47、瘴気と闇の精霊王
感想、誤字報告をありがとうございます。(❀ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾
「48話 嫉妬と愛の拳固」は土曜日に投稿予定です。
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
「しかし誰がそんな真似を…」
「分かりません。でもその悪意は確かに存在しています」
マリオの言葉に小さく唸るとガンズは毅然と顔を上げた。
「どうやら暢気に酒を造っている場合じゃなさそうだな」
自分の酒造りでの我が儘の所為で世界を危機に晒した。
その罪滅しとして、そんなことを企んだ者をこの手で討たねばならない。
「ええ、でもガンズさんは今のままでお願いします」
「何でだ?」
せっかく意気込んだのに出鼻を挫かれたガンズが不満そうにマリオを見やる。
「お酒造りを正道に戻した。これなら職人のプライドからの行動だと納得できますけど、闇の王さまとしてガンズさんが大きく動いたら敵が警戒してしまうかもしれないでしょう。それで用心されたら只でさえ少ない手がかりを失ってしまう危険がありますから」
「…確かにな」
不承不承ながら頷くガンズに、でもとマリオが言葉を継ぐ。
「裏でこっそり動く分には大丈夫だと思いますよ。その辺りは闇の精霊王さまと相談してください」
「おや、気付いてたのかい?」
楽し気な声と共にガンズの影の中から一人の少年が姿を現した。
漆黒の髪に白い肌、濃い紫色をした瞳には愉快そうな光が踊っている。
「ずっと視線を感じてましたから。初めまして、緑の王をやってるマリオ・タチバナです」
「よろしく、闇の精霊王・トゥルーだよ。君のその性格…僕は好きだな」
「気に入ってもらえたのなら何よりです」
にっこり笑い合う姿がよく似た2人だった。
「ところでさ、君っておもしろい称号を持ってるね」
悪戯な仔猫のような笑みを浮かべる15歳ほどの少年。
ガンズの相方である闇の精霊王がそうマリオに聞いてくる。
「どれのことでしょう?」
小首を傾げるマリオだったが、闇の精霊王の視線が部屋の隅にあるリバーシーに注がれていることに気付く。
「勝負しましょうか?」
「やりたいっ!…ガンズはメチャ弱くて話にならないし、他に相手をしてくれる者もいないからつまらなかったんだ」
だから影の中から他人が打っている様を見てるしかなかったとボヤく闇の精霊王の前にマリオはリバーシーの盤を差し出す。
「始めましょうか」
「うんっ」
嬉々としてマリオの前に座ると闇の精霊王は真剣な表情で盤を見つめる。
もちろん実体のない精霊の彼が石を持つことは出来ないので、指示された場所にマリオが置く形で勝負は始まった。
「さっきの話ですけど」
「瘴気の件?」
「ええ、瘴気を操って他者の命をじわじわ削ってゆくなんて遣り方が陰険そのものだなって」
「それについては僕も同感。そんなことする奴はロクな死に方をしないよ」
「ですよね」
「そうそう…って、やられたっ」
盤の右端の列をすべて白色に変えられて悔し気に口を尖らせる。
「さすがはリバーシー名人の称号持ちだね。でも負けないから」
そう意気込む闇の精霊王。
その頃、彼の相方のガンズはと言うと…。
「勝負だっ、クソオヤジっ!」
「返り討ちにしてくれるわっ、若造がっ!」
小難しいことは任せたとマリオに丸投げし、リョクとの飲み比べを開始していた。
グラスが空になる度にやんやの喝采と応援の声が上がり、実に賑やかだ。
「そもそも瘴気を操るなんて真似が出来るんですか?」
横で上がる喧噪をものともせず冷静に石を置きながらのマリオの問いに、さてねと彼は肩を竦めた。
「そんな話は聞いたことないけど、やってやれないことはないよ…あ、次はCの2ね」
言われた場所に石を置いてから改めてマリオが問いかける。
「出来るとしたらその方法は?」
「瘴気は濃い場所に集まる性質があるからね。濃密な場所を作れば自然と集まってくるけど、その場所を故意に作るとなると大変だよ」
闇魔法の一つである重力操作を常にかけ続けなければならないとの説明にマリオは考え込む。
「人力では無理でも…魔道具を使えばなんとかってところかな」
「たぶんそれが正解だよ。でもそうなると物凄い量の魔石が必要になるね。Fの6でよろしく」
「それを成すだけの財力と魔道具を使いこなす知識がある人…か。トゥルーさまに心当たりとかは」
マリオの問いに闇の精霊王は大きく首を振った。
「影さえあればどんな所でも出入り出来る僕でもそいつは分からないな」
その答えにマリオから深いため息が零れる。
「でもそんなことが出来る…というか遣りそうな奴ならいたけどね」
「誰です?」
思わず身を乗り出すマリオの前で闇の精霊王はしれっとその名を紡ぐ。
「黒の魔王だよ」
その名にマリオも納得の頷きを返す。
「確かに。聞いた話だけですけど、それくらい遣りかねない人だってことは分かります」
「だろ、奴が残した遺物にそんな物があっても不思議じゃない。…Bの7っと」
二百年経っていても黒の使徒が起動したように、魔王が遺した魔道具が今も稼働している可能性は高い。
闇の精霊王の言葉に頷きつつもマリオは新たな疑問を口にした。
「でも神出鬼没な精霊王さま達がそんな危ない物をいつまでも放置しているってのも変な話ですよね」
本当にそんな魔道具があるなら既に何かしらの処置がされているはずだ。
その存在を疑うマリオに、言い訳になるけどと闇の精霊王が言葉を継ぐ。
「僕ら精霊は瘴気の濃い場所には近付けないからね。行けない場所のことまで関知しようがないよ」
何しろ魔王の居城は瘴気溢れるミデア大陸の最北端にあるのだ。
光の王が引いた境界の向こうには精霊王たちでも、いや精霊王だからこそ近付くことが出来ない。
「そう言えばそんな設定でしたね。真偽のほどはミデア大陸に行ってみないと分からないか。まあ、一気に大量の瘴気が発生しなければ今回みたいなことにはならないから急ぐ必要はないけど。でもいずれは確認に行かないと」
小さく嘆息するとマリオは手にしていた石を盤に置く。
「はい、終わりです」
「えっ、うそっ!」
驚く闇の精霊王の前で次々と盤の上が白色の石ばかりに変わってゆく。
「ズルいっ、話に気を取らせておいてっ」
「話をしていたのは僕もですから条件は一緒ですよ。それに僕は庭師ですから」
「…それが何の関係があるのさ」
悔しさ満載の顔で問いかける相手に、今度はマリオがしれっと言葉を返す。
「庭師は一本の木の剪定しながら庭全体を俯瞰する…みたいに同時にいろんな事を熟さないといけないので、自然と並列思考が出来るようになるんです」
「うーっ」
マリオの言に闇の精霊王は返す言葉もなく唸るばかりだ。
「もう一回っ、今度は絶対に勝つからっ!」
「いいですよ」
余裕の表情でにっこり笑うマリオと闇の精霊王の戦いは深夜まで続くのだった。
「我の王ですっ、いい加減にしてくださいっ」
「いいじゃないか、少しくらい…世界樹のケチっ」
「貴方様には闇の王がいらっしゃるではないですかっ」
「仕方ないだろ、ガンズはリバーシーが下手なんだからっ」
酒蔵ダークキングの朝は2人の精霊王の言い合いで幕を開けた。
ずっとマリオを独占していることに我慢できなくなったイツキが文句を言い。
それに対して、妬いてるのかいと闇の精霊王がからかいの言葉を返したことで一気にヒートアップ。
先のような言い合いとなった。
「もうそれくらいにしたら。二日酔いの頭に響くみたいだから」
思わず諫めたマリオの足元には屍累々。
飲み潰れた者達が苦痛の呻き声を上げている。
マリオの言葉通り、痛む頭に2人の声はかなりのダメージを与えるようだ。
「まったくだわい。いい加減にしろっ」
悪態を言いつつ起き上がったガンズに睨まれ、渋々だが2人して口を閉ざす。
「我の王です。そのことをお忘れなく」
そう言い放つとイツキは姿を消した。
自分の存在によってマリオが緑の王と知られるのは不味いと考えたようだ。
「どうぞ」
痛みに呻くガンズの前にマリオは取り出したペットボトルの中身をグラスに入れて差し出した。
「おう、ありがとうよ」
礼を言って一気に飲み干してからガンズは驚愕の声を上げる。
「な、何だっこりゃぁ」
飲んだ途端、頭痛や倦怠感といった二日酔いの症状が綺麗さっぱり無くなってしまったからだ。
最上級の回復薬でもこんな短時間でここまでの効き目はない。
驚くガンズにマリオがしれっとその正体を明かす。
「女神さま謹製の回復薬です。二日酔いにも効いたみたいで良かったです」
「め、女神さまだとぉぉっ!」
とんでもないことを言ってのけるマリオに再びガンズから驚愕の声が上がる。
世界樹との関係といい、女神様から下賜されたという回復薬といい。
この新たな緑の王は超ド級の驚きばかりを与えてるくれると逆に感心する。
「うるせぇっ!クソオヤジっ。ちったあ静かに出来ねぇのかっ」
頭を押さえて喚くリョクの声の方がうるさいのだが、そのことに当人が気付くはずもない。
おかげでリョクの周囲にいた者たちは、小さな悲鳴を上げて頭を抱えることになった。
そのさまにため息をついてから、マリオは人数分のグラスに回復薬を注いでゆく。
「はい、どうぞ」
「おう、悪りぃな…かーっ、やっぱ女神さまの薬はスゲえ効くな」
完全回復したリョクが嬉し気に言葉を綴り、その効き目に弟子たちから驚愕の声が上がるのを横目にマリオはガンズに問いかける。
「お弟子さんたちはガンズさんが闇の王さまなのを知っているんですか?」
声のトーンを落としての問いかけに、いやっとガンズは首を振った。
「ちょいと時魔法が使えるオヤジだとしか言っとらん。トゥルーのことも王ではなくタダの闇精霊と思っとるようだしな。そもそもそんな細かいことに拘るようなドワーフ族はおらん」
「みんな脳筋だからねー。興味のあることにしか頭を使わないんだよ」
続けられた闇の精霊王の説明に、いいのそれで?と思わず突っ込んでしまうマリオだった。




