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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
48/94

48、嫉妬と愛の拳固

ありがたいことに「神様にスカウトされて異世界にやって来ました」がRentaコミックス様にてコミカライズしてもらえることになりました。

干支宮ひかるさんに担当していただきます。

詳細は追って発表しますのでよろしくお願いいたします。


「49話 自分が出来るから他人も出来て当たり前?」は火曜日に投稿予定です。

楽しんでいただけましたら幸いです。


「そんじゃ、後を頼むぞ」

 昼近くになって漸く通常状態に戻った酒蔵ダークキング。

「はい、任せてください」

「店の方はご心配なく」

 大きく頷くロンナと軽く頭を下げるアレッサに留守を託し、ガンズは弟子たちと手分けして得意先の商店に酒の出荷量が減ることへの詫びを入れる為に工場を出て行った。


さすがにこの状況で転移の魔道具のことを言い出すのは気が引けるし、まだ帝国がエルフ国に侵攻する気配はないのでマリオは店周りの庭木の手入れ、リョクは倉庫の整理を請け負ってガンズの帰りを待つことにする。


「うん、いつもながら良い切れ味。さすがは女神様謹製の鋏だな」

 入り口近くの大木の太い枝も細い葉も思う通りに切れてゆく様に満足げに頷く。

「お茶の時間ですよー」

 そんなマリオの下に休憩を知らせにロンナがやって来た。

その腕には茶虎柄の猫に似た動物が抱かれている。


「この子がカルです」

「ああ、列車の中で言ってた子だね」

「ミャァ」

 マリオの足元にいたタマが声をかけるが、カルは身を固くして震えるばかりで。

どうやらタマの正体…霊獣であることに気付いて委縮してしまっているようだ。

 

「大丈夫だよ」

 ふわりとその背を優しく撫でながら笑みを向けると、カルはオズオズと顔を上げる。

「タマは君と仲良くなりたいって」

「ニャッ」

 肯定の声に、まだ震えたままだがカルがロンナの腕から降りてはタマの所にやって来る。

ゆっくりと近付いてきたカルの顔をタマがぺろりと舐める。

それで敵意が無いことが分かったようで、そのまま追いかけっこのような遊びを始めた。


「ふふっ、すっかり仲良しさんですね」

「うん、可愛いね」

 2人して笑い合った後、ロンナの目が綺麗に整えられた木々へと向けられる。

「マリオ君は庭師だったのね」

「子供の頃から植物が大好きだったし、師匠である祖父ちゃんや父さんも庭師だったから自然とね。まだ誇れるほどの腕じゃないけど多くの人に僕が造った庭を見て幸せな気持ちになってもらえたら嬉しいな」

