう言ってた。確かに腕は良いかもしれないが高慢な奴にいい酒が造れる訳がない。だから親方に捨てられたんだ。そんなのを押し付けられたこっちはいい迷惑だって」

 不満全開で言葉を綴ると今度はワイマンの者達への愚痴が続く。


「だいたい俺の何処が高慢なんだ。俺は正しいことしか言ってない。それに対して嫌味しか返してこないあいつらの方がよっぽど性根が腐ってるじゃないかっ」

「ターザさんはこう言ってますが…皆さんはどう思います?」

 マリオに話を振られた弟子たちは困り顔を浮かべるばかりで口を開こうとはしなかったが、その中でロンナが決意に満ちた顔で手を上げた。


「確かにターザの態度は高慢に思われても仕方なと思うわ。仲間内でも腕がいいのを鼻にかけて私たちのことを馬鹿にしたりするし」

「そ、それはお前らの仕事が遅いからだろう。俺なら簡単に出来ることをいつまでもグズグズやってるから」

 だがターザの反論をマリオがスパッと切って捨てる。


「自分が出来るからとそれを他人に強要するのはただの迷惑だよ。君だってアレッサさんみたいに早く計算しろって言われて出来るの?」

「それは…無理だけど」

「こんな簡単なことも出来ないのかって馬鹿にされたら辛いし悲しいでしょ。君はそれと同じことを他の人にしていたんだよ。秀でた力を自慢すると同時に出来ない者を下に見て貶めていたら高慢と言われて嫌われても文句は言えないよね」

 マリオの言葉に他の弟子たちも大きく頷く。


「仕事が遅いと言われるのは仕方ねぇす。でも遣り方がなってないとか、酒造りの才能がない奴はこれだから困るとか、そう言われると辛いっす」

「お前が俺らより酒造りが上手いのは認める。けどだからって仲間のことを扱き下ろすのは違うと思う」

「俺らだって命を賭けて酒造りをしてるんだ。それを馬鹿にするのは許せねぇ」

 ロンナに続き弟子たちも日頃の鬱憤を口にする。


「お、俺はお前らの為にと思って…」

 初めて突き付けられた想いに愕然となりながらそんなことを口にするターザに、マリオが諭すように言葉を綴る。

「世の中には『憎まれても相手を正すのが誠意』と言う人がいるけど、どんなに相手の為だと思ってもそれぞれ許容量も考え方の違いもあるから、無理強いして憎まれて離れて行かれたら何の得も無いし相手も救えないよ?」

