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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
40/94

40、ダンジョンと黒の使徒


「40階に到着だぜ」

 立ち塞がる敵を撃破しながら、マリオ達はあっさり踏破記録を更新させた。

「まあ、植物系の妖魔との戦闘がないっていう反則をしてだけどね」

 苦笑を浮かべたマリオの言葉通り、ロクサスダンジョンに棲息する妖魔の4割は植物系だ。

緑の王たるマリオを襲う不忠者が皆無だったのと、サボと言う有能な道案内のおかげで最短コースを進んできた結果である。


「で、レベルはどんくらいになったんだ?」

 このダンジョンに来た目的の一つを聞いてきたリョクに、マリオが笑みを浮かべて答えを紡ぐ。

「うん、だいぶ上がったよ」

 言いながらマリオはステータスを非表示から表示に変える。



 マリオ・タチバナ


  24歳


 Lv.42


 HP 1980/1980

 MP 2050/2050(∞/∞ ※改竄中)


〈魔法〉 

  『草木魔法』


〈スキル〉

  『言語理解』

  『交渉』

  『剪定』

  『造園』


〈称号〉

  (異世界からの迷子 ※隠蔽中)

  (神気を浴びた健康優良体 ※隠蔽中)

  (緑の王 ※隠蔽中)

   幸せを呼ぶ庭師

   名言を与えし者

   リバーシー名人


〈加護〉

  (女神イネスの加護(賢者)※隠蔽中)