「何だかそう言うところ、親方に似てるわ」

 ロンナの言葉に、そうかもとマリオは笑って頷いた。


「自分が造った物で人に喜んでもらえるのは職人冥利に尽きるってのが祖父ちゃんの口癖だったから」

 マリオの言葉にロンナも大きく頷く。

「私もそんな職人になりたいな」

「ロンナさんならなれるよ」

 そう請け負ってくれたマリオにロンナが礼を言おうと口を開いた時だった。


「おい、ロンナ」

 彼女の言葉を(さえぎ)って怒りを含んだ声がその名を呼ぶ。

見ればゴツイ体つきのドワーフの青年が忌々し気に此方を睨んでいる。

その姿を目にしたロンナの顔が僅かに強張った。

黒に近い焦げ茶の髪をしたドワーフの青年。

その彼が嘲りを刷いた目をしてロンナを見やる。


「人族の男なんかと何を暢気に話し込んでんだよっ、今は仕込みの最中だろ。

ああ、お前は馬鹿力の所為で外されたんだったな。これ以上、物を壊されちゃたまらないからな」

 その言葉にロンナの顔が悔し気に歪められる。

どうやら彼が『がっかりさせるなよ、これじゃ足手まといにしかならない』とロンナに言った相手のようだ。

しかしいつもと違いロンナは言い返すべく毅然と顔を上げた。


「何とでも言えばいいわ。都合の良いように動かないからムカつくと思われても私は気にしないから」

 その言葉が図星だったのか、それとも普段は言い返したりしないロンナの行動が意外だったのか、相手は驚きの表情を浮かべた。


「ターザこそどうして此処に?ワイマン酒造に修行に行ったはずでしょ」

「ふん、あんな俺の力を認めようとしない所なんてこっちから願い下げだ」

「勝手に辞めて来たの!?」

 驚いて問い質すロンナに、ターザはフンと顎を上げた。


「お前には関係ないだろっ。それより親方は何処にいったんだっ?」

「得意先の商店へお詫びに行ってるわ。もう時魔法を使う酒造りは止めるから」

「はぁ!?なんだそれっ。親方も何考えてんだ、そんなことしたら出荷が間に合わないだろうが」

「だから謝りに回ってるんじゃない」

 ロンナの言葉に信じられないとばかりにターザは大きく(かぶり)を振った。


「だいたい何でそんなことになったんだ?」

「それは…」

 困り顔で口を噤むロンナに厳しい視線が向けられる。

「答えられないってことは…お前が原因か!?どうせその馬鹿力で何かへまをしたんだろっ」

「ロンナさんは関係ないですよ」

 見かねてマリオがそう言えば。


「…何だ、お前?」

「ガンズさんの知り合いです」

 そう答えるマリオにターザは胡散臭げな視線を向ける。

「本当に親方の知り合いか?上手いこと取り入って何かする気なんじゃないのかっ」

「違うわっ、マリオ君は…」

 詰め寄るターザからマリオを守るように前に立ったロンナだったが。

「お前には聞いてないっ。退けっ」

「きゃっ!」

「ロンナさんっ」

 突き飛ばされたロンナを慌てて支えるマリオの後から聞き慣れた声がした。


「てめぇより弱い者に手を上げるたぁ男の風上にも置けねぇ奴だな」

「リョクさんっ」

 凄腕のハンターの容貌をしているリョクが少しばかり威圧を込めて睨めば、たちまちターザの顔色が変わる。

「お、俺は…」

「此処に何の用があったんだ?さっさとその用を済ませて消えなっ」

 そう言って顎をしゃくれば、ターザは脱兎のごとくその場から逃げ出した。

「ケッ、意気地のねぇ野郎だぜ」

 リョクの言葉を聞きながらマリオはターザが消えていった方向に心配げな視線を向けるロンナを見やった。


「今の人は?」

「兄弟子のターザよ。確かに腕はいいんだけど…それを鼻にかけて好き勝手をするものだから親方に少し世間を見て来いって他所の酒蔵に修行に出されたんだけど」

「此処と違って扱いが悪いから面白く無くて飛び出して来ちゃったみたいだね」

 マリオにも経験があるが、他の職場に移ればそこ独自の遣り方や習わしがある。

最初のうちはそれに慣れるのが大変で、しかも今まで自分が培ってきた経験や実績がまったく認められないことも多い。

自分より明らかに未熟な者に教えを乞うため頭を下げることだってある。

だがそれも大切な経験…成長の糧と考えれば辛くとも頑張ろうと思える。

けれど中にはそれに耐え切れず辞めてしまう者もいる。


「ハッ、意気地だけでなく根性も無しかよ」

 呆れた様子でそう言うとリョクはマリオに向き直った。