 マリオの話にターザは困惑した様子で考え込む。



ターザの家は此処から離れた村で小さな造り酒屋を営んでいる。

其処の三男として生を受けた彼は親が働くさまを見て育った。

酒造りではその日の気温や湿度によって発酵の具合が大きく変わる。

それを見極めるのは長年の経験と勘によるが、何故かダーザは幼い頃からその見極めが出来ていた。

不思議に思った親が調べてみると、ターザには『酒造』のスキルがあることが判った。

スキルは修行や鍛錬の結果で得ることが出来るものがほとんどだが、中には生まれ持ったものもある。

それらは恩恵と呼ばれ、尊ばれる。


ターザに『酒造』のスキルがあることを知った両親は大いに喜び、他の兄弟よりも彼を優遇した。

当然ながらそのことを他の兄弟が面白く思うはずはなく、生意気だと彼らはターザを苛めた。

苛められて泣くターザに彼の母親は言った。

『あなたは特別な子よ、だからそうでない者たちが妬むのは仕方ないこと。そんな者達など気にする必要はないわ。あなたは女神さまに特に愛された子なのだから』

 その言葉が不思議なくらいストンと自分の中に落ちた。

自分は女神さまに愛された特別な存在。

他の奴らとは違うんだ。

自分が簡単に出来ることを苦労してやってる兄弟たちの様を見る度にその想いは大きくなっていった。


13の年にターザはガンズの下に修行に出された。

彼の父ではもう教えることが無くなってしまったのと、他の兄弟の苛めが危害のレベルに変わってしまったからだ。

ターザの才は此処でも飛び抜けていて、すぐにガンズの一番弟子となった。

だから家でしていたように自分より能力が劣る者を下に見て、遣りたいようにやってきた。

そんな彼をガンズは良しとせず、他の酒蔵に行くよう言いつけた。


何故、自分より劣った者が工場に残されて優れた自分が出てゆかなくてはならないのか。

腹が立ったがガンズに言われ仕方なくワイマン酒造へ行ったが、そこで待っていたのは嫌味と嫌がらせの日々だった。

しかもそうされる理由が無能な者を無能と言ったことだと。

本当のことを言って何が悪いのか。

そう言われて腹が立つなら今以上に努力すれば良いではないか。

しかし彼の言い分は、生意気の一言で片付られ嫌がらせは増していった。

そんな時に親方捨てられたと言われケンカになり、止めに入った職人頭に大怪我をさせてしまった。


自分は悪くない。

そうさせた奴らが悪いんだ。

そんなことを思い戻ったダークキングで、マリオと言う奴に自分の行いがどれだけ酷かったかを教えられた。

辛い日々を送らなくてはならなかったのは、自分が悪かったからなのか?

生まれて初めて湧いた疑問にどうして良いのか分からなくなる。



「お、俺は…」

 オドオドと周囲を見回すターザの前で、それまで黙っていたガンズが(おもむろ)に口を開く。

「ターザ」

「は、はい」

「お前は酒造りに対して非凡な才がある。このまま伸びて行けば俺を越える日も近いだろう」

 ガンズの言葉に嬉し気な顔をしたターザだったが。

「だがその才能に胡坐をかいて(おご)り高ぶっちまってるのはいただけねぇ。だから俺はお前に世間を知って欲しくて他所にやった。広い世界にゃ自分が足元にも及ばねぇくらいスゲェ奴がいると知ってもらいたかったからだ」

 深く息を吐くとガンズはターザの目を見て言葉を継ぐ。


「思い上がるなよ。この世にはお前より美味い酒を造れる奴はごまんといる。

リョクのように瘴魔を簡単に倒せる強い奴もいれば、マリオのように草木を元気にして収穫の助けをしてくれる奴もな。こいつらに比べてお前の出来ることはなんだ?」

「俺は…」

「狭い中でお山の大将を気取ってりゃぁ気分はいいだろう。だがそれでお前はいいのか?広い世界から見りゃぁお前が出来ることは酒造り…ただそれだけだ。自分はそれしか出来ねぇ役立たずだと自覚して周りを見てみろ。自分がどんだけ小っせい奴だったかが分かるぜ」

 ガンズの言葉を受けてマリオも頷きながら口を開く。


「特別扱いってある意味凄く不幸なことだと思う。それは高い所に登るのと同じで、下にいる者がとても小さく見えて自分と同じ存在だって思えなくなるんだ。

そうなると人は簡単に自分以外を虐げ始めてしまう。僕の故郷の独裁者と呼ばれてる者達はみんなその落とし穴に落ちて破滅してしまった。ターザさんにはそんなことになって欲しくない」

 マリオの話を聞いてターザは勢い良く顔を上げた。


「親方、俺っ」

 混乱は収まっていないが、それでもターザは自らの想いを口にする。

「俺はまだ自分のどこが悪いのか良く分からない。けどこのままじゃダメなのは分かる。だから親方の下で一から修行し直させて下さいっ」

 そのまま深々と頭を下げるターザに、おうとガンズが請け負う。


「焦る必要はねぇ、自分がどうしたいかしっかり考えて決めろ。その手助けならいくらでもしてやる。何しろお前は俺の大事な弟子だからな」

「…親方」

「そうだよ、一緒に頑張ろう」

「ロンナ…」

「お前の言い草はマジで腹が立つけど、そこは追々直してけばいいさ」

「そうっすね。同じ親方の弟子のよしみっすから」

「みんな…その…ありがとう」

 泣きそうになっている背をバンバンと叩きながら皆がターザを迎い入れる様に、マリオから笑顔が零れた。


「一件落着かな」

「おう、あの様子ならいい酒造り職人になるだろうぜ」

 頷くリョクにマリオも嬉しそうに微笑み返した。




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