「お、本当に上がったな。これなら一撃で死んじまったりはしねぇだろう」

 無事にリョクからお墨付きをもらい、マリオも嬉し気に言葉を継ぐ。

「だったら探索はこの辺で止めておく?」

 このダンジョンには五階ごとに一階への転移魔法陣が存在する。

それを使えば一瞬で地上に戻ることが出来るのだ。


「そうだな、本当なら天辺まで行きたいところだけどよ。その手柄は他の奴に残しておいてやるか」

 以前だったら意地でも完全制覇を目指したのだろうが…。

『王はその力を誇示してはならぬ』というゼムの言いつけを守ろうとしていることにリョクは自分でも驚く。


「俺もちっとは成長してるってことか」

「ん?どうかした」

 その最大の要因であろうマリオが小首を傾げて聞いてくる。

「何でもねぇさ。それよりこの階で一番強ぇ奴は何処だ?さっさと倒して飯にしようぜ」

「ムームー」

 リョクの言にサボが右斜め前を指さす。


「何だこりゃ?」

 サボに教えられた道を進んだ先に祭壇のようなものが出現する。

中央の壁に鳳凰をモチーフにした黒色紋が刻まれ、その前には長方形の石棺が安置されている。

だが棺は蓋が押し退けられた状態で開いていて…。

まるで中から何者かが出ていったように見える。


「これで棺に例の紋章があったら、中には超古代の戦士が眠っていたことになるんだけど」

 特オタにしか分からないことを呟いてからマリオは膝をついて棺を見分する。

「ついてる苔の状態からすると百年以上は閉まったままだったみたいだね」

 次に斜めに倒れている蓋を調べる。

「内側に何か書いてある。えっと『他者がこの地を踏みしめし時、目覚めて使命たる無差別殺戮(ジェノサイド)を遂行せよ。愚かなる傀儡(くぐつ)よ』って」

 とんでもなく物騒なメッセージに唖然とするマリオの肩を、いきなりリョクが掴む。


「リョクさん?」

「気をつけろよ、何だかスゲェ闘気を感じるぜ」

 確かに鋭い視線が向けられた先から誰かが争っている音が伝わってくる。

「お逃げ下さいっ、我が王」

 そこへ珍しく取り乱したイツキがマリオの前に現れた。

「逃げるって…何があったの?」

「この階層の主であるエンペラースパイダーと棺より現われた黒の使徒との戦いが始まっております」

「黒の使徒だぁ!?」

 その名にリョクから驚愕の声が上がる。


「マジかっ?そいつは二百年前に火の王が全滅させたはずだろっ」

「どうやらその一体がこのダンジョンに残されていたようです」

 苦々し気なイツキに、考え込んだ様子のままマリオが問いかける。


「黒の使徒って、もしかして黒の魔王の手下?」

「おう、奴が作ったゴーレムだ」

「しかも意思のない通常のゴーレムと違い、彼らは自ら考え行動することが出来るのです」

「自立型AI搭載ってことか…。それはかなり厄介だね」

 マリオの呟きに、はいとイツキが頷く。

「黒の使徒たちの侵攻により隣のミデア大陸の半分は死の荒野と化しました。

その荒廃は今も続き、彼の地に生きる者はおりません」

 イツキの言葉が終わった途端、爆音と爆風がマリオ達の下に届く。


「お早くっ」

「逃げるのはちっとばっか遅かったみたいだぜ」

 リョクの視線の先に巨大な蜘蛛の頭を手にした人影が現われる。

背丈は人族と変わらず、しかしその全身は漆黒の金属で覆われていて顔と思われる場所には目も鼻もなくのっぺりとしている。

「超古代の戦士じゃなく、究極の闇をもたらす者の方だったか」

 そう言ってため息をつくマリオの横で、へっとリョクが愉し気な笑いを浮かべる。


「面白れぇ、魔王の使徒って奴がどんなもんか見せてもらおうじゃねぇかっ」

 そう(うそぶ)くとリョクは嬉々として使徒に向かってゆく。

「オラ、オラ、オラ、オラァ!」

 風を纏わせた拳が息つく間もなく使徒を襲う。

しかし何の変化も起こらない。

リョクの得意技である風の拳がまったく通用しないのだ。

「ならこれならどうだっ!」

 今度はその足に風を纏わせの連続蹴りを繰り出す。


「こいつで終いだっ」

 そのまま高く跳び上がり必殺のキックを使徒の胸を目掛けて放つ。

だが当たる寸前、使徒の前に不可思議な紋章が浮かびリョクの攻撃を弾き返してしまう。

「防御結界かっ、味な真似してくれるじゃねぇか」

 へっと楽し気に笑ったリョクだったが、次の使徒の動きに唖然となる。

「魔法だとっ!?」

 使徒の右手に小さな炎が灯り、やがてそれは大きな火の玉へと変わる。

「どういうこったっ?ゴーレムは魔法が使えねぇはずじゃ…どわぁぁっ!」

「リョクさんっ!」

 強力なファイアボールを投げつけられたリョクが、轟音と共にダンジョンの壁ごと外へと吹き飛ばされる。

慌てて壁に開いた大穴に駆け寄ろうとしたマリオだったが、此方に飛んできた炎の塊に思わず身を伏せ、やって来る衝撃を覚悟する。


「タマ?」

 近くで消滅した炎に驚いて顔を上げると、マリオの前にタマが立っていた。

どうやら自らのアイスブレスで炎を相殺したようだ。

「ガウッ」