「小腹が空いたから何か食おうぜ」

 昼に大量の料理を食べまくってからまだそれほど時間は経っていない。

それなのに空腹を訴えるリョクにロンナは驚きの表情を浮かべるが、マリオはいつものことなので笑顔で頷く。

「丁度お茶の時間だからアレッサさん達も誘おう。ロクサスで買ったお菓子もあるし」

 マリオの提案にロンナも上機嫌で頷き、皆で工場へと戻ってゆく。



「ターザの奴は来てるかっ!?」

 夕方になり戻ってきたガンズが開口一番にその名を口にする。

「ひ、昼間に見掛けましたけど」

 その威勢に怯え顔でロンナが答える。

「店の方には顔は出しませんでしたね。彼が何か?」

 ロンナに絡んだ一件はアレッサの耳にも入っていたので見当はついたが、敢えて尋ねるとガンズが苦虫を噛み潰した顔で言葉を綴る。

「ワイマンの店の奴らとケンカ騒ぎを起こした挙句、姿を晦ませたそうだ」

 その言葉に皆から驚きと同時に納得のため息が漏れる。


「アイツ、変なところで頑固だからな」

「そうっすね、妥協できないって言うか…」

「そのうえ酒造りの仕方に口を出すとガチ切れするんすよね」

 彼らの話を総合すると、ターザは高いプライドと(こだわ)りの強い職人気質の持ち主のようだ。

「奴にも言い分はあるんだろうが相手に怪我をさせちまったら洒落になんねぇ。

しかも相手はワイマンの店の職人頭だ。このままじゃあっちの酒造りに影響が出ちまう」

 どうしたもんかと頭を抱えるガンズに、あのっとマリオが声をかける。


「例の回復薬を出しますよ。あれならすぐに怪我も治るし、店の秘蔵品だと言えばガンズさんの誠意も相手側に伝わるでしょう」

「いや、お前さんにそこまで甘える訳には…」

「でも他に手立てはないですよね」

 マリオの言葉に、それはと逡巡するガンズだったが。

「すまん、助かる」

 最終的にはその提案を受けることを決める。


「身内の揉め事だけならともかく、これ以上ワイマンの奴らに迷惑は掛けられねぇからな」

 ため息混じりにそう言うと、用意させた小瓶に回復薬を入れて弟子の一人に託す。

「お前が一番足が速ぇ。ひとっ走りワイマンの所に届けに行ってくれ」

「がってん承知っ」

 元気よくそう言うと彼は工場を飛び出して行った。


「しかしターザの奴、何がそんなに気に入らなかったんだ。聞いた話じゃワイマンの店で言われたことは酒造りじゃ当たり前のことだ」

 理解不能とばかりに頭を振るガンズに、たぶんとマリオが言葉を綴る。

「焦ったんじゃないかな」

「あ?何をだ」

「他の店に行っている間にお弟子さん達が自分以上に酒造りが上手くなってしまうんじゃないかって」

「そんなことを考えていやがったのかっ」

 怒りも露わなガンズの前でマリオが肩を竦めながら言葉を継ぐ。


「他所での修行は自分の技術の向上ではなく停滞だと思ってしまった。だから焦りとか悔しさとか他のお弟子さんたちへの嫉妬が心の中で渦巻いて…些細なきっかけで爆発してしまったってとこかな」

「で、この騒ぎか」

 続けられたリョクの言葉にコクリとマリオは頷く。


「早く連れ戻してあげた方がいいですね。飛び出した時と違って頭が冷えた今では自分にはもう帰るところは無いって自棄になってると思うので」

「ああ、取り返しのつかんことを仕出かす前に捕まえんとな。しかし何処にいるんだか」

 深いため息をつくガンズに、それならとマリオが事も無げにターザのいる場所を告げる。


「裏のプルンの林の中で黄昏(たそがれ)ているそうですよ」

 イツキから教えてもらったことを口にすると、そうかっとガンズが勢い良く立ち上がる。

「ならまずは拳固からだな」

 馬鹿な奴には拳をお見舞いするってのが俺の信条だという言葉を実践する気満々のようだ。

準備運動とばかりにグルグルと肩を廻した後、ガンズは林を目指して駆け出した。


「じいちゃんが言ってたな。叱られているうちが花だ、見限られたら誰も何も言ってくれなくなるもんだって」

「確かにそうだな。興味のない相手がどうなろうと気にもしねぇからな」

 肩を竦めるリョクの言葉に、うんとマリオも頷く。

「ターザさんも叱られる幸せに気付いてくれるといいけど」

 小さくなるガンズの背を見送りながら、そんなことを呟くマリオだった。




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