 剣呑な目で使徒を睨むとタマはバネのように身を縮め、次いで一気に跳躍する。

そのまま右肩に喰らいつくが、タマの牙をもってしても使徒の身体には傷一つ付かない。

逆に巴投げの要領で投げ飛ばされてしまう。


「チタン合金並みの強度だな…だったら」

 背にしたリュックから素早く火石を取り出し地に置くと石に自らの魔力を込める。

たちまち火石の色が真っ赤から蒼紫へと変わった。

「何をなさるので?」

 不思議そうなイツキに、まあ見ててと笑みを向けるとマリオは周囲を見回す。

「これならゴルフクラブの代わりになるかな」

 近くにあった太い枝を手にし、そのまま石を目掛けてフルスイングする。

狙い違わず高温となった石は使徒の腹に命中し、そこを中心に白煙が上がる。


「いい感じ、これならワンオンできたかな」

 そんな軽口を呟いてからマリオはタマを見やる。

「あの石に向かってフルパワーでブレスを吐いて」

「ガオッ」

 頷くが早いかタマの口から絶対零度のブレスが放たれる。


すると…。

ピキピキという音と共に使徒の身体に大きな亀裂が入ってゆく。

「上手く熱疲労破壊が起きたみたいだね」

 それは激しい温度変化により膨張と伸縮が繰り返されるダメージによって起こる現象のことだ。


「この状態なら大丈夫かな。…ラフレア」

 腰の袋から暴食の大華を呼び出そうとしたが。

「待て、待て、待てっ」

 そこへ背中の羽を広げたリョクが大穴から飛び戻ってきた。

「こいつとのケリは俺に着けさせてくれっ」

 やられっぱなしは我慢ならないようで、リョクはズイっと使徒の前へ立つ。

「うん、頑張ってリョクさん」

「おう、任せろっ」

 拳を上げて笑うとリョクは使徒に向かって地を蹴った。


「お前には俺の最大の技をくらわしてやるぜっ」

 一気に間合いを詰めるとリョクは相手の胸の上に手をつく。

「行くぜ、ソニックバスターっ!」

 次の瞬間、使徒の胸部がぐにゃりと歪み崩れ始めた。

だがそれは胸部だけではなかった。

手も足も他の部分も、ほとんど音らしい音も立てずに崩壊して行く。

砂の山が波にさらわれるように、静かに、虚しく、儚く。


「超高周波による物質破壊か…。さすがは風の王」

 その威力に感心するマリオの傍に得意満面のリョクが戻って来る。

「へっ、やってやったぜ」

「凄くカッコ良かったよ。リョクさん」

「おう」

 手を上げて答えるリョクに笑みを向けてからマリオはイツキに問いかける。


「さっきの棺みたいなものはこの上にもあるの?」

 その問いにイツキは緩く首を振った。

「いえ、眷属たちが知る限りありません。この階の古木たちの話ですと此処を訪れた魔王が『大した力はないが嫌がらせくらいにはなるだろう』と置いて行ったとか」

「そうなんだ、何だが可哀想だね」

 面白半分に扱い、簡単に捨て去る…そんな扱いをされた使徒を思いマリオは小さく息をつく。


「ガウッ」

 そんなマリオの傍らにタマが何かを咥えて近付いてくる。

見るとそれは使徒の装甲のカケラだった。

どうやらマリオの攻撃の時に砕け落ちたようだ。

「ありがとう、タマ」

 礼を言って受け取るとマリオはそのカケラを棺に入れて蓋に手をかける。


「身体能力が上がっていて良かったな」

 かつての自分だったら絶対に持ち上がらなかった石製の蓋を元に戻し、その周囲に草木魔法を発動させる。

すると見る間に棺の周りが白く可憐な花達で囲まれてゆく。


「ゴーレムの為に墓を作ってやる酔狂者はお前くらいだぜ」

 呆れと感心が入り混じった顔でリョクがそんなことを呟く。

「うん『物にも心はある、だから大切に扱え』ってのが弥彦じいちゃんの教えだったからね。このまま誰にも労われないで終わりじゃあんまりだから」

 そう言うとマリオは棺に向かって手を合わせた。


「取り敢えず下に降りるか」

「そうだね、一応ギルドに使徒のことを報告しないといけないし」

 リョクに頷き返すと、マリオはサボが示した一階への転移魔法陣へと向かう。

「ムー」

 目的地の魔法陣に着くなり、ぴょんとタマの頭の上からサボが飛び降りる。

そのまま深々とマリオ達に向かって頭を下げた。


「そっか、サボちゃんは此のダンジョンの住人なんだものね」

 此処でお別れと分かりマリオが寂し気な声を上げる。

「案内ありがとう、凄く助かったよ」

 その手の上にサボを乗せるとマリオは笑みと共に言葉を綴る。

「君に緑の王の祝福を。元気でね」

 紋章からの光を浴びてくすぐったそうに身を震わせた後、サボは騎士のように膝をついて自らの王に臣下の礼を返す。

「世話になったな」

「ガオッ」

 リョクとタマからの感謝の声にサボは嬉し気に手を振り、そのまま森の奥へと姿を消した。




お読みいただきありがとうございます。

「41話 ギルドマスターの憂鬱」は火曜日に投稿予定です。

楽しんでいただけましたら幸いです。